第44話 西側領界へ(後編)(ユウト視点)
大変お待たせいたしました。
初投稿から1年経ちましたが、これからも応援よろしくお願いします。
今回は前回の続きです。
どうぞご覧くださいませ。
【視察4日目】
「あ、あれ? こ、ここは……?」
翌朝、僕が目を覚ますと昨夜眠りについたテントの中ではありませんでした。
(……馬車の中?)
どうやら、僕は寝ている間に馬車に乗せられてしまったみたいです。
身体の下には、藁がたくさん敷き詰められた敷布団が敷かれています。
そのおかげで馬車の震動がかなり軽減されていたのでしょう……走っている馬車の中なのに、本当に良く眠れた気がします。
「あっ!? ユウトくんが起きた!!」
傍に控えていたらしいミーナちゃんが、いち早く僕が目を開けたのを確認し、嬉しそうな声をあげました。すぐに外のレイシア達にも大声で知らせています。
◇◇◇◇◇◇
「ユウト様! 具合はいかがですか?」
走っていた馬車を一端停止させて、レイシアが馬車内へと入ってきました。
「う、うん……まだ頭がボーっとしている感じかな……」
鼻水や咳は出ていませんが、熱があり身体に力が入りません。
寒気がするので、無意識に掛け布団をたぐり寄せてしまいます。
「ユウトくん、これを……」
僕が寒がっている様子を察知したのか、ミーナちゃんが後ろから毛布を一枚背中に掛けてくれました。
「ミーナちゃん、ありがとう……」
首だけ振り返ってミーナちゃんにお礼を言い、再びレイシアの方へと向き直ります。彼女もそれを待ってから話を始めました。
「断りもなく、ユウト様を馬車にお乗せして出発したことをお詫びいたします」
申し訳なさそうに頭を下げるレイシアですが、僕のためを思っての行動だと思うので、謝る必要はないことを笑顔で伝えました。
「ありがとうございます。
実は昨夜、今後の事についてソアラから提案があったのです――――」
―――――昨夜、僕が就寝のためにテントに入ってから、レイシアとソアラさんは今後のことについて話合いを行ったそうです。
レイシアは、万が一の保険にと持ってきたお姉ちゃんの魔力が入った『癒しの魔法具』を使用して僕の体力を回復しながら、すぐに中央街に向けて帰還することを提案したそうです。
そう、お姉ちゃんの聖属性魔力を注いで作る『癒しの魔法具』は、『怪我』や『体力』の回復に効果がありますが、『病気』に対しては効果がありません。
本来、聖属性魔法には『病を癒す効果があるものも存在していた』そうですが、長年『聖属性所持者』が不在だったため、その魔法が公には何も伝わっておらず、マリクさんでも何か資料がなければ研究することも出来ないとのことでした。
『癒しの魔法具』については、同様の効果をもたらす『水』と『光』の魔力から作る『魔法具』が、すでに世界に数多く普及していたこともあり、マリクさんもすぐに作成することが出来たのだとか……。
さて……一方、ソアラさんの提案は『死神の巣』の仲間が、僕たちの目的地である『西側領界の砦』にも最低1名は潜伏しているので、連絡をとって薬があるかどうか確認し、あった場合はこちらに持ってきてもらうというものでした。
話し合いの結果、まずはソアラさんが、砦に潜伏しているという『死神の巣』の仲間に連絡をとってみることになったそうです。
彼女はすぐに花火のような信号弾を用意し、何回か間隔をおいて高々と打ち上げて仲間に合図を送ったそうです。すると、遠くに見える砦から光を用いた返信があり―――――その後、しばらくの間、光による交信を行ったそうです。
(……モールス信号のようなものかな?)
「――――その交信によると、薬は少量ですが1回分あるということがわかり、すぐにこちらに持ってくるよう命令したとのことです。また、少しでもユウト様に早くお届けするために、ソアラも馬で先行し、私達も昨夜の内に砦に向けて出立したというわけです」
(!!!!!!!!)
