第42話 西側領界へ(前編)(ユウト視点)
今回はユウト視点です。
前回のリーシャ視点より数日遡った話になります。
ミユsideの話はもう少し後になりそうです。
どうぞよろしくお願いいたします。
この話は、僕がリーシャ達“闇属性の少女達”に出会う4日前に遡ります。
◇◇◇◇◇◇◇
【視察1日目】
朝、カダイン伯爵領中央にある軍施設前――――――――――
今日から僕は、護衛騎士の面々と一緒に“西側領界の視察”へと出発する。
そのために今、ここに集合しているメンバーは、僕のほかに護衛騎士のレイシア、シーリス、マリーカ、ライナの4名。そして『死神の巣』から護衛として僕についているソアラさんと、側近候補のミーナちゃん。さらに第一軍団長のギリアム・マクベインさんと馬車を操縦する御者が同行します。
ギリアムさんは、遠くから見ても目立つオレンジ色の髪をしていて、年齢はおそらく30代半ばです。今日は軽装鎧を着こんでいますが、その上からでも鍛えられて引き締まった身体であることがよくわかります。長身でイケメンではあるのですが、ボサボサの髪とゼガートさんのような薄っすらと生やしたアゴヒゲが不潔そうに見えてしまうのが少し残念です。
(もっと身だしなみに気を付ければモテそうなのに……)
そう……ゼガートさん情報によると、彼はまだ独身。
軍の中では、騎士団長であるジェームズさんの後任として期待されているそうですが、幾度となく『騎士爵』の授与を拒否しているのだとか……。
その理由が、「騎士よりも軍団長のほうが給料が高い」ということらしいので、首脳陣は頭を抱えているみたいです。
そのギリアムさんには、今回“兵士”の視点から僕にアドバイスをしてもらうつもりで同行をお願いしました。
さて、今回の視察の目的は2つあります。
①西側領界までの“軍の駐留”と“兵糧輸送”の経路確認
②戦場になると予想される砦周辺の地形調査
①について事前にゼガートさんから聞いたところによれば、カダイン伯爵領の中央にある伯爵邸および中央街から西側領界にある砦までは、馬や馬車で通常4日ほどかかる距離とのことです。軍が移動することを考えれば、1~2日は余計にかかると考えたほうがよいと思います。
また、砦までの間に村と町が1つずつあるそうですが、そこを軍の駐留・輸送拠点として利用するにあたって、何か問題があるかどうかも確認してほしいとのことでした。
②については、実際に砦で戦ったことのあるマリクさんとレイシアから話を聞きましたが、実物を見て判断したほうが確実のように思いました。レイシアには悪いのですが、現地についたら再度説明をお願いしようと思っています。
(まぁ……今回は砦が戦場になることは無いと思うけど……)
そうして、色々と視察のことで考えを巡らせていると、
「なんで、わざわざ馬車が3台も用意されているのだ? ユウト様が乗る1台と全員分の荷物・食料を積んだ1台の合計2台あれば充分だろう?」
……と、ギリアムさんの声が聞こえてきます。
どうやら、3台目の馬車の近くにいたライナに質問しているようです。
「これは、“大切な物”を積んだ重要な馬車なのです!」
自信満々のライナの答えに、彼の疑問はさらに深まったようです。
幌付きの3台目の馬車に歩み寄り、中を覗き込みました。
「どれどれ………ん? ものすごく大きなタライが置いてあるだけだが?」
(えっ!? ま、まさか!!)
ギリアムさんの言葉に、僕は嫌な予感を感じました。
彼のいるところまで駆けて行き、彼を押しのけるように馬車の中を覗き込みます。
(や、やっぱり………)
馬車の中には、僕が毎日『お湯浴び』で使っている大きなタライが鎮座していました。
もともとは、少し大きめなタライにお湯をためて、それを桶で掬い身体を流すだけだった『お湯浴び』でしたが、いつのまにかお湯が入ったタライの中に僕が座り、日替わり担当の女性騎士が身体を洗ってくれるような形に変化していたのです。
さらにその後、レイシアが三人一緒に入っても大丈夫な『超特大サイズのタライ』を職人さんに特注で作らせてしまいました。
それからというもの、僕が真ん中……その前後を挟むような形で女性騎士二人もタライに入り、お互いの身体を洗いっこするのが日課になっていたのです。
(は、恥ずかしい……)
ぼ、僕だって男です!
