第5話 自己紹介という名の、尋問
「……なあ。あんたたち。……どこから、来たんだ?」
その、一言が。
きっかけ、だった。
目隠しの、奥で。
私は。
耳を、澄ませた。
……ふふ。
いいわよ。
その、調子。
もっと。
喋りなさい。
私は。
ここに、いる。
縛られて。
目隠しされて。
無害な、置物の、ふりを、して。
でも。
その、実。
あなたたち、全員の。
心の、揺れを。
一つ残らず。
読んで、いるの。
……知らぬは。
あなたたち、ばかり。
◇
最初に、答えたのは。
低い、しわがれた、声だった。
「わしは。……鉱山の、国から、来た。地の底で。鉄を、掘る。ドワーフの、里だ」
ドワーフ。
……ああ。
あの。
ずんぐりした、髭面の、男ね。
声で、わかる。
目隠し越しでも。
声の、低さと。
距離で。
だいたいの、位置は。
掴める。
私は。
その、声に。
意識を、集中した。
「鉱山の、国から、来た」。
……感情の、揺れは。
――ない。
本当のことを。
言って、いる。
少なくとも。
出身に、関しては。
嘘は。
ついて、いない。
(ふうん。
正直者ね。
まあ。
ドワーフって。
だいたい。
頑固で、正直、そうだし。
イメージ、通り。
……って。
いえ。
イメージで。
決めつけるのは。
三流の、やること。
私は。
一流。
ちゃんと。
データで。
見て、いる)
◇
でも。
ドワーフが。
次に。
言った、一言で。
……揺れた。
「わしは。……ただ。早く。家に、帰りたい、だけだ。争いごとは。……好かん。誰かを。傷つける、つもりは。ない」
――ぐらり。
感情が。
揺れた。
明確に。
「誰かを。傷つける、つもりは。ない」。
その、一言で。
ドワーフの、心が。
……揺れた。
(……ふうん)
私は。
目隠しの、奥で。
唇を。
ゆがめた。
面白い。
出身は。
正直に、言った。
でも。
「傷つける、つもりは、ない」は。
嘘。
つまり。
この、ドワーフ。
温厚な、ふりを、して。
……その、実。
誰かを、傷つける、気が。
ある。
いえ。
もう。
傷つける、算段を。
始めて、いる、のかも。
……こわい、こわい。
一番、無害そうな、顔の、奴が。
一番。
危ない。
デスゲームの。
定石ね。
(定石、なんて。
知らないけど。
なんか。
それっぽいこと。
言えた。
気持ちいい)
私は。
心の、メモ帳に。
書き込んだ。
――ドワーフ。
温厚を、装う、危険人物。
要、警戒。
◇
次に、喋ったのは。
ずっと。
おどおどして、いた。
あの、少年だった。
「ぼ、ぼくは。……薬師の。弟子、です。西の。……工房で。薬とか。……いろんな、ものを。溶かしたり。混ぜたり。する、修行を。……気づいたら。ここに、いて。ほんとに。何も。わからなくて」
声が。
震えて、いる。
……かわいそうに。
と。
一瞬。
思いかけて。
私は。
その、感傷を。
押し殺した。
感傷は。
判断を。
鈍らせる。
少年の、感情を。
読む。
「薬師の、弟子」。
――揺れない。
本当。
「何も、わからない」。
――……わずかに。
揺れた。
(……お?)
ほんの。
ごく、わずか。
でも。
確かに。
揺れた。
「何も、わからない」の、ところで。
……つまり。
この、少年。
何も、わからない、ふりを、して。
――何か。
わかって、いる。
自分の、能力か。
役割か。
あるいは。
その、両方か。
……気弱な、ふりも。
もしかしたら。
演技、かも、しれない。
いえ。
待って。
これは。
ちょっと。
弱い。
揺れが。
小さすぎる。
本当に、隠しごとが、あるのか。
それとも。
ただ。
混乱して、いる、だけなのか。
……保留。
少年は。
保留。
(でも。
心の、メモには。
小さく。
星印を。
つけて、おく。
――この子。
見た目、ほど。
単純じゃ、ないかも)
◇
それから。
何人かが。
ぽつり、ぽつりと。
喋った。
耳の、尖った。
エルフの、女は。
「森の、民」だと、名乗った。
――揺れなかった。
でも。
やたらと。
饒舌だった。
森の、美しさや。
自分が。
いかに。
平和を、愛して、いるかを。
ぺらぺらと。
語り続ける。
(……うるさい)
正直。
私は。
そう、思った。
(私が、言えた、ことじゃ、ないのは。
わかって、いる。
わかって、いるけど。
それとこれとは。
別)
でも。
この。
「やたら、喋る」というのが。
逆に。
引っかかった。
人は。
何かを。
隠したい、とき。
……たまに。
喋りすぎる。
沈黙が。
怖くて。
言葉で。
埋めようと、する。
このエルフ。
平和を、愛する、森の、民。
――にしては。
ちょっと。
喋りすぎ、じゃ、ない?