―――――驚いた。
まさか、そこまで皆が僕の風邪のために動いてくれていたなんて……。
元の世界でも家族以外に優しくされた記憶のない僕は、感極まってしまいました。
(どうやって皆にこの感謝の気持ちを伝えたらよいだろう……)
次から次へと目から涙がこぼれ落ちてしまいます。
それを隠すために慌てて袖口で涙を拭いて下を向きましたが、しっかりと二人に見られてしまったようです。………恥ずかしい。
そんな時、外からシーリス達の歓声が聞こえてきました。
「レイシア様!! 先行していたソアラが、ソアラが戻ってきました!!」
◇◇◇◇◇◇
砦へと馬で先行したソアラさんは、同じように砦から出立した『死神の巣』の仲間と予定通り途中で会うことができたそうです。陶器製の小さな壺に入った薬を無事持ち帰りました。
「ユウト様……いかがですか?」
ソアラさんが息を切らせながら、薬を飲み干す僕の様子を見守っています。
(……と、トマトジュース?)
色は緑色なのですが、とても酸味が強いトマトジュースのような味がします。
どうしても眉間にシワがよってしまいますが、ソアラさんには「大丈夫!」と言って丁寧にお礼を言いました。
薬の酸味のおかげで目が冴えたせいか、少し身体のだるさが取れたように感じました。もしかしたら本当に薬が効いたのかもしれませんが、残念ながら確証はありません。
「ふぅ……それで、そなたらの仲間は何と?」
僕が問題無く薬を全部飲み干したのを確認したレイシアが、安堵の溜息をつきながらソアラさんに問いかけました。
「はい。同胞の話によると……残念ながら砦内で手に入る薬は、それが最後の一個とのことでした。しかし、運よく砦には私の兄『グレイ』達の一行が到着しており、ユウト様の話を伝えたところ、薬草を採取できる山へ先行してくれることになりました。山には最近“山賊”が出没するそうですが、それも先に処理しておくとのことです。山までは、ここからですと……おそらく昼過ぎには合流できると思います」
グレイさん達の『一行』ということは、以前から話にあった『闇属性』の方を僕の身辺に仕えさせるという件だろうか?
どんな人達が来るのかは聞かされていないけれど、きっとソアラさんのように強そうな人達に違いないと思う……。最初の出会いが風邪でダウンしている情けない状態なのは、“彼らの主人”として恥ずかしいような気がします。
僕は少しでも体調を回復させて、きちんとした挨拶を“彼ら”と交わしたほうが良いのでは……と考え、目的地に到着するまで、引き続き移動する馬車の中で休ませてもらうことにしました。
「はい、了解しました。ゆっくりとお休みください。現地に到着しましたら、ミーナを通じてお知らせいたしますので……」
「兄達も心配しておりました。早く元気になってくださいませ……“彼女達”もユウト様にお会いできるのを楽しみにしているでしょうから……」
レイシアとソアラさんから暖かい言葉をもらいながら、再び馬車内の布団に横になりました。藁でできた柔らかい布団は香りも良いので、すぐにまた眠りにつくことができそうです。
(―――――あれ? ソアラさん……“彼女達”って言った?)
◇◇◇◇◇◇◇
「ユウトくん、目的地に到着したみたいだけど……起きられる?」
ミーナちゃんの優しい声で目を覚ました僕は、自分の身体の調子を確認しながら、ゆっくりと身体を起こしました。
「うん。……まだ熱っぽいけれど、起き上がれるくらいに回復したみたいだよ」
「良かった……」
ホッと胸をなでおろしている彼女をみると、本当に心配をかけてしまったなぁ……と申し訳ない気持ちで一杯になってしまいます。
僕が馬車から降りて、外にいる女性騎士達に回復した姿を見せると、みんな本当に嬉しそうに微笑んでくれました。
僕達が到着した場所は、ソアラさんが持ってきてくれた薬を飲んだ地点から街道を外れて南西に進んだところにある山のひとつでした。西側領界の砦からだと、東南の方角になるのでしょうか。
山賊が出現していると聞いていたので、勝手に山肌が露出した“荒れた山”をイメージしていたのですが、そんな様子は全く無く……どちらかというと、子供達でピクニックが楽しめそうな明るい雰囲気の小さな山です。木々が密集しているような箇所もほとんど無いので、山の奥に入っても適度な明るさがありそうです。
そんなふうに目の前の山の様子を伺いながら、自分の体調を改めて確認してみます。薬を飲んで馬車の中でゆっくりと眠れたのが良かったのでしょうか。まだ熱っぽさはありますが、身体能力はかなり回復したようです。ふらつくこともなく、しっかりと歩くことが出来ています。
しばらくレイシアとシーリスに付き添われながら馬車の近辺を歩いていると、ソアラさんの声が聞こえてきました。
「ユウト様! 兄が、グレイが参りました!」
声がした方向に顔を向けると、グレイさんだけでなく、ギルスさんとデルガドさんも一緒でした。彼らに会うのは久しぶりになります。
グレイさんはギルスさんから木製のコップを受け取ると、僕の前まで来て片膝をつきました。他の二人も同じようにしています。
「ユウト様、お久しぶりです。妹からユウト様の身体のことを聞き、心配しておりましたが、こうしてお会いすることができ安心いたしました。まずは、この山で採れた新鮮な薬草を煮詰めて作りました“薬”をお飲みください」
そう言って差し出されたコップをグレイさんから受け取りましたが……
(うっ!? こ、これは!!)
