CASE2 後半
コチラは後半です。
モニターの表示が「応対中」から「保留中」に変更しているのをキチンと確認し、ヘッドセットを外します。
外しましてからに――
「面兼さーん。助けてー。」
一も二も無く、へるぷみーです。
「どうかしましたか?すいません、ちょっとモニターしていなかったのですが。」
優しい先輩様は、すがる私のデスクまで、わざわざ席を立って寄ってきてくださいました。
「えぇとですね?今の方なのですけど、何やらスライム?スライムがマオウになっちゃったとか言ってるのです。」
「えっと、スライム……?スライムって、あのスライムですか?」
「あの、かも、どの、かもわかりません!そもそもスライムってなんです?」
「スライムは、なんといいましょうか。ゼリー状だったり、ゲル状だったりの、プルプルでムニムニの……。」
困惑気味の面兼さんは、なにやら両手で宙に丸を描くような素振りをなさいます。丸にしては、上が尖っているような……?
と、その時、私の脳裏に天啓が下ります。
そうだ!スライム!
アレは確か――
「わかりました!スライムってアレですね!?」
「そうそう。某国民的RPGでもお馴染みの、ゴブと双璧を成すザコの代名詞でもある――」
「小学校の理科クラブが作ってました!アレですよね。洗濯ノリと絵の具とかを混ぜて作るヤツ。懐かしいなぁ。私、触らせてもらいましたもん。」
「……あぁ、そっち。そうですねぇ、そっちですよねぇ。」
謎はすべて解けた私に、なんとも言い難い苦笑を浮かべる面兼さんでした。
……ん?いや、待って?
たしかあの方、転生者がスライムになったって言ってましたよね?
えっと、ゲームの世界に呼び出したキャラクターが、人からあの、ゲル状のもにょもにょになったの?
いや、それは良いとして、ソレが他の生き物食べたり吸収したりするの?
主成分、水と洗濯ノリがぁ?
洗濯ノリのポテンシャルの高さに慄いておりますと、困り顔の面兼さんが肩を揺すってきました。
「あのね、邪馬台さん。実は、電話口の方の世界だと、スライムというのは概ね生き物なのよ。」
「えっ?ゲル状ではなくて?」
「ゲル状ではあるんだけれどね。それで、そのスライムというのは、だいたいが、他を溶かして吸収するような食性の生物なの。」
「洗濯ノリなのにですか!?」
「うん。洗濯ノリからは離れようね。全くの別物だから。……いや、だいぶ近い存在ではあるのだけれど。」
ではやはり……、洗濯のり……。
世のお母さん達はなんともオソロシイ物質を扱っているものです。危険物取扱いの資格は要らないのでしょうか。
「それで、そのスライムがどうしたのかしら。」
「あ、ハイ。呼び出した転生者がスライムになっちゃったらしいのですけど、それがイロイロ食べちゃった結果、マオウというのになっちゃったんだそうです。」
「なるほどねぇ……。捕食チートと吸収チートの拡大解釈かしら。まぁ、良くあるお話といえばそうかしらね。」
と、1人納得したような面兼さんは、私のキーボードに手を伸ばしては、タタタッと打ち込みます。
『スライム 魔王 対策』
あ、マオウって、その魔王なんだ。お父さんには見えなくて、やたら迫真の演技な子どもを追ってくるヤツですよね。まいふぁーたーまいふぁーた。
そのままマウスに手を伸ばした面兼さんですが――
「ええと、そのスライムが、魔王になっちゃったのですけど、どうしたら良いかって相談なのです。」
「イロイロと方法はあるけれど、その方が消すことはできないのかしら?」
と、検索結果に並んだ過去履歴達をスクロールしていきます。
「それはできるらしいんですけど、あまりやりたくないと。間違ってスライムにしちゃったから、自分が消すのは忍びないようで……。」
「あら、温厚な方なのねぇ。」
「はい。そもそも、そのスライム?が、けっこう強いらしくって、なんでも吸収しちゃうから手が出せないみたいでして。」
「あぁ、耐衝撃とエネルギー吸収くらいはついてるか。なるほど、それが魔王化までしたのならば、現地人では対処できないわねぇ。」
「そもそも今すぐ消しちゃうと、せっかくの転移の魔素?が消えちゃうらしくって、定着するまでは存在して欲しいとかも言っていました。」
単語の意味は不明でも、今しがたの内容を説明するくらいならばできるのです。私は、電話口の方の悲痛なお悩みを面兼さんに報告しました。
「……ダメですね。過去履歴だと、抹消とか強制転移とかはしているようですけれど、現状維持で対応するやり方は載っていないわ。」
「ありゃま……。」
ナレッジに載っていないとなれば、私達にはお手上げです。
申し訳ないですけれども、お詫びして諦めて頂くしかないのでしょうか。
「となると、技術にエスカレして対応してもらうしかありませんか。何とかこう、上手く隔離する様なやり方があれば良いのですけれど……。」
マウスホイールを未練のくりくりしていた面兼さんでしたが、諦めたように目を伏せては、上長である天津さんへと振り返りました。
と、その時。私にまたまた天啓が下ります。2分ぶり本日2回目です。
そうですスライム。昨夜見たあのプラスチックケースに入ったアレは、恐らくはスライムの成れの果てです。
水と洗濯のり、そしてお掃除に使うホウ砂を混ぜて作ったスライムは、水分が抜ければ硬い塊になってしまうと聞いたことがあります。