私は。
心の、メモに。
書き足した。
――エルフ。
饒舌すぎる。
何か、隠してる、可能性。
(※ただし、うるさいだけの、可能性も、あり)
◇
そして。
一人だけ。
最後まで。
何も。
喋らない、男が。
いた。
気配で。
わかる。
部屋の、隅。
壁に、もたれて。
じっと。
動かず。
息だけ、して、いる。
誰かが。
「あんたは?」と。
話を、振っても。
「……別に」と。
短く、返す、だけ。
(……この、男)
私は。
意識を。
その、男に。
向けた。
感情を。
読もうと、した。
……でも。
――読めない。
いや。
正確には。
揺れが。
ない。
まったく。
ない。
平坦。
のっぺりと。
静か。
まるで。
凪いだ、水面のように。
何を、言われても。
何を、聞いても。
心が。
……動かない。
これは。
……こわい。
嘘を、つく、奴は。
揺れる。
隠しごとの、ある、奴も。
揺れる。
でも。
この、男は。
揺れ、ない。
それは。
二つの、意味の。
どちらか、だ。
一つ。
本当に。
何も、隠して、いない。
純粋な。
無。
もう、一つ。
――隠しごとを。
隠しごととも。
思わないほど。
冷静で。
心を。
完全に。
制御して、いる。
……たぶん。
後者。
私は。
目隠しの、奥で。
ぞくり、と。
した。
心の、メモに。
一番、大きな、字で。
書き込む。
――無口の、男。
一番。
危険。
(仮に。
「X」と。
呼んで、おこう。
なんか。
それっぽくて。
かっこいいし)
◇
……ふう。
会話は。
続いて、いる。
でも。
だいたい。
見えて、きた。
私は。
目隠しの、闇の、中で。
一人。
得意げに。
総括した。
ドワーフ。
温厚を、装う、危険人物。
少年。
気弱を、装う、保留枠。星印。
エルフ。
饒舌すぎる、要注意(※ただ、うるさいだけかも)。
X。
心を、読ませない、最大の、危険。
……その他。
数名。
まだ。
決め手に、欠ける。
そして。
――協力者。
フードの、彼女。
彼女だけは。
会話に。
ほとんど。
加わらない。
短く。
相槌を、打つ、程度。
その、感情も。
……あまり。
揺れない。
X、ほどでは、ないけれど。
落ち着いて、いる。
(……ま。
この人は。
いい。
読む、必要が、ない。
……いえ。
一度は。
癖で。
読もうと、した。
でも。
すぐ。
やめた。
なんとなく。
この、協力者を。
探るのは。
気が、進まなかった。
……それに。
味方の、腹を。
わざわざ、探るのは。
野暮、というものだ。
うん。
そういう、ことに、しておく)
◇
私は。
目隠しの、奥で。
満足げに。
微笑んだ。
見なさい。
この、私を。
縛られて。
目隠しされて。
傍から、見れば。
惨めな、捕虜。
でも。
その、実。
私は。
座って、いる、だけで。
この、部屋の。
全員の、腹の底を。
読み切った。
誰が。
危険で。
誰が。
嘘つきで。
誰を。
泳がせ。
誰を。
潰すべきか。
……すべて。
私の。
手のひらの上。
(――もっとも。
この、情報収集の、舞台、そのものを。
お膳立てしたのが。
隣の、協力者だ、ということは。
相変わらず。
きれいに。
忘れて、いる)
さあ。
材料は。
揃った。
あとは。
この、駒たちを。
どう。
動かして。
どう。
潰し合わせるか。
……ふふ。
楽しく、なってきた。
私の。
ゲームが。
ここから。
本当に。
始まる。
――そう。
思って、いた、矢先に。
その、夜。
最初の、事件が。
起きた。
(第5話 了)
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【 湊ミライの ゲーム攻略メモ 】
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・私の能力:感情の揺れがわかる(嘘・隠し事)。中身は不明。
・私の役割:……なんか地味。よく読んでない。
〔今回の見立て・要人物メモ〕
・ドワーフ … 出身は正直。だが「傷つけない」で揺れた。
=温厚を装う危険人物。要警戒。
・少年 … 「何もわからない」で微かに揺れた。保留(星印)。
見た目ほど単純ではないかも。
・エルフ … 饒舌すぎる。隠し事の可能性(or ただ煩い)。
・無口の男(=仮称「X」)… 感情がまるで揺れない。
=心を完全に制御。最大の危険。
・協力者 … 味方。読むのはためらった(理由は不明)。
・材料は揃った。あとは潰し合わせるだけ(と思っている)。
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