CASE1 後半
こちらは後編です。
カタカタとキーボードを叩く音が響く室内で、私は1人、パソコンの画面を見つめています。
いまはまだ、半分研修中くらいの身分ですので、受電を受けていない時にはこうやって、過去の対応の履歴だったり、問題解決の筋道なんかの記録……、ナレッジというらしいソレを読んでいるのです。
と、お隣の竹早さんのパソコンに、受電のランプが付きました。
「ヤマトちゃん、モニター入ってー」
と、声をかけてくれた竹早さんに相槌を打ち、少しあわててパソコンの通話アプリの中にある、モニターのアイコンをクリックしました。
◇◇◇
『お電話、ありがとうございます。こちらは、OSGS Multiverse Solution & Support Deskです。如何されましたか?』
『いやさあ!もうホントに困ってんのよ。どうにかなんない?』
『本当にお困りなんですね。かしこまりました。それでは、現在の状況をお伺いできますか?』
『それがね?聞いてよ。ホラ、ウチのとこもマナのやり繰り大変になってきてるからさ、転生者いれることにしたんだよ。他所から持ってきたら、マナ循環に刺激与えられるっていうじゃん。』
『さようでございましたか。外部からのマナの供給の為に、転生者を導入された、と。』
『そうそう、でさ、説明とかの話が早くて、オススメの地域あるっていうから、後腐れなさそうなの見つけて呼んだんだけどさ。コレがもう、ヒドイんだよ。』
『お呼びした転生者に、何か問題ありましたでしょうか?』
『問題ってどころじゃないよ。なんかさー、ずっとアレ。チート?なんだか知らないけど、それを寄越せってわめいてるんだよ。
コッチは別に、何かやってほしい訳でも無くて、ただウチに来るだけで良いってんのに、なんなのアレ?』
『さようでございましたか。呼び出した転生者が、チートを欲しがって引き下がらない、と。恐れ入りますが、その転生者は、まだそちらに?』
『いるいる、居座ってる。チートとか言われてもさー、コッチは意味わかんないし。どうしたら良いわけ?』
『それはそれは、お困りですね。かしこまりました。それでは対応方法を確認致しますので、少々お待ちいただけますか?』
『良いけど、早くしてね。』
『はい。それでは、一旦、保留させて頂きます。』
◇◇◇
パソコンを見つめる竹早さんを横目に、過去履歴一覧の検索窓に、「チート」と打ち込みます。
うわ、すごい数出てきた。コレじゃまずです。
あわてて、「チート 要求 不可」と入力。だいぶ絞られました。
見出しから使えそうな履歴をさらっていると、竹早さんが、ボールペンの先で、ちょいちょいとそのうち1つを指さしてくれます。
提案内容を確認して……、なるほど、こういう対応で良いんだ。
思わず頷く私を見つつ、ニヤリと笑みを浮かべた竹早さんは、自分のパソコンに向き直ります。
◇◇◇
『大変お待たせいたしました。恐れ入りますが、先ずは、そちらに居る転生者の詳細情報をご確認頂くことは可能でしょうか?』
『情報情報?えっと、何処で見れば良いの?』
『お手元のパネルの、転生者属性をタッチ頂きまして……。』
『あ、あった。転生者詳細情報。これね。』
『ありがとうございます。そちらの、元世界項目という欄に、生死情報という項目があるかと存じます。』
『生死情報……生死情報……。あ、あった。生存中ってなってるね。』
『さようでございましたか。それと、今回選んだ転生者ですが、そちら様の手違い等でお呼びになったというケースに当てはまりますでしょうか?』
『ん?どゆこと?』
『例えばですが……、元々呼ぶ予定の確約をしていた対象が何らかの事情で呼べなくなり、代わりに選んだ、ですとか。他の対象を呼んだときに、誤って一緒に呼んでしまった、ですとか。』
『あー、そういうのね。ないよ、無いない。普通に条件絞った中からテキトーに選んだだけだもん。』
『さようでございましたか。でしたら、今回のケースですが、条件に合わなかったということで、そのまま元世界にお返ししてしまっても問題ありません。』
『えっ!?良いの?』
