CASE1 前半
『お電話、ありがとうございます。こちらはOSGS Multiverse Solution & Support Deskです。如何されましたか?』
『はい。転生者が……はい、与えた覚えの無い能力を使っていて、困っている、と。』
『さようでございましたか……。えぇ、文明の不本意な介入や、生態系への悪影響もみられる、ということですね。』
『それはお困りですね。心中お察しいたします。』
『かしこまりました。それでは、その転生者に対しての対応方法を、ご案内致します。』
『ご案内下さいませ、充分に対応可能な案件でございます。』
私、邪馬台 壱与の仕事場は、ちょっと変わっているかもしれないです。
最寄りの駅から歩いて15分。
近くもないけど、遠いというほどじゃないところに、私が働くオフィスはあります。
駅前の商店街を抜けてしばらくすると、1日中カーテンが閉まっているので、営業してるんだか閉まっているんだか定かではない、怪しい骨董品屋さんが一階にある小さな雑居ビルがそれです。
骨董品屋さんの入り口横にある階段を登り、てくてくと2階へ上がります。
幅が狭い階段は、小柄な私でも少し狭苦しく感じてしまうくらいのモノだから、人と行き合ってしまった時はどうしようかと思うのですが、そもそもこの階段をウチの会社の人以外が使っているのを見たことがないので、今まで困ったことはありません。
階段を登り、チカチカと点滅している照明の下を過ぎると、スチール製の扉と「OSGS合同会社 Multiverse Solution & Support Desk」という、どう日本語に訳せばよいのかイマイチわからない看板が見えます。
ココが、私がこの先月から通っている職場なのです。
ちなみ上にもまだ階段は続いていまして、誰かの何かが行われているのでしょうけれど、照明の着いていない暗い空間へと上がっていく勇気は私に不搭載です。そもそも用事もありませんしね。
会社の入り口ドアを開けますと、左手に靴箱。
女性物のサンダルとスニーカーが1つづつと、男性用の革靴が1つ。どうやら今日は私が最後の出勤のようです。
いつも最後という訳ではないですよ?
私以外は近隣に住んでいるらしいので、毎朝同じ電車で来ている私とは、たまにこうやって順番が前後することがあるのです。
スリッパに履き替えて内扉のドアノブに触れると、ピーとガーの中間くらいの音がして――
「ガチャ」
ドアのロックが解除されました。
こういうの、普通はカードキー的なのをタッチするとかだと思うのですけれど、ウチはこんな風に、ドアノブに触るだけで良いみたいです。
指紋とかなのかな。よく分からないけれど、技術の進歩ってすごいと思います。
見た目よりも少し重たいドアを押せば、お世辞にも広いとは言えない室内に、机が6個並んでいます。いや、6台、6脚?
とにかく、向かい合せに3つずつ。
机の上の備品は、1人1台のパソコンと電話機だけのはずなのですが、6……あぁ、もう6個でいいや。6個の机のうち4つは、どう見ても仕事とは関係の無いアレヤコレヤが鎮座しております。
雑誌とか、なんとかテックみたいなパソコン関係の本とかならまだ良いかもですけれど、流石に化粧品とか旅行雑誌まで平積みされてるのはどうかと個人的には思います。
ナニも言われていないようですので、問題は無いのでしょうが。
物がない2つのうち、1つは私のデスクです。私もそのうち、先輩達みたいに色々置き出すのでしょうか。ナントカに染まればナントカって言いますしね。
まぁ、今は特に置きたいものも思い浮かばないのですけれど。
ちなみにもう一つのスッキリした机は、未だ誰も使っていない場所。まぁ、つまり、そういう事なのです。
この会社、私物とかそういうのに非常に緩い。
……などと考えていると、
「ちょっと、なにボサッとしてんのさ。早く閉めてシメて。冷気逃げるじゃん。」
部屋の隅に置かれた、L字のソファーに座ったお姉さんから指摘が入っりました。