女性騎士のお姉さん達が、裸になって僕の身体を洗ってくれることが嬉しくないはずがありません。……でも、……でも、何も軍の仕事で移動する時にまで持っていかなくても良いと思いませんか。まして、わざわざ馬車一台を使ってまで……。
「ギ、ギリアムさん、すみません。これは僕の私物です。視察には不要な物なので置いていきます。ライナ……そういうことだから……」
僕は恥ずかしさをこらえつつ、ギリアムさんに謝罪しました。
ライナにタライを置いていくようお願いすると、彼女は「信じられない!」といった絶望的な表情を浮かべ、少し離れた所にいるレイシアに助けを求めました。
「レ、レイシア様! 大変です! ユウト様が『至福のタライ』を置いていけと!!」
(えっ? し、『至福のタライ』??)
僕の頭に疑問符がいくつも浮かんでいる最中、ライナの叫び声を聴いたレイシアが、すごい勢いでこちらに向かって歩いてきました。とても真剣な表情です。
「ユ、ユウト様! あのタライは『お湯浴び』には欠かせない“神器”です。あれを置いて視察に出かけたのでは任務に支障をきたします」
「はぁっ!?」
「えぇっ!?」
レイシアの言葉に、ギリアムさんも僕も口がポカーンと開いてしまいました。
今回の“任務”と“タライ”がどう関係するのかが理解できません。
とりあえず念のために視察の目的を確認してみることにします。
「え、えっと……レイシア、今回の視察の目的は……」
「ユウト様、大丈夫です! わかっています。
今回の視察の目的は……
①ユウト様と素敵な旅の思い出を作る。
②いつもと違った場所で、ユウト様との『お湯浴び』を楽しむ。
③西側領界までの経路確認と砦周辺の地形調査……ですよね!」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
どうやらレイシアさん達にとっては、『視察』という名の『小旅行』みたいです。
ギリアムさんと一緒に大きく溜息をつきながら、「彼女達には何を言っても無駄」と理解した僕達は、せっせと出発の準備を整えたのでした。
◇◇◇◇◇◇◇
軍施設を出発した僕達は、街道に沿って西へと進んで行きました。
エルフィン王国の東南にあるカダイン伯爵領にとって、西側領界へと続くこの街道は王都へと続く大動脈になるそうです。
しかし二年前の政争以降、領界が閉鎖されてしまったため、王都とカダイン伯爵領を行き来する商人達がいなくなり、人の往来はほとんど無くなってしまったそうです。
途中何回か休憩し、パルムの村についたのは日が暮れる間際でした。
パルムの村は僕が想像していたよりも遥かに大きく、以前僕達が暮らしていたラルフ村のような“農村”ではなく、大きな畑が見渡す限り広がっている“大農場”といった感じです。
この村で生産される食糧が、カダイン伯爵領の中央街と、これから向かうベルネの町の人々に届けられているとのことです。つまりパルム村一つで領全体の4分の1を生産していることになるから驚きです。
村の周囲には、生産物を保管する倉庫や、それを加工する工場がいくつも立ち並んでいます。さらに中央には卸市場や飲食店、商人達のための宿泊施設が充実しています。……と言っても、飲食店と宿泊施設は現在半分が休業中とのことでした。
僕達は完全に陽が落ちるまでのわずかの時間で村の中を見回り、そして意見交換を行いました。
「この村までの道のりについては、特に問題は無いみたいだね」
「はい。街道も休憩地点も、広さ・整備状況共に問題無いと思います」
シーリスがニコニコ笑顔で答えます。
「この村については、ひとつだけ改善が必要かな」
「ユウト様……どこでしょうか?」
僕の言葉にマリーカが首を傾げました。
「兵糧などの輸送物資の保管については、この村の倉庫を利用すれば良いけれど、村の内部に兵士を駐留させる場所が無いみたいだよ。宿泊施設を全部軍が使用したとしても150人くらいでしょう? それだと輸送物資の護衛としては不安だから、せめて500人は駐留できるようにしたいかな……」
「ユウトくん、兵士は村の周囲に野営すれば大丈夫じゃないかなぁ……」
ミーナちゃんが腕組みをしながら自分の考えを言ってくれましたが、残念ながらそう簡単に結論が出るものではありません。
「もちろん兵士の大半は村の外に野営することになると思う。でも、この村の周囲は見渡す限り畑だから、野営が可能な場所は村から遠く離れた位置になるよね……畑を潰して兵士の宿泊施設を作るわけにはいかないと思う」
「なるほど……今のままでは輸送物資を置くことになる村内の守りが薄すぎて危ないというわけですね」
レイシアの言葉に僕はコクリと頷きます。
