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新生ワッフル店小春庵の日常  作者: 小春庵


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可愛いルーキーと大物ルーキー

次の火曜日の午後、蘭が早番で勤務していたら、先日面接に来ていた真凛が初出勤してきた。


「今日からよろしくお願いします」


春子が厨房から、

「真凛ちゃんよろしくね。ごめんなさいね、今ちょっと手が離せないの。蘭さん、案内してくれる?」


「承知しました!じゃ、真凛ちゃん、こちらへどうぞ」


スタッフルームに歩きながら、

「私は森井蘭です。24歳の主婦なの。私も4月に入ったばかりで、週に4回早番勤務してるの。よろしくね」

と自己紹介する。


「私は白峰真凛です。22歳です。よろしくお願いします」


部屋に入ると、既にロッカーの1つに「白峰」と名前が入っていた。


「ここが真凛ちゃんのロッカーね。ここに荷物を入れてね」

「はい」


「髪も服も靴もそのままで完璧!エプロンつけるだけでOKね。これどうぞ」


真凛が巻きスカート式のカフェエプロンをジーンズの上に巻いていく。真凛はびっくりするくらい細いので、後ろで布がかなり重なって、前に回した紐もとても長く、蝶結びが大きくなった。


「うわ、めっちゃ大きなってもうた!キャハハ!」


真凛が自分で大きすぎる蝶結びを見て吹き出したので、蘭も笑った。


細すぎるし顔も青白いので、見た目はいかにも病み上がりという感じで心配だったけれど、屈託ない笑い声を聞いてホッとする。


「まずはここで手を洗ってアルコール消毒しよう」

「はい」


次に蘭と真凛は注文カウンターのところまで進む。


「この小春スペシャルのメニューのところに飾ってある羊毛フェルトのフルーツは、バイトの華ちゃんが作ってくれたんですって」


「へぇー!めちゃくちゃ可愛いですね!」


真凛は屈んでいろんな角度から見る。


「私、元保育士で、こういう小さい可愛い飾り好きなんですよね」


蘭はにこにこしてうなずく。


「あとこれが3月に退職された方が作られた引継書。私もこれ見て覚えたの。すごくわかりやすいよ。しばらく読んでみる?」


「はい、ありがとうございます」


真凛は引継書を熱心に読み始め、蘭は入ってきたお客様の対応をする。


「あーごめんごめん、お待たせ」

春子が厨房から出てくる。


「ひと通り私が説明しながら店内を回るわね」


「よろしくお願いします」


春子は注文カウンターやレジ、コーヒーマシン、食洗機など、店内を歩いて説明する。


そしてまた注文カウンターに戻り、少し離れた後ろから蘭がお客様への対応をしている様子を一緒に眺める。


「お待たせいたしました。ありがとうございました。またお越しくださいませ」


蘭が紙袋を手渡し、お客様が帰っていく。


「なんか2人が後ろでじーっと見てる感じで緊張しました」

蘭が笑いながら言った。


「完璧なお手本みたいな接客だったわよ。真凛ちゃん、少しずつ覚えていって、あとで自分でもやってみようね」

「はい!」


「蘭ちゃんごめんね、退勤時間過ぎちゃったね」


「いえいえ、全然。それではお先に失礼します」


蘭はスタッフルームに戻りながらちょっと振り返り、真凛に小さく手を振って、

「がんばって」

と口の形で伝えた。


真凛もにっこりうなずく。


次のお客様が来られた時は、春子が接客し、真凛はすぐ隣で見ていた。


店内か持ち帰りか聞き、注文内容を聞き、お会計をし、ワッフルを包み、紙袋に入れて手渡す…。


数回そうやって見学したあと、春子は

「やってみる?」

と聞き、真凛は

「はい!」

と前へ進んだ。


「いらっしゃいませ。こちらでお伺いいたします」


真凛は小柄なお客様に合わせて少しかがみ、

「お持ち帰りでしょうか?」

と聞く。


「うん、持って帰るの。孫にね」


「お孫さんへのプレゼントなのですね。素敵ですね」


「孫だったらどれがいいかしらねぇ」


「そうですね、小さいお子様だと、お茶の味が少し苦いと感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、おいくつぐらいのお子様ですか?」


