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新生ワッフル店小春庵の日常  作者: 小春庵


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新年度の準備

3月に入ってから真凛は、週に4回だった小春庵勤務は3回に減らし、それ以外の日はほぼずっと太田園の新しい店舗「お茶の国」の開店準備に追われた。


店は太田園本社の広い駐車場の一部を使って建設されている。


駐車場が真ん中にあり、本社にも行けるし店舗にも行けるという感じで、区切りはつけない形だ。


本社の建物は老舗らしい古びた建物だが、お茶の国はちょっとメルヘンチックな色合いで、丸みのある可愛らしい建物となっている。


ここで提供するものは、メインが抹茶味やほうじ茶味のソフトクリームで、ドリンクは抹茶ラテとほうじ茶ラテ。


テーブルはないが、窓際に沿った長いベンチに座って食べることはできる。


そして、お茶のセット、クッキーやバウムクーヘン、ようかんなどお茶を使用して作った和洋菓子など、持ち帰り用のお土産を売るスペースも広く取られている。


中はまだ完成していないので入れないが、煎と真凛はソフトクリームの種類やネーミング、店内のレイアウトについてなど、毎日意見を交わし合い、1つ1つ決めていった。


しかし決めても決めてもまだまだ決めなければいけないことは限りなく出てくる。


煎は真凛が小春庵の勤務を終えたあともしょっちゅう車で迎えに来て、2人で、あるいは太田園の社員や業者も交えて、連日「お茶の国会議」をしていた。


「真凛ちゃん、両方の仕事掛け持ちになっててしんどくない?無理しなくても、ここの仕事もっと減らしてもいいのよ」

春子が心配して声をかけるが、


「うーん、でも蘭さんも華ちゃんもかなり増やしてくれてますからね。少なくとも新しいバイトが来てくれるまでは今のままでがんばります」


「そう?しんどかったらすぐに言ってね」


「楽しみもいっぱいあるから大丈夫です。それにほぼ毎日煎くんが専属運転手してくれてますから」


「それは助かるわね。煎さんは元野球選手だから体力ありそうだし、頼れるからいいわね」


「はい。しんどいとか言ってるとこ見たことないんですよね。すごいです」


「それにいつも穏やかそうよねぇ」


「はい。声を荒げたりイライラしとうとこ、1回も見たことないですね。常に優しいです」


「やっぱり鍛えていて体が大きい人は心も広いのかしらねぇ」


その日は午後に華が出勤してきた。

「おはようございまーす」


「おはよう華ちゃん」


「いきなりですけど春子さん、いいですか?」


「なになに?いきなりね」


「アルバイトの話なんですけど」


「誰かやりたい人いるの?」


「実は春子さんも面識のある、私の親友の夢子なんですけど」


「あら、あの華ちゃんにそっくりの仲良しさん?」


「はい。夢子は大学生になると同時に、中2の女の子の家庭教師をしてたんですけど、先日無事に志望校に合格したそうなんです」


「それはおめでたいわね」


「はい、でもまあ夢子のバイトも終了したので、新しいバイトを探さないといけないらしいんです」


「なるほどね。週に何回家庭教師してたの?」


「2回です。あと、その他にテニスサークルも入ってたんですけど、それも今月で辞めるので、完全にフリーになるらしいんです」


「あらまあ、いきなり2種類の予定がゼロになったのね」


「はい。で、夢子も大学の授業の合間にお昼の時間だけバイトするのに乗り気で、あと、蘭さんがお休みの曜日には時間割さえ合えばフルに入りたいって言ってました」


「それは助かるわね。というか、蘭ちゃんは休日はどの曜日でもいいと言ってたから、むしろ夢子さんがフルで入れる曜日を蘭ちゃんの休日にしてもらうっていう形も取れるわよね」


「あ、そういう順番で決めてもいいわけですね」


「そうね」


「夢子は何度もここのワッフル食べていて大好きですし、私と似たような感じでネイルもしないし靴はペタンコしか履かないし、髪も私とそっくりのくせ毛だから必ず1つにまとめてるし、かなり春子さんの3つの約束はクリアできてると思いますよ」


「なるほどね」


「あと、夢子はすっごくポジティブで、毎日めちゃくちゃ楽しそうに過ごしてる子なんです。だから、楽しく勤務する、困ったことはすぐに言うっていう春子さんのお約束もきっとクリアだと思います」