現在の状況では、村からかなり離れた位置に軍の大半を分散して駐留させることになってしまいます。万が一、村内にピンポイントで奇襲をかけられ、輸送物資に火をつけられでもしたらたまらない。
現時点で、敵の大軍がこの村まで侵入することは考えられないと思うけれど、この村が食料生産の重要拠点であり、開戦後の輸送経路となるのは間違いないので、防御対策は充分に考えておきたい。
広大な畑を潰すことは得策ではないので、何とか村内に臨時で良いので兵士たちが駐留できるスペースを増やすしかないと思う。そこで、ギリアムさんを中心に意見を聞いてみると……
「現在休業中の飲食店の中を取っ払ってしまえば良いでしょう。どうせ戦争が終わらなければ営業再開の見込みが無いのですから……」
「あと、卸市場も戦時中は営業しないのですから、兵士が駐留できる敷地としては大きいのではないかと思います。壁がないので、何か風を遮るものが必要です」
「マリク様から予算が出ることが前提ですが、村内のほとんどが平屋ですから、建物に2階部分を増築するという方法もありますね」
その他にも多くの意見が出たので、とても有意義な話し合いが出来ました。あとは帰ってから領主であるマリクさんを交えた席で検討してもらえば良いと思います。
この調子で明日以降も視察を続けていけば、きっと戦争再開までに多くの課題をこなすことができて、必要な準備のリストが完成できるはずです。
◇◇◇◇◇◇
話し合いが一段落した時には、すっかりと陽が落ちて周囲は真っ暗闇になっていました。営業している宿泊所や飲食店の灯りだけが目立つようになっています。
「それでは、ユウト様。早く宿泊所に入って『お湯浴び』をいたしましょう!」
シーリスがそう言って僕を宿泊所へ移動するように急かしてきます。
すでに僕たちの荷物は御者の方々が宿泊所に移動してくれたようです。
……もちろん『タライ』も……。
(結局、タライにお湯を汲むのは僕なんだけどね……)
宿泊所に入った僕は、さっそくミーナちゃんの案内で、『お湯浴び』をする部屋に移動しました。部屋の中央にはあの『タライ』が置かれています。
「ユウトくん。それでは、お願いします♪」
「うん……了解」
ミーナちゃんからお湯を出す魔法具を受け取ると、いつものように魔力を魔法具に大量に流し込んで、ドバドバとタライにお湯を汲み始めました。
僕がお湯を汲んでいる間、他の女性騎士達は室内でベッドを整える組と、夕食の場の準備をする組に分かれて活動しているみたいです。ギリアムさんは宿泊所のロビーで寛いでいるとのことでした。
「さて、これでお湯の量は大丈夫かな」
「ありがとう。こちらも『お湯浴び』の準備は万端だよ♪」
お湯をすくう小さな桶や、身体を洗う布、拭くタオルなどを準備していたミーナちゃんが満面の笑みで答えます。最初は恥ずかしがって絶対に参加しなかった彼女でしたが、ソアラさんがやって来たあたりから急に自ら参加するようになりました。どういう心境の変化かわかりませんが、他の人と同様に楽しんでいるようなので、いいのかな………。
◇◇◇◇◇◇
ミーナちゃんが『お湯浴び』の準備が出来たことを皆に知らせにいくと、すぐにレイシアとソアラさんが室内に入ってきました。
どうやら、今日の担当はレイシア、ソアラさん、ミーナちゃんの三人のようです。
未だに僕はこの状況に慣れず、三人の前で服を脱ぐのは恥ずかしいのだけど、三人は躊躇う事無く次々と服を脱いで全裸になっていきます。
レイシアもソアラさんも、何て言うか……その……とても綺麗です。
子供の僕がいうのも変なのですが、二人とも鍛えられて引き締まった無駄のない身体にもかかわらず、ふくよかな胸がとても………とても………です。
ミーナちゃんも二人を見ながら「むぅ~~ぅ」と唸りながら胸を両手で隠しているので、きっと羨ましいのだと思う。きっと彼女もソアラさんくらいの年齢になれば同じくらいに成長するはずなので、気にすることはないと思うのだけれど、本人いわく「乙女心は複雑なの!」……ということらしい。
僕がタライの中央に、そしてソアラさんが前、レイシアが後ろに座って僕の身体を洗い始めました。ミーナちゃんは時々僕の身体が冷えないように小さな桶を使って肩のあたりからお湯をかけてくれます。
(あっ!? ……レ、レイシア………)
レイシアが僕の反応を楽しむように、時折胸を背中に押し付けてきます。
ソアラさんもミーナちゃんも、「ピクッ!」っと反応して恥ずかしがる僕の表情をじっと見つめてニヤニヤしています。
(もう……恥ずかしいなぁ……)
耳まで真っ赤になってしまった顔を元に戻すのは大変です。
大人になれば、こういうことをされても平常心でいられるのでしょうか……。
僕が俯きながら、そんなことを考えていると、
不意に部屋の扉が勢いよく開け放たれました!!
