第41話 山賊退治と魔王との出会い(後編)(リーシャ視点)
前回の続きです。
闇属性の5人の少女達が、山賊退治へと向かいます。
山賊達のアジト付近の森の中――――――――――――――
(山賊……の総数は21名ですね。)
(小屋の中に10名、外の見張りとして4名)
(そして裏手の倉庫のほうに4名、不在3名)
(不在3名は、少し離れた小川で水汲みをしているのを確認しました。)
(要注意人物はいません。全員、私達が手加減しても勝てる技量です。)
山賊達のアジトに接近した私達5人は、この中で唯一『暗殺者認定』を受けている私をリーダーとして、さっそく行動を開始しました。
山賊達や付近の地形情報を集め、全員で共有します。
人数だけで手ごたえのなさそうな相手ですが、貴重な実戦任務には違いありません。気を引き締めて任務を行うように各自に役割を分担します。
レアとゼナはまだ幼いので、技量に見合った“課題”も与えることにします。
(レアは小川にいる3人をお願い。課題は『声』……できる?)
(了解です。敵に声を出させないように始末します。)
そう言うと、レアは短剣を腰の鞘にしまいながら小走りで小川への方向へと駆けていきました。
(メリッサは手筈通り、まず小屋の中に魔法を撃ち込んで! その後は小屋から出てくる山賊を任せます)
(任せて! 派手なのを一発ぶちかまします!!)
(小屋を倒壊させない程度にね……)
メリッサはまだ幼いながら、魔力量が大人の3倍あるという才能豊かな子です。おそらく彼女の魔力量なら15人くらいまでなら殺傷能力の高い魔法を続けて撃つことが出来ると思います。
(ゼナは裏手の倉庫にいる4人をお願い。課題は……『時間』…かな)
(お任せください! 騎士に不可能はありません)
ゼナは騎士物語に憧れている読書大好き少女なので、『死神の巣』では珍しく槍を得意武器にしています。槍はどうしても相手の攻撃を捌きながら戦う傾向があるので、一人当たりにかかる時間が多くなりがちです。そのため、彼女の課題は『時間』にしてみました。
(最後に……アイカは、見張りの4人を仕留めてくれる? 私はメリッサの最初の魔法の直後に小屋に突入するので、援護も兼ねて……ね)
(了解! リーシャ……小屋の中で頑張り過ぎないでね)
(わかっています。メリッサとアイカの分は小屋から出すので、逃げられないようにね。)
(そんなヘマしないって……)
アイカの短弓の腕前は一流です。訓練で魔獣の急所を素早く、かつ的確に射抜く技量は仲間内でも有名です。ただ……武装した人間に対しても同様なのかがわかりません。
ちなみに、私達が山賊を打ち漏らしても、周囲には若様達3人が網を張っている状況なので逃げられる心配はありません。しかし女性陣だけでこの任務を完璧に遂行して、私達の技量を評価して頂きたいところです。
(さて……各自準備は大丈夫みたいね……)
メリッサが小屋に魔法を撃ち込むのが戦闘開始の合図です。
私が右手を軽く上げて、メリッサに魔法発動を促すと、彼女は両手を上に掲げて大きな『火球』を作り出しました。
そして、それを勢いよく小屋の窓に向けて撃ち込みます。
ズドォォォ――――――――――――――ン!!
小屋の中で勢いよく火の魔法が弾け飛び、大きな爆発音が轟きました。
そしてその瞬間、私は素早く小屋の入り口に向かって一直線に駆けていきます。
小屋の外にいた見張り達は………すでにアイカの短弓から放たれた矢によって、二人が首の中心を貫かれて絶命しています。
そして……
「三人目も………命中!!」
というアイカの弾んだ声が聞こえました。これならもう外のほうはメリッサとアイカの二人に任せても大丈夫でしょう。
私は大きく息を吸い込んでから、まだ火と黒煙が残り視界の悪い小屋の中へと突入しました。戦闘開始から20秒経っていないので、まだ小屋の中の相手は戦闘態勢が整っていない者が大半のはずです。
(えっ? ……………う、うそ!?)
