CASE2 前半
2話です
平日の夜で、明日も朝から仕事だというのに、今の私は押し入れの片付けをしております。
いい加減モノで溢れてしまっているコチラを、捨てるものと取っておくものに分別せよとのお達しが下ったのです。
疲れた身体にムチを打つことに不平の1つも鳴らしたいところではありますが、夕飯のおかずという最重要項目をヒトジチに取られた私には、頭を垂れて従うより他にありません。
実家ぐらしの切ないところですね。
押し入れに詰め込まれていたアレヤコレヤを一つ一つを手に取ると、過去の愛着だったりが程よく想起されまして、どれも――
「捨てるにはなぁ……。忍びないなぁ……。」
なんて1人ごちたりもしてしまうのですが、よくよく考えれば、9割以上がゴミ以外の何でもないぞと客観的な思考が囁いてきます。
ここは本能より、理性に従うべきシーンでしょう。
ミニマリストを目指すべく、手に取った端から廃棄物行きのレッテルを貼っておりますと、ふと、手にした紙箱に目が止まってしまいました。
「こういうのをイチイチ確認してるから、ダメなんだ!」
と思いつつも、太字マジックで『たからもの とっておくこと!』と書かれた蓋を開けてみますと、箱書きからは激しく程遠い雑貨たちが出てまいります。
小学校低学年辺りの時分に集めていたのでしょうか。
今でもよく見かけるキャラクターのシールやら、今ではとんとお見かけしない魔女っ子のカードやら、過去には光っていた事もあったのであろうサイリウムの棒などなど……。幼少の私の、魂の琴線に触れたのであろうガラクタ達が、無秩序に押し込まれておりました。
過去の私は、これらガラクタのどの辺りに宝物性を発見したのでしょうか。謎は深まるばかりです。
恐らくはお祭りの屋台を発祥地とするであろう、二度と輝くことの無い棒をみょんみょんと振りながら箱の中身を見分しておりますと、手のひらサイズな円筒状のプラスチックのケースが出てまいりました。
半透明ケースのソレは、妙に厚手の蓋でシッカリと封がされており、中には薄く色の着いたナニかが底に溜まっています。
恐らくはベッタリと底にくっついてしまっているようで、軽く振ってみますが、微動だにしません。
「……なんぞ?」
正体不明の物体Xですが、いくら私が親譲りの無鉄砲だとしても、蓋を開けて確認してみる気にはなりませんでした。いえ、私の両親は慎重な方ですし、そもそも性別違いますけれどもね。
まぁ、語呂は大事、ということで。
翌日。
私はいつもの様にお仕事に向かい、いつも通りの時間を過ごしております。
今は既に17時を回っておりますので、竹早さんはご帰宅済み。斜め前で向かい合っている面兼さんと、アチラのご自身のデスクで何やらカタカタやっていらっしゃる天津さんとの3人です。
今日はいつも通り、お電話を受けたり、ナレッジを熟読したり、たまにぼーっと磨りガラスの向こうのお空を眺めながら――
「夕飯はなんだろうなぁ……。暑いからサッパリ系だと嬉しいんだけど。」
等と呟いたりする暇があるくらいの忙しさです。
私はこの会社以外のコールセンターは知りませんが、数多のセンターを渡り歩いた経歴をお持ちの竹早さん曰く、
「此処はありえんくらい暇。」
なのだそうです。
問題が起こればお電話が来るというシステムなのですから、暇であるに越したことはないと思いますが、あまりに暇すぎるとお仕事そのものに存亡の危機がやってまいりますので, 程よく忙しいのが良いのかもしれませんね。
まぁ、私が気をもむ事でもないのではありますが。
このまま終業まで、オフィスチェアに負荷をかける作業を続けていくのかなと考えていた矢先、私のモニターに受信のランプが灯りました。
さて、お仕事です。
◇◇◇
『お電話、ありがとうございます。OSGS合同会社 Multiverse Solution & Support Desk、邪馬台がお受けいたします。』
『あ、繋がった……。えーっと……。』
