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異世界でも、お姉ちゃんに任せなさい!  作者: 佐々木 みこと
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第46話 裏切りの貴族

またまた大変お待たせしました。

とりあえず月内に更新できてホッとしています。

私とギンガー男爵は、室内に置かれた四角いテーブルの両端に向かい合うような形で座りました。


私の護衛であるハロルドさんは、私の左後方、アレンさんは右後方に立っています。エミール君はドアに背を向けて警備しています。


(……あれ?)


いつの間にか、先ほどまで扉の外で待機していたガッシュさんがギンガー男爵の左後方に立っており、彼を威嚇するかのように後ろから厳しい視線を注いでいます。


(こ、怖いよ! ……その顔でにらまれたら怖いですから……)


そんなガッシュさんの視線に気が付かないのか、ギンガー男爵は優しい表情で私に来訪目的を話し始めました。


「実は本日ここに参りましたのは、マリク様から急使をいただいたのです」

「急使?」


「はい。先日、西側領界へとユウト殿の一行が視察に出向かれたと思いますが、“ミユ様の裁量”で『戦術魔法具』をいくつか分配してもかまわないとのことです。ただし、サーペント伯爵家への納品分からは出さないように……とのことです」

「なるほど………」


私の記憶が確かなら、優斗達には『癒しの戦術魔法具』をいくつか持たせたように思います。しかし優斗の安全を考えれば、レイシアさん達が護衛に就いているとはいえ『攻撃用の戦術魔法具』もいくつか持たせたほうが良かったかもしれません。


それにしても、マリクさんらしい指示の出し方です。「サーペント伯爵家への納品分からは出さないように」ということは、優斗に『戦術魔法具』を送りたければ、自分で『空の戦術魔法具』に魔力を込めて送りなさいということでしょう。


「わかりました。それでは、この町に到着するまでに完成させた『戦術魔法具』がたくさんあるので、そこから優斗に届ける分を用意しましょう」


私が即決で返答すると、男爵はどこかホッとした様子で応じてくれました。


「承知いたしました。ミユ様が『戦術魔法具』を送ると決定した際には、力になるよう指示を受けておりますので、ギンガー男爵家が責任を持ってお届けいたします」


ギンガー男爵は私に向かって一礼すると、息子であるハロルドさんに声を掛けてから退出しようと席を立ちました。


しかし、そこにガッシュさんが立ちふさがりました。


山賊の親分のような強面のガッシュさんに進行方向を妨げられ、驚きを隠せないギンガー男爵ですが、そこは貴族の当主です。毅然とした態度で応対します。


「むっ? 何か用かな? 進路を遮るとは無礼であろう」


背筋を伸ばして無礼を指摘した男爵に、ガッシュさんは進路を譲ることなく片膝をついて頭を下げました。


「大変失礼いたしました。ミユ様がユウト様に送る『戦術魔法具』を準備して参ります。時間が少々かかりますので、準備が出来るまで恐れ入りますが、別室でお待ちいただきたく存じます」


(おおっ!! ガッシュさんって“丁寧な言葉遣い”も出来るんだ!)


……と、本人にとても失礼なことで感心してしまった私ですが、ガッシュさんの言う通り、男爵には久しぶりに会ったと思われるハロルドさんとの親子の会話を楽しんでもらうのも良いのではと思います。


リアナとカレンに二人を別室へと案内してもらいました。


ガッシュさんはエミール君を連れてギンガー男爵に渡す『戦術魔法具』を準備するために部屋を退出して行きました。




◇◇◇◇◇◇◇





優斗に届けてもらう『戦術魔法具』の準備も終わり、ギンガー男爵は足早にベルの町を出立していきました。もう少しで日が落ちてしまう時間帯ですが、それを苦にする様子もありませんでした。きっとハロルドさん同様、任務に対して真摯に取り組む方なのでしょう。


ギンガー男爵を見送って宿の部屋に戻った私達ですが、夕食の準備が出来るまで特に何もすることはありません。それまでの間、ハロルドさんにお父さんである男爵のことを聞いてみようと話題を振ってみることにしました。


「どうでしたか? 久しぶりのお父さんとの会話は?」


「……ミユ様。別に何とも思いませんよ……何年も会っていないというわけではありませんから……」


私の問いかけに苦笑いし、照れ隠しなのか、それ以上話そうとしないハロルドさんを微笑ましいと感じていると、ふと自分の父親のことが頭に浮かんできました。


(お父さん………………)


私と優斗が急にいなくなって、お父さんはどう思っただろう……。今どうしているのだろう……。


きちんと食べているかな?

