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異世界でも、お姉ちゃんに任せなさい!  作者: 佐々木 みこと
38/52

第36話 一騎打ち

お待たせしました。

読者の皆様、いつも応援ありがとうございます。


ミユにとって初めての経験『一騎打ち』!

どのような結果となるのでしょうか…

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……


「ミユ……いい加減に落ち着いたらどうです」


軍施設内の広さ8畳間くらいの控室で、椅子に座りながら身体の震えが止まらない私に、マリクさんが声を掛けます。


しかし、落ち着けるわけがありません。


なぜなら、今日は軍事演習当日。私はその前座としてサーペント伯爵家の次男、ガイア様と一騎打ちを行うことになっているからです。おそらく私に呼び出しがかかるまで、あと10分くらい…。落ち着けと言うことに無理があります。


元の世界で『剣道』とか『柔道』とか、何か一対一で対戦する競技を経験していたのであれば、少しは免疫があったのかもしれませんが、私はそういった経験が全くありません。それなのに、急に武器と魔法を駆使して戦う決闘のような場に送り出されようとしているのです。普通に考えても、理不尽過ぎます……。


「お、お、お、落ち着けるわけが、な、な、無いじゃないですか……。か、帰りたい……グスッ……」


「な、泣くでない! そのような姿をユウトが見たらなんと思うか……。それに、そなたが私の教えた魔法を実践すれば、簡単に勝利できるはずです!」


(…ピクッ!)


マリクさんの「ユウトがみたら…」という言葉に一瞬反応し、身体の震えが止まりました。しかし不安はまだ解消できません。


「で、でも…今まで魔法を置かれた的に向けて撃ったことはあっても、動いている物…まして人に対して撃ったことなんてないじゃないですか…」


「!!……そ、そうでしたね。……でも大丈夫です! 魔法で重要なのは『想像力』です。貴方が想像イメージした通りに魔法は発動されます。……大丈夫です!……おそらく大丈夫です…。おそらく……」



(……泣いてもいいよね……)



魔法の師匠でもあるマリクさんの自信が無くなっていく様子に気が滅入ってきて泣けてきました。私のこんな情けない姿を優斗には見せたくありません。


優斗をはじめ護衛騎士全員が観客席や、軍事演習本番のためにすでに会場へと移動しており、今この場にいないことが本当に幸いです。……まぁ、マリクさんと二人だけというのも嫌ではありますが……。


自分の不幸を嘆きつつ深い溜息をついていると、一人の男性が入室してきました。


「マリク…。そなたがそんな様子では、ミユ殿が余計に不安になるだろう!」


「!!!(シュ、シュリさん)」


シュリさんの登場に今まで“どんより”としていた室内が急に明るくなったように感じます。私に笑顔を向けながら歩み寄ってきます。


「ミユ殿……。私が渡した『魔法具』をまだ持っていますか?」


「は、はい! 肌身離さず持っています!」


そう言って左腕にはめられた白いブレスレットを見せました。

この魔法具は以前、シュリさんと別邸でお会いした時に『お守り』としていただいたものです。シュリさんはニコリと笑って私の手を取ります。


「この魔法具に魔力を流すと、光属性の障壁がミユ殿の周りに現れます。5分程度しか効果がありませんが、相手の魔法だけでなく物理攻撃も弾き返すほど強力な障壁です。その防御壁がある内に……わかりますね」


「は、はい……うん、大丈夫です。私……頑張ります!」


何だか今までの不安が全て吹き飛び、顔や耳が熱くなっているのがわかります。

頭の中がふわふわして、それをとても心地良く感じていると、騎士の一人が控室を訪れ、私に闘技場へと入場するように告げました。


「さぁミユ殿、参りましょう!」


「いいですかミユ、魔法は『想像力』ですよ! それとガイアは火属性魔法の使い手です。わかりましたね!」


シュリさんの手を握ったまま席を立ち、マリクさんの言葉を“聞き流しながら”歩き始めます。そのまま彼にエスコートされながら『一騎打ち』が行われる闘技場へと進んでいきました。



◇◇◇◇◇◇



「「「 ワァァァァァ――――――――――――――――!! 」」」


私達の『一騎打ち』のためだけに屋外演習場の一画に即席で用意された『闘技場』に足を踏み入れると、演習場の観客席に陣取っている騎士・兵士達の観客から一斉に歓声が上がりました。


あまりの声量に「びくっ!」と身体が震えてしまいましたが、すでに闘技場の中央に仁王立ちしているガイア様の不敵な笑みを見た瞬間、不思議と気持ちが落ち着いてきました。更に……


「おねぇちゃ――――――――ん! がんばって―――――――――!!」


(ゆ、優斗!!)


