第3話 愚かな一手
命令の、男が。
部屋の、中央に、立って。
場は。
完全に。
膠着して、いた。
誰も。
動けない。
声の、届く、距離に、入れば。
「動くな」の、一言で。
終わり。
だから。
残った、九人は。
じりじりと。
壁際に。
貼りついて。
息を、殺して、いる。
……この、均衡。
一見。
命令の、男が。
圧倒的に、有利に。
見える。
でも。
違う。
私には。
見えて、いた。
――彼こそが。
今。
一番。
追い詰められて、いる、ことを。
◇
なぜか。
命令の、能力は。
強い。
でも。
弱点が、ある。
一度に。
命令、できるのは。
――たぶん。
一人。
さっきから。
彼は。
一人ずつ、しか。
縛って、いない。
つまり。
もし。
九人が。
一斉に。
襲いかかれば?
一人を、命令で、止めても。
残りの、八人が。
押し寄せる。
数で。
押し切られる。
――命令の、男も。
それを。
わかって、いる。
だから。
誰も。
「最初の、一人」に。
なりたがらない、状況を。
必死で。
維持して、いる。
「動いたら、お前を、真っ先に、縛るぞ」と。
全員を。
睨んで。
牽制して。
……そう。
これは。
チキンレース。
誰かが。
口火を、切れば。
崩れる。
でも。
最初に、動いた、者が。
一番。
危ない。
(……ふふ)
私は。
壁際で。
そっと。
微笑んだ。
なら。
その、口火を。
切って、あげましょう。
――私、以外の、誰かに。
切らせる、形で。
◇
……と。
ここで。
話を。
少しだけ。
巻き戻さないと、いけない。
実は。
この、膠着の、さなか。
私は。
一つ。
仕込みを。
して、いた。
さっき。
分身だの、怪力だの、が。
暴れて。
部屋が。
混乱して、いた、とき。
その、どさくさに、紛れて。
私に。
そっと。
声を、かけてきた者が。
いたのだ。
――「ねえ、あなた」
隣に。
いつの間にか。
一人の、人影が。
立って、いた。
顔は。
フードの、影で。
よく。
見えない。
ただ。
落ち着いた。
低めの。
女の、声だった。
「あなた、自信、ありそうね」
……ふうん。
面白いことを、言う。
私は。
フードの、人影を。
横目で。
見た。
顔は。
見えない。
声だけ。
落ち着いた。
低めの。
女の、声。
……なぜだろう。
この、殺し合いの、部屋で。
見ず知らずの、はずの。
この、声に。
私は。
妙に。
警戒を。
覚え、なかった。
(まあ。
私の、勘が。
「こいつは、大丈夫だ」と。
言っている。
私の、勘は。
よく、当たる。
天才の、勘だもの)
だから。
私は。
澄まして。
応じた。
「……自信? ええ。あるわよ。当然でしょう」
◇
「二人で、組まない?」協力者は、言った。「この、ゲーム。一人より、二人の、ほうが。生き残りやすい」
……ふうん。
この人が。
そう、言うなら。
何か。
考えが、あるのでしょう。
むやみに、動くような。
軽い、感じは。
しない。
動くときは。
きっと。
勝算が、ある。
……そういう、気配が。
する。
私は。
迷わ、なかった。
だって。
この、閉鎖空間で。
なぜか。
この、人影だけは。
「信用できる」と。
そう。
思えたから。
敵だらけの。
盤面で。
ただ一つの。
味方。
――もっとも。
それを。
素直に。
顔に、出すほど。
私は。
可愛げが。
ない。
「……いいわ」私は、澄まして、囁き返した。「組んで、あげる。で? 何を、して、ほしいの」
フードの、人影は。
少しだけ。
笑った、気がした。
「難しいことは、しなくて、いい。……ただ。あなたが、合図を、したら。それに、合わせて、私が、動く。それだけ」
◇
(――と、いうのが。
ついさっきの、こと)
話を。
戻そう。
命令の、男を、中心に。
場は。
膠着して、いる。
誰も。
最初の、一人に。
なりたがらない。
……なら。
私が、なる。
いや。