慌ててドアを閉めましょう。
「ヤマトちゃん、おはよ。外ヤバかったでしょ?いやもう、ホンット。なんなのよこの暑さ。ヒトジニ出るよ、マジで。」
とは、ゆったりソファーに腰掛けて、こちらにパタパタと手を振っている竹早 羅奈さん。
「あはは。確かに暑かったですねぇ」
「でしょ?たまんないわよ、もう。こんなんだと、外で子ども遊ばせるのも命がけだってーの。」
竹早さんは、バツイチのシングルマザーで、幼稚園に子どもさんを預けてウチで働いているらしいです。ですので、私たちより1時間早い5時にお仕事あがります。
ウチは、この辺の融通もきくのでした。
「確かにですわねぇ。……いやでも、そもそも夏場に外で遊ぶなんて。やらない気もしますけれど?」
L字ソファーの逆サイドから、少しおっとりとした声で応えるのは、面兼 志乃さん。
今時珍しい黒髪ロングの美人さんで、のんびりおっとりとした声も素敵です。
……が、
「いやいや、アタシが子どもの頃はフッツーに遊んでたわよ?この辺でも、商店街の周りとか, 公園とか、イモイロあるじゃん。」
「はぁ。竹早さんがお若い頃と言いますと……、まだ恐竜がその辺を歩いていた時代の事でしょうか?」
「おっけー。そのケンカ買った。オモテ出ろ。」
「イヤですよ。熱中症になるならお一人でどうぞ」
非常に口が悪いので、こうしてしょっちゅう竹早さんとやり合っています。
いや、じゃれ合っている。が正しいのかも。
そんな2人に、「上手くコメントできない時に浮かべる笑顔」を作りつつ、少ない手荷物を自分のデスクへ置いていますと、同じ様な表情を浮かべていた男性と目が合います。
部屋の中央に並べられた6個の机から、ちょっとだけ離れて置かれたデスクに居らっしゃるのが、いつ見ても疲れた顔色の天津 輝夫さんです。
この会社の社員さんで、私はこの方以外に社員さんを見たことがないので、たぶんけっこう偉い人なのでしょうけれど、腰の低い物腰と何処を切り取っても調子が悪そうなお見た目のせいで、イマイチ威厳とかそういうものからは遠い存在です。
いや、敬意が無いわけではないんですよ?
ただまぁなんと言いますか、漂う哀愁がなんともかんとも……。
「さて、みなさん揃いましたね。それでは時間ですし、朝礼始めましょう」
「ほーい。志乃ぉ、後で決着つけっからな!」
「はいはい。覚えてましたらね。」
いつも通りそことなくおずおずと出された天津さんのお言葉に、ソファーの先輩方も自分のデスクにつきます。
「ゴホッ、ゴホン」、と、咳払いなのか本気の咳なのか判断の難しい咳払いをひとつし、
「……さて、それではみなさん改めて、おはようございます」
天津さんが切り出しました。
「本日は、いつも通り竹早さんが5時まで、おふた方が6時まで。休憩も、いつも通りでお願いします。
昨日からの引き継ぎは特にありませんが、チャットでの問い合わせが2件入っていますので、竹早さんと面兼さんとで対応お願いしますね。それぞれのに割り当ててますので、何か不明点があれば聞いてください。」
「天津さんー。夜の問い合わせは、夜班で終わらせといてもらいたいんですけどー。」
「夜の業務終了後に入ってきたやつでしたので、すいませんがお願いします。……内容、ざっと見ましたけど、緊急性もなさそうですから。
と、コールが入ってきたら、いつも通り順番で。邪馬台さんは、他の方が対応中はモニターしましょう。通話モニターの操作、大丈夫ですよね?」
「あ、はい。大丈夫……、だと思います。」
「はい。もし不安だったら聞いてくださいね。」
「……それでは、今日も1日、よろしくお願いします」
「しゃーす」
「お願い致します」
「お願いします」
ということで我がコールセンター、『OSGS合同会社 Multiverse Solution & Support Desk』の業務は、いつも通りに始まるのでした。
後編へ続きます。
下の☆が★に変われば変わるほど、やる気が出ます。