意外にも小屋内に突入して、最初に目に飛び込んできたのは、メリッサの魔法によって上半身が吹き飛んだ山賊の遺体です。
…………しかも三人。
何て運の悪い人達でしょうか……。戦闘開始の合図、そして先制攻撃での一時的な混乱効果を狙う……という意味合いだけの魔法攻撃でしたが、相手にとってはかなり強烈な一撃になってしまったようです。魔法を撃ち込んだメリッサ本人もこんな結果は想定していなかったでしょう。
(フフッ……これでメリッサの受け持ち人数は終了ですね)
小屋内の惨状を知らず、外で敵が出てくるのを心待ちにしている彼女の姿を思い浮かべ、思わず悪い笑みがこぼれてしまいます。
次に視界の隅に見えたのは、左側の窓から外へと脱出を図る二名の山賊ですが、それはアイカの獲物ということで無視します。私は小屋内の残り五名を相手に立ち回ることにします。
私が自らに課した課題は……『無音』です。
私の得意武器は双剣なので、相手の攻撃を片方の武器で受けながら、もう一方の武器で攻撃するのが基本形となります。しかし実際の戦闘では、私より腕力がある敵のほうが多く、力技で態勢を崩されることもあり、また武器の消耗も激しいというデメリットが存在します。
そこで今練習しているのは、相手の攻撃を武器で受けることなく素早く躱し、両手の武器を余すところ無く活用する技術……つまり『無音』です。
(そこ! 素早く急所を薙ぎ払う!!)
シュパァ――――――――――ン!!
まだ戦闘準備が出来ていない敵の頸動脈を右手の剣で薙ぎ払います。
次にその隣に立ちすくみ、動揺している男を視線で挑発すると、男は慌てて手に持っている長剣を手に斬りかかってきました。
(それを……躱して斬る!!)
ブシュ――――――――――ッ!!
二人目も血しぶきを撒き散らしながら床に崩れ落ちていきます。
目の前で二人が瞬時に殺され、ようやく事態が飲み込めてきた次の二人が私の左右を挟み込むように位置取り……そして襲い掛かってきました。
(でも遅い! 躱してぇぇ……斬る! ……斬る!)
ザシュッ!! ズバッ――――――――!
狭い空間での実戦ということで、良い経験になるかと思いましたが、敵のあまりに遅い動きにガッカリです。実戦という緊迫感を特別感じることなく四人を切り伏せました。
そして、あと一人の最後の敵が――――
(恐怖のあまり気絶しているなんて……有り?)
私が突入した瞬間、床に座り込んで口をパクパクさせていた最後の一人でしたが、今は泡を噴いて後ろ向きに倒れています。見逃すわけにもいきませんし、「捕まえて情報を得る必要は無い」と若様からの事前の指示もあったので、とりあえず苦しまないようにトドメを刺し………
(いったい誰がこの山賊達のボスだったのでしょう……まさか、最後のアレじゃないわよね……)
そんなことを考えながら小屋の外へと出たのでした。
◇◇◇◇◇◇◇
小屋の外には、すでに女性陣が全員揃っていました。
若様達の姿が見えないので、アイカに尋ねると、
「リーシャが小屋から出てくる少し前に、『お客様が来た』と言って、三人で山の麓に迎えに行ったよ」
(お客様?)
事前に山賊を討伐したことを検分してもらうために、砦の兵士でも呼んでいたのでしょうか? しかし、それではわざわざ三人で出迎えに行く意味がわかりません。
(・・・・・・・・・・・)
少しの間考えてみましたが、思い当たることがありません。
仕方なく頭を切り替え、4人から任務の報告を聞くことにしました。
彼女達の顔を見渡すと、アイカ以外は皆……顔が曇っています。
(……どうしたのかしら?)