強烈な匂いです! ものすごく青臭い匂いです!
生暖かく、見た目は葉の形がふんだんに残っている『青汁』のようです。
(こ、これ飲めるんだよね……と言うよりも、僕がこれを飲むの?)
思わず顔が引きつってしまいましたが、グレイさんをはじめ周りの皆が「さぁ早く!」「さぁ、どうぞ!」と言った感じで急かす視線を送ってきます。
ふと気が付けば、さっきまでこの場にいなかったマリーカやライナ、ミーナちゃんやギリアムさん、御者の方々までが僕を囲むように傍に立っていました。
(えぇ!? そんな……逃げ場を塞ぐみたいに!)
じぃ――――っ
じぃ―――――――――っ
じぃ―――――――――――――――っ
時間が経つたびにドンドン皆の視線が痛くなってきます……。
(こ、これは…………い、いくしかない!!)
「え、えい!!」
グビッ!
グビグビッ!!
グビグビグビグビグビグビッ!!!
「……………げ、げぷっ!」
―――――――――― 一気に飲み干しました。
………そして後悔しました。
さらに、
「さすがユウト様! 大人でも嫌がる“激マズ薬”を一気飲みとは……」
―――って言ったギルスさんに怒りが込み上げました。
………でも、それ以上に吐き気が込み上げてきて大変な状況です……。
◇◇◇◇◇◇
5分後――――――――
身体が熱い……そして気持ち悪い………。
山の麓で飲んだ薬のせいに違いないのですが、グレイさん達の好意を無駄にするわけにはいきませんでした。
そして「薬が効いて身体が楽になりました」と感謝と回復のアピールをするためにも、今僕は気合を入れて山に登っています。
すでに『死神の巣』から来た闇属性の人達が、山の中腹で“山賊討伐任務”を遂行しているとのことです。
さらにグレイさんから、遂行しているのが“男性”ではなく5人の“少女達”だと聞かされてとても驚きました。
(山賊退治が出来るほど強いなんて……。
なんだか、彼女達に会うのが怖くなってきたかも……)
山に登る前……レイシア達は、僕の体調と『死体を見たことが無い』という経験不足を考慮して、「少女達が下山してくるのを待ってはいかがですか?」と提案してくれましたが、これは僕にとって貴重な体験が出来る機会になります。
仮にも『軍師』を拝命している僕が『まだ死体を見たことがない』のでは実際の戦場で恥ずかしい姿をさらすことになるかもしれません。体調が悪いのは間違いありませんが、ここは無理をしてでも“山賊討伐の現場”を見に行くべきだと判断しました。
15分ほど山を登ると、風に乗って何やら異臭が漂ってきました。
生臭いニオイ……そして何だか鉄臭い嫌なニオイが鼻につきます。
「ユウト様、“生臭いニオイ”は死体のものです。“鉄臭いニオイ”は血液ですね。もう少し時間が経つと死体はもっと腐敗してニオイがきつくなりますので、早急に焼却するのが良いのです」
レイシアが何でも無いような顔で教えてくれましたが、これが経験の差なのでしょうか? 僕とミーナちゃん以外は、皆平気そうに歩みを進めています。
それからしばらく臭いニオイと、湧き上がってくる気持ち悪さに耐えながら歩いていると、
「あっ! ユウト様、現地に到着しましたよ」
シーリスが前方を指し示しました。
僕の前には、シーリスだけでなくレイシアも並んで歩いており、その数メートル先の先頭にはグレイさんが歩いています。三人とも当然僕よりも背が高いので、僕は前方を確認するために彼女達の隙間から先の方を覗き込みました。
そこで僕が目にしたのは……
①窓とドアから黒い煙を上げている小屋
②その周りに転がって無残な姿を晒している死体の数々
③楽しそうに食事をしている少女達
……です。
(えぇ!! う、うそでしょ!!)