『はい。返還タイミングは、システムによって召喚時と同一に合わせられますので時間的な齟齬は生まれませんし、そちらでの記憶も消去されますので、今回の転生者に不都合は生じません。事後処理も不要でございます。
ですので、一旦呼び返して、その後、改めて別の対象をお呼びすれば宜しいかと。』
『マジか助かるー。1回呼んだら、チェンジは不可だと思ってた。』
『システム上の回数上限はありますが、少なくとも十回位までなら呼び直しは可能でございますので、ご安心下さいませ。返還操作についてもご案内致しましょうか?』
『あー、そっちは大丈夫。ポイってすりゃ良いだけだから。』
『でしたら、その様にお願い致します。……と、他に何かご不明点はございませんか?』
『あー、だったらさ。次のを呼び出す時の条件って、どんな感じにしたら良いかな?』
『かしこまりました。ちなみに今回は、どの様な条件で絞られましたか?』
『えっと、オススメに出てた地域の、若年層にした。そん中で、近親者との関係が希薄、のチェック付いてるヤツ。説明も早いし後処理も楽だって聞いてたんで。』
『さようでございましたか。確かにその条件ですと、転生元への事後作業が減る場合が多いですし、環境に変化を与えたい場合にもお手軽ではあるとのことなのですが……。例えば、年齢層を上げてみるのは如何でしょう?三十代位までに引き上げれば分別もつくようですし、多少高圧的に当たって、かえってスムーズに運用できたというケースもございます。』
『なるほどねぇ。んじゃ、三十代くらいにしとくか。』
『あ、注意点がお1つ。社畜、の項目のチェックは外されるのが宜しいかと。転生者属性に社畜が付きますと、転生後の変動が大きくなりすぎる傾向にあるようですので。』
『りょうかーい。三十代で、社畜は外す、ね。いや、助かったよ。ありがとうね。』
『とんでもない事でございます。また何かございましたら、ご連絡下さいませ。それでは、本日は竹早が対応致しました。お電話、ありがとうございました。』
◇◇◇
対応の終わった竹早さんが、ヘッドセットを首にかけて――
「ふー。終わった。」
と、両手を組んで逆向きに開いては伸びをします。
「お疲れさまです。」
「どうだった?なんか分かんないこと、あった?」
少しだけ照れたようにニカッと笑って、竹早さんは自分の耳元をコツコツと指差します。
あ、私、ヘッドセットつけっぱなしでした。
同じ様にヘッドセットを首に下げつつ――
「んー。たぶん、大丈夫です。もうちょっと早く、対応方法探せれば良いんですけれど。」
「まぁ、そこら辺は慣れだしね。数こなしゃあ楽勝よ、楽勝。」
パソコンをチラ見しながら答えますと、なんとも頼もしいお言葉が返ってきました。
慣れ、ですか。私には――
「先が長そうです。……それにしても、あんな感じの対応で大丈夫なんですね。」
「まぁね。相変わらず、ナニを言ってんだか自分でも意味わかんないけど、過去履歴見る限り大丈夫みたいよ?ってかさ、そもそもチートってなんなのよ。ココ以外で聞いたことないわ。」
「私もイマイチ単語の意味がわからない事が多いです。なんなのですかねぇ。」
私たちが言葉の意味を解らなくても、過去の履歴に併せて案内をすれば相手が理解して納得してくれるのです。
それで問題も解決するのだから、うん。先人の知恵とは偉大です。
「今更ですけど、ゲームの設定とかのお話なんですよね、ココにかかってくる電話って。」
「らしいわよ。なんだっけな、箱庭型多元宇宙環境育成シュミレーション、だっけ。なんのことやらサッパリよね。面白いのかしら。」
「どうでしょう。イマイチ、ピンとこないジャンルですよね。」
まぁ、ある程度は人気のあるゲームでないと、こんなコールセンターが作られる事も無いでしょうから、面白いと思う人達が少なからず居るのでしょう。きっと。
そんな無駄話を続けながらも、先輩の手元は、先ほどまでの通話の履歴をパソコンに入力しております。
「ヤマトちゃんはやんないの?ゲーム。」
「うーん。私はあんまりです。スマホにパズルゲームいくつかありますけど、パソコンも持ってないですし。」
「そっかー。志乃ぉ、アンタは知らない?」