「えっと、それでは報告をお願いします」
私がそう言うと「待ってました!」とばかりに、アイカが元気よく報告します。
「お疲れ様~! 私は、自慢の短弓で6人も倒せたよ~♪」
「私は……最初に魔法を撃ち込んだだけで3人……それで終わったんですけど……グスッ」
「すみません。私は倉庫の4人の内、3人までは素早く倒せたのですが……最後の一人が逃げ始めてしまったので、追いかけてトドメを刺すのに時間がかかってしまいました。騎士への道はまだ遠いようです……」
「私も小川の3人の内、二人目までは油断を誘って声を出させずに始末できたのですが……最後の一人には声を上げられてしまいました。……失敗です」
そう言って落ち込んでいる三人ですが、任務自体は完遂しているので何の問題もありません。実戦経験が少ない私達としては上出来なのではないでしょうか。そのことを彼女達に話しながら、励まし元気づけるように心がけました。
すると……
「それにしても、なんでリーシャはそんなに“返り血”を浴びているの?」
……とアイカが質問してきました。
他の皆も不思議に思ったようです。
「……うん。出来るだけ相手の攻撃を武器で受けないようにして、敵の急所だけを狙うという課題を達成………した結果なの」
舌をペロっと出しながら、そう言って肩をすくめると、
「リーシャの次の課題は、『返り血を浴びない』がいいんじゃな~い」
「「「 確かに!! 」」」
アイカが皆の笑いを誘い、落ち込んでいた三人も笑ったことで、いつもの明るい雰囲気に戻ることができました。
◇◇◇◇◇◇
その後、皆で山賊達の遺体を処理しようと考えたのですが、若様達が現場を検証する砦の兵士を連れてくる可能性を考えて、昼食を先に済ませることにしました。
………えっ? 山賊達の遺体が転がる場所で昼食?
………えっ? 全身返り血を浴びたままで昼食?
――――はい、全く問題ありません。
正直言えば、返り血を浴びた装束の肌着が乾いてきて、私の胸にピッタリと張り付き、乳首のあたりが“カピカピ”で気持ち悪いです。………でも、そんなことを気にしていたら一人前の『死神の巣』の暗殺者にはなれません。
幼い頃から魔獣を倒して解体し、その肉を調理して食べるまでを一連の流れとして訓練してきた私達です。敵の血はむしろ“勲章”です。
ソアラお嬢様も皆と一緒の黒い装束ではなく、乾いた血を連想させる“茶色の装束”を好んで着ていらっしゃいます。
そういうわけで、私達はレアが用意してくれた干し肉と野菜を手に取ると、小屋前の倒木や岩石をイス替わりにして昼食を開始しました。
「ん!? この干し肉はレアが一人で?」
「は、はい……どうですか?」
「すごいよ! こんな美味しい干し肉は初めてかも!」
「本当ですね…。今度作り方を教えてください」
「私もお願いします」
幼いながらも料理が得意なレアの才能に改めて驚かされました。
私は料理が得意なほうではないので、羨ましい限りです。
それから、みんなでワイワイと料理の話題で盛り上がり、楽しい時間を満喫していたのですが、不意に複数人がこちらへと接近してくる気配を感じ取りました。
「ん? 若様?」
「……おそらく。敵意が感じられないので、そうでしょう」
「でも、若様よりも凄い“闘気”をまとっている人がいるみたいです」
「「「「…………ゴクリ 」」」」
自分達など全く歯が立たないレベルの圧倒的な“闘気”をまとった人が、ここへもうすぐ到着する気配です。さきほどまで賑やかだった場に一瞬にして沈黙が降り立ちました。
ドキドキドキドキドキドキ………………………
高鳴る鼓動を抑えられず、昼食の干し肉を手にしたまま胸の前で手を重ねます。
すると、しばらくして……
――――ザッザッザッ
(み、見えた!!)