自分の目を疑いました。
血を流し、目を見開いたまま絶命している死体の数々……。
生まれて初めて見るその壮絶な光景に身体が震えはじめました。
そして更に信じられないのは、その中で笑いながら食事をしている五人の少女達の姿です!! しかも、その中の一人は全身に返り血を浴びたのか、頭から足の先まで赤黒く……いえ、濃い茶色と言ったほうがよいでしょうか、バケツを使って頭から塗料を被ったかのように全身が染まっています。
(う、うぷっ!!)
視覚と嗅覚が刺激され、更に気分が悪くなってしまいましたが、残念な事に目の前の光景に驚愕している間に、彼女達の元へたどり着いてしまいました。
五人の少女達は、僕をジッと見つめて何やら驚いている様子です。
少し僕から距離を置いて立ちすくんでいます。
しばらくの沈黙の後、キレイな銀髪の少女が声を上げました。
「若様! 私達、無事に任務完了しました!
お客様にご挨拶したいのですが、よろしいでしょうか?」
「あぁ……そうだな。ユウト様、この少女達が先ほどお話した者達です」
「う……うん……わかりました。ありがとう……」
グレイさんの言葉に何とか返事をした僕ですが、かなり限界が近づいています。
込み上げてくる吐き気……だんだん足にも力が入らなくなってきました。
彼は今の返事で僕の異変に気が付いたのでしょうか?
少し顔がひきつったようにも見えました。
「それでは、リーシャ! 皆を代表して先にユウト様へご挨拶を!
失礼のないように“手短に”な!」
その言葉と共に僕の前へと進み出て片膝をついたのは、よりによって“全身血まみれの少女”でした。彼女が近づいたことで、さらに血の強烈な臭いが僕に襲い掛かってきます。
(う、うぐぅ……)
「お初にお目にか――――。このよう――――――――――――、なにとぞ―――――――――――――お許しくだ――――――」
――彼女の言葉が耳に入ってきません。もう我慢の限界です!!
このままだと、“全身血まみれの少女”に向けて頭上から嘔吐してしまい、“全身汚物まみれの少女”にしてしまいます。
そ、それだけは……それだけは避けなければなりません。
最後の気力を振り絞って声を発し、足を動かします。
「だ、だめだ………」
「えっ!?」
「……も、もうだめだぁ――――――――――――っ!!」
僕は叫ぶと同時に、背後の大木のもとへと駆けだしました。
そして――――――――
……大木の根元に大量に嘔吐しつつ、そのまま意識を手放してしまいました。
◇◇◇◇◇◇
夜―――――――――――――
目が覚めると、どこかの部屋のベッドで寝かされていました。
(ここは……どこだろう?)
そう疑問に思って起き上がろうとすると、僕のベッドの傍らに座っていたらしいソアラさんが声を上げました。
「ユウト様! 気が付かれましたか?」
彼女は僕の容態を確認すると、すぐに首から下げている笛のようなものを口に含みました。
(!?)
笛から音がしないところから推測すると、犬笛のようなものなのでしょうか?
