第13話 友達だもんね
「……何を、企んでいる」
X、が、もう一度、低く、言った。
その、声には。
さっきまでの、絶対的な、余裕が。
……ほんの、少しだけ、欠けて、いた。
(……そう。揺れて、いる。
X、の、心が、わずかに、揺れて、いる)
私は、それを、感じ取って、いた。
感情の、差分。私の、唯一の、力。
中身は、わからない。
でも「今、こいつの、心が、動いた」ことだけは、手に取るように、わかる。
◇
X、は、勝った、はずだった。
コピー能力者だと、睨んだ、協力者を。
すれ違いざまに、仕留めた。
残るは、戦えない、私と、怯える、少年、だけ。
……なのに、その、私が。
折れも、せず、逃げも、せず。
不敵に、笑って、いる。
だから、X、は、揺れた。
「何か、見落として、いる、のでは、ないか」と。
……ふふ。いいわ。
その、綻び。その、迷い。
それが、あなたの、最後の、隙。
◇
「企んでる、のは……私じゃ、ないわ」
私は、言った。
「私は……ただの、変態、だもの。あなたが、そう、言ったんじゃ、ない」
「……何が、言いたい」
「企んでいたのは……ずっと、私じゃ、なくて」
私は、ゆっくりと、視線を。
床に、倒れた、協力者へと、移した。
「――その、人よ」
◇
その、瞬間。
倒れて、いた、はずの。
協力者の、身体が。
……ぼう、と、淡く、光った。
X、の、目が、見開かれる。
「……馬鹿な」
その、光は、見覚えの、ある、光だった。
昨夜、リーダー格が、一度、死んで、蘇った、ときの。
……あの、光。
「――蘇り、だと……!?」
協力者の、胸が、再び、上下し、始める。
そして、ゆっくりと、その、身体が、起き上がった。
◇
「……なぜ、だ」
X、の、声が。
初めて、動揺で、掠れた。
「蘇りは……リーダー格の、能力だ。あいつは、もう、死んだ。能力者が、死ねば、能力も……消える、はず」
「消えないのよ」
起き上がった、協力者が、静かに、言った。
「一度、"見て"、盗んだ、能力は。……元の、持ち主が、死んでも。一度だけ、使える。……あなたが、リーダー格を、二度、殺した、あの、夜。私は……蘇りの、瞬間を。この、目で、見て、いたの」
◇
(……そう)
私は、心の中で、頷いた。
あの、夜。
X、が、リーダー格を、二度、殺した、とき。
闇の、中で、それを、見て、いたのは。
私、だけじゃ、なかった。
協力者も、起きて、いた。
そして、リーダー格が「蘇る、瞬間」を。
……しっかりと、その、目に、焼き付けて、いた。
X、が、蘇りを、警戒して「二度、殺す」ことに、こだわった。
その、こだわりが。
皮肉にも、協力者に、蘇りを"見せる"ことに、なった。
◇
「……いつ、から」
X、が、呻いた。
「いつから……お前たちは……組んで、いた」
――お前、たち。
その、言葉で、X、は、ようやく、気づいた。
私と、協力者が。
……最初から、一つの、チーム、だった、ことに。
「最初から、よ」
私は、答えた。
「あなたが、私を"ただの、変態"だと、切り捨てた、その、ときから。……いえ、もっと、前。この、ゲームが、始まった、ときから。……ずっと」
◇
X、の、顔が、歪んだ。
「……そんな、はずは。……お前は、ただの、撹乱要員だ。盤面を、動かして、いたのは……この、女の、方、だろう。お前は、ただ……くだらないことを、喚いて、いた、だけだ」
「そう。私は、くだらないことを、喚いて、いただけ」
私は、あっさりと、認めた。
「でもね……その"くだらないこと"に、あなたは、まんまと、気を、取られた。私を、警戒するのに、忙しくて。……その、隣で。本当に、恐ろしい、人が。静かに、あなたを、観察していたことに。……気づけ、なかった」
◇
X、は、理解し、始めて、いた。
自分が、何を、見誤ったのかを。
――ミライを、警戒し、切り捨て「黒幕は、別に、いる」と、睨んだ。
その、読みは、半分、正しかった。
本当に、盤面を、動かして、いたのは、協力者。
でも、X、は、その、二人が「チーム」だとは、思わ、なかった。
ミライを、あまりに、くだらない、変態だと、侮った、から。
「あんな、女と、あの、恐ろしい、黒幕が、組んで、いる、はずが、ない」と。