であれば、相談者様に悪影響のあるスライムも、水を抜いてしまえば、ガチガチに固まって動けなくなるのではないでしょうか。
さすれば、そのまま湿気が寄らない所に保管などしておくことで、魂とやらが定着するまでの期間、そのままにしておくことも可能かも知れません。
私は、急遽思いついたそれを面兼さんに伝えてみました。
「どうでしょうか?うまく乾燥させられれば、他に影響が出ないカタチにできると思うのですが。」
「なるほど……。でも待って、確か矢鱈と耐性が高いという話でしたわよね?熱にも強いでしょうし、簡単には水分も抜けないのでは?」
「そっか……。あっ、だったら、真空にしちゃうのはどうでしょう?空気を抜けばフリーズドライみたいになりませんかねぇ。」
「確かに真空下に晒せば、内部の水分は一瞬で蒸発しますわね。……できそう、かも。」
「やった!では早速、お客様に案内を……。」
「ちょっと待って。……天津さん。如何でしょうか?」
と、いつの間にからか、こちらのやり取りを伺っていた様子の天津さんを仰ぎます。
「そうですね。……うん。大丈夫ではないでしょうか。技術に回したとしても、恐らくは消滅になるでしょうし、よくやる時間凍結では、4次元的には切離されてしまうから、魂の定着は進みませんしね。」
「では、このまま邪馬台さんの対応で進めるということで宜しいでしょうか。」
「はい。邪馬台さん、お願いします。と、念の為にお客様には『あくまでもご提案なので、最終的にはお客様のご判断になるのですが……』と付け加えて下さいね。それと、何かあったらまたかけてくるように伝えて下さい。」
「かしこまりましたっ!」
私は勢いよくパソコンに向き直り、ヘッドセットをつけます。
保留時間は6分後22秒。けっこうお待たせしてしまいました。
「で、どうでしょうか?今の邪馬台さんのご提案。」
「良いと思いますよ。技術に回しても時間かかるばっかりですし。しかし、知らないとはいえ……。」
「えっぐいこと考えつきますわよねぇ。身動きとれなくして、真空状態で死ぬまで幽閉ですわよ。死んだ方がマシのような……。」
「恐らく精神的なガードもかかってるでしょうから、意識は数十年単位で残り続けますね。摩耗で消滅が早いか、発狂が早いか。」
「いっそひと思いにやってくれた方が有難い、という奴ですわね。邪馬台……、恐ろしい子……。」
「世代じゃないでしょ?」
「ネットミームは基本教養ですわよ?」
◇◇◇
『――と、いうことでは如何でしょうか?』
『なるほどぉ!それでしたら話早いです。隔離も真空化も、すぐできますよ。』
『良かったです。それでは――』
『じゃあ、ちょっとやってみますね?』
『えっ?今からですか。』
『ハイ。すぐできますから。えぇと、……空間制御して、内部の気体を持続的に排除……。あ、凄い!ボコボコいったと思ったら、みるみる縮んでいきますよ!』
『あっ、そうですか。良かった。』
『あはは。凄い凄い。どんどん縮んで……。あぁ、ココまで小さくなったんなら、別の容器で保管できますね。』
『そうでしたか。えっと、周りへの影響なんかも大丈夫でしたか?』
『流石に慌ててますけど、まぁ、私が彼の声色真似て、声明でも出しときますよ。アレだな、このまま世界を見守ることにした……、とか言っとこうかな。それでこのままほっとけば、周りも勝手になんとかやってくれるでしょう。数世紀も経てば、みんな忘れてますって。』
『はぁ……。それでよいのであれば……。』
『いやー、助かりました。後は、頃合いを見て魂も循環させます。肉体の方は……、まぁ、何処かにテキトーに保管しときますよ。』
『いえいえ、解決したのなら良かったです。あっ……と、もしまた何か異変があれば、改めてご連絡下さいね?』
『はい。助かりました。ありがとうね!』
◇◇◇
あちらが通話を終えたのを確認して、通話終了のボタンをクリックしました。
ナントカなってよかったー。安堵のデスクへの突っ伏しが心に沁みます。
しかし、やはりこうやって感謝を頂くのは嬉しいですね。
まだまだ歴の浅い私ですが、確かに役に立って居るという実感がします。
ふと視線をやると、先輩方も満足そうにコチラを見つめていました。なんだか生暖かい視線に見えなくもないですが、評価いただいているのでしょう、きっと。
そこはかとなく面映ゆい心持ちになった私は、通話履歴をまとめる後処理画面へと操作を進めます。
退勤までもう少し。頑張りましょう。
帰宅した私を、
「アンタ、表に出してるのは全部捨てちゃって良いの?分かんないからそのままにしといたわよ。今夜中にどうにかしてね?」
と、台所より母さまのお声がかかります。
居間を見れば、昨夜の惨状の跡とも言うべきガラクタの山が居座っております。
ふと、この「捨ててもよいやつ」に纏められたモノ達の中から、「たからもの」と書かれた箱が目に止まりました。
そういえば、私はいつ、あのスライムをもらったのでしょうか。
触らせてもらった記憶はあるのですが、かといってもらった覚えは無いような?
あの容器、プラスチックにしてはシッカリとしていましたし、蓋もイヤにガッチリと密閉されていたように思います。
「……まさか、ね。」
とは思いつつも、私はそっと、たからものが詰まった紙箱ごと、押し入れの奥へとしまい込むのでした。
2話目終了です。
続きはまた、近日中に。
下の☆が★に変われば変わるほど、ありがとうの気持ちが高まります。




