第43話 西側領界へ(中編)(ユウト視点)
お待たせしました。
前回の続きになります。
今回は視察2日目~3日目です。
【視察2日目】
朝、パルム村を出立した僕たちの一行は、次の目的地であるベルネの町へ向けて移動しています。
一台目の馬車には僕とミーナちゃん、そして昨夜の一件で風邪をひいたギリアムさんが寝込んでいます。二台目の馬車には全員分の荷物と食料など、三台目の馬車には『お湯浴び』用の大きなタライが載っています。レイシア率いる護衛騎士の面々とソアラさんは、馬に乗って三台の馬車の左右を固めるように並走しています。
「ハッ……ハァ―――ハックショ~~ン!!」
ギリアムさんが豪快にクシャミをしました。
「うるさいです!」
「静かにしろギリアム!!」
「ユウト様に風邪をうつさないように!」
昨日の一件もあり、ミーナちゃんとレイシア、ソアラさんが馬車の内外からギリアムさんに冷たい言葉を浴びせています。
「そ、そんなこと言っても……裸で一晩外に放り出されれば、誰だって風邪をひくだろうが……。それにレイシア! 本当に俺の“大事なモノ”が使い物にならなくなったらどうしてくれるんだ! 気絶するまで電撃を浴びせやがって!!」
「ふんっ! 世の女性のためにも、そうなったほうが良かったのにな!」
風邪声で怒っているギリアムさんを、レイシアが軽くいなしています。
昨夜の一件で、第一軍団長ギリアムさんの威厳が地に落ちたのは明らかで、今後女性騎士には頭が上がらなくなるように思います。
僕には何故ギリアムさんが、あんな無謀なことをしたのかがわかりません。
軍の間でのみ許される“スキンシップ”のようなものだったのでしょうか?
元の世界では、冗談にしても度が過ぎるレベルだと思うので謎が深まります。
それについて、昨夜シーリスに聞いてみると「溜まっていたのですよ……きっと」と言っていましたが、何が溜まったのでしょうか? “それ”が溜まると僕もギリアムさんのような行動を起こす可能性があるのでしょうか?
不安になって今朝マリーカにも聞いてみましたが、「ユウト様なら、いつでも大歓迎です♪ それに、私達は早くユウト様が成長されて“それが溜まる”ようになられるのを心待ちにしているのですよ」と、柔らかな笑顔と一緒に言葉を返してくれました。
(う~ん……全くわかりません。)
視察から帰ったら、お姉ちゃんに聞いてみようかと思います。
きっといつものように、わかりやすく教えてくれるはずです。
◇◇◇◇◇◇◇
僕達視察団一行は、パルム村を出てしばらくは広大な農場の真ん中を突っ切るように進んで行きました。農場を過ぎてから一度休憩をとり、さらに先へと進むと見晴らしの良い丘へとたどり着きました。ここで2回目の休憩です。
僕は馬車から降りて身体を伸ばすと、ベルネの町がある方角に目をやりました。はるか前方にそれらしきものが小さく見えているように思いますが、まだまだ距離はありそうです。
「おそらく町への到着は夕方になるのでは……」と御者の人が教えてくれました。前方には広大な草原が広がっています。どうやら街道が舗装されているのは、このあたりまでのようです。町に近づけば、再び舗装された道になるとのこと。ここからは馬車の往来で自然に出来た道に沿って進むようになります。
進行方向を見て左側、つまり南の方角を見てみると、遠くの山が西側領界のほうまで連なっているのがわかります。反対の北の方角には森林が広がっていますが、さらにその先に目をやると同じように山々が連なっていて東西に果てしなく広がっています。
この視察の終着点である『砦』は、崖に左右を挟まれた位置にあると聞いているので、おそらく、今見えている南北の山脈の合流地点が西側領界の『砦』の場所になるのかもしれません。
「ユウト様、どうかなさいましたか?」
丘から遠くを見つめて呆けている僕をマリーカが気にしてくれました。
「ううん、何でもない。ただ、前方に広がる景色を見て“広いなぁ……”と改めて思っただけだよ。そういえば、この世界には『望遠鏡』ってあるのかな?」
「ボウエンキョウ……ですか?」
「遠くを見るのに使う道具なんだけど……」
「そうですか……いえ、聞いたことがありません。でも、小さいものを拡大して見ることが出来る道具は聞いたことがあります」
(!!! 虫メガネ? ……いや老眼鏡かも……)
「ユウト様、それなら私も聞いたことがあります」
不意に後ろから声を掛けられて振り向くと、レイシアが立っていました。
「エメラダ神聖国に留学していた時のことですが、貴族向けの高級雑貨店で見かけたことがあります。当時まだ存命していた私の祖父にどうかと思ったのですが、かなり高額で販売されていて手が出ませんでした。確か……材質はガラスで『オーバル』という商品名だったと記憶しています。手に持って、こう……見たいものの上にかざすと小さな文字が大きく見えるのです」
「なるほど! レイシア、それはカダイン伯爵領でも作れるかな?」
「ガラス自体は、領内の職人でも普通に作っているので簡単に手に入りますが、『オーバル』の作成技術については、エメラダ神聖国が秘匿しているようです。彼らにとっては収入源の一つみたいですから……」
「そうなんだ……。レイシアもマリーカも教えてくれてありがとう!」
「いえ、これしきのこと……」
「お役に立てたのなら幸いです」
(よし! お姉ちゃんに聞いてみることが、また一つ増えたぞ!)
