第6話 夜に、目を凝らす者
その、夜。
この、白い、部屋にも。
夜は。
来る。
時間が、来ると。
天井の、光が。
すう、と。
落ちて。
部屋は。
深い、闇に。
沈む。
……最初は。
それが。
「夜」だと。
誰も。
わからなかった。
でも。
何度か。
明るくなって。
暗くなって。
を、繰り返すうちに。
わかって、きた。
この、部屋にも。
昼と、夜が。
あるのだ。
そして。
夜の、闇は。
……本物だった。
目を、開けても。
何も、見えない。
手の先すら。
わからない。
それほど。
深い、闇。
人は。
不思議な、もので。
その、闇が、来ると。
疲れて、いれば。
眠る。
派手な、四人が、脱落して。
残った、九人。
(夜目の、男も。
まだ、このときは。
生きて、いた)
張り詰めて、いた、緊張も。
闇の、中で。
少しずつ。
緩んで。
一人。
また、一人と。
壁に、もたれて。
寝息を、立て始めた。
◇
私は。
まだ。
拘束されて、いた。
手を、布で、縛られ。
目隠しを、されて。
部屋の、隅に。
転がされた、まま。
……ふん。
まあ、いい。
これは。
私が。
選んだ、ポジションだ。
(正確には。
協力者が。
用意した、ポジション、だけど。
それは。
まあ。
いい。
とにかく。
私が。
「そう、あるべき」と。
判断した、結果、だ。
うん)
目隠しの、闇の、中で。
私は。
じっと。
気配を。
探って、いた。
眠りに、落ちて、いく。
みんなの、呼吸。
少しずつ。
深く。
ゆっくりに。
なって、いく。
……そろそろ。
全員。
寝た、かしら。
◇
――と。
そのとき。
私は。
気づいた。
一つだけ。
呼吸が。
おかしい。
誰かが。
眠った、ふりを、して。
起きて、いる。
呼吸は。
深い。
規則正しい。
いかにも。
「寝て、います」という。
呼吸。
でも。
……わざとらしい。
本当に、眠って、いる、人間の、呼吸は。
もっと。
不規則で。
だらしない。
これは。
作り物、だ。
……そして。
その、「起きて、いる、誰か」の。
感情が。
かすかに。
揺れて、いた。
緊張。
集中。
それから。
――決意。
(……来る)
◇
かすかな。
衣擦れの、音。
誰かが。
音を、立てないように。
ゆっくりと。
立ち上がった。
そして。
抜き足。
差し足。
部屋を。
横切って、いく。
……足音は。
ほとんど。
しない。
でも。
私には。
わかる。
空気の。
かすかな。
動き。
誰かが。
移動して、いる。
眠って、いる。
誰かの、ほうへ。
――誰が。
誰を?
目隠しの、私には。
姿は。
見えない。
でも。
音と。
気配と。
感情の、揺れで。
だいたいの、ことは。
掴める。
動いて、いるのは。
……たぶん。
昼間。
「殺さない」だの、「争いは、好かん」だのと。
言って、いた、あたりの。
位置に、いた、誰か。
いえ。
待って。
あそこに、いたのは。
◇
「――が、あっ!?」
突然。
悲鳴が。
上がった。
静寂を。
引き裂く。
男の、叫び。
何か。
予想と。
違う、ことが。
起きた、という。
驚愕の、声。
……そして。
その、直後。
私の、周りで。
眠って、いた、はずの。
全員の、気配が。
……おかしく、なった。
呼吸が。
深く。
なる。
いや。
深い、なんて、ものじゃ、ない。
まるで。
意識を。
根こそぎ。
刈り取られた、ように。
全員が。
どぷん、と。
深い、深い。
眠りの、底へ。
沈んで、いく。
(……なに。
これ。
一斉に。
眠った?)
◇
私は。
混乱した。
さっきまで。
うとうと、して、いた、はずの。
みんなが。
悲鳴を、聞いても。
起きない。
むしろ。
より、深く。
眠って、いる。
……異常だ。
これは。
自然な、眠りじゃ、ない。
誰かの。
能力。
――酩酊。
その、言葉が。
頭に。
浮かんだ。
昼間。
ドワーフが。
言って、いた。
「地の底で。鉄を、掘る」と。
……鉱山の、民。
酒に、酔ったような。
まどろみ。
前後不覚。
もし。
あの、ドワーフの、能力が。
「相手を。酩酊させる」ものだと、したら?