彼女の笛を興味津々で見つめていると、廊下のほうからドタドタと複数人の足音が聞こえてきます。そして部屋の扉の前まで来ると、扉をノックした後、部屋の中へと皆が入ってきました。
「ユウト様! お加減はいかがですか?」
「急に倒れられて心配しました……」
「あまり無理をなさらないでくださいませ」
「何が起こったのかとオロオロしてしまいました……」
レイシアやシーリス、マリーカにライナが僕のベッドの傍に駆け寄ってきます。
「ユウトくん……大丈夫?」
ミーナちゃんが本当に心配そうな視線を僕に向けてきます。
(あぁ……本当に皆に迷惑かけちゃたなぁ……)
どうやら僕は山で倒れた後、馬車で西側領界の砦まで運んでもらったようです。
現在いる場所は、砦内の軍用宿泊所とのことでした。
反省と皆への感謝の気持ちをどう伝えようか……頭の中で一生懸命言葉を選んでいると、グレイさんとギリアムさんが“五人の少女”を伴って入室してきました。ギルスさんとデルガドさんの二人はドアの外で見張りに立つようです。
「ユウト様……この度は、この者達が大変失礼いたしました。これよりは、ご迷惑をおかけしないよう真摯に仕えさせますので、どうぞご容赦ください。さぁ、皆でユウト様にお詫びと自己紹介を……」
(えっ? 彼女達は何も悪くないと思うけれど……)
グレイさんの言葉に困惑している僕の前に、一人の少女が進み出ました。
「ユウト様、この度は見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ありませんでした。
私はリーシャと申します。以後お見知りおきを……」
僕の前で恭しく頭を下げている少女は、あの“全身血まみれ”だった少女です。少女といっても僕よりも年上の14歳とのことで、紺色のセミロングの髪を後ろで一つに束ねている大人しそうな女の子です。とても最初に会った子と同一人物とは思えません。
リーシャから謝罪と自己紹介を受けた後は、銀髪がとてもキレイな『アイカ』、魔法使い志望の『メリッサ』、騎士に憧れているという『ゼナ』、料理が大好きだという『レア』と少しずつ会話を交わしました。
彼女達と話してみるにつれて、昼間“山賊退治”を行ったのは、本当に彼女達なのか疑念を抱いてしまいました。それぐらい彼女達は、普通の女の子と変わらないように思えました。
そして、彼女達も『僕の素性』について疑念を抱いているようでした……。
「あ、あの……ユウト様は………本当に『魔王』様なのですか?」
「「「「 !!!!!!!!!!!!! 」」」」
アイカの言葉に他の4人が驚愕の顔をしています。
どの顔も「この子、本当に聞いちゃった!」って考えているのが良く分かります。
(う~ん……やはり、そう疑念を抱くよね……)
僕が彼女達の立場だとしたら、同じような心境になると思います。
なぜなら、『魔王』に仕えるように命令を受けて何日もかけて故郷から出てきたのに、出会った『魔王』は10歳の子供で、死体と血を見てゲロゲロと目の前で嘔吐し、しかも気を失ってしまうくらいの軟弱男子なのだから……。
「ユ、ユウト様! も、申し訳ありません。この娘たちはユウト様の力を目の当たりにしたことが無いので……」
グレイさんが慌てて謝罪してきたけれど、アイカの質問は当然のことだと思います。
僕も、何とか彼女達に信用してもらえないかな……と、とりあえず銀色の『魔属性』の魔力を手の平の上に放出してみました。
「これで……どうかな?」
「「「「「 !? 」」」」」
僕の手の平の上で、野球のボールくらいの大きさの『魔力球』が浮いています。
銀色に輝いていて、明らかに『魔属性』だとわかるはずです。
(・・・・・・・あれ?)
予想外に少女達の反応が鈍いです……。
もしかして、もっとスゴイ魔法とかを期待していたのでしょうか?
(う~ん……もっと何かスゴイこと……スゴイこと……)
“スゴイこと”と言っても、僕が『魔属性』の魔力を使ってできることなど、力任せに魔力を大きくして放つ『魔力弾』くらいしかありません。『魔属性』の魔法は、お姉ちゃんの『聖属性』の魔法以上に公になっているものが無く、『死神の巣』や『闇属性』の人々に“魔属性魔法が記載されている文献”などが存在していないかを、今調べてもらっている真っ最中なのです。
(困った……何か……こう……みんなが「ユウト様! スゴイです!!」って言ってくれるような魔法は………)
眉間にシワを寄せ、目をギュッと閉じながら必死で考えていると、僕の前方に立っていたリーシャから囁くように小さな声が掛けられました。
「ユ、ユウト様? ま、魔力が……大きく……」
(えっ?)
ふと、我に返って自分の目の前にある『魔力球』に目をやると、さっきまで野球ボールくらいだったのが、二回り以上大きくなっています。
……そう、目の前のリーシャの胸くらいに――――
(――――――胸!?)
思わずリーシャの“豊かな胸”に視線が釘付けになってしまいました。
お姉ちゃんには絶対秘密なのですが、小さい頃にお母さんが亡くなってから……無意識に『母』という存在に飢えているのでしょうか? 胸の大きな女性を見ると、つい目で追ってしまう癖があるのです……。
(…………ゴクッ)
思わず唾を飲み込んでしまいました。
すると、次の瞬間――――――――――――!!!
目の前の『魔力球』がさらに膨れ上がると、部屋の中にいる僕以外の全員の身体の中へと吸い込まれ始めました。
シュワァァァァァァ―――――――――――――!
シュワァァァァァァ―――――――――――――――――――――!
