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おじさんは異世界で友人のために動く


 地面に描いた十個目を見せる。


「これはどうかな?」


「あーん? 駄目だなこりゃ?」


 私の手に乗る友人から十回目の駄目だしを食らう。

 今行っているのは手に乗っている友人、小人のロゴ作りだ。


 召喚されやすい種族と、されにくい種族があるらしい。宇宙人のグレイや人間の私は前例のなかった超希少であり、サラマンダーやケルピーなどは稀に召喚され、小人は良く召喚されるらしい。

 そんな小人が得意なことは、物作りだ。うどんを作る際の麵棒を作ってくれたのもこの小人だ。

 

 召喚主も当然、小人に様々な物作りを頼む。その際に小人にとって非常に気にかかる点があった。

 それは自分が作った物が他の小人が作った物と同一視されること。

 小人は職人だ。一つ一つを真剣に作り、自分の物が一番だと自信を持っている。それを他の小人が作った物と同一視などされたくはなく、自分が作った物だと分かりやすく証明出来るものが欲しかった。


 そのためのロゴ作り。対価はうどん作りの道具一式。すでに作ってもらっているので私はこのロゴが完成するまで付き合わなければならない。

 しかし思っていた以上にこの小人はめんどくさい奴だった。


 最初は何でも良いなどと言うのでデフォルメした小人を描いたのだが、それでは他の小人と見分けが付かないから駄目と。それは理解できた。

 ではよく使う道具である槌を背景に描き、デフォルメした小人の顔をアップにする。すると今度は派手さがないと。

 なので背景の槌を増やし、小人の数も増やせば。何かが違うと。この時点で手をひっくり返したくなった。


 それからもいくつか作っては拒否されたので。


「……ええっと、どうだろう? どんなものが良いか、なんとなくイメージが出て来たんじゃないか?」


「そうだな。なんでもいいかな?」


 小人を握り潰そうかと思った。もちろん思っただけで留めた。今はまだ。

 小人はまるで当てにならないが、私だってこの手の仕事に関わったことがないため妙案が浮かばない。どこかにヒントがあれば……。


 手のひらに乗る偉そうな小人。


 これで良いのでは? と思い早速地面に描くと。


「おぉ? おお、良いね」


 何故か小人から高評価を得た。どこが気に入ったのか分からないが、これで良いのであれば良かった。

 後はここからより良い形に修正していくのだが、それは使う小人が行うそうだ。

 これで小人の件は終わった。後は。


「トモダチ、そっちの用事は終わった?」


 ああ、もうそんな時間なのか。思った以上に小人の件が長引いた所為か。

 今日はまた山に行く予定だ。


 すぐに準備すると迎えに来てくれたグレイに言い、急いで厩舎に戻る。

 今回は大人数で山に行く。




「それでおっさん、なんでまた山に行くんだ?」


「ええっと、シャクドウさん? 事前に説明していますよね?」


「忘れた。どうでも良いことを覚えるのは苦手なんだ。それにおっさんがいれば何でも答えてくれるだろう?」


 それを信用と見るか、単なる怠惰な人任せと見るか、人によって異なるだろうが私にはどちらにも見えた。

 まあ、確認の意味を込めてもう一度話すというのも悪くはない。


「ではもう一度説明しますね。山に行く理由は複数です。一つは山菜の回収。学食のおばちゃんたちから要望がありました。もう一つはマイケルさんからの依頼で、以前と同じです。剥製にするので化け物、魔物を持って帰ってきてほしいと。出来れば前回とは違う奴が良いと。最後に一つ、キノコの調査です。実は前回にキノコを持ち帰った時に学院長がいくつか買い取ってくれたときに栽培の話をしました。私がいた世界、地球で行われていたキノコの栽培方法を試したいとのことで、まずはどの木に、どのような場所に、どのような条件で生えるのか軽く調査をしてほしいと依頼がありました」


 思い出しましたか、とシャクドウを見るも首を傾げられてしまう。そして全てを覚えていなかったのかサラマンダーも私の視線から逃れるように顔をそらす。グレイとケルピーだけは覚えていたのか、自信を持って頷いて返してくれる。