材料が手に入るのなら、お姉ちゃんの知識と職人さんの腕で『望遠鏡』は出来るのではないか……そんな期待に胸が膨らみました。
その後、たわいのない会話を皆で交わしながら休憩時間を過ごし、再びベルネの町へ向けて出発したのでした。
◇◇◇◇◇◇
夕方―――――
ベルネの町は驚くほど小さな町でした。パルム村のような大農場を見学した後だからそう感じるという理由ではなく、明らかにラルフ村やリッタの町よりも小さいです。人口も100名弱とのことでした。
「もともと、中央街と砦の中間点に設けられた『休憩所』が起源ですから……」
僕が乗っている馬車の御者さんが苦笑いしながら教えてくれました。
西側領界の砦と中央街の中間点にあるという立地ならば、もっと大きく発展していても良いのでは……と思いましたが、商人の視点から考えてみると、その理由が良くわかります。
王都の商人がカダイン伯爵領の中央街まで商品を運ぶ場合、王都で仕入れた商品は、目的地である中央街まで運んでから販売するのが一番高く売れます。そのため、途中にあるベルネの町で販売すると損になってしまいます。また、帰りも同様に中央街で仕入れた商品は、王都で高く販売できる商品ばかりなので、ベルネの町で販売されることが無いというわけです。
ベルネの町でしか購入できない『特産品』があるのなら話は別ですが、残念ながらそれも無いみたいです。西側領界が閉鎖され、王都と中央街を行き来する交易商人がいなくなった現状では、ベルネの町はパルム村など近隣からくる“領内の商人達”によって生かされている町と言っても過言ではなさそうです。
「町の中の道路が狭いので、軍が通過するのは避けたほうが良いですね」
僕がそう呟くと、
「はい。町を迂回するように軍用道路を整備してはどうでしょう?」
レイシアがいつになく真面目な表情で提案してくれました。
「うん、それはいいね。町のすぐそばを通るように迂回道路を建設すれば良いと思う。町の内外に井戸がたくさんあるみたいだし、川も近くに流れているから、迂回道路と一緒に軍が宿泊できる場所も広範囲に整地すれば便利だと思う」
僕が彼女の提案を全面的に賛成すると、とても嬉しそうな表情になりました。
その後、ひと通り町の中を視察し、町長に“迂回道路の建設”について話をすると、予想外に涙を流して感謝されてしまい、とても驚きました。
どうやら2年前に西側領界が閉鎖されて以降、交易商人の数が激減したことを受け、日々の暮らしに困る者が後を絶たず、町の住人の多くがパルム村や中央街に出稼ぎに行っているとのこと。
つまり“迂回道路の建設”という公共事業に参加させてくれるのは大歓迎とのことでした。中央街では政争の影響による“不景気”という感じが全く見受けられなかったので、ベルネの町の現状をマリクさんに報告し、援助などを考えてもらっても良いのかもしれません。
町長宅での用件が終わってレイシアと一緒に外へ出ると、シーリスが僕に向かって猛然と駆け寄ってきました。
それを見て「何かあったのかな?」と思わず身構えてしまいましたが、
「今日のお仕事はここまでです! さぁ『お湯浴び』の時間ですよ♪」
と、満面の笑みで僕に手を差し伸べてきたので、苦笑いしてしまいました。
(そういえば、今日はシーリス・マリーカ・ライナが担当の日だったかな……)
僕は浮かれているシーリスに手を繋がれたまま、一緒に宿泊所のある方向へと連れていかれたのでした。
◇◇◇◇◇◇
「さぁ、ユウト様! キレイになりましたよ!」
シーリスが満面の笑顔で僕の身体洗いが終了したことを告げてくれました。
今夜はシーリスが前、マリーカが背中側を布で丁寧に拭ってくれました。
ライナは昨日のミーナちゃんと同様に、時々僕の身体が冷えないように小さな桶を使ってお湯をかけてくれる役割です。
「ユウト様……それでは、次は……」
マリーカが僕の肩越しに小声で話しかけてきました。
良い香りのする暖かい吐息が、僕の耳にかかって少しくすぐったいです。
そして、彼女の柔らかい膨らみが背中に軽く押し付けられているのがわかり、赤面してしまいます。
「私達を……洗ってくださいませ……」
そう、『お湯浴び』は“お互いの全身”を洗い合う行為なのです。
