リニューアル完成
9月17日木曜日。
明日の小春庵リニューアルオープンに向けて、スタッフ一同準備をする日だ。
春子は朝早くから来て窓を全開にする。
厨房で1人であれこれと作業をしていると、ドアが開き、サカちゃんが来た。
「おはよう、昨日はありがとう」
「こちらこそ。楽しかったわ」
牛乳や生クリーム、バター、ヨーグルトなどを受け取る。
「冷蔵庫空っぽにしすぎて困ってたのよ。これで安心だわ」
「良かった。あと、これは私からのリニューアルのお祝い」
「えっ何?」
「プレミアムソーセージよ」
「わぁ、美味しそう!ありがとう。早速使わせていただくわね」
「じゃ、リニューアル準備がんばってねね」
サカちゃんが去り、冷蔵庫に納品物を入れていると、駐車場に車が2台止まり、煎と真凛、そして佐藤夫妻がそれぞれ降りて来るのが見えた。
「おはようございます」
「今日はよろしくお願いします」
「楽しみですねー」
そこへ蘭と華も到着し、店内は賑やかになる。
みんな新しい部屋を、
「わー!すごい!」
「雰囲気あるね」
と口々に言いながら1人ずつ順番に覗いていった。
「じゃ、まず大型の荷物を男性陣に託します。佐藤さん、煎さん、いきなりで申し訳ないんだけど、このいちばん大きいテーブルを、1階の客席に運んでもらえますか?」
「承知しました!」
佐藤と煎は、ホールに置いてある段ボールから出したテーブルをかつぎ、奥の部屋に運び込んだ。
女性陣がゴミを隅にまとめる。
「次はこの椅子6脚ね」
2人はあっという間に椅子も運び込んだ。
「じゃ、細かい作業は女性陣がするので、男性陣は次に2階の荷物をお願いします」
男性2人はホールに戻る。
「2階の分なんだけど、まずこの小型ロッカーね。小さくて軽いんだけど、階段が狭くて急なので、運ぶの気をつけてくださいね」
今まで2階は全く使っていなかったので、春子以外は誰も足を踏み入れたことがなかった。
古民家特有の狭くて急な階段だが、リフォームで手すりはつけてもらってある。
男性2人は慎重に運び始めた。
「あと、女性誰か2階に行って、梱包剥がしたりセッティングしてくれる?」
華が行きかけたが、階段があまりにも狭くて急なのでためらい、
「あの、階段が恐いので、どなたか行ってもらえませんか?」
と言う。
「あ、じゃあ私ら行きましょか」
真凛が麗花を誘い、小柄な2人は軽快に2階に上がっていった。
華は1階で蘭と一緒に作業することにする。
その後男性2人は階段を何往復もして荷物を運び、麗花と真凛もロッカー中身の紙袋などの軽いものを持って往復した。
1階はすぐに用事も終わったので、蘭も2階に手伝いに行く。
華は厨房で春子の手伝いをすることにした。
そこへ源田が納品に来た。
「まいど!」
「源さんおつかれさま」
「準備忙しそうだな」
「でもみんな来てくれたから早く片付きそうよ」
「それは良かった。これ、リニューアルのお祝い」
「え!何?」
「ポルボロンっていうお菓子。嫁さんが選んだんだけど、幸せを呼ぶお菓子らしいよ。個装になってるから、みんなで分けて食べてよ」
「わぁ、ありがとう」
「じゃ、がんばってな」
「華ちゃん、これ今日みんなに持って帰ってもらうから、紙袋8つに1つずつ入れてくれる?」
「はい、承知しました」
2階は人口密度が高く、賑やかだ。
みんなせっせと階段を上ったり下りたりして、部屋の中も荷物だらけになっている。
1つ1つ荷物を解いて、
「テーブルはこの向き?」
「椅子はこうかな?」
「ちゃぶ台はここだよね」
などとセッティングしていく。
壁際には小さめロッカーが3台ずつの2段重ね、計6台ある。
麗花が下から紙とペンを取ってきて、名前を書き、扉のプレートに差し込んでいく。
ロッカーの中身はそれぞれの名前が書かれた紙袋に入っているので、それぞれ紙袋ごと収納した。
だいたいの荷物は片付き、梱包のゴミをゴミ袋にまとめ、掃除機をかける。
全部終わると11時半になった。
みんなで下に下りると、ワッフルのいい匂いがしている。
華が厨房で春子の手伝いをしているのを見て、真凛が
「華ちゃん、上もう終わったよ。1回見に行ってみ?」
と言うが、
「階段狭くて私のほうが横幅ありそうだし」
と華は尻込みする。
「何言ってんの、煎くんでももう何十回も往復してるで。煎くん華ちゃんよりはるかに大きいやん!大丈夫大丈夫!」
「そうですか?でもなんか急だし落ちそうで恐くて」
「大丈夫!そもそもスタッフルームやねんからいつかは上がらなあかんやろ?はい、一緒に行こ!」
真凛は華の手を引っ張って階段まで連れて行った。
「華ちゃんが先に上って。私が続いて上るから、もし華ちゃんが落ちてきたら私が支えるし大丈夫」
「そんな!真凛さんつぶれます!」
「つぶれへんよ。意外と強いねん」
男性2人は万が一の時は助けられるようにチラチラ見ながら、口は挟まずにいた。
真凛と華はワーワー言いながらも一段一段上っていく。
「わ!綺麗!畳のいい匂い!」
「せやろ?」
「わー、和室用の椅子だー」
華は座ってみる。
真凛はちゃぶ台の前の座布団に座る。
「こっちもいい感じやで」
「素敵ですね」
「ロッカーの荷物ももう中身入ってるよ。明日から楽しみやね」
「はい。ありがとうございます」
「上がってみたら案外大丈夫やろ?」
「はい、でも、下りるのが恐いかも」
「手すりしっかり持ったら大丈夫!私が先に下りるから、足踏み外しても受け止めるし、安心して下りてきて」
「いやだからつぶれますって!」
華はソロリソロリと下り、無事1階に着地すると真凛がパチパチと拍手をした。
「はぁ…。さすがに階段の上り下りぐらいできるようにならなきゃね。自分でスタッフルームを2階するって提案したんだから…」
華はため息をついた。
「さあて、じゃあお次はみんなでランチタイムよ。準備はできたから、みんな新しい客席へ行ってちょうだい」
この物語はフィクションです。作中に登場する人名や地名、校名、お茶やフルーツの銘柄などはすべて架空のものです。一部実在の名称と同じものも混在しますが、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。