 そして今回はもう一人、召喚獣がいる。


「なるほど、学院長からの依頼があったからウドもいるのか」


「ええ、おかげで色々と楽が出来ます。ありがとうございます、ウドさん」


「ええんだよ。おらはあんま役に立てねえから。こんな時くらいはなあ」


 学院長の召喚獣。巨人のウド。全長は三十メートルを超え今まで見た生物の中で最も大きい。そして、誰よりも優しい。

 その大きさ故に自由に動くことも許可されず、いつも学院の隅の方でジッとしている。

 だが今回は学院長に許可をもらって連れて来ている。

 いや、連れてというのは間違いか。何故なら今、私たちは手のひらの上にいるのだから。


 三十メートルを超える身長は伊達ではなく、少し走るだけでかなりの距離を稼げる。前は長々と歩いて行ったが、巨人の足ならば少し走ればすぐに目的地に着く。

 心配していた揺れについてもウドは腕や手を器用に調整し、揺れをほとんど感じずに進めた。


「んで? 山のどこら辺に降ろすだ?」


「そうですねえ、前回は山の入口辺りで活動しましたから、今回は中腹辺りにしますか。どこか開けた場所が見つかったらそこにお願いします」


 巨人を移動に使うと実に便利だ。長い距離が一瞬で、山すら平然と登ってしまう。町を出るまではやや苦労したが、外に出てしまえばそこにあるのは自然のみ。どれだけうるさく走り地響きをさせても文句は来ない。


 丁度良く山の中腹に平らなところがあり、そこに降ろしてもらう。

 

「では班分けをしましょうか。私とグレイで採取と調査をしますので、シャクドウさんとサラマンダー、ケルピーで魔物退治をお願いします。剥製するものですから綺麗なものでお願いしますね」


「何だよ、おっさんも一緒にやろうぜ」


「私が何の役に立つんですか? 前と同じで逃げ回ることしか出来ませんよ。それともあれですか? 三日後に筋肉痛で動けない私の背中を折り曲げて重症化させようと思っているんですか?」


「その件は謝っただろ~? 治そうとしたんだって」


「この歳になって泣きながら止めてと叫ぶことになるとは思いませんでしたよ。聞き入れてももらえなかったようで――」


「よおし、蜥蜴と馬。行くぞー。誰がでかい獲物を取れるか勝負だ!」


 逃げるようにシャクドウが山の奥へと走っていき、置いていかれたサラマンダーとケルピーはこちらを見て来たので、世話を頼むと頭を下げる。


 仕方なさげにサラマンダーとケルピーも後を追ったので、後はこっちだけ。


「おらはどうすれば良いだ?」


「一緒に行動をお願いします。頼みたいこともありますので」


 分かった、と返事をもらいグレイと共に森の中を適当に散策する。

 巨人の加護は偉大で、歩くたびに地響きが起き魔物も動物も近寄ってこなくなる。その中を私とグレイは呑気に植物を発見してはグレイの光線銃から出る光を当てて、成分を分析し食用か調べて食べられるようであれば回収する。

 そしてたまにあるキノコについては少なければ回収し、木に自生して数多くあるようであれば。


「ウドさん、この木の回収をお願いします」

 

「あいよー」


 ウドが雑草のようにその木を掴んで引き抜く。調査と言ってもこの世界に来て僅かな私たちに出来ることなど少ない。植物園を作ったりしている学院長の方が詳しいに決まっている。

 なので、こちらが役に立てることと言えばこうして実物を持っていくこと程度だ。


 ふむ、山菜は結構回収したし、木もそれなりに集めた。後は木に自生しているキノコの種類を見て、同じ木で原木栽培に挑戦すれば良いだろう。

 後は魔物退治に向かった者たちが戻ってくるのを待てばいい。待ち合わせ場所は当然ウドの足元。ウドは立っているだけで目印になるからな。


 腰を下ろして皆の帰りを待っていると、不意にグレイが聞いてきた。


「トモダチ、もしかして今回山まで来たのはシャクドウやウドの為?」


「何でそう思ったんだ?」


「召喚獣に自由はない。生涯の相棒みたいなことを口にしているが実際は便利な道具扱いだ。ウドは邪魔だからと召喚主の学院長から学院の隅で待機を命じられていたし、講師の召喚獣であるシャクドウも同じように学院の外に出る自由を与えられていなかった。僕やトモダチはまだこの異世界に来たばかりだけど、彼らは何年、何十年とここにいる。勝手に呼び出されて用がないときは檻の中。トモダチはそれを変えるために、外に出して利益を出す姿を召喚主に見せて少しでも自由を与えようとしているのかな、と思った」


 ふふ、間違ってはいない。ただ過大評価ではある。


「単なる、気分転換をさせてあげたかっただけさ。召喚主の考えを変えようとかは考えていないよ」


 ウドは優しいから、ジッとしていろと言えばずっとそうしている。自分の身体の大きさを、その影響を知っているのだろう。自分を殺して他人のために。そんな奴が割を食うのは間違っていると思ったから、連れ出しただけ。シャクドウはそのついで。


「そうだったんだ。てっきり召喚獣を自由に動かしても利益を上げてくる前例を作るためだと思っていた」


「そんな前例をどうして作る必要があるんだ?」


 あれ、知らない? とグレイが首を傾げた瞬間、悪寒がした。


「学院の生徒は卒業と共に北、西、東のいずれかの前線基地に行って士官経験を積むそうだよ? それで多分、トモダチもリリーナの召喚獣として連れていかれるよ?」


 ……何だと!?


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