頼もしい助っ人
9月になった。
今年のシルバーウィークは大型で、19日から23日まで5連休だ。
小春庵のリニューアルオープンはその前日18日の金曜日、そしてその直前の4日間は工事で臨時休業となることが決まった。
水曜日はもともと定休日だが、それに加えて3日間が休みになる。
臨時休業日やリニューアルオープン日は、既に初響がSNSで告知していた。
夏休みが終わって新学期が始まり、親子連れが来ることも少なくなった。
比較的静かな平日のお昼前、今日は蘭が勤務だ。
春子もいったんワッフル製造の手を止め、厨房から出てきて、作業台にリニューアルの書類を広げている。
「こんにちは、太田園です」
入ってきたのは煎だった。
「煎さん、ありがとうございます」
蘭が受け取りに行こうとすると、
「今日のは結構重いんで、中まで僕が運びますよ」
と煎が言い、
「ここでいいですか?」
と注文カウンターの内側の作業台に段ボールを置いた。
「あら煎さん、ありがとう」
春子は書類から顔を上げる。
「お、リニューアルの図面ですか」
「そうなのよ、もう間もなくよ。ほら、新しい家具こんなの入れるの。素敵でしょ」
「おしゃれですねぇ」
春子はいつになくはしゃいだ様子で、
「こっちはスタッフ用の小さいテーブル。可愛いでしょう」
「スタッフ用のも新調されるんですか。まだ新しいんでしょう?4年前にオープンされたんですよね?」
「そうなんだけど、スタッフルームが和室になるから和室専用の家具に買い替えるのよ」
「今のはどうされるんですか?」
「まだ綺麗だから売ろうかとも思ったけど、リサイクルショップに持っていくのも大変だし、大型ゴミで出そうかなぁと思ってるの」
「もったいないですよ。リサイクルショップに持っていくなら僕が車で運びますよ」
「え!」
「会社の車なんで結構大きいですし、僕はこの通り力には自信ありますし」
煎は半年前に大学を卒業したばかりだが、学生時代は野球に明け暮れていたという。
自慢の筋肉をゴリラポーズで示した。
「あら、じゃあお願いしようかしら」
「喜んでお受けします!それと、リニューアルの工事の時も良かったらお手伝いしますよ」
「え、いいの?」
「もちろんです。まあ兄にはあとで許可をもらわなきといけないですが、こういうのは兄がダメだと言うはずないんで、まず大丈夫です」
「じゃあそれもお言葉に甘えようかしら」
「はい、ぜひ!」
「スタッフルームのロッカーも、和室になるから木目調に買い替えるのよ。それも古い方リサイクルに出せるかしら?結構綺麗だし」
「売れると思いますよ。じゃあ、テーブルと椅子とロッカーですね」
「そう。椅子は4脚、ロッカーは小さいけど6台ね。会社の車に乗せられそう?」
「その時には大きい方の車で来ますよ。または2往復でもいいですし」
「本当に助かるわ、ありがとう」
「父からよく言われてるんです、店どうしの横のつながりを大切にして、お互い助け合いをするのが白沢の町の温かくていいところだって。僕ら4兄弟集まったら必ずその話聞かされてます」
「あら、優しくて穏やかな大旦那さんらしいわね」
「頑固なところもありますけどね」
煎は笑い、
「じゃあ、何日に来ましょうか」
「リサイクルに持っていってもらうのは、13日の日曜日の夕方でもいいかしら?その日まで営業で、14日から休業する予定なの」
「では、13日の17時半頃に来ます。で、リニューアルのお手伝いはいつ来ましょうか?」
煎はポケットからスマホを出し、スケジュールを確認しながら打ち込む。
「それは17日の木曜日、朝からなんだけどお願いできる?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、9時から14時か15時ぐらいまで、ちょっと長いけどいい?」
「承知しました!」
煎はそれも打ち込んだ。
「では、失礼します。13日にまた来ます。ありがとうございましたー!」
煎は春子と蘭それぞれの方に向いてお辞儀をし、楽しそうに帰って行った。
「春子さん良かったですね、煎さんがお手伝いしてくださることになって」
「本当に助かるわ。私の周り、いい人に恵まれて幸せだわ」
「春子さんが素敵な方だからですよ」
「あらまあ、ありがとう」
春子は照れる。
「私はリニューアルの工事期間はどんなお手伝いをしましょうか」
「あ、それなんだけど、14日月曜日は私1人で大丈夫なの。で、15日と16日は壁や床を乾かさないといけないから、あまり室内で作業できないのよね。で、17日がいちばん大変な作業なので、煎さんと同じく17日、9時に出勤してもらっていいかしら」
「9時ですね」
「皆さんにもそんな風にお願いしようと思ってるの。一応最長6時間までの勤務で、14時か15時ぐらい、各自ご都合の良い時間までで随時解散ということでいい?」
「承知しました!」
そこへ華が、
「おはようございます」
と出勤してきた。
「あら華ちゃんおはよう。ちょうどいいわ。華ちゃんにもリニューアルの時のお願いがあるの。打刻して戻ってきたら言うわね」
「はい!」
華は楽しそうに春子に敬礼ポーズをして、スタッフルームに小走りで行った。
春子は華の背中を見送り、先ほど煎が運んでくれた重い段ボールを開けると、太田園の麦茶のペットボトルがたくさん入っていた。
14日から17日のリニューアル工事で、業者さんやスタッフのみんなに配る分だ。
「みんなも楽しみにしてくれていて嬉しいわ。さて、次の準備は、と」
この物語はフィクションです。作中に登場する人名や地名、校名、お茶やフルーツの銘柄などはすべて架空のものです。一部実在の名称と同じものも混在しますが、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。