バ――――――――――――――ン!!
「お待たせしました!
ギリアム・マクベインお呼びにより参上いたしました―――――――!!」
「!!!!!!!!」
「!!!!!!!!」
「!!!!!!!!」
「えっ!? ギ、ギリアムさん!」
勢いよく扉を開けて中に入ってきたのは、ギリアムさんでした。
さらに驚くべきことに、彼は全裸になっていて大事なところも隠していません。
「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁ――――――!!」
ミーナちゃんの叫び声が室内に響き渡ります。
そして、その直後……
「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁ………ちょ、ちょっと……まって…し、しぬ」
瞬時に移動したソアラさんに布で首を締め上げられ、レイシアに背後から腕関節を決められて死にそうになっているギリアムさんの情けない姿がそこにありました。
(い、いつの間に二人とも動いたのだろう……すごい)
二人の早業に呆気に取られてしまった僕でしたが、ギリアムさんの顔色が明らかに異常な色に変わっています。このままでは、本当に死んでしまいます。
「た……す………け……ぶべぇ……」
「ソ、ソアラさん、レイシア! 勘弁してあげて! 本当に死んじゃうよ!」
僕の言葉に二人ともわずかに締め上げている力を緩めてくれました。
レイシアとソアラさんに床にうつぶせで組み伏せられたまま、ギリアムさんは涙目で、僕に助けを求め、今回の暴挙におよんだ経緯を語ってくれました。
「な、なぜ俺が……こんな……目に……。そこの子がロビーまで聞こえてくるくらいの大声で『お湯浴びの支度ができました』と叫んでいたのです。だから、きっと俺も呼ばれているかと思ったんです……」
(そ、そんなわけないよ………)
思わず声に出してツッコミを入れてしまいそうになりましたが、ギリアムさんにとっては精一杯の自分を正当化する主張です。
………でも、明らかにただの言い訳です。
第一軍団長とは思えないギリアムさんの様子に呆れていると、怒り心頭の三人が次々と容赦ない言葉を投げかけました。
「はぁ? いい年した小汚いオジサンが、ユウトくんと一緒に扱ってもらえるとでも? 常識で考えなさいよね!!」
「ギリアム殿……ユウト様と私の至福の時間を台無しにした罪は重いですよ……。すぐには殺しません。じわじわと……時間をかけて処理させてもらいます」
「ギリアム! その汚らわしい“ピ―――――”を電撃で真っ黒こげにして、二度と使い物にならないようにしてあげましょうか?」
「ひぃ~! ユ、ユウト様……助けてください!!」
この村に到着するまで、僕の中では“ワイルドな軍団長”のイメージがあったギリアムさんですが、今は見る影もありません。
「………レイシア、罰が無いわけにはいかないだろうけど、お手柔らかにね」
「ユウト様が、そうおっしゃるのでしたら………」
レイシアが渋々承諾してくれたことで、何とかこの場が治まりそうです。
僕もホッと一息つきました。
……が、しかしギリアムさんが余計な一言を………
「ユウト様、ありがとうございます。今回の御礼として、今度中央街にある可愛い子が大勢いる店にご案内させていただきます! お任せください。レイシア達よりも良い身体をしている子を紹介しますから……」
(ちょっ! ギリアムさんそれは……)
「「「 !!!!!!!!!!! 」」」
「ギリアム……」
「殺りますか!」
「異議なしです!」
「ギャァァァァァァ――――――――――!!!」
その夜、全身黒焦げになった男性が全裸で宿泊所の外に放置されました。
◇◇◇◇◇◇
翌日の朝、ギリアムさんが朝食の場に姿を現さなかったことを不審に思うものは無く、また誰も彼のことを話題にすることはありませんでした。
(う~ん……初日からこれで、大丈夫かな……)
視察任務の先行きを考え、少し不安に思った僕なのでした。
書いてみたら初日だけで長くなってしまいました。
次は、視察2日目・3日目になり「中編」になるかもしれません。
また、間が少し開くかと思いますが、
応援のほど、よろしくお願いいたします。
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