第12話 すれ違いざまの一撃
リーダー格が、消えて。
残ったのは、四人。
私。
協力者。
X。
そして、気弱な、少年。
……この、うち。
本当の、意味で「戦える」のは。
もう、X、一人、だけだった。
少年は、怯えて、隅で、震えて、いる。
私は……そもそも、戦えない。
感情が、読めるだけ。
そして、協力者は。
……フードの、奥で。
静かに、X、を、見て、いた。
◇
X、は。
もう、隠れなかった。
白い、部屋の、中央に、立って。
残った、三人を、順に、見回す。
その、目には。
……値踏みするような、色が、あった。
「……そろそろ、決着を、つけよう」
X、が、口を、開いた。
低く、平坦な、声。
「この、ゲームで。俺の、邪魔に、なるのは。……誰かの、能力を、盗む、奴だ。リーダー格を、殺したとき。妙なことが、あった。……あいつは、一度、死んで、蘇った。その、瞬間を。……誰かが、見ていた、はずだ」
……ぞくり。
私は。
息を、呑んだ。
(この、男。
気づいて、いる。
誰かが。
蘇りを、見ていた、ことに)
◇
「盗む、能力は。……厄介だ」X、は、続けた。「一度、見た、能力を。自分の、ものに、できる。……リーダー格の、蘇りも、盗まれて、いるかも、しれん。だから。……先に、潰す」
その、視線が。
ゆっくりと。
――協力者に。
向いた。
「お前だ」X、は、言った。「ずっと、フードで、顔を、隠して。前にも、出ず。目立たず。……その、立ち回りが。かえって、怪しい。お前が、"盗む"側、だろう」
……。
私は。
心臓が。
跳ねた。
(見抜かれた。
協力者が。
コピー能力者、だと)
◇
でも。
X、は。
まだ。
半分しか。
見抜いて、いなかった。
(……そう。
X、は。
協力者が。
コピー能力を、持つ、ことは。
見抜いた。
でも。
その、協力者が。
私と、「組んで」いる、ことは。
見抜いて、いない。
私を。
「ただの、変態」と。
切り捨てた、から。
私と、協力者を。
別々の、存在だと。
思って、いる)
だから。
X、の、狙いは。
協力者、一人に。
絞られた。
私は。
眼中に、ない。
(それが。
幸運なのか。
不運なのか。
このときは。
わからなかった)
◇
「……待って」
協力者が。
静かに。
口を、開いた。
「私が、"盗む"側だと。……なぜ、言い切れるの」
「言い切れる」X、は。
即答した。「お前の、立ち回りは。……見て、盗む、奴の、動きだ。前に、出ず。観察に、徹する。他人の、能力を、見極めて、いる。……俺には、わかる。同じ、"見る"側の、人間、だからな」
……ああ。
私は。
内心。
唸った。
X、の、洞察は。
鋭い。
協力者の、本質を。
半分。
言い当てて、いる。
(でも。
半分。
だけ)
◇
X、は。
一歩。
協力者に。
近づいた。
「お前の、能力が。……"盗む"ものなら。厄介だ。だが。……一つ、弱点が、ある」
「……弱点?」
「盗んだ、能力を、使うには。……発動を、"見る"必要が、あるはずだ。だが。俺の、力は。……能力じゃ、ない」
X、の、声が。
ぞっとするほど。
冷たく、なった。
「俺のは。……技だ。三十年、鍛えた。暗殺の、技。……見ても。盗めない。真似も、できない。……お前の、コピーは。俺には。効かない」
◇
(三十年……!?)
私は。
慄然と、した。
X、は。
暗殺者、だった。
それも。
三十年。
技を、磨いた。
本物の。
……この、デスゲームで。
ずっと。
「その他大勢」の、ふりを、して。
気配を、消し。
目立たず。
……そうやって。
一人ずつ。
静かに。
消して、きた。
「……お前の、能力が。何を、盗んで、いようと」X、は。
冷たく、言い放った。「俺を、殺す、能力だけは。……盗めない。なぜなら。俺を、殺すのは。能力、じゃ、ない、から、だ」
そして。
X、は。
協力者を。
まっすぐ。
見据えた。
「お前は。……十代の、小娘だ。フィジカルで、押せば。……勝てる。能力を、使う、暇も、与えない」
◇
(……まずい)
私は。
動けなかった。
X、が。
協力者を。
殺そうと、して、いる。
止め、なきゃ。
でも。
どうやって?
私は。
戦えない。
声を、上げても。
X、は、止まらない。
むしろ。
私まで。
標的に、なる。
……打たれ弱い、私は。
恐怖で。
身体が。
竦んで。
一歩も。
動けなかった。
(協力者……!)