この、一斉の、眠りも。
説明が。
つく。
◇
でも。
だとしたら。
おかしい。
私は。
眠って、いない。
なぜ?
……たぶん。
私が。
拘束されて。
部屋の、隅に。
転がされて、いた、から、だ。
みんなから。
少し、離れた。
場所に。
一人だけ。
ぽつんと。
忘れられた、ように。
転がって、いた。
ドワーフは。
「起きて、いる、みんな」を。
眠らせようと、した。
でも。
私のことを。
……数え忘れた。
拘束されて。
無力化された、私を。
「もう、脅威じゃ、ない」と。
意識の、外に。
置いて、いた。
……ふ。
ふふ。
(こんなときに、笑うのも、なんだけど)
無力な、ふりが。
役に、立った。
誰も。
私を。
数に、入れて、いない。
だから。
私だけが。
起きて、いる。
この、闇の、中で。
ただ一人。
――目撃者、ならぬ。
「聞き耳を、立てる、者」として。
◇
だから。
私は。
聞いた。
悲鳴の、あとに。
続いた。
一部始終を。
「……なぜ、だ」
呻く、声。
悲鳴を、上げた、男の、声だ。
若い。
……昼間。
あまり。
喋らなかった、男。
その、彼が。
かすれた、声で。
呻いて、いる。
「なぜ……身体が。……動かない……。俺の、目は。……この、闇でも。……お前の、姿を。……はっきり。……捉えて、いた。……忍び寄って。……仕留める、はず、だった、のに」
「――甘いのう」
低い。
しわがれた、声。
……ドワーフ。
「わしを、狙って、夜襲か。目が、利くのは。……たいした、もんだ。この、闇で。よう、わしを、見つけた。……だがな。見えた、ところで。近づけば。わしの、酔いが。お前さんに。回る。……この、酩酊は。目では。避けられん」
「……酩酊……。お前の。……能力……」
「そういう、ことだ。……わし、自身は。毎日。浴びるほど。酔って。耐性を、つけとる。じゃが。お前さんは。違う。……ほれ。もう。指、一本。動かせ、まい」
◇
……ああ。
そういう、ことか。
私は。
闇の、中で。
得心した。
悲鳴を、上げた、男。
彼は。
「夜でも、見える」能力を。
持って、いた。
だから。
夜襲を、選んだ。
みんなが、眠った、頃を、狙って。
ドワーフに。
忍び寄った。
……でも。
それが。
罠だった。
ドワーフは。
自分が、狙われて、いることを。
知って、いた。
そして。
待ち構えて、いた。
近づいて、きた、ところを。
酩酊で。
迎え撃った。
「夜目」は。
確かに。
強い。
暗闇でも。
相手が、見える。
……でも。
見えた、ところで。
酔わされて。
動けなく、なったら。
意味が、ない。
――また。
相性、だ。
◇
「や、やめ……」
夜目の、男の、声が。
弱々しく。
なって、いく。
「……なあ。お前さん」ドワーフの、声。「何の、ために。わしを、狙った」
「……っ。……役割、だ。……お前を。……殺さず。……戦闘不能に、しろ、と」
「殺さず?」ドワーフが。
……ふん、と。
鼻を、鳴らした。「その、手加減が。命取り、だのう。……この、ゲームで。甘い、やつから。消えて、いく」
……ぞくり。
私は。
闇の、中で。
背筋を。
凍らせた。
夜目の、男の、役割。
「殺さず、戦闘不能に」。
……なるほど。
だから。
彼は。
ドワーフを。
殺そうとは。
しなかった。
手加減、した。
その、甘さが。
命取りに。
なった。
◇
それから。
少しの、物音。
くぐもった、呻き。
そして。
……静寂。
夜目の、男の。
気配が。
消えた。
……脱落。
私は。
目隠しの、奥で。
ぎゅっと。
目を、つぶった。
(見えて、ないけど。
つぶった)
直接。
見た、わけじゃ、ない。
でも。
音だけで。
十分、だった。
何が、起きたか。
全部。
わかって、しまった。
ドワーフ。
酩酊の、能力者。
温厚を、装って。
その、実。
自分を、狙う者を。
冷静に。
罠に、かけて。
始末する。
……昼間。
私が。
「傷つけない、は、嘘」と。
見抜いた、通り。
この、ドワーフは。
危険だ。
◇
そして。
私は。
もう一つ。
気づいて、いた。
ドワーフの、能力には。
穴が、ある。
さっき。
ドワーフは。
「起きて、いる、みんな」を。