……その、油断が、命取りに、なった。
◇
「……まだ、だ」
X、が、低く、唸った。
「蘇りを、盗んだ、ところで……それは、生き返る、だけの、力。攻撃には、ならん。俺を……殺せは、しない」
その、通り、だった。
蘇りは、死から、蘇る、力。それ、だけ。
X、を、倒す、力じゃ、ない。
……でも。
「ええ。蘇りだけ、なら……そうね」
協力者が、静かに、言った。
「でも。私が、盗んだ、能力は……蘇りだけだと、誰が、言ったの?」
◇
その、瞬間。
協力者の、手が、すっ、と、上がった。
X、に、向かって。
――至近距離、から。
「……かまいたち」
空気が、鳴いた。
かつて、あの、ひょろりとした、女が。
怪力の、男を、一瞬で、切り裂いた。
あの、風の、刃。
……それが、今、至近距離、から、X、に、放たれた。
◇
「――!!」
X、が、とっさに、身を、よじった。
三十年、鍛えた、暗殺者の、反射神経。
……致命傷は、避けた。
でも、至近距離の、風の刃は。
X、の、脇腹を、深く、抉って、いた。
X、が、膝を、つく。
初めて、その、身体から、血が、流れた。
「……なぜ。……かまいたちの、女は……とっくに、死んだ、はず」
「ええ。死んだわ」協力者は、言った。「でも。その、能力が、使われる、ところを。……私は、ずっと、前に、見て、いた。だから……盗めた」
◇
(……そう)
私は、拳を、握った。
協力者の、能力。――模倣。
一度、"見た"能力を、盗んで、使う。
かまいたちの、風の、刃も。
リーダー格の、蘇りも。
……少年の、繊維溶かしも。
(あの"溶けろ服よ"の、ときの、あれ)
全部、協力者が、見て、盗んで、溜め込んで、いた。
X、は「コピーは、発動を、見なければ、使えない」ことを、見抜いて、いた。
でも、X、が、見落として、いたのは。
――協力者が、このゲームの、あいだ、ずっと。
誰よりも、静かに。
誰よりも、多くの、能力の、発動を「見て」きた、という、事実、だった。
◇
「……なぜ」
膝を、ついた、X、が、呻いた。
「なぜ……この、タイミングで。……お前は、死んだ、ふりを、して。そして……この、女は。まるで……お前が、いつ、起き上がるか。……最初から、知って、いた、みたいに、動いた」
……ああ。それは。
私と、協力者の。――呼吸。
「……だって」
私は、微笑んだ。
ずっと、言いたかった。この、一言を。
このゲームが、始まって、から、ずっと。
気づかない、ふりを、して。
「協力者」と、他人行儀に、呼び続けて、きた。
その、名前を。
……今、ようやく、呼べる。
「私たち。……友達だもんね。――ね、いおきべさん」
◇
その、瞬間。
倒れて、いた、はずの、女が。
ゆっくりと、フードを、外した。
現れたのは。
ふっくらとした、丸顔に。
きれいに、切り揃えた、ボブの、髪。
……こんな、殺伐とした、場所には。
似つかわしくないほど。
――可愛らしい、面立ち。
その、女――五百旗頭は。
私を、見て、ふっ、と、息を、こぼした。
「……ばれちゃ、いましたか」
そして、口元に。
ふわりと、柔らかい、笑みを、浮かべて。
「ではでは。……種明かし、と、いきましょうか」
◇
――ではでは。
その、口癖を、聞いた、瞬間。
私の、胸が。
……熱く、なった。
ずっと、このゲームの、あいだ。
五百旗頭は、その、口癖を、一度も、使わなかった。
「協力者」に、徹して、自分を、消して、いた。
……全部、X、を、油断させる、ため。
そして、私と、五百旗頭の、関係を。
X、に、悟らせない、ため。
(……相変わらず、用意周到、なんだから)
◇
「私と、ミライは」五百旗頭が、静かに、語り、始めた。「……同じ、学校の、同級生。転生する、前から、ずっと、一緒に。……くだらない、ゲームを、飽きるほど、やって、きました」
X、は、呆然と、それを、聞いて、いた。
「だから、私には……ミライの、癖が、手に取るように、わかる。この子が、いつ、何を、企むか。……どんな、突飛なことを、しても。私は、その、意図を、読める。……逆も、また、然り」
五百旗頭は、私を、見た。