眠れているかな?

仕事のほうは大丈夫かな?


こちらの世界に来てからというもの、毎日が慌ただしく、目新しいことばかりが次から次へと訪れて、落ち着いて考える余裕が無かった父のことが、次から次へと頭の中を駆け巡り始めました。


走馬燈のように次から次へと浮かんでは消える父の面影に、もう何がなんだかわからなくなり、いっその事、大声を上げて泣いてしまって楽になりたいという衝動に駆られてしまいます。



しかし、そう思ったのもつかの間、私を現実に引き戻す呼び声が響いてきました。



「ミユ様! 姉君様!!」


「……は、はい!? ガ、ガッシュさん?」



「姉君様、先ほど『荷物』を持って出発した“ギンガー男爵”のことで重要な話があるのですが、よろしいですか?」



その言葉に私の傍らにいたハロルドさんが反応しました。


「父の事でだと! ガッシュ殿……何の話かわからんが、父への言われなき中傷であれば許すことはできんぞ!」


「……私は、私の思うところを姉君様に報告する必要があると考えたまで……中傷と受け取られるかどうかは、ハロルド殿しだいですな……」


「ちょ、ちょっと待ってください! 二人ともそんな睨み合わないでください!」


突如として剣呑な雰囲気に包まれてしまったこの場を何とかしようと、慌てて二人の間に割って入りました。


「と、とにかく二人とも離れてください! まずはガッシュさんの話を聞きましょう」


まだ感情の高ぶりが鎮まらないハロルドさんに対し、ガッシュさんは平静そのものです。さすが年長者というべきでしょうか。



「姉君様。結論から先に述べさせていただきますと、私の考察ではギンガー男爵には二心ふたごころがあるものと思われます」


「えっ!?」

「な、なんだと!!」


私とハロルドさんはもちろんですが、同じ室内にいるアレンさんも驚きの表情を隠せません。


(あれ? エミール君はまだ戻っていないのかな?)


エミール君がこの場にいないことに今更ながら気が付いた私ですが、それは些細なことに過ぎません。今はガッシュさんの言葉に集中し、耳を傾けます。


「ガ、ガッシュさんは、なぜそう考えたのですか?」

「そうだ! 父を侮辱するにも程があるぞ!!」


怒りで顔と耳が赤くなったハロルドさんですが、それに怯むことなく冷静なままのガッシュさんに厳しい視線を送るだけに留めています。


「私がギンガー男爵を『二心ふたごころあり』と感じた理由を述べましょう。……私が判断したのは、まず男爵が『マリク様から急使が来た』と言ったことと『その急使が伝えた内容』からです」


「そ、それのどこが怪しいのでしょうか?」


私には特に怪しい理由がわからず聞き返します。


「今回、サーペント伯爵家へ『戦術魔法具』を納品することは“公務”であり、秘密事項ではありません。つまり、領内の誰もが知ろうとすれば入手できる情報です。また急使が男爵に伝えた内容が『戦術魔法具』を“姉君様の判断で”ユウト様に分配しても良いという、重大事項ではないことです」


「へっ?」


ガッシュさんの追加説明でも全く理解することができず、思わず間抜けな声をあげてしまいました。


アレンさんはガッシュさんの言いたいことが理解出来たのか、「なるほど……」という顔をして、私にもわかるようにガッシュさんに確認をとりました。


「つまり……ガッシュ殿は、本当にマリク様からの使者であれば、わざわざギンガー男爵に早馬で先回りして伝える意図がわからないということですね」


「その通りです。カダイン伯爵邸を出立してからまだ半日たらず……我々に連絡を取るのであれば、普通に馬で街道を追ってくればベルの町に着くまでに追いついたはずでしょう」