正確には。
私が。
「なった、ふり」を、する。
私は。
深く、息を、吸って。
それから。
わざと。
声を、荒げた。
「――もう、いや! こんなの、耐えられない!」
全員の、視線が。
私に、集まる。
命令の、男の、視線も。
「あなたのせいで! みんな! 動けないじゃない!」
私は。
叫びながら。
命令の、男に。
向かって。
ふらふらと。
歩き出した。
(――今から、私が、やるのは。
一見。
世界一。
愚かな、行動だ)
◇
「……止まれ」
命令の、男が。
冷たく、言った。
その、瞬間。
私の、足が。
びたり、と。
止まる。
……ああ。
やっぱり。
縛られた。
身体が。
言うことを。
聞かない。
まるで。
全身が。
石に、なったみたいに。
命令の、男は。
縛られた、私を、見て。
ふん、と。
鼻を、鳴らした。
「馬鹿な、女だ。……一人で、突っかかって、くるなんて」
……そう。
一人で、突っかかる、なんて。
愚かの、極み。
命令、一つで。
硬直させられて。
あとは。
なぶり殺しに、される、だけ。
誰が、見ても。
そう、思う。
――でも。
私は。
硬直した、まま。
縛られた、まま。
……にやり、と。
笑った。
◇
「――なに、笑って」
命令の、男の、顔に。
初めて。
動揺が、走った。
なぜ。
縛られた、獲物が。
笑って、いる?
その、疑問に。
答える、義理は。
ない。
だって。
答えは。
もう。
動き出して、いるから。
私が。
命令の、男に。
突っかかった、その、瞬間。
男の、意識と、命令は。
完全に。
私、一人に。
向いた。
「動くな」は。
私に、使われた。
――つまり。
今。
この、瞬間だけ。
男の、命令は。
「塞がって」いる。
他の、誰も。
縛れない。
これが。
合図だ。
◇
部屋の、隅で。
フードの、人影が。
動いた。
誰にも。
命じられて、いない。
誰にも。
止められて、いない。
その、人影は。
すっと。
手を、上げて。
――残った、七人に、向かって。
よく通る、声で。
叫んだ。
「今よ! あいつは、一人しか、縛れない! 今なら、みんなで、囲める!」
その、一言が。
均衡を。
打ち砕いた。
……そう。
誰も。
「最初の、一人」に。
なりたくなかった。
でも。
「最初の、一人」は。
もう。
いる。
私だ。
私が。
囮に、なって。
命令を。
引き受けた。
なら。
残りは。
ノーリスク。
今、動けば。
誰も、縛られない。
「――やれ!」
誰かが、叫んだ。
そして。
七人が。
一斉に。
命令の、男に。
殺到した。
◇
「ま、待て……! 動くな! 動くな!」
命令の、男が。
必死で、叫ぶ。
一人が。
びくりと、止まる。
でも。
一人しか。
止まらない。
残りの、六人が。
押し寄せる。
「止まれ! お前だ! ――くそ、そっちじゃ……!」
一人を、縛れば。
別の、五人が。
迫る。
命令を。
誰に、使うか。
迷った、瞬間。
もう。
手遅れ、だった。
六人の、手が。
命令の、男に。
届く。
……あとは。
見なくても。
わかる。
支配の、能力も。
数の、前には。
無力だった。
一人ずつ、しか。
縛れない、以上。
束に、なって、来られたら。
終わり。
――技は、支配に、負けた。
そして。
支配は。
……結束に、負けた。
命令の、男は。
白い、床に。
沈んだ。
◇
その、瞬間。
私を、縛って、いた。
「動くな」の、命令が。
ふっ、と。
解けた。
命令した、本人が。
脱落したから、だ。
私は。
かくん、と。
膝を、つきかけて。
慌てて。
踏みとどまった。
……ふう。
危なかった。
(実を言うと。
縛られて、いる、あいだ。
内心。
めちゃくちゃ。
怖かった。
もし。
あの、人影が。
合図に、応えて、くれなかったら。
私。
本当に。
なぶり殺しに、されて、いた。
……でも。
そんなことは。
おくびにも。
出さない)