若様を先頭にして複数人がこちらの視界へと入る距離まで歩んできました。
(若様の後ろに、白い鎧を着た女性騎士が二人……その後ろは……)
「えっ!!!!!!!!!!!!」
「ちょっ、ちょっと!!!」
「な、なななな………」
「て、て、て、て、天使? 天使?」
「キ、キレイです………ぽっ……」
純白の鎧を着た女性騎士二人の後ろから姿を現した『美少年』の姿を見て絶句しました。アイカ達も驚きのあまり目を見開き、口をパクパクさせて放心状態です。
さっきまで警戒していた『圧倒的な闘気』を持つ者が誰だったかなんて、もう頭の隅に行ってしまいました。もう彼から目が離せません。
柔らかそうな栗毛色の髪に、天使のように美しい柔和なお顔、女性のように白く透きとおっていて見るからに柔らかそうな肌、お顔の色も同様に……
(あれ? ちょっと顔色が………)
目の前の美少年の顔色が少し悪いような気がしますが、きっと気のせいでしょう。
きっと家族に大切に育てられて、あまり日光に当たらない生活をしている“貴族のご子息”なのかもしれません。
それよりも早く若様に、この美少年を紹介していただきたいものです。
すると、私達の期待通りにアイカが声を上げました。
「若様! 私達、無事に任務完了しました! お客様にご挨拶したいのですが、
よろしいでしょうか?」
「あぁ……そうだな。ユウト様、この少女達が先ほどお話した者達です」
「う……うん……わかりました。ありがとう……」
若様の言葉に、『ユウト様』と呼ばれた美少年は何だか辛そうに返事をしました。
そして、若様は少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら、
「それでは、リーシャ! 皆を代表して先にユウト様へご挨拶を! 失礼のないように手短にな!」
若様の威厳ある言葉と共に美少年への挨拶を私が仰せつかりました。
美少年一行の素性を一切明かさずに、私達から先に挨拶をするように指示が出たということは、彼が相当高貴な身分であることを示しています。
私もそうですが、アイカ達の顔にも緊張が浮かんでいます。
手の平の汗をぬぐいながら、彼の前へと進み出て片膝をつきました。
「お初にお目にかかります。このような場で大変恐縮ではございますが、なにとぞ私からの挨拶をお許しくださいませ」
貴族の方への挨拶は、ずいぶん昔に一度学習しただけだったので、あまり自信がありませんでしたが、とりあえず失礼にならないような言葉を紡げたのではないかと思います。
すると、しばらくして彼から予想外な言葉が発せられました。
「だ、だめだ………」
「えっ!?」
「……も、もうだめだぁ――――――――――――っ!!」
美少年はそう叫ぶと同時に、背後の大木のもとへと駆けだしました。
そして――――――――
ゲロゲロゲロゲロゲロゲェ――――――――
大木の根元に大量に嘔吐しました。
(えぇ―――――――っ!!)
び、美少年が苦しそうに嘔吐しています。
私は目の前で何が起こったのか全くわかりませんでした。
頭の中が混乱しています。
さらに、それに追い打ちをかけるように、
次の瞬間!
――――――ヒュン!
――ピタッ
「貴様! ユウト様に何をした!!」
白い鎧の女性騎士が、私の喉元に剣を突きつけました。
しかも、尋常ではない“殺気”を放っています。
前に私達が感じた『圧倒的な闘気』は彼女のものだったに違いありません。
―――生まれて初めて死を覚悟しました。
(お父様……お母様……私、もうダメかもしれません。私、私……何もしていないのに………)
身体に力が入りません。
だんだん意識が遠のいていくようです……。
瞳に涙が溜まってきます。
涙を流すのはいつ以来でしょう………。
私の視界に若様がぼやけて映りました。
何やら、女性騎士に話しかけている様子です。
(私………どう……な……………………)
そして私は、生まれて初めて『気を失う』ことを経験したのでした。
ユウトの具合が悪くなった原因……読者の皆さんならわかりますよね。
リーシャには少し可哀想な事態になってしまいましたが、
きっと良い経験(?)を積めたはず!
次回はユウト視点で、西側領界の視察~彼女達との出会い~その後までを
執筆する予定です。
読者の皆様いつもありがとうございます。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




