宇宙人!?
続編第4話 宇宙人!?
4月の第1土曜日。
今日の小春庵のスタッフは、オープンからクローズまで華とすみれの予定だ。
すみれは木曜日に初勤務だったが、続けて今日2回目の勤務をしてもらうことになった。
10時に店がオープンするので、早番は30分前までには出勤することになっているが、9時半になってもすみれは現れない。
「春子さん、すみれちゃんどうしたんでしょうか」
「この前もギリギリだったからね、今日もかしら。9時25分までに来てねって言ったんだけど」
時計の針が9時35分を指した時、すみれがパタパタと走ってきた。
「春子さんおはようございます!すみません、電車が遅延しちゃって。駅から一生懸命走ってきたんですけど、ちょっと遅れちゃいました」
すみれは甘えるように春子の腕に自分の腕を巻きつけた。
「すみれちゃん、走ってきてないでしょ。今そこの見えるところから数歩だけ走ったんでしょ」
「あれ?バレました?」
すみれは腕をほどいて頭に手をやる。
「当たり前よ。全く息切れしてないじゃない。ヒールも高いし」
「名探偵!」
「いいから荷物置いて、靴も履き替えて。スニーカー持ってるの?」
「おとといロッカーに置きました」
「それならいいけど、その服…なに?」
「これですか?マイクロミニです。可愛いでしょ?」
すみれは太ももまでしかない超ウルトラミニショートパンツをはいている。
くるりと一回転し、
「服装、下は自由ですよね?」
「…」
春子は絶句した。
華はまるで宇宙人を見るかのような目ですみれを見た。
華は背が高く、横幅もかなりあるので、体型には大きなコンプレックスを持っており、ミニ丈など世界がひっくり返っても履くことはない。
しかし、たとえこういう服が好きだとしても、これは仕事にふさわしくない服装なのではないだろうか。
華はかろうじて、
「…カフェエプロンしますよね?」
と言い、春子も
「…そうね、じゃ、エプロンしてきてちょうだい」
と言う。
すみれは
「はーい」
とスタッフルームに引っ込んだ。
春子も華も無言だ。
しかしすぐに
「春子さーん!」
すみれが叫び、春子が返事もせずにスタッフルームに行くと、すみれが半泣きで、
「エプロンの方が長くて、こんなんなっちゃいました。中に何も履いてない裸みたい…どうしましょう…」
「…もう…!」
「春子さん、助けてください!次はダボパン履いてきますから!」
「はぁ、しょうがないわね。じゃあ私のスウェットパンツ履く?Мサイズだけど」
「えー!ありがとうございます!」
春子が自分のロッカーから着替えを出して手渡すと、すみれは目の前でためらいもなくササーッと履き替え、
「華さん今日はよろしくお願いしまーす」
と元気にフロアに出ていった。
オープンし、外国人のお客様が入ってくると、すみれは前回同様ノリノリで接客を始める。
「Hi, there. How's it going, guys?(こんにちは、お2人さん、ご機嫌はいかが?)」
華は目を見開き、口も開けたまますみれを見てフリーズする。
春子は華の絵に描いたような反応を見て、必死に息を止めて笑いをこらえた。
華は幸い10秒ぐらいで元の世界に戻ったが、その後は
「コイツお客様に親しげにしすぎて失礼な言い方してないだろうな?」
という風な、半分疑いの目でチラチラ見始めた。
しかし何を言っているのか聞き取れないのでどうしようもない。
馴れ馴れしい雰囲気だなというのは薄々わかるが、外国ではそれが普通なのかもしれないし、失礼なのかどうかもわからない。
すみれは外国人のお客様には積極的にガンガン話しかけ、おそらく注文以外のことも、どこから来たかとかなど聞いて会話が弾んでいる様子だったが、日本人だなと思うと引っ込んでしまう。
華が、
「すみれちゃん、日本人の接客もお願いしますね」
と言うと、すみれは
「はーい」
とニコニコして返事するのだが、日本人だとさりげなく洗い物をしたり、外国人が来たら途中でやめてパッと前に出たりもするので、華の表情は曇った。
春子が奥から出てくる。
「次は日本人のお客様だとすみれちゃんが対応してね。日本語の接客の練習がまだ足りてないからね」
と言うと、すみれは
「わかりましたー!」
と元気に答えた。
そして次の接客は
「いらっしゃいませ。こちらでご注文お伺いします」
とにこやかにするが、春子が引っ込むとまた外国人に集中する。
華は、まあ私は英語下手だから、やってもらえるならいいか、と思い、残りは日本人の対応に徹した。
華は高校時代までは自分は英語が得意な方だと思っていた。
高校の成績も良く、国立白沢大学に合格して入学した。
しかし小春庵でアルバイトを始めると、先輩主婦の藍子は、華が全くわからない英語の会話をエレガントな仕草でスラスラとこなした。
華が持っていない英語の資格も持っていた。
太っていて腫れぼったい一重まぶたにゴワゴワのくせ毛の華とはまるきり正反対に、藍子は華奢で、パッチリした二重の目にサラサラのストレートヘアで、華が持っていないものを全て持っていた。
華のプライドは傷つき、劣等感や嫉妬で八つ当たりしたり、大泣きしたこともある。
しかしどんな態度を取っても優しい藍子はふんわり温かく包んでくれた。
やがて華も心を開き、藍子のことが大好きになった。しかし藍子は3月で退職してしまった。
藍子の代わりに来た英語要員がこの子なのか…。
上品で美しく、非の打ち所のない藍子と比べられるは誰でもかわいそうではあるが、それにしてもこの子はあまりにも常識がないのではないだろうか。
華は去年みたいに拗ねたりすることはないが、なんだかがっかり、という感じで、しかし仕事だけは淡々とこなしていった。
「まいどー」
源田商店が納品に来た。
春子が厨房から出てきて、
「源さんお疲れさま。こちら新しく入ったアルバイトのすみれちゃんよ。すみれちゃん、こちらは小麦粉や砂糖や卵なんかを納品してくださる源田商店さん」
「すみれです。よろしくお願いしまーす」
「おう、すみれちゃんか、よろしくな。大学生?」
「はい、19歳の白沢大1年生です。華さんと同い年ですけど学年は1つ下の1年生なのでピチピチでーす」
華は憮然としている。
「浪人したの?」
「いいえ、留学です」
「へぇ、どこに?」
「アメリカです」
「へぇ。春ちゃんなかなかすごい子雇ったじゃん。じゃ、すみれちゃん、また来週な」
「Catch you next week!"(また来週!)」
「…はぁ?」
すみれは構わず源田に手を振って見送った。
閉店時間になった。
「すみれちゃんお疲れ様。あとは華ちゃんと私でやるわね。すみれちゃんはまだ2日目だから今日は上がってちょうだい。来週からは後片付けも一緒にしましょう」
「わかりましたー!春子さん、スウェットありがとうございました。洗濯して今度持ってきますね」
いったんスタッフルームに引っ込んだあと、
「春子さん華さん、今日はありがとうございました。お先に失礼しまーす!楽しかったでーす!」
すみれはマイクロミニパンツで弾むように帰っていき、見送る2人はため息をついた。
この物語はフィクションです。作中に登場する人名や地名、校名、お茶やフルーツの銘柄などはすべて架空のものです。一部実在の名称と同じものも混在しますが、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。