アルフレッド様達がいる貴賓用の観覧席のほうから優斗の声が聞こえました。私は声がした方向に目を向けると、すばやく優斗を見つけ杖を持っていない左手を挙げて応えます。


(優斗……お姉ちゃんはやるよ! 格好良く魔法で“バーン”とやって、華麗に決めてみせるよ!!)


さっきまで控室で震えていたことなどすっかり忘れ、シュリさんと優斗の声援のおかげで気合がみなぎってきました!


そして、ガイア様に正対し視線を交わします。


「ふんっ! 逃げ出さずに来たことは褒めてやろう…。装備もそれなりに揃えてきたようだな」


私が今着ているのは、白を基調として金の刺繍が襟や袖口、裾に縁取りされているワンピースです。袖丈は肘の上、裾は膝上までになっています。もちろんそれだけでは防御力がありませんので、レイシアさんのような女性近衛騎士が身に付けている小手や胸当て、脛あて(レガース)を装着しています。腰にも幅広で頑丈なベルトをつけていますが、見た目ほど重くはありません。


また右手に持っている杖は、長さ50cm、色は白、ドラゴンの骨を削って作ったという超レアもので、先端には私が使用できる全属性の魔法具の玉石が7つ埋め込まれています。7つの玉石は赤(火)、青(水)、黄(土)、緑(風)、紫(雷)、白(光)、金(聖)で、金色の玉石を中心に六芒星を描くように配置されています。


「ありがとうございます。ガイア様も私を相手に随分と立派な装備をされているようですね」


「昨日、“女であろうと容赦しない”と言ったはずだが……」


(………そうでしたね)


小さく息を吐きながら彼の装備を見渡すと、全身は赤い騎士鎧で固める重装備になっています。ただし兜と盾を身に付けていないところをみると、“守りをしっかり固めつつ攻撃する”タイプではなく、“防御を気にすることなく攻撃に集中する”タイプなのでしょう。その証拠に彼が手に持っている武器は『ハルバード』です。


『ハルバード』は戦斧と槍を合わせた長柄武器の一種で、主に斬る・突く・払うという攻撃で使います。しかし、熟練者は相手を引っ掻けて倒したり、柄の反対側を使って打撃したりと“万能武器”として扱うことも可能です。


そんな『ハルバード』をただの“棒きれ”のように軽々と持ち上げているのをみると、彼が噂通りの武力の持ち主であることが明らかです。


「さて、それでは観客も待ちくたびれているようだし、そろそろ始めるとしようか」


「言っておきますけど、ガイア様の攻撃は私には効きませんよ」


ガイア様にニコリと微笑んだ後、私は左腕に装着した白いブレスレットに魔力を流します。すると、シュリさんが言ったとおりブレスレットから光属性の白い光が溢れ出て、あっという間に私を包み込みました。


「な、何!!」


ガイア様は突然現れた白い光の防御壁に驚き、すぐさまハルバードを私に向けて袈裟懸けに振り下ろします。


ガキ――――――――――ィン


(!!!!!!!!!!!)


本当に攻撃を跳ね返すほどの防御力があるのかどうか確証が無かった私は、思わず目をつぶり、頭を抱えるような体勢を作りましたが、どうやら防御壁はしっかりと機能しているようです。安心して大きく息を吐きました。



「……それでは、今度はこっちからです!」


私が右手に持っている杖を身体の正面に掲げて魔力を溜める仕草をすると、ガイア様はすかさず私から3メートルくらい後方に下がって防御態勢をとります。


私としてはシュリさんの『お守り』が機能している間、早急に決着をつけなければなりません。また、動いている相手に魔法を撃ったことがないので、直線的な魔法攻撃は相手にかわされる可能性が高いです。


つまり、“広範囲に攻撃ができる一撃必殺の魔法”を撃つことが、私の今の最善策と言えると思います。


「これで終わりです! 必殺! 火炎の嵐!!」


杖から大きな赤い炎の渦が2つ射出されます。片方は相手の右から、もう一方は相手の左側から回り込む形で急激に大きな火柱に変化し、それが重なり合って相手を包みこんでいきます。その見た目は『炎の嵐』ではなく、『炎の竜巻』といったところでしょうか。


ちなみに、この世界……魔法の名前は基本的にありません。つまり、先ほど私が叫んだ魔法の名前も私が勝手に名付けたものです。(マリクさんは同じ魔法に別の恥ずかしい名前をつけています)


(やばっ!! ちょっとやり過ぎたかも…)


相手が黒焦げになったのではないかと心配し、冷や汗が出てしまいます。騎士・兵士達の観客の皆さんも魔法の威力に呆気にとられている様子です。


しかし――――――――


「ふふっ………」


「えっ?」


「ハハハハハハハハ――――――――――――――っ!!」


バシ――――――――――――――――ン!!