「それは素晴らしいわ」


「あ、すみません、面接官みたいなこと言ってしまって。でもとりあえず紹介させてほしくて」


「いえいえ詳しく話してくれて助かるわ。早めに面接来てほしいけど、連絡取ってもらっていいかしら?私は17時以降なら毎日何時でもOKよ」


「今聞いてみますね」

華は夢子にメッセージを送り、すぐに返信が来た。


「今日でも来れるそうです」


「じゃ、今日お願いしましょう。履歴書だけ持ってきてね」


「承知しました!連絡します!」


退勤ボタンを押してエプロンを外し、横で嬉しそうに話を聞いていた真凛は、


「いやー、夢子ちゃんが来はるんやったらすぐ店に馴染みそうですね。明るいし、おもしろいし。お客さんも喜んでくれそうですよね」


そこでドアが開き、

「真凛、終わった?」

と煎が顔を覗かせた。


真凛は煎に向かってうなずいてから華に、


「私も面接の場にいて夢子ちゃんと喋りたいぐらいやけどなぁ、煎くん迎えに来とうから、今日もお茶の国会議行ってくるわ」


「そうなんですね。いつも忙しそうですけど真凛さん大丈夫ですか?」


「大丈夫大丈夫。夢子ちゃんによろしくね。また会えるの楽しみにしてるって言うといて」


「わかりました!」


「じゃ、お先に失礼しまーす。ごめん煎くん、お待たせー」


真凛はパタパタと走っていった。


夢子は17時に履歴書を携えて小春庵に来た。


春子は数回面識があって話したこともあるし、華から結構たくさんの情報を得ていたので、ほぼ採用確定のつもりで、細かいところだけ追加で聞くようなつもりで面接を始めた。


いつもの3つのお願い、身だしなみのこと、楽しく働いてほしいこと、ワッフルに愛情を持ってほしいことを最初に話したが、華の言う通り全て問題ない。


次に具体的な話に移った。


「華ちゃんから聞いてると思うけど、原則として12時から14時半までの2時間半の短時間だけど、大丈夫?」


「はい。もし2限か4限に授業があれば、少しズレますが、その場合でも急いで出勤してきます。週4回ぐらいまでなら入れます」


「大学が全休の曜日はフルで9時半から17時半まで入れるって華ちゃんから聞いたんだけど、それも大丈夫なの?」


「はい。ただ、授業の曜日はまだ決まってないんです」


「それはそうよね。大学は徒歩10分とおっしゃってたわよね。ご自宅は?」


「白沢駅前のワンルームマンションに住んでます。なのでここから徒歩5分ぐらいですね。もし急な勤務が入ってもすぐに走って来れます」


「まあ、頼もしいわ。でも坂道も多いし、走らなくていいのよ」


「中学と高校の時はテニス部で、テニスサークルもつい先日まで入っていたので、走るのは平気なんです。ぽっちゃりですけど全然走れます。いわゆる『動けるデブ』ですね!」


夢子はガハハハと豪快に笑った。


春子は笑っていいのかわからなかったが、一応ニッコリして、


「あと、華ちゃんのお友達ではあるけど、お二人一緒に勤務できるとは限らなくて、全く別の曜日になる可能性もあるけど、大丈夫かしら?」


「はい、大学でもしょっちゅう会ってますし、何より仕事ですからそんなシフトのわがままは言わないつもりです」


「ありがとう。じゃあ、採用決定ということで、よろしくお願いします」


「ありがとうございます!」


「さあ、じゃあワッフルを包むわね。持って帰って食べてちょうだい」 


「嬉しいです!ありがとうございます!!」


春子はワッフルを包みながら、

「ところで家庭教師を辞めたのはわかるんだけど、どうしてテニスサークルも辞めたの?」


「それがね、聞いてもらえます?」


「何?」


「憧れてた先輩が、3月で卒業なんです。で、最後に告白しようかと思ったら、その前に実はサークル内の別の子と付き合ってたことがわかったんです」


「それは悲しいわね」


「1年半も付き合ってたらしいんです、内緒で!」


「あらまあ」


「だからスパッと辞めたんですけどね、ま、次にまた新しくいい人と巡り合う日を楽しみに待ってます!アッハッハ!」


この物語はフィクションです。作中に登場する人名や地名、校名、お茶やフルーツの銘柄などはすべて架空のものです。一部実在の名称と同じものも混在しますが、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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