「3才なのよ」


「それでは小春オリジナルがお好みに合うかもしれないですね」


「そうよね。じゃあオリジナル1個と、私たちの分の抹茶を2個お願いしようかしら」


「はい、かしこまりました」


真凛は春子を振り返り、

「オリジナル1個と抹茶2個です」

と言う。


春子が前に進み、レジを担当する。


「それではお包みいたしますので、少々お待ちください」


2人は奥に行き、並んでワッフルを包む。


「このあたりに置いて、こんな感じで包んで、そうそう、うまいうまい」


包み終えたワッフルを紙袋に入れ、真凛は女性客に手渡す。


「お待たせいたしました。お孫さんと楽しくお過ごしくださいね」


「ありがとう。また買いに来るわね」


「ありがとうございました」

お辞儀をして見送る。


「真凛ちゃん、すごく感じの良い接客だったわ。小柄なお客様に合わせてかがんでお聞きして、かといって近づきすぎるわけでもなく、絶妙な距離感だったわ」


「え!ありがとうございます。小さい子供相手の仕事をしてたんで、屈むのが染み付いてるんですかねぇ」


「内面の優しさが出てるような接客だったわ」


「えー嬉しいです!ありがとうございます」


「包むのも綺麗だったし」


「保育園で折り紙めっちゃやってたからですかね」

真凛は、あはは、と声に出して笑った。


「ところで真凛ちゃんって関西出身よね」


「はい、神戸です。関西弁出てます?」


「接客の時は全く出てなかったわ。基本的には出ないんだけど、雑談の時になると急に出るみたいな気がする」


「やっぱりそうですか!仕事となると一応標準語に切り替えしてるんですけどね」


「ダメとは言ってないのよ。たまにチラッと出ると、可愛いなって。関西弁で雑談してくれると、なぜか嬉しい気持ちになるわ。リラックスしてくれてる感じで」


「春子さんと喋ると何となくお母さんっぽくて。あはは、すみません!」


「まあ!それは嬉しいわ」


その後もお客様が来ると、春子が横について真凛が接客し、合間を縫って春子は厨房へ戻ってワッフルを焼いた。


コーヒーの注文が入ると一緒にマシンの操作もし、食洗機も一緒に使ってみた。


とりあえずひと通り経験したところで、白沢茶太田園が納品に来た。


「こんにちは、太田園です」

今日はいつもの若旦那に加えて、非常に大柄な男性が横にいる。


「僕の弟の煎(せん)です。今年大学を卒業してうちの会社に入社した新米です」

若旦那が紹介する。


「初めまして、太田煎(せん)です。まだまだ未熟ですが、精一杯がんばりますので、よろしくお願いします」

煎は深々とお辞儀をする。


「こちらこそよろしくお願いします。ちょうど良かったわ。こちらは今日から入ってくれたアルバイトの真凛ちゃん」


「どうぞよろしくお願いします」

再びみんなお辞儀をする。


春子が、

「若旦那さんって、弟さんがいらしたのね」

というと、若旦那が、


「僕の下に次男がいるんですけど、お茶と関係ない仕事してまして、その下の三男が煎で、さらにその下にも四男がいるんです」


「えっ、4人もいらっしゃるのね!」


「はい。僕はいつも若旦那と皆さんに呼ばれてますが、本名は『玄(げん)』で、次男が『碧(あお)』、三男が『煎(せん)』、四男が『葉(よう)』と言います」


「いかにも老舗のお茶屋さんって感じで素敵なお名前ね」


若旦那が

「ありがとうございます」

と言うと、煎が

「でも僕はそんな情緒はなくて、ずーっと野球ばっかりしてきたんですけどね」

と笑う。


春子は

「いかにも野球選手って感じね」

と見上げた。


「身長何cm?」


「187です」


「まあ、すごい!大きい弟さんなのね」


若旦那は、

「煎は高校生の頃から自分の部屋にトレーニングマシン置いてて鍛えてるんですよ。春子さん力仕事が必要な時があればいつでも煎に言ってください。あと、高いところも。電球替えとか踏み台なしでしてくれますよ」


「いつでも呼んでください!」

煎は春子に爽やかな笑顔を向けた。


「まあ、頼もしいわ。ありがとう」

春子は微笑む。


「それにしても若旦那さんの本名が玄(げん)さんだったなんて。それじゃあ若旦那さん、源田商店さんのことを私が源(げん)さんって呼んでるの聞いて、もしかしてややこしかった?」


「まあ初めてここで一緒に会った時は、自分が呼ばれたかと思ってびっくりしましたけど、すぐに慣れました。それに源田さんと納品時にバッティングすることはそんなに多くはないですし」


「そう?でも4年間ややこしい言い方してごめんなさいね。でもこれからも若旦那さんでいいかしら?」


「はい、もちろん。小春庵さん以外からもたいてい若旦那と呼ばれてますので」


みんなで笑っていると、

「あら…」

真凛が煎のポケットから出ているスマホリングを見る。


「あ、これですか?神戸レパーズのです」


「え!私神戸出身で、レパーズファンなんです」


「そうなんですか!僕も子供の頃からずっとレパーズファンなんです。神戸出身、いいなぁ」


「おやおや、こんなところで野球ファン同士出会ったのね」


「まさかのレパーズファン、めっちゃ嬉しいです」


「あなた達年齢も同じくらいじゃない?」


「僕、22です」


「私もです。わぁ、偶然!」


「じゃあお互いレパーズの優勝を祈って、応援も仕事もがんばりましょう!」


「オー!」

真凛はノリノリでこぶしを挙げる。


若旦那はちょっと呆れるように笑っていたが、煎も真凛も楽しそうだ。


「じゃあ、失礼します!ありがとうございましたー!」


みんなを見る春子も嬉しそうだ。


真凛はその後も接客したり、ドリンクを作ったりし、結構慣れてきた頃、17時の閉店時間になった。


「じゃあ今日はここまでね。あとは私がやるわ。この次からは後片付けも一緒にしてもらうわね」


「承知しました!ありがとうございました!」


「しんどくなかった?1年間療養されてたあとなのよね?」


「それは大丈夫です。半年ぐらいでほとんど元気になってたんですけど、残り半年は親に甘えてぐうたらしてただけなんです」


「それなら良かったけど、無理はしないでね」


「はい。なんか私めっちゃ痩せとうから見た目でドン引きされたりするんですけど、喋ったら『なんや元気やん』ってなるんですよね。中身は元気なんで、ご心配なさらないでください」


「了解。じゃあまた次回よろしくね」


「ありがとうございました。お先に失礼します」


この物語はフィクションです。作中に登場する人名や地名、校名、お茶やフルーツの銘柄などはすべて架空のものです。一部実在の名称と同じものも混在しますが、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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