突如として燃え盛る炎の中から笑い声が聞こえたかと思うと、一瞬にしてその炎が払い飛ばされてしまいました。


「…なっ!!」


目を見開いて驚く私の様子をあざ笑うかのように、ガイア様がハルバードを肩に担ぎながら一歩前へと進み出ます。


「ふんっ! 火属性を最も得意としているこの私に火属性の魔法を打ち込むとはな!」


「あっ!」


そ、そうでした。そういえばマリクさんがそんなことを言っていたような気がします。自分の失策にショックが隠せませんが、次は他属性の魔法を使えば良いだけの話です。気持ちを落ち着けて再び杖を掲げます。



「さて、それでは今度はこちらの番だな…。防御壁も無くなったようだしな…」


「えっ?」


ニヤリと笑みを浮かべる彼を見て、私も気が付きました。いつの間にか白いブレスレットの魔法具が光を失っています。おそらく蓄積されていた魔力を使い切ったのでしょう。


(・・・・・・・・・)


「いくぞ!!」



ハルバードを肩から下し、両手でしっかりと構え直したガイア様が急速に間合いを詰めてきます。そして攻撃の間合いに入った瞬間、彼のハルバードが私に向けて横一線に薙ぎ払われます。


ゴォッ!


ハルバードの風を切り裂く音が一瞬高鳴ります。

そして、防御壁を失った私への攻撃に誰もが目を覆いました………。




ガキ――――――――――ィン




「な、何ぃ――――――――!!」



「ふふっ 残念でした♪」


私は復活した白い防御壁の中から、ガイア様に微笑みます。



さて、何故白いブレスレットの防御壁が再び使えたかというと……。答えは簡単です。魔法具はおそらくマリクさんが作ってシュリさんが魔力を込めたものです。防御壁の効果が無くなってからも砕けなかったことから、この魔法具は『連続して使用が可能』だとわかったのです。そこで、急ぎ私の魔力を注入したというわけです。


(ふふん! 伊達に毎日魔法具に魔力を注入していません!)


そして皆さんもご存じのとおり、私の魔力回復力は規格外です。絶え間なくブレスレットに魔力を注ぎ込めば、攻撃無効の防御壁をずっと張ることができます! 無敵ですよ無敵!


……ということで、これからじっくりとガイア様を料理することにします。



「さて、それでは今度は私の番ですよ!」


今度の魔法は“数撃てば当たる作戦”でいきたいと思います。

杖を私の頭上に掲げ、火と聖属性以外の5つの属性魔法を多数出現させます。


パッ!


パパッ!


パパパパパパパパパパッ!


あっという間に20個くらいの魔力の玉が完成しました。

これをガイア様の頭上に幅広く展開させて、私のイメージ通りに攻撃を連続して行おうというわけです。


私のイメージとは……そう、ガン〇ムシリーズで有名なファン○ルみたいな攻撃です。マリクさんの言う通り、魔法は明確にイメージすればするほど威力もスピードも制御も可能となるので、私にとって一番イメージしやすい魔法を使うことにしました。


「いくよ! 多連続ビーム攻撃――――――――!!」


本当は「いけっ! ファン○ル!!」とか叫びたいけど、そこは…ね。


まるで生き物のように空中を動き回りながら次から次へと魔法攻撃を連射する球体に、ガイア様だけでなく観客の全員が目を丸くしています。


バシュ! バシュ!


バシュ! バシュ! バシュ! バシュ!



「くっ…ぐぁ! き、貴様ぁ…き、汚いぞ!!」


(……う、うん、そうだよね。私もそう思います)


攻撃が全く効かない防御壁に囲まれながら、終わることのない魔力攻撃を続けているのだから、卑怯と言われても仕方がないような気がします。



◇◇◇◇◇◇



――――――――5分経過――――――――――



さすがはガイア様というべきか、私の魔法攻撃を時にはかわし、時にはハルバードで受け流しながら耐え続けています。おそらく私の魔力が無くなるのを待っているのだと思いますが………残念ながらそんなことはありません。


そろそろ観客の皆さんも、私の魔力量に疑問を感じてしまうでしょうから、そろそろ決着をつけてしまいたいと思います。


「ガイア様…。そろそろ終わりにいたしましょう!」


「ぜぇ……ぜぇ………な、なん…だと…」


息が上がって苦しそうなガイア様を見つめつつ、私は杖を右下に構え、そこから地面を這うように魔法を放ちます。


「薙ぎ払え! 風の刃――――――――――――っ!」


地面を這うように鋭い風の魔法が幅広く放たれます。かわす方法はただ一つ……そう上だけです。


「くっ!!」


こちらの予