元の世界でも……そして、こちらの世界でも、最初は僕とお姉ちゃんがお互いの“背中”を洗いっこするという行為だけ……だったのですが、お姉ちゃんの代わりにレイシアをはじめとする女性騎士の方々が『お湯浴び』を独占するようになってからというもの、いつの間にか“全身”を洗ってもらうようになり、そのお返しに彼女達の全身を洗ってあげる行為へと変わってしまったのです。
「うん。それじゃあ拭いてあげるね」
マリーカから身体を洗う為の布を受け取ると、それをお湯に浸してから彼女の身体を拭い始めます。
最初は首の周りを、次は腕を拭って…それから背中へと手を動かします。
「あぁっ! ……あんっ……は、はぅぅっ…………」
マリーカの色っぽい声が小さく漏れ聞こえてきます。
彼女はいつも背中を拭っている時に、一番声を出して反応します。
ほとんどの女性騎士は、胸や股間などを拭っている時に同じように声をあげて反応したり、声が出るのを我慢したりするのですが、マリーカのように背中で声を上げる人は少なかったように思います。
そういえば、ライナやミーナちゃんは「くすぐったい!」と言って途中で嫌がることが多いかなぁ……。年齢や個人差が関係しているのでしょうか?
今度お姉ちゃんに聞いて……いや、何か恥ずかしいから止めておこう……。
そうして、マリーカの全身を拭い、次にライナの身体も拭って終わりました。
最後はシーリスの番ということで、彼女の身体を拭うべく準備した僕だったのですが、何故か身体を洗う布を取り上げられてしまいました。
「ユウト様、お願いです……。 今日は、直接洗っていただけませんか?」
「!!!!!!!!!」
「!!!!!!!!!」
「えっ!?」
突然の過激な発言にマリーカとライナの二人は絶句し、僕も驚きの声を上げてしまいました。
「ちょ、直接ってことは……『手』でってことだよね?」
「はい♪」
「シーリス! は、恥ずかしくないのですか?」
「そ、そうですよ!」
マリーカとライナが慌てた様子でシーリスを止めようとしているけれど、シーリスは全く気にしていないみたいです。
「だって、レイシア様も言っていたじゃありませんか! この視察の目的の一つとして、『ユウト様との“お湯浴び”を楽しみましょう!』って……」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
今度は僕までが言葉を無くしてしまいました。
シーリスが期待に満ちた目で僕をみつめてきます。
……どうやら、もう引き返せそうにありません。
恥ずかしいですが、ここは彼女の希望通りにしようと諦めました。
……でも、さすがに正面からシーリスの身体を撫でていくのは恥ずかし過ぎるので、彼女には後ろを向いて膝をついてもらいました。
それから僕は手をお湯で温めてから、手の平をゆっくりとシーリスの首筋から背中へと動かしていきました。
「あっ……、ふぁ……!」
彼女から吐息と声が漏れ出ていますが、今の僕にそれを気にしている余裕はありません。シーリスの身体を直接手で触っているので、彼女の肌の柔らかさ、張り…そして瑞々さ……とても気持ち良く伝わってきます。もっと触っていたいという欲求が溢れてきてしまいます。
僕は、それを振り払おうと一生懸命に手を動かして彼女の身体を拭っていきました。両腕を洗い、一度立ってもらってからお尻と両足を洗います。
「んっ……! あ……あっ、きもち……いいです。ユウト様……」
((………ごくりっ))
マリーカとライナが瞬きもせずに僕たちを見つめています。
二人ともシーリスの反応に気を取られているせいか、僕にお湯をかけてくれていた手が止まっています。
少し寒くなってきました……。
さて……残すは、彼女の前と股間だけとなりました。
僕は意を決して、両手を彼女の背後から脇の下を通して前へと出しました。
そして極力彼女の胸を揉まないように、軽く触るような感じで胸のあたりを洗っていくと……
「あぁっ……そん…な……ユウト…さ…まぁ……。も、もっと……」
「わ、わかった!」
シーリスの言葉に一生懸命に応えるべく、今度はしっかりと力を入れた手で彼女の胸に手をあてて念入りに洗っていきます。
「ああんっ!! い……いい♪
ん、んん……だ、だめですユウト様……私、わたし…! もう……!!」
そして次の瞬間―――――
バッシャ―――――――――ン!!