「ミライが、あなたの、心の、揺れを、読んで、私に、伝える。私が、それに、合わせて、動く。……私たちは、示し合わせる、必要すら、なかった。……だって。もう、何百回も、やってきた、こと、だから」
◇
……ああ。そう、だった。
私は、思い出して、いた。
転生する、前。
あの、学校の、放課後の、図書室。
私と、五百旗頭は。
いつも、くだらない、ゲームを、して、いた。
心理戦の、ゲーム。相手の、考えを、読み合う、ゲーム。
……私は、いつも、得意げに「盤面を、支配した」と、息巻いて。
五百旗頭は、その、隣で、静かに、笑って。
……いつも、最後には、なぜか、上手く、いって、いた。
(……そう、か。あのときも。
上手く、いって、いたのは。……私の、おかげ、じゃ、なくて)
……いえ。
(……私の、おかげ、よ。うん。そう。そういうことに、しておく)
◇
「……ミライ、から、しかけたことなんて」五百旗頭が、くすり、と、笑った。「……一度も、ない、んですけどね」
「ちょ、ちょっと」私は、慌てた。「い、今、それ、言う?」
「事実、でしょう?」
「事実だけど! ……雰囲気! 雰囲気ってものが……!」
――こんな、ときに。
私たちは、いつもの、調子で、言い合って、いた。
デスゲームの、決戦の、真っ最中だと、いうのに。
まるで、あの、図書室の、放課後の、ように。
◇
X、は、膝を、ついた、まま。
その、光景を、見て、いた。
……そして、静かに、笑った。
「……そう、か。……道理で、読めない、はずだ。俺は……一人ずつ、個人を、読んで、いた。だが……お前たちは……二人で、一つ、だった」
「そういうこと」私は、胸を、張った。「あなたは、強かった。三十年の、暗殺の、技。……正直、私一人じゃ、何も、できなかった。でも……私は、一人じゃ、なかった。それだけ」
X、の、身体から、力が、抜けて、いく。
「……見事だ。……俺の、負けだ」
そう、呟いて。
三十年の、暗殺者は。
……静かに、その、目を、閉じた。
◇
白い、部屋に、静寂が、戻った。
私と、五百旗頭と。
そして、隅で、ずっと、震えて、いた、少年。
……三人が、残った。
私は、大きく、息を、吐いた。
……勝った。あの、化け物に、勝った。
(……いえ。正確には、五百旗頭が、勝った、のだけど。
……でも、まあ。私が、心の、揺れを、読んだ、から、勝てた、わけで。
……うん。私の、おかげ。私の、おかげ、よ)
相変わらず、私は。
都合よく、記憶を、塗り替えながら。
それでも、心の、底から。
……ほっと、して、いた。
◇
「……ふう」五百旗頭が、髪を、かき上げた。「これで……終わり、ですね」
「ええ。……終わったわ」私は、頷いた。「私たちの……勝ちよ」
――と、そのとき。
「……あの」
隅から、おずおずと、声が、した。
ずっと、忘れられて、いた、気弱な、少年が。
小さく、手を、挙げて、言った。
「……まだ。……僕が、いるんですけど」
……あ。
私と、五百旗頭は、顔を、見合わせた。
……そう、いえば、いた。
(第13話 了)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【 湊ミライの ゲーム攻略メモ 】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・私の能力:感情の揺れがわかる。中身は不明。攻撃不可。
・私の役割:……なんか地味。よく読んでない。
〔今回・決戦〕
・協力者=五百旗頭伊織だった! 私の旧友。
(丸顔ボブ・思わず見とれる可愛らしさ/口癖「ではでは」)
・協力者は"蘇り"(リーダー格)と"かまいたち"を目撃コピー
済み。死んだふり→蘇り→至近かまいたちでXを討つ。
・私がXの心の揺れを読み、五百旗頭が動く。図書室で
何百回もやった呼吸。示し合わせる必要すらなかった。
・Xの敗因:私と五百旗頭が"チーム"だと気づけなかった。
・Xを倒して残り3人……と思ったら「まだ僕がいる」(少年)。
・(※勝ったのは五百旗頭。でも私のおかげ、ということに)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