◇
私は。
ゆっくりと。
立ち上がって。
髪を、かき上げた。
四人。
分身。
怪力。
かまいたち。
そして。
命令。
四人が。
脱落した。
残るは。
私を、含めて。
九人。
……そして。
今。
この、瞬間。
部屋の、空気が。
明らかに。
変わって、いた。
誰もが。
私を。
見て、いる。
さっきまでは。
「弱そうな、女」と。
見下して、いた、視線が。
今は。
――警戒に。
変わって、いる。
だって。
そう、見えたはず、だから。
あの、膠着を。
破ったのは。
私だ。
私が。
囮に、なって。
命令の、男を。
引きずり下ろした。
いや。
もっと、言えば。
私の、「合図」で。
あの、人影が、動き。
全員が、動いた。
……つまり。
この、盤面を。
動かしたのは。
――私。
◇
(ふふ。
ふふふ)
私は。
こみ上げる、笑いを。
必死で。
抑えた。
見て。
見て、ごらんなさい。
この、私を。
武器も。
力も。
持たない、私が。
頭、一つで。
屈強な、能力者を。
屠って、みせた。
これが。
これこそが。
盤面を、支配する、ということ。
神の、視点から。
駒を、動かす、ということ。
……ああ。
気持ちいい。
最高に。
気持ちいい。
(――ちなみに。
この、盤面を。
本当の、意味で。
動かしたのが。
私では、なく。
あの、フードの、人影の、ほうだった、なんて。
このときの、私は。
みじんも。
思って、いない。
私は。
心の底から。
「自分が、やった」と。
信じて、いた)
◇
私は。
部屋の、隅を。
ちらりと。
見た。
フードの、人影が。
そこに、いた。
私と、目が。
合うと。
……ほんの、少しだけ。
頷いた、気が、した。
上手く、いったわね、と。
言うように。
私も。
小さく。
頷き返す。
(……いい、相棒だわ。
私の、指示に。
きちんと、応えて。
いい仕事を、した。
……ん?
いえ。
待って。
「私の、指示」?
……そう、よね。
私が、合図を、して。
この人が、動いた。
私が、主で。
この人が、従。
うん。
そう。
そういうこと。
そういうことに、しておく)
私は。
その。
かすかな。
引っかかりを。
いつもの、ように。
都合よく。
押し流した。
◇
こうして。
私は。
盤面の、主導権を。
(握ったと、思い込みながら)
手に、入れた。
屈強な、能力者たちが。
消え。
残った、九人は。
これから。
もっと。
静かで。
もっと。
陰湿な。
――情報と、心理の、戦いに。
入って、いく。
そして。
それは。
私の。
独壇場。
……のはず、だった。
――もっとも。
その、静かな、戦いの、なかで。
私と、手を、組んだ。
あの、協力者が。
この、ゲームで。
いったい。
「何を、狙って」いるのか。
どんな、役割を。
背負って、いるのか。
それを、知るのは。
まだ。
ずっと。
先の、話だ。
(第3話 了)
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【 湊ミライの ゲーム攻略メモ 】
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・クリア条件=①最後まで生き残る ②役割を達成する。
・重要ルール:物理攻撃が最も弱い。
・私の能力:他人の感情の揺れがわかるだけ。攻撃不可。
・私の役割:……なんか地味。よく読んでない。
・強さの序列は"相性"で決まる(階段)。
数<力<技<支配<結束(数の力)。
〔今回〕
・命令(支配)を撃退:私が囮で命令を引き受け→
協力者の号令で全員一斉→一人しか縛れず崩壊。
・脱落4人(分身・怪力・かまいたち・命令)。残り9人。
・私は盤面の主導権を握った(=と、思っている)。
・協力者(フードの人影)を得た。目的も正体も不明。
なぜ最弱の私を選んだ? ……何か価値を見ている。




