クリスマス
作者オススメ回です!
12月に入った。
華はあれからスポーツジムも黒板アートの練習もいったんお休みして、久しぶりに羊毛フェルトに没頭する日々となった。
ミニサンタ、ミニツリーに、赤白の帽子、赤白の靴下まではサッと作ったが、その後パッタリとアイデアが浮かばない。
仕方なく帽子を緑と白にしたり、靴下を縞模様にしたりと、色でバリエーションを増やした。
しかしまだまだである。
出勤した時に蘭に相談すると、
「リースは?トナカイは?あと、ポインセチアに、ろうそくに、雪だるま、ベル…」
と瞬時に次々とアイデアを出され、
華は、
「蘭さん天才!」
と手を叩き、メモに書いて、家に帰って早速作り始めた。
その後も星、クリスマスケーキ、リボンのかかったプレゼントボックスなど増えていき、やっと25個が揃った。
しかしこれで終わりではなく、欲しがる小さい子供にあげられるように予備のも作らなければならない。
指がじんじん痛みながらもがんばる華には、春子から、
「ちょっと早めのクリスマスプレゼントよ」
と、レザーの指サックがプレゼントされた。
「ありがとうございます!これでまたどんどん作れます」
「でも無理はしないでね」
12月中旬、やっとすべての羊毛フェルト作品が出来た頃に、麗花が体調不良で欠勤し、華が代わりに出勤した。
「珍しいですね。麗花さん細いけどいつも元気なイメージなのに」
「熱が出て風邪っぽいみたいよ。体がだるいって言ってたわ」
「でも春子さん、こういう時はできる限り来ますので、今日だけでなくいつでも呼んでくださいね!私、何年も風邪引いてないんで!」
久しぶりに華の得意の力こぶポーズが出た。
クリスマスイブになった。今日の勤務は麗花と真凛の予定だが、朝から蘭と華が臨時で出勤することになった。
「麗花さんまだ体調悪いんですか?大丈夫なんですか?」
「インフルエンザだったらしいわ。こじらせちゃったみたい。でも原因がわかって良かったわよね」
「それなら良かったです。いくらでも代わりに出るので、ゆっくり休んで元気になってほしいですね」
「そうね。あと、真凛ちゃんはお休みではなくてあとから遅れて来るって春子さんがおっしゃってたんだけど、どうしたのかしら」
そこへ太田園の車が来て、助手席から真凛が降りてきた。
後ろから煎が大きな電子ピアノを抱えて歩いてくる。
「おはようございまーす」
「真凛ちゃん!どうしたの?そのピアノ」
「今日と明日は私がクリスマスソングをBGMで演奏することになりました」
「えー!真凛さんピアノ弾けるんですね!」
「保育士はだいたいみんな弾けるで。私は子供の頃から保育士目指してて、4歳から高3までピアノ習っててん」
「すごい!じゃあ今日と明日の2日間は真凛ちゃんのコンサートなのね!」
春子が厨房から出てきた。
「煎さんありがとう。真凛ちゃんの家まで迎えに行ってくれたのね」
「いえいえ、重いもの運ぶのはいつでもご協力しますよ」
「ありがとう。良かったら演奏も聴いていってね」
「ありがとうございます。車に納品物もあるんで、先にそっちを取ってきてから、聴かせていただきます」
煎はホールの隅に電子ピアノや椅子をセッティングし、お茶の納品を済ませたあと、店のカウンター席に座った。
真凛は電子ピアノをパイプオルガンの音に設定し、邪魔にならない程度の小さめの音を確認すると、一度立ち上がって礼をする。
そして讃美歌111番「神の御子は今宵しも」を厳かに演奏し始めた。
いつものジーンズと違ってダークグリーンの優美なロングワンピースを着た真凛が、美しいメロディーを奏でる。
みんな手を止めてうっとりと聴き入った。
曲がちょうど終わる頃に、小さい子供と両親の親子連れが入ってきた。
真凛は次は音の種類を切り替えて、「赤鼻のトナカイ」を軽快に弾き始めた。
5歳くらいの男の子は、
「わぁー!」
と真凛のそばまで走っていき、ピアノに合わせて歌を歌った。
