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06(ヒーロー視点)最愛のお嬢様

 幼い頃に捨てられたメルヴィンには、両親に関する記憶が一切ない。

 孤児院では白髪を理由に不気味だと避けられ、いじめられ、10歳の誕生日に孤児院を逃げ出した。


 10歳の誕生日を待ったのは、冒険者ギルドに登録できるのが10歳からだからだ。


 冒険者ギルドなら、不吉な白髪だろうが、なんだろうが、依頼を受けて金を稼ぐことができる。メルヴィンにとっては最適な職場だ。


 始めは雑用をこなし、実戦の中で魔法や剣術を身につけてからは、魔物の討伐任務も受けるようになった。

 徐々に稼げる額は増えたが、相変わらず白髪を理由に不気味だと避けられ、メルヴィンは常に孤独だった。


 ――四年前のあの日。クラリスに出会うまでは。





「伯爵令嬢の護衛任務、ですか?」


 ギルドの受付で提示された任務は、普段とは全く違うものだった。

 護衛任務が募集されることはあるが、伯爵ともなれば、通常は自分の家で護衛を雇うものである。


「たまたま、前任の護衛騎士が辞めて、人手が足りてないんだとよ。依頼内容は単純な送迎で、屋敷から王立図書館までだ。が、A級以上の冒険者しか認めないとのことだ」


 以来の詳細が書いた紙を受け取る。冒険者の中で、A級以上の割合はわずか1割だ。


「……俺でいいんですか?」


 伯爵家の令嬢なんて、メルヴィンの白髪を怖がるに違いない。


「お前しかいないんだ。この辺で、明日手が空いていそうな奴は。受けるだろ? 断れば伯爵様からの寄付金が減るんだよ」


 受付の男はそう言ってメルヴィンを睨みつけた。

 断ることはできるが、そうすれば、仕事を受けにくくなるかもしれない。


「……分かりました」


 きっと伯爵令嬢は、メルヴィンを見た瞬間悲鳴を上げ、依頼をキャンセルするに違いない。





「貴女が今日、わたくしを王立図書館へ連れていってくれるの?」


 屋敷の前に行くと、メイドと共に、黒髪の少女が立っていた。

 確か、年齢は14歳。名前はクラリスと言うはずだ。


「……はい」

「おっ、お嬢様ぁっ! ふっ、不吉です!! 依頼はキャンセルすべきですよ!」


 騒いだのはクラリスではなく、彼女の傍に控えるメイドだった。

 ちら、と視線を向けると、ひぃっ! と悲鳴を上げて顔を逸らされる。いつものことだ。


「マリア、失礼なことを言うのはやめなさい。貴方はもう下がっていいわ」


 クラリスは厳しい口調で言うと、メイドを屋敷の中へ戻してしまった。


「先程はわたくしのメイドが失礼しましたわ」

「……依頼は、キャンセルしなくてよいのですか」

「あら、どうして?」


 訳が分からない、と言うようにクラリスが首を傾げる。長い髪がさらりと揺れた。


「……この白髪が、不吉だから」


 自分で口にするのは、今でも少し胸が痛む。

 不吉の象徴と呼ばれようと、メルヴィンにとっては生まれ持った特徴――見知らぬ両親と自分を繋ぐものだから。


「貴方の髪色、とっても素敵じゃない」

「……は?」

「太陽の光を浴びると、きらきらと輝いて綺麗だわ。それに、暗いところでもよく見えそう。貴方に守られる人は、きっと安心ね」


 お世辞ではなく、彼女は心の底からそう言っているように見えた。

 驚いてメルヴィンが喋れなくなっていると、クラリスが寂しそうに笑う。


「ごめんなさいね。わたくしの発言もデリカシーがなかったかしら。はっきり物を言い過ぎて可愛げがないと、昔からよく言われるの」


 彼女は身寄りのない自分と違って、恵まれ、愛されて育った伯爵令嬢のはずだ。

 なのになぜか、彼女が自分と似ているような気がしてしまった。


「……貴方は、見る目がない人に囲まれているのですか」

「え?」

「俺が今まで見た女性の中で、最も可愛いのは貴方です」


 メルヴィンの白髪を恐れたり、気持ち悪いと言わない相手は初めてだ。

 たいていの女性は、彼を見るなりすぐに逃げ出す。


「かっ、かかっ、可愛いなんて……っ!」


 クラリスの顔が赤くなる。先程までの少女らしからぬ落ち着きはなくなり、年相応の少女に見えた。


(この方は普段、自分を偽る必要があるのだろうか)


 わざとらしく咳払いをすると、クラリスは赤くなった顔でメルヴィンを見つめた。


「とっ、とにかく今日は、図書館までの護衛、よろしくお願いしますわ」





 その日からメルヴィンはクラリスのことが忘れられず、冒険者を辞めてアディントン伯爵家で働くことにした。

 不吉な白髪ということで難色を示されたが、冒険者ギルドでの実績を評価され、なんとか雇ってもらえたのだ。


(……クラリスお嬢様の傍にいられたら、俺は、それだけでよかった)


 世界でたった一人、メルヴィンの髪を褒めてくれたクラリス。

 彼女を守りたい、彼女の傍にいたい。それだけだった。


 それだけだったはずなのに、彼女が婚約破棄された瞬間、叫びたくなるほど嬉しかった。


 そして理解したのだ。


 自分は、クラリスを恋愛的な意味でも愛してしまったのだと。


 明日、クラリスはセドリック達への復讐を行い、アディントン伯爵家を出ていく。


 そっと息を吐いて、窓の外の景色を眺める。

 メルヴィンに用意されたのは、狭い屋根裏部屋だった。護衛騎士の待遇とはとても思えない。

 だが、こんな部屋で暮らすのも、もう終わりだ。


「……クラリスお嬢様。俺が絶対、貴方を幸せにします」


 家を捨てて逃げるのなら、身分差なんてもう関係ない。

 全身全霊をかけて、必ず自分がクラリスを幸せにしてみせる。

短編にはいなかった激重騎士のメルヴィン、応援してくれたら嬉しいです!

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