『……。』
『あのですね……。』
『は、はい。いかがされましたでしょうか?』
『あぁ、うん。何から話せば良いのかな。』
『えっと、何かお困りでしたでしょうか?』
『そう、なんですよねぇ。うーん。実はですね……。ウチの所に、いわゆる魔王ができちゃいまして。』
『マオウ……ですか?えっと、その、マオウがでた、と。』
『はい。あ、いや違う。魔王は元々居たんですよ。で、それで、現地の人達が魔王退治に異世界からの召喚を行いまして。』
『はぁ……。元々そちらに居たマオウに対象する為に、召喚が行われたのですね?』
『ですです。ソレはまぁ、良いんですよ。定期的な魔素循環のカンフル剤として、異世界からの転移はたまにやってましたんで。今回も周期的にはそろそろではあるから良いかなって。だから、現地の召喚に併せて、私が選別した転移者を送り込んだんですが……。』
『うまくいかなかった、とかでしょうか?』
『イヤイヤ、私の方の操作は問題無かったんですよ。ただ、現地人たちの召喚に、けっこう穴があったみたいでして……。その、呼んだ人、スライムに転移しちゃったんですよ。』
『スラ……、イム……。ですか?』
『そうです、スライム。で、そもそも召喚予定のポイントからもだいぶ離れたとこに来ちゃうし、しかもスライムに転移なんてしちゃったもんで、私も焦っちゃって……。』
『元世界では死んじゃう予定の人を転移させたんですけど、ソレまで人として生きてた人をスライムに、なんて。可哀想じゃないですか。だから、せめてすぐに死んじゃわないように、けっこう強めに加護をかけたんですよ。』
『さ、ようで……、ございましたか。』
『はい。でも、与えちゃった加護。スライムにちなんで捕食と吸収ってのを与えたんですけど……。コレが良くなかったんです。』
『えぇっと、ナニか問題でも?』
『最少はその辺の草とかを食べて生きてたんですけど、だんだん取り込んだ生き物の特徴だったりまで再現できるようになっちゃってたみたいで。それでドンドン強くなっちゃって……。』
『あぁ、捕食と吸収。』
『です。半年もしたら、その辺の生き物どころか、危険度の高い大型獣すら食べられるようになっちゃって。しかも、召喚した現地人達からは害獣扱い受けて敵対しちゃったもんで、今ではそういう凶暴性の高い生物のトップみたいになっちゃったんです。』
『なるほど……。』
『それで、このほど以前に居た魔王と何故か合体しちゃって、新しい魔王として誕生しちゃった。という訳でして。』
『えぇと。まとめますと、マオウ退治の為に呼び出されたはずの転生者が、誤ってスライム?になってしまった為、イロイロと暴走した結果、新しいマオウになってしまった……。ということでしょうか?』
『しかも、このスライム、私の加護も持っちゃってるんで、前の魔王よりぜんぜん強いんですよ。だいたいの攻撃は吸収しちゃいますし、精神的な抵抗値も高い。だから、これと言って弱点も無くって。』
『さようでございましたか。』
『もちろん、私の権能もありますから、消滅させるのは出来るんです。ただ、こちらで呼び出しといて、またこちらの都合で消しちゃうってのは申し訳ないと言いますか……。』
『それに、今、消滅させてしまいますと、せっかく転移と一緒に持ってきてくれた魔素が、転生者の魂と一緒に消滅しちゃいます。かといって、彼の魂がこちらの世界に定着するまでの時間をかければ、その間に既存の文明が崩壊しちゃいそうでして……。』
『えぇと……。かし、こ、まりました。とにかく、そのスライムを、消滅させるのではなくどうにかしたい、と。』
『そうです。なにか方法ないですかねぇ。できればこう、環境に影響が無いようなやり方で……』
『かしこまりました。それでは!なにか方法が無いか確認してまいりますので、少々お待ち下さいませ!』
後半へ続きます。
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