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新生ワッフル店小春庵の日常  作者: 小春庵


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18/49

リニューアル工事

9月14日月曜日。


今日から小春庵のリニューアル工事が始まる。


まず朝9時に電気屋から作業員3人がきて、1階2階共に照明器具を新しく交換し、配線工事をして、2階の古いエアコンを新しいものに付け替えた。


作業は3時間ほどで終わり、春子はお礼を言って、それぞれに太田園の冷たい麦茶のペットボトルを渡した。


いつもなら作業をしてくれた業者にはワッフルを包んで渡すのだが、今日から臨時休業でワッフルも焼けないので、申し訳ないがお茶だけ渡すことにする。


お昼休憩をする暇もなく、12時頃に電気屋と入れ違いで古沢工務店が到着した。


古沢工務店は古民家リノベーションを得意とする工務店だ。


社長の古野は、「白沢」と自分の名字「古野」を組み合わせて「古沢工務店」という名前にしたのだが、いかにも古民家の雰囲気に合っているネーミングということで自画自賛している。


社長兼担当者の古野が車から降りてきた。


「こんにちは」


自分が手がけた古民家カフェを訪問するのは、何度来ても特別の嬉しさがあるようで、古野はあちこちキョロキョロと見ながら楽しそうに入ってきた。


その後ろからは従業員が4人も来てくれている。


「古野さん今日はよろしくお願いします」


「よろしくお願いします。今日はこの5人で作業しますよ。まず2階が2人、1階が3人で、2班に分かれてやっていきます」


男性陣は口々に

「よろしくお願いします」

と言いながら大きな荷物を運び入れていく。


まず2階は古い畳を新しいものに入れ替える。廊下には新しく消火器も増やしてもらった。


そして、急な階段が危ないので、雰囲気を損なわないような素朴な木の手すりをつけてもらった。


1階は壁と床を塗り直してもらうのだが、これが3人がかりでもかなり時間がかかる。


春子は事務処理したり作業をチラチラ見たりしながら過ごし、15時頃に一度コーヒーマシンを作動させて5人にアイスコーヒーを入れて渡し、自分も休憩した。


おやつのワッフルがないのが物足りないが、仕方ない。


最終的に18時にやっと作業は終了した。


「1階は明日と明後日は何も触らずにしっかり乾かしてください。においの少ない塗料を使っていますが、数日間は換気扇をしっかり回したり、窓を開けたりしてください」


「わかりました。今週はずっとお天気が良いみたいだから助かるわ。しっかり乾かしてから使わせていただきます」


「2階の畳は別に入っても大丈夫ですけど、家具を運び入れるのは少し置いてからのほうが馴染みます」


「わかりました。お世話になりました。長い時間ありがとうございました」


春子はまた太田園の麦茶を5本、代表で古野に渡した。


「お疲れさまでしたー」


「ありがとうございましたー」


男性たちはゾロゾロと帰って行く。


「リニューアルオープンしたら来てくださいね」


古沢工務店の車を見送り、中に戻る。


「今日は何も触れないから、私もこのまま帰りましょう」



翌日、9月15日火曜日。


この日は春子はお昼頃に小春庵に行き、窓を明け放した。


古野が言ったとおり、作業の翌日でもそれほどにおいはしないが、乾かす目的もあるので、できるだけ風を通すことにする。


2階の部屋に入ると、新しい畳のいい匂いがした。


「まぁ、古民家なのに新築みたいな匂いがするわ」


春子は2階の窓も開け放し、また下に降りて、作業台で事務作業をした。


14時頃、初響が来た。


「失礼します」


「初響ちゃん、今日は臨時で出勤してくれてありがとう」


初響はリニューアルオープン前のSNSの更新やメニューの仕上げなどのために、特別に来てくれたのだ。


リニューアル後、小春庵にはワッフルランチが登場し、座席数も今までのカウンター5席に加えてテーブル席6席分が増えることになる。


新メニューに関しては、初響が既に写真を撮って最初の1部を作っていたが、今日はそれを少しだけ修整し、最終的には6部を作成する予定だ。


注文カウンターに2部、並んでいる人の分が2部、そしてテーブル席に1部、あとは予備が1部。


初響は最初に小春庵のスマホに入っているデータを少し手直しし、

「これでよろしいでしょうか」

と春子に見せる。


「OK!じゃあまず1部印刷してくれる?」


初響はデータをプリンターに飛ばし、印刷する。春子は見て、


「うん、いいわね。これでいきましょう」


初響はさらにあと5部印刷する。


それを春子がラミネーターに入れていく。


2人は黙々と作業をする。


角に穴をあけて紐を通し、並んでいるお客様の列の横にぶら下げられるようにする。


「さあ、これでメニューができたわ。ちょっと休憩しましょうか」


まだ1時間しか経っていないが、15時なので休憩することにした。


春子はコーヒーマシンを立ち上げ、ホットコーヒーを2杯入れて戻ってきた。


「ごめんね初響ちゃん、休憩と言ってもワッフルがないのよ。コーヒーだけだけどどうぞ」


初響の前にコーヒーを置く。