あっという間に『魔力球』は跡かたなく皆の身体に吸い込まれて消え去ってしまいました。
「い、いったい何が?」
冷や汗を流しながら、周りの様子を確認しようと顔を上げると――――
と、とんでもない事態を引き起こしていました!!
◆レイシアとシーリスが――――
「ああぁぁぁぁ――――――――ん♪ そんな! ユウト様!」
「や、やん! だ、ダメです。そこは……だめぇ!!」
自分で自分の身体を抱きしめながら、何かに耐えています。
◆マリーカとソアラさんが――――
「あっ! あっ! あぁん……いぃ……そこ……そこ……ぉ!!」
「なに? なに? 私、わたしの―――身体が、からだが………」
胸と股間を抑え、壁に身体を預けながら悶絶しています。
◆ライナとミーナちゃんが――――
「んん―――――――――っ! こんな……こんなぁ―――あんっ♪」
「だ、ダメだよ! ユウトくん! はぅぅ……はうぅぅぅぅぅ!!」
もう立っていることが出来ず、床に転がりながら身体を震わせています。
◆リーシャとアイカが―――――
「くるっ! きちゃう! 何かが……なにかスゴイのが――――!!」
「や、やんっ! あ、あぅぅ……あっ、やぁ――――――ん!!」
二人はお互い抱き合いながら、初めての感覚に身をゆだねています。
◆メリッサとゼナ、そしてレアが―――――
「あぅぅ……ああっ!! こんな魔法が………あるなんてぇ……」
「ま、負けません……騎士は、騎士はこんなことでぇ―――ひゃん♪」
「ユウト様………もっと、もっとレアを……レアを……」
三人とも床に腰だけを高く上げた四つん這いになりながら、僕のほうをウットリと見つめています。
■さらにグレイさんとギリアムさんまでが――――――
「ユ、ユウト様! いけません! こんな……こんなぁ―――あぅぅっ!!」
「ぐぉぉぅ……そんな、この俺が……この俺が、女性以外にぃぃ――――!!」
股間を抑えながら何やら屈辱に耐えているようです……。
(ど、どうしよう! どうしよう……!!)
僕の魔力が引き起こした『媚薬効果?』に、もう何をどうしたら良いのか全くわからず、“あたふた”していると、室内の異変に気が付いたギルスさんとデルガドさんが勢いよく扉を開けて入ってきました。
“バァ―――――ン”
「ど、どうされました?」
「いったい何が――――!!」
「あっ!! ギルスさん、デルガドさん実は―――」
僕が二人に理由を話そうとすると、室内の惨状を見渡した二人が絶句しました。
「・・・・・・・・・・はっ?」
「・・・・・・・・・・へっ?」
恍惚な表情を浮かべて床に転がっている女性達………。
熱い吐息を出しながら、時折「ビクビク」と身体を震わせています。
あるものはヨダレを流し、あるものは失禁しています。
二人の男性は――――
股間を押さえながら“何か”に負けてしまった自分に涙を流しています。
そんな光景を目の当たりにした二人は、
「えぇっ!? 全員を………わ、若まで!!」
「――――――す、すごっ!!」
僕を人で無いものを見るような目で見た後、
「お楽しみのところ、失礼いたしました」
「どうぞ、続きを………若とギリアム殿にはお手柔らかに願います」
そんな言葉を残し、
“ギィ――――――――ッ”
“パタン”
――――行ってしまいました。
(ち、違うんだよ!! これは、違うんだよ―――――――――!!)
僕の心の叫びは二人には届かず……
結局、床に転がっている皆の気持ちを考慮して、他の誰にもこの醜態が見られないように、僕一人で皆を朝まで介抱したのでした。
◆◆◆◆◆◆
翌朝――――――――
「ユウト様……昨夜は凄かったです♪」
「また……今度は二人きりで……お願いしますね……」
女性陣から僕に向けられる視線は一層熱いものとなり………
グレイさんとギリアムさんとは、何だか気まずい雰囲気が漂う感じになってしましました。
さて、今日も僕の体調は全快とは言えません。
しかし、その日は皆で砦とその周辺の視察をしっかりとこなして任務を完遂し、翌日カダイン伯爵邸に向けて帰路につきました。
何だか色々な意味で疲れた視察となったのでした……。
文が長くなってしまい申し訳ありませんでした。
次回から気を付けます……。
次は、ミユの話に入る前に何か“短編”を入れようかと考えています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ブックマーク、評価いつもありがとうございます。
引き続き応援よろしくお願いいたします。




