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07 派手にやらせてもらいます

 今から、クラリスはヒューイック公爵家主催のパーティーへ行く。

 招待状にはでかでかと『セドリックの新婚約者を発表する』と書いてあった。


 前婚約者であるクラリスをわざわざ招いたのは、彼女を見世物にし、大勢の前で笑い者にするためだろう。

 どれだけ嫌でも、公爵家からの招待であれば、クラリスはパーティーへの参加を断れないから。


「でもそれが、かえって好都合だったわ」


 パーティー用の正装に身を包んだクラリスは、鏡を見てわずかに口角を上げた。

 最近かぶっていたカツラは外し、令嬢らしからぬ短い髪を露にしている。おまけに、いつものドレスではなく、男性用のパーティー衣装を着た。


 どこからどう見ても、今のクラリスは超絶美形の、完璧な令息である。





「お嬢様。お迎えに上がりました」


 約束通りの時間に、メルヴィンが部屋へやってくる。クラリスの姿を見て、メルヴィンはにっこりと笑った。


「とてもお美しいです、お嬢様」

「ありがとう」


 玄関まで進んだところで、高笑いをしながら妹のシャーロットがやってきた。


「いったいお姉様は、どれほど無様な格好で元婚約者のパーティーへ行くつもりなのかしら!」


 ずいぶんと機嫌がよさそうな声を響かせていたシャーロットは、クラリスの姿を見た瞬間にかたまった。


「……お、お姉様? なの?」

「ええ」


 シャーロットは完全にかたまり、しばしの間、呆然とした表情でクラリスをじっと見つめていた。


 淡い薄桃色のドレスに身を包んだ彼女は花の精霊のようで、どこからどう見ても可愛らしい。

 きっと、相変わらず可愛げのない姉を散々馬鹿にするつもりだったのだろう。


(まさかわたくしが、『可愛げ』をとことん捨てて、男装するとは思っていなかったのでしょうね)


 可愛げがないのは承知の上。だからこそ、わざわざ自分が不得意なもので他人と争う必要はない。


「いっ、いくら似合っていても、そんな格好をする令嬢なんて笑われるだけだわ!」

「あら。貴女がわたくしを褒めるのは珍しいわね」

「べ、別に褒めてなんかないんだから!」


 クラリスを嫌っているシャーロットでも、似合っていない、と口にするのは憚られるほどのクオリティーなのだと思うと、さらに自信が出てきた。


「今日はたっぷり恥をかかされるでしょうけれど、せめて我が家の評判を落とさない振る舞いをしなさいよね!」


 そう怒鳴ると、シャーロットはクラリスとは違う馬車に乗り込んだ。





「お嬢様。馬車は会場の入り口にずっと停めておきますので、事が終わり次第、戻ってきてください。すぐに走らせますから」

「分かったわ。ありがとう、メルヴィン」


 夜会が終わり次第、メルヴィンと共に逃亡する。そしてもう二度と、アディントン伯爵家へは戻らない。


 クラリスの新しい人生が幕を開けるのだ。


「待っていますから、派手に暴れてきてくださいね、お嬢様」

「ええ!」





 クラリスが会場に入ると、一瞬で周囲がざわついた。


「ちょ、ちょっと見て、あのお方、いったい誰なの……!?」

「あんなに格好いい方いたかしら!?」


 真っ先にざわつき始めたのは令嬢達だ。彼女達に向かって微笑んでみせると、きゃあっ! と黄色い歓声が上がった。


(格好いい、と男性達に騒ぐ子達の気持ちは分からなかったけれど、騒がれる側になるのは気分がいいものね)


 などと思いつつ、セドリックの姿を探す。

 彼は派手な格好をしているからすぐに分かった。彼の隣には、当たり前のようにリネットが立っている。


「セドリック様」


 待つのは性に合わない。だから、クラリスから先に声をかけた。


「クラリス、よくきた……な……?」


 振り向いたセドリックは、クラリスを見た途端にかたまってしまった。

 あえて近づいて、彼を見下ろす。


 今日だって、別にヒールを履いているわけではない。履かずとも、クラリスの方が背が高いのだ。


(セドリック様はいつも通り、今日もこっそりと身長を底上げしているのでしょうけれど)


 身長こそ低いものの、セドリックはそれなりに整った顔立ちをしている。

 しかしクラリスと並べば、華のなさは一目瞭然だ。


「おっ、男のような格好をして、俺に婚約破棄されたことがよほどショックだったみたいだな!」


 気を取り直したのか、セドリックは虚勢を張るように怒鳴った。しかし、彼の隣に控えるリネット以外、誰もセドリックに同調しない。

 令嬢達は相変わらずクラリスに見惚れ続け、令息達はクラリスに圧倒されたように壁際へ下がっている。


「今日は、お似合いの二人を祝福にまいりました」

「……なに?」

「セドリック様とリネット殿。お二人ほど、お似合いの恋人もいないでしょう」


 微笑んで、クラリスは胸元に隠していた紙の束を取り出す。

 そして勢いよくばらまくと、魔法で風を起こし、紙を会場の隅から隅まで届くように飛ばした。


「皆様、その紙をご覧くださいませ!」


 そこに書いてあるのは、二人の素行調査だ。


(さあ、セドリック様、リネット殿。せいぜい、派手にやらせてもらうわよ)

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