「きゃぁぁ―――――! ユウト様!!」
「た、大変です!!」
その直後、僕は気を失ってしまったみたいで詳しいことは良くわからないのですが、シーリスの全身の力が急に抜けてしまい、自分で身体を支えられなくなり、僕の方へ倒れてしまったそうです。
そして当然のごとく僕は彼女の身体の下敷きになって水没してしまい、マリーカとライナによって救出されたということです。
「……くしゅんっ!!」
………どうやら僕も風邪をひいてしまったようです。
◇◇◇◇◇◇
【視察3日目】
昨夜の『お湯浴び』が原因で風邪をひいてしまった僕ですが、シーリス達の謀略によってギリアムさんが僕に風邪をうつしたことになってしまいました。
そういうわけで、ギリアムさんは昨日に引き続き今朝も女性騎士達に罵声を浴びせられる事になってしまったわけですが、本人はあまり気にしていない様子です。
僕は、彼の誤解を解いてあげようと思いましたが、そうすると必然的にシーリス達がレイシアに怒られることになります。彼女達が罰を受ける姿を想像してしまうと、何だか可哀想に思ってしまったので、ギリアムさんには悪いのですが今回は黙っていることにしました。
(ギリアムさん、ごめんなさい!)
視察3日目は、ベルネの町を出発して西側領界の砦へと向かいます。
町と砦の間は馬車で2日分の距離があるようで、ちょうど中間地点まで進んだ頃に日が暮れてきたので野営する形となりました。
ここまでの道中、特に何もなく順調に移動できましたが、僕はこの3日目の野営地点が、ザナッシュ公爵軍を迎撃する最適な場所であると判断しました。
野営地点である見晴らしの良い小高い丘は、ここから砦までを一直線に見通せますし、その背後に兵を隠しやすくなっています。また、街道の左右に広範囲に生い茂っている背の高い雑草も伏兵を置くには最適です。
ザナッシュ公爵軍をこの地点で待ち伏せて、三方向から奇襲をかける。
この作戦を聞いてもらおうと、まずは近衛騎士長でもあるレイシアと第一軍団長ギリアムさん、『死神の巣』を代表してソアラさんを呼びました。
「……なるほど。退却する味方を逃し、ザナッシュ公爵軍を食い止めるには有効な場所ですね」
「“砦を突破された時”には、その作戦でいきましょう!」
「“負けた時”の作戦まで考えておくとは、さすがユウト様ですね」
(………え? 負けた時?)
三人とも、僕の作戦を砦で迎撃して失敗した後の“保険”だと勘違いしている様子です。慌てて訂正します。
「ちょっと待って! 僕の作戦は、砦で敵を迎撃して負けた時のことを考えたものじゃないよ! 第一、砦では戦闘を行いません!」
「はっ!?」
「ええっ!!!」
「ど、どういうことですか?」
僕の言葉に三人とも驚いています。
皆、砦を死守することを考えていたのでしょうか?
でも、それだとせっかくの“集団戦闘”訓練が活かせないよね……。
「更に言うなら、開戦時には砦の門も全て取り外して自由に行き来が出来るようにして、砦の中は誰もいないどころか、物資も何も無い状態にしておきたいです」
「!!!!!!!!!!!」
「!!!!!!!!!!!」
「!!!!!!!!!!!」
皆、更に驚愕して開いた口が塞がらないみたいです。
特にレイシアさんは、前回マリクさんとともに砦を死守した立役者なので、砦で戦わないことが信じられない様子です。
そんな中、比較的早く冷静さを取り戻したソアラさんが、僕に尋ねます。
「ユ、ユウト様! ユウト様のお考えが私達には理解できません。
恐れ入りますが、私達にもわかるように教えていただいても……」
僕は頷いて、地面に棒で図を描きながら三人に説明を始めました。
三人は僕の説明を聞いて再び驚きましたが、しっかりと作戦の目的と内容を理解してくれたみたいです。
夕食後には、焚火を囲みながら全員で作戦の詳細について意見を交わしました。
………そして、僕は風邪が悪化したようで、熱が上がってしまいました。
皆より先にテントで横になった僕は、レイシアとソアラさんがテントの外で何か慌ただしく会話をしているのを聞きながら眠りについたのでした。
次回は後編で、視察4日目です。
いよいよ『闇属性の少女達』との出会いの日です。
ユウトの風邪の具合が気になりますね。
ブックマーク・評価ありがとうございます。
引き続き応援よろしくお願いいたします。
誤字・脱字気が付いた時に直しますので、ご容赦を……