「あっ! 確かに!!」


言われて初めて気が付きました。

確かにマリクさんからの伝達事項の内容は、わざわざ私達を先回りしてギンガー男爵に伝達を頼む必要は無いものと思います。


「ま、待て! 仮に父が嘘を言っていたとして、何の目的があるというのだ!」


「おそらく……『戦術魔法具』を手に入れるためでしょう。そのために嘘がばれても被害を最小限にするよう計画し、行動に移したと考えます」


「計画……ですか?」


「はい。ギンガー男爵は『戦術魔法具』をユウト様に送ることに関して、『ミユ様の裁量で』という言葉を使われました。つまり今回『戦術魔法具』をギンガー男爵に渡し、ユウト様へ配送依頼をしたのは“姉君様”となります」


「!!!!!!」


「ギンガー男爵は、受け取った『戦術魔法具』を間違いなくユウト様に届けるよう動くでしょうが、その全てを届けることはしないでしょう。何個かは自分の手元に残す算段をしているでしょう。それが今回の目的ですから……」


ガッシュさんがそこまで言うと、アレンさんもハロルドさんも沈痛な面持ちでその言葉を受け止めています。ハロルドさんの顔は先程までとは打って変わって青白くなっています。


「なるほど……貴族の当主としては考えられなくない一手ですね」

「くっ………まさか……父上が……そんな……」


「ど、どういうことですか? なぜ危険を冒してまで『戦術魔法具』を奪うなんて大それた計画を?」


失敗すればカダイン伯爵家への反逆と思われてしまう“計画”をわざわざ男爵自らが行う必要性が私には全くわかりません。自分の中でモヤモヤした何かが広がって気持ち悪く、無意識に恨めしい視線をガッシュさんに向けてしまいます。


「姉君様……『戦術魔法具』は、ザナッシュ公爵との戦争での重要な新兵器の一つです。ギンガー男爵は我が軍優勢ならば“それで良し”、劣勢であれば新兵器である『戦術魔法具』をザナッシュ公爵軍への手土産にして家の存続を考えている……ということなのです」


「更に言うならば、我々『死神の巣』の調査によると、2年前の政争で数多くのカダイン伯爵領の貴族達が暗殺された中、ギンガー男爵家のみ一人も死傷者を出しておらず、ザナッシュ公爵家への対抗心が希薄であると敵味方双方に考えられている事実もございます」


「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」


しばらくの間、沈黙が室内を支配しました。

誰もが言葉を発するのを躊躇っているかのような沈黙………


でも、私は確認したいことがあるのです。

いえ、確認しなければならないことが………


「ガッシュさん! 2つ教えてください」

「はい、何でしょうか?」


「なぜ、ガッシュさんはギンガー男爵の計画に気が付いていながら彼がベルの町を出立するまで、それを教えてくれなかったのですか?」


「……それは、ハロルド殿が共犯であるかどうかの判断が出来なかったことにあります」


「なっ!!」


ハロルドさんがその発言に声を上げましたが、ガッシュさんが今、ハロルドさんを交えてこの話をしているということは、“無実”と判明したということでしょう。


「それでは、もう一つ聞かせてください」

「はい」


「今から男爵を……ギンガー男爵を救える可能性はありますか?」


「ミ、ミユ様!?」

「!!!!!!!」


私の言葉にハロルドさんが信じられないと言った視線を向けてきます。

アレンさんも絶句しています。


「姉君様……。男爵に持たせた『戦術魔法具』は全て『空の戦術魔法具』です。そして、出立した男爵の足取りは闇属性の手の者に把握させています。……男爵自身を改心されることができれば、まだ間に合うかと……」


「「「!!!!!!!!!!」」」


ガッシュさんのその言葉に、3人に衝撃が走りました。


「すぐに追いかけましょう!!」

「ミユ様は私がお乗せいたします!」

「父は、父は必ず私が説得する!!」


「……仕方ありませんな……裏切り物は容赦なく処断するのが『死神の巣』のやり方なのですが……」


ガッシュさんのボヤキを後ろのほうに聞きながら、私達は陽が落ちた暗闇の中へと馬を走らせたのでした。




後のことをメイドコンビに任せるという無茶振りをして……


次回、ギンガー男爵に追いついたミユ達は?


いつも応援ありがとうございます。

頻繁に更新できずごめんなさい。m(__)m

どうか見捨てないでくださいませ。

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