「冷蔵庫あまりにも空っぽにしすぎたかしらねぇ。昨日と言い今日と言い、おやつがなくて物足りないわ」


「あの、良かったらこれどうぞ」


初響がバッグからチョコレートとラムネを取り出した。


「あら、ありがとう!いいの?」


「はい。パソコンを長時間して疲れた時のためにいつもバッグに入れてるんです。チョコもラムネも、頭をたくさん使って疲れた時に食べたらシャキッとするんです」


「そうなのね。まああまり頭は使ってないけど、おやつにいただくわね。ラムネなんて特に久しぶりだわ。何年ぶりかしら」


春子は嬉しそうにラムネをつまんだ。


「休憩が終わったら次は、SNSの下書きをお願いするわね。既にリニューアルの日は告知してくれてるけど、もう少し具体的な投稿なんかもね」


「はい」


2人はチョコレートとラムネを食べ、コーヒーも飲み終えると、また作業台に向かった。


「4日間の臨時休業と、9月18日のリニューアルオープンのこと、ワッフルランチが始まることは、既に投稿してるわよね」


「はい」


「あとは、シルバーウィーク最終日の9月23日が、水曜日だけど特別に営業するっていう告知をしなきゃいけないのと、もう少しランチのことを発信したいんだけどな」


「ワッフルランチは、この前の投稿で実物のランチの写真を載せたので、ちょっと違う感じで載せましょうか。さっき出来上がったメニューを、ペラリと手でめくって、ランチメニューが出てくる動画はどうですか?」


「それはいいわね!でも、誰がモデルやるの?」


「春子さんです」


「やだ、私シミもシワもあるって言ってるじゃない」


「え…、そんなことないですけど、じゃ、私がめくってみますので、春子さん動画撮影お願い出来ますか」


「了解!」


初響がゆっくりとメニューをめくる様子を春子が撮影してみたが、どうも手がブレてうまくいかない。


「前の時みたいな静止画なら撮れたけど、発信できるような動画は難しいわねぇ」


「静止画でもいいですけどね…。あ、でも春子さん、美肌加工して撮ってみましょうか」


「そんなんできるの?」


「はい」


役を代わって春子がメニューをゆっくりめくり、初響が美肌モードで動画を撮る。


見てみると、スムーズに撮れているが、まだシミとシワは見えている。


「もっと、最大限に加工できる?」


「はい、やってみます」


美肌モードを100にして、再度撮影する。


「まあ、20歳は若返ったような手になってるわ」


「でもなんかメニューがぼやけましたね」


「あらほんとだ…」


2人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。


その後数回試行錯誤を繰り返し、美肌モード100で撮影したあと、途中で一度切り、加工オフにしてメニューをズームしていくと、美味しそうなワッフルランチが綺麗に映った。


初響は上手にそれを繋ぎ合わせて1本のショート動画にした。


「あーうまくいって、良かった良かった」


「切り替えは多少違和感はあるとは思いますけど、今はこれが限界ですかね。パソコンで時間をかけてやるともう少し綺麗にできるんですけど。すみません」


「じゅうぶんよ。多少の違和感はまあ仕方ないし。だって肌の加工は必須だものね」


「あとは水曜日だけど営業することに関して、でしたね」


初響はしばらく考えながら打ち込み、


「こんな感じでよろしいですか?」


「うん、OK!ありがとう。じゃあその2つ、また今日と明日に分けて予約投稿してくれる?」


「わかりました。今もうメニューの動画載せますか?」


「うん、よろしく」


「23日の営業のことが、明日の10時の予約投稿ですね」


「うん」


「…はい、できました」


「ありがとう初響ちゃん。なんだかとっても楽しい1日だったわ」


「私もです」


そこへピンポーンとインターホンが鳴った。


春子がドアを開けると、大型宅配便の業者だ。


「あら、新しい家具ね。こちらに入れてくれる?」


春子はとりあえず店のホールに段ボールを置いてもらう。


「まだ部屋を乾かしていて、入れられないのよ。ここにどんどん置いていってくれる?」


「了解です!」


新しいテーブル、椅子6脚、ロッカー6個、小さいちゃぶ台、小さい和室用テーブル、和室用椅子が2脚、座布団が4枚。


「うわー!こんなの女性だけだと絶対無理ね。男性2人申し出てくれて本当に良かったわ」


初響もワクワクした感じで見ている。


「あさって皆さんで作業されるのに、私だけ行けなくてすみません」


「いいのよいいのよ、初響ちゃんは学校が忙しいんだから仕方ないわ。それに今日来てくれてじゅうぶんよ」


「ありがとうございます。18日の金曜日は出勤しますので、その時を楽しみにしています」


「ありがとう。じゃ、今日はこの辺で上がってね。あ、太田園さんの麦茶持って帰ってね」


「ありがとうございます。いただきます」


初響はニコッとして帰って行った。


この物語はフィクションです。作中に登場する人名や地名、校名、お茶やフルーツの銘柄などはすべて架空のものです。一部実在の名称と同じものも混在しますが、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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