酩酊させた。
でも。
私を。
数え忘れた。
……つまり。
ドワーフの、酩酊は。
「認識した、相手」にしか。
効かない。
目の届く、範囲。
意識の、範囲。
その、外に、いる、者には。
かからない。
私が。
起きて、いられた、ように。
……これは。
使える。
いつか。
ドワーフと。
事を、構える、とき。
この、穴を。
突けば、いい。
(と、いっても。
具体的に。
どう、突くかは。
まだ。
何も。
考えて、いないけど。
まあ。
いつか。
協力者が。
いい感じに。
……いえ。
私が。
いい感じに。
考える)
◇
やがて。
ドワーフも。
自分の、寝床に。
戻って、いく、気配が、した。
満足げな。
息づかい。
一仕事、終えた、という。
……油断。
(……ふうん)
私は。
その、油断を。
心の、メモに。
刻んだ。
ドワーフは。
今夜の、仕事に。
手応えを、感じて、いる。
上手く、いった、と。
思って、いる。
……こういう、とき。
人は。
一番。
隙が。
できる。
覚えて、おきましょう。
――ドワーフ。
一仕事、終えて。
気が、緩んでいる。
◇
静寂が。
戻った。
眠りこけた、六人と。
満足して、まどろむ、ドワーフと。
拘束された、まま。
起きて、いる、私。
……九人から。
また、一人、減って。
八人。
私は。
闇の、中で。
一人。
ほくそ笑んだ。
見て。
ごらんなさい。
みんなが。
眠りこけて、いる、あいだに。
私は。
起きて。
すべてを。
聞いて、いた。
誰が。
誰を、狙い。
誰が。
どう、返り討ちに、したか。
ドワーフの、能力の。
正体も。
その、穴も。
全部。
私の、頭の中。
……ふふ。
これぞ。
情報の、独占。
盤面を、制する、者は。
情報を、制する、者。
つまり。
私。
◇
――でも。
このとき。
私は。
一つだけ。
見落として、いた。
いや。
見落として、いた、というのは。
正確じゃ、ない。
私は。
目隠しを。
されて、いた。
だから。
「見る」ことが。
そもそも。
できなかった。
私が。
「音」で。
すべてを、聞いて、いた、その、同じ、夜。
――もう一人。
「目」で。
すべてを、見て、いた者が。
いた、ことに。
眠らない、男。
酩酊すら、効かなかった、男。
部屋の、隅で。
一切の、感情を。
揺らさず。
ただ、静かに。
その、一部始終を。
捉えて、いた。
……夜目の、能力なんて。
ない、くせに。
この、闇の、中で。
まるで。
見えて、いるかのように。
気配の、ひとつ、ひとつを。
拾い上げて、いた。
――まるで。
そういうことに。
慣れきった。
者のように。
――私が。
勝手に。
「X」と。
名付けた。
あの、男が。
私は。
まだ。
気づいて、いない。
そして。
Xも。
気づいて、いない。
……この、夜。
同じ、事件を。
「聞いた、私」と。
「闇の、中で、捉えた、X」が。
いた、ことを。
互いに。
知らない、まま。
二人の。
目撃者が。
生まれて、いた、ことを。
(第6話 了)
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【 湊ミライの ゲーム攻略メモ 】
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・私の能力:感情の揺れがわかる。中身は不明。攻撃不可。
・私の役割:……なんか地味。よく読んでない。
・階段(数<力<技<支配<結束)。残り、いまや8人。
〔今回・夜の事件〕
・夜目の男(役割:殺さず戦闘不能に)がドワーフを夜襲
→ドワーフの酩酊の罠で返り討ち。脱落。
・ドワーフ=酩酊(麻痺)能力。温厚を装う危険人物・確定。
・ドワーフの穴:認識していない相手には酩酊がかからない。
(拘束され隅に忘れられた私は、眠らずに済んだ)
・ドワーフは今、一仕事終えて油断している。→隙。
・私は"音"で全部聞いた=情報を独占(と思っている)。
※でも、同じ夜、"目"で見ていた者がいる……(未察知)。
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