「すみません!」
両親は慌てたが、春子が
「いいんですよ、楽しんでくださいね」
と言い、真凛も演奏しながら男の子ににっこり笑いかける。
両親は、
「ありがとうございます」
とお辞儀をする。
両親はワッフルと飲み物を注文し、カウンター席に持って行った。
真凛は、
「サンタが街にやってくる」「Winter Wonderland」と、子供の好きそうな曲を次々に演奏し、男の子はカウンターに座ってワッフルを食べながら、左右に揺れている。
「この引き出し、なあに?」
男の子はアドベントカレンダーを指さして母親に聞く。
「これは今日の日付の引き出しだけ開けていいものよ」
「今日のはどれ?」
「これよ」
「開けてもいいの?」
母親が注文カウンターの方を振り返ると、蘭が
「どうぞ」
とにっこりうなずく。
男の子が開けると、そこには華が最後に作った、サンタが白い袋をかついでいる羊毛フェルトの作品が入っていた。
「わぁ!これ欲しい!」
「ダメよ、お店のものよ」
そこへ華が歩いていき、同じものが入った小さい袋を手渡す。
「これ、よろしければどうぞ」
「え!いいんですか!?」
「私が趣味で作っているものなんです。受け取ってもらえたら嬉しいです」
「まあ、店員さんの手作りなんですね!ありがとうございます!」
男の子も
「ありがとう」
と言って受け取った。
家族は食べ終えてトレーを返却し、
「ごちそうさまでした。素敵なコンサートとプレゼントもありがとうございました」
とお辞儀をし、男の子は
「バイバイ」
と手を振って帰っていった。
煎もそこで立ち上がり、
「いやぁ、感動しました。真凛ちゃんの演奏も、華ちゃんの作品も。本当に小春庵は素晴らしいお店ですね」
春子は
「喜んでもらえて良かったわ。煎さん、明日も来てくださるの?」
「はい、明日も来ます。春子さん、ありがとうございました。真凛ちゃん、今日の夕方は来れないけど、明日の朝また迎えに行くよ。演奏がんばって」
翌日、12月25日。
真凛は真紅のロングドレスで登場した。
蘭と華が、
「素敵!」
と注文カウンターから駆け寄ってくる。
「高3のピアノの発表会の時の服なんです。それ以来着てなかったけど、置いといて良かったです」
煎は今日は丸1日有給休暇を取っていた。
車での送り迎えに加えて、真凛が演奏している姿を動画や写真に撮ったり、真凛が少し疲れてきた頃には飲み物を届けたりもした。
真凛は客層に合わせて選んだ曲を弾き、時々お客様のリクエストにも応えた。
曲のレパートリーは非常に広くていつまで聴いていても飽きず、煎は厨房から運んできた小さい丸椅子をピアノのそばに置き、長時間演奏に聴き入った。
子供たちが真凛を囲んで歌を歌うと、真凛も一緒に歌い、歌詞がよく分からない煎は手拍子で合わせた。
はしゃぐ子供たちの中には、大柄な煎の背中や膝によじ登る子もいて、両親は慌てたり謝ったりしたが、煎は笑って子供たちを受け入れた。
アドベントカレンダーの中身を欲しがる子供がいたら、煎が渡す係をしてくれたので、スタッフはとても助かり、お客様からは大好評のクリスマスとなった。
15時を過ぎるとお客様の数は減り、華が先に退勤する。
16時を過ぎると雪がちらほらと舞い始め、カウンター席に飾ったクリスマスツリーには、蘭が綿を乗せて雪の演出をした。
お客様が誰もいなくなった店内で、真凛は最後に「White Christmas」をしっとりと演奏し終え、立ち上がって礼をする。
春子と蘭、煎は盛大な拍手を贈った。
閉店後、煎が電子ピアノやスタンド、椅子などを車に積み込む間、真凛はさすがにグターッとカウンターに突っ伏した。
「真凛ちゃん、2日間ありがとう。素晴らしい演奏だったわ」
春子はワッフルと特別の謝礼を包んで渡し、お礼を言う。
真凛は起き上がり、
「いえいえ、こちらこそ楽しかったです。久しぶりに私のピアノに合わせて小さい子が歌ったり踊ったりする姿も見れましたし」
「でもたくさん歌って声がかすれてるわ。喉も手も痛くなったでしょう?」
「全身が痛いです。でも煎くんが荷物も運んでくれるし、家まで送ってくれるので大丈夫です」
「どこかで夜ごはん食べて帰るの?」
「いえ、さすがに疲れたんでまっすぐ家に帰ります」
煎が荷物をすべて運び終え、
「真凛ちゃん、積み終わったよ。どっかごはん食べに行く?」
「いや、今日は疲れたからもう帰ろう。それに服が派手すぎてどこも行かれへんわ。真っ赤やもん」
「そうか、そうだな」
「そうや、うちでごはん食べて行く?」
「え!それはさすがにちょっと…」
「執事みたいに付きっきりで全部お世話してくれたから、お礼せなあかんしな。お母さんに聞いてみるわ」
煎がえ!え!となっているうちにもう真凛は母親に電話をし、瞬時にOKをもらって切った。
「よっしゃ!煎くん帰ろう!車までおんぶしてー。歩かれへん」
「それぐらいは歩きなさい」
「もーう。じゃあ、春子さん、蘭さん、お先に失礼しまーす!」
「春子さん蘭さん、ありがとうございました!」
2人は出て行き、春子と蘭は笑いながら手を振った。
ドアを出て2〜3歩歩いたところで煎はしゃがみ、真凛はおんぶで車まで運ばれていく。
春子はガラス越しにカウンターの内側から見送りながら、
「あーあ、せっかくのエレガントな装いが台無しだわ」
「まるでパーティーで飲み過ぎて酔い潰れたみたいになってますね」
「でもここにいるのが蘭ちゃんで良かったわ。もし華ちゃんなら刺激が強すぎたわ」
「これはさすがに見せられないですね」
クリスマスが終わり、麗花がやっと出勤してきた。
「すみません、3週間もお休みしてしまって」
「いいのよ、気にしないで。それより元気になったの?もう大丈夫?」
「一応は」
麗花はもともと細いのに、さらにげっそりと痩せていた。
「無理しないでね。お正月のシフトは組めたから、麗花さんはお休みしてね。お正月明けからまた戻ってくれたらいいから」
「すみません、ありがとうございます」
「そうだわ、麗花さん、真凛ちゃんのクリスマスコンサート見れなかったわよね」
「はい、それすごく残念で…。華ちゃんのクリスマスの飾りもほとんど見れなかったんです」
「煎さんが演奏の動画をたくさん撮ってくれたから、初響ちゃんが編集してくれて、今日SNSに載せる予定なの。良かったら見てね」
「そうなんですか!それは楽しみです。嬉しいな」
「年末年始のお休みは、動画見たり、美味しいもの食べたりして、回復してね」
「はい、そうします!」
大晦日になった。早番の蘭は14時に、
「お先に失礼します。良いお年をお迎えください」
と春子と華にお辞儀をして帰っていった。
お客様は16時以降は途絶えたので、片付けも早めに済ませることにする。
閉店後、大掃除の最後の仕上げは、今年は華が担当した。
「華ちゃんジムの成果出てるんじゃない?前より動きがスムーズよ」
「体重は減ってなくて、相変わらず真凛さんの2倍ぐらいですけど」
「でも階段も最近は普通に上り下りできてるわよね」
「手すりをしっかり持ってゆっくりですけど」
「じゅうぶん効果出てるわよ」
「ぽっちゃりなりにもちょっとは効果出てますかね」
全て片付けが終わり、華は今年最後の退勤ボタンを押す。
「今年もいろんなことがあったけど、無事に終わりそうね」
「本当にいろんなことがありましたね」
「来年もよろしくね、華ちゃん」
「こちらこそ、来年もどうぞよろしくお願いします」
心なしか華のお辞儀もしなやかになったような気がする。
華は頭をあげて、晴れ晴れと笑った。
「来年もがんばります!」
この物語はフィクションです。作中に登場する人名や地名、校名、お茶やフルーツの銘柄などはすべて架空のものです。一部実在の名称と同じものも混在しますが、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。