心の中で。
叫ぶ、ことしか。
できなかった。
◇
X、が。
動いた。
――いや。
「動いた」という、言葉は。
正しく、ない。
X、は。
ふと。
気を、抜いた、ように。
立ち上がって。
協力者の、横を。
……ただ。
通り過ぎよう、と、した。
まるで。
何気ない、仕草で。
すれ違う、だけ。
のように。
でも。
その、すれ違いざま。
X、の、手が。
――一閃。
何が、起きたのか。
私には。
やっぱり。
見え、なかった。
ただ。
X、が。
協力者の、横を。
通り過ぎた、あと。
協力者の、身体が。
……ぐらり、と。
傾いで。
そのまま。
白い、床に。
崩れ落ちた。
◇
「――!!」
声に、ならない、悲鳴が。
私の、喉から。
漏れた。
協力者が。
倒れて、いる。
フードが。
わずかに。
ずれて。
でも。
その、顔は。
まだ。
影に。
隠れて、いた。
……動か、ない。
ぴくりとも。
動か、ない。
(……嘘。
嘘、でしょう。
協力者が。
……殺された?)
私の、頭が。
真っ白に。
なった。
ずっと。
私を。
支えて、くれた。
ずっと。
私の、隣に、いた。
唯一の。
味方が。
……たった、一瞬で。
消えた。
◇
「……これで」
X、が。
ゆっくりと。
振り返った。
「コピー能力者は。……消えた。もう。俺の、邪魔を、できる、奴は。……いない」
X、は。
勝ち誇った、風でも、なかった。
ただ。
淡々と。
事実を。
確認する、ように。
語り、始めた。
「……長い、ゲームだった。俺は。ずっと。"その他大勢"を、演じてきた。目立たず。喋らず。……誰の、記憶にも、残らない、ように。そうやって。一人ずつ。……始末して、きた」
ペラペラと。
X、は。
語る。
自分が。
いかに。
優れた。
暗殺者、であるかを。
いかに。
巧妙に。
この、ゲームを。
泳いで、きたかを。
◇
……ああ。
私は。
崩れ落ちそうな。
心を。
必死で。
支えながら。
それでも。
一つの、ことに。
気づいて、いた。
X、が。
喋って、いる。
勝利を、確信して。
饒舌に。
語って、いる。
(……これ。
フラグ、だわ)
私は。
打たれ弱い。
臆病だ。
協力者を、失って。
心は。
折れる、寸前。
でも。
……こういう、とき。
妙な、ことに。
頭の、片隅だけが。
冷静だった。
デスゲームで。
勝利を、確信した、奴が。
ペラペラと。
自分語りを、始める。
……それは。
だいたい。
ひっくり返る。
相場が。
決まって、いる。
◇
だから。
私は。
震える、声で。
でも。
はっきりと。
言った。
「……いま、それ。フラグですよ」
X、が。
ぴたり、と。
語りを、止めた。
「……何?」
「フラグ、ですよ」私は、繰り返した。「勝った、勝ったって。ベラベラ、喋りだすやつ。……だいたい。このあと。ひっくり返るんです。物語の、お約束」
「……何を、言っている」
X、は。
怪訝な顔で。
私を、見た。
……そう。
X、の、目には。
私は。
まだ。
「ただの、変態」。
協力者を、殺されて。
やけくそに。
意味不明なことを、口走って、いる。
哀れな、女。
そう。
見えて、いる。
◇
(……いいわ。
そう、思って、いなさい)
私は。
折れそうな、心を。
ぐっと。
奮い立たせた。
なぜ。
私が。
こんな、絶望的な、状況で。
「フラグ」なんて。
軽口を。
叩けるのか。
……理由は。
一つ。
私は。
まだ。
諦めて、いなかった。
だって。
……私の、隣に、いた、あの、協力者が。
みすみす。
何の、手も、打たずに。
殺される、なんて。
……そんな、こと。
ある、はずが、ない。
だって。
あの、人は。
……いや。
その、先を。
私は。
まだ。
口には。
しない。
心の中でも。
言わない。
ただ。
静かに。
待つ。
その、ときを。
「……何を、企んでいる」
X、が。
かすかに。
眉を、寄せた。
初めて。
X、の、心が。
……ほんの、少しだけ。
揺れた。
(……お。
揺れた。
この、余裕の、ない、感じ。
いいわ。
もっと。
揺れなさい)
私は。
恐怖で。
がくがく、と。
震えながら。
それでも。
精一杯の。
不敵な、笑みを。
浮かべて、みせた。
「……さあ? どうかしら。……でも。ひとつ、だけ。教えて、あげる。……あなた。今、"勝った"と、思ったでしょう。……その、油断が。命取りに、なるって。……物語じゃ。決まって、るのよ」
(第12話 了)
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【 湊ミライの ゲーム攻略メモ 】
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・私の能力:感情の揺れがわかる。中身は不明。攻撃不可。
・私の役割:……なんか地味。よく読んでない。
〔今回〕
・Xが正体を現す=三十年鍛えた暗殺者。技はコピー不可。
・Xはコピー能力者を協力者と見抜き、フィジカルで暗殺。
→協力者、倒れる(顔は影のまま)。
・Xは勝利を確信し、饒舌に自分語り=フラグ。
・私は心折れる寸前。でも「協力者がむざむざ殺される
はずがない」と、まだ諦めていない(理由は伏せる)。
・Xの心が初めて"揺れた"(私を訝しむ)。
・残り:私・X・少年+倒れた協力者。
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