と、向かいのデスクでキーボードをカタカタやっていた面兼さんに水を向けました。
「お呼びしました?なんでしょう。」
「アンタは知らない?チートとかってヤツの意味。」
「チートの、意味、ですか。」
パソコンモニターの隙間から、ひょい、と顔を出した面兼さんは、少しだけ困った様な顔を浮かべて頬に指をあてます。
こういう仕草が似合うのだから、美人さんは得だなぁ。
「うーん。チート……、チート。まぁ、わかりやすい言葉で言い換えるならば、ズル、とか、不正、でしょうか。」
「えっ、そういうことなの?ダメじゃん。」
「いえいえ、そう一概にダメという訳では……。」
「ズルはダメでしょ、ズルは。ねぇ、ヤマトちゃん。」
「まぁそうですねぇ。ん?と言うことは、さっきの案件も、ズルをさせろってダダをこねてた人が居たって事になりますよね。……ダメなのでは?」
人、というか、ゲームなのだからキャラクターというべきなのかもだけれど。
と言うか、キャラクターがユーザーにズルをさせろってゴネてきたわけか。うーん、どういうシチュエーションなのでしょう。
やっぱりこのゲーム、イマイチわからないなぁ。
考える私をよそに、先輩方はなおもモニターを挟んで話を続けています。
「確かに現地人からすればズルなのかもしれませんけれど、まぁその辺は個々の事情もありますし。」
「だからって不正はダメなんじゃないの?ホラ、こないだもスポーツで不正が見つかったとかで、お偉いさんが謝罪会見してたじゃん。」
「まぁ、リアルで考えればそうなってしまうのでしょうが……。うーん、やはりダメ。でしょうかねぇ、チート。」
「あったりまえよ!よくわかんないけど、不正実な事やってるヤツが大手を振るうってなれば、マジメにやってる連中がたまったもんじゃないじゃない。」
と、ナニかが逆鱗に触れたのか、拳を憑きあげては憤慨している竹早さんです。
この人のこういう熱には、ちょっとだけついていけなさを感じたりもするのですが、憧れるトコロもあるのでした。
「うちの子にだってねぇ、お天道様に顔向けできない様なマネはするんじゃないって、いつも口すっぱくして言ってんだから。よし、決めた。私コレからは、チートってので困ってる相手にはビシバシ案内するわよッ!」
少しだけ過激さを増した竹早さんに、思わず天津さんの方へと視線を投げてしまいます。
ですが、そんな先輩のお姿さんにも、天津さんは少しだけ満足気に頷いているようでした。
対して面兼さんは、なんだか困った様な微妙な表情で、ブツブツと独り言を呟いています。
「転生チートなんてテンプレのデフォみたいなものだと思ってましたけれど、言われてみれば確かに、ズルはズルなんですよねぇ。だからして、チートなんて単語をふられているのでしょうし。
とはいえ、どこまでを不可とするべき?知識チートとかメシウマチートも全部ダメ?そうなると話が盛り上がらないどころか、ほとんどの作品が無くなってしまうような……。難しいですわねぇ。」
「ナニぶつくさ言ってんのよ。」
「何でもないでーす。」
なにはともあれ、何がなんだかわからない内容でも、私たちのお仕事は回っています。
知らないゲームの、理解出来ない問題を訴えてくる、想像も出来ないお客様たち。
それでも私たち、OSGS合同会社 Multiverse Solution & Support Deskは、知ったかぶりと過去履歴を頼りに、みなさまの問題を解決するべく働くのです。
知識も経験も、これから積んでいけば良いのでしょう。
「あ、ランプついた」
私の目の前のモニターに、赤い光が灯ります。
(ヤマトちゃん、いける?)
竹早さんの小声のお気遣いに、私は大きく頷きます。
ヘッドセットを装着し、画面の「受電」ボタンを押します。
『お電話ありがとうございます。OSGS Multiverse Solution & Support Deskです。』
声が震えないように、しっかりとお腹に力を込めて。
……それにしても、転生とかってなんなんでしょうね。本当に。
続きは近いうちに。
以降はもう少し短い文字数になると思います。
下の☆が★に変われば変わるほど、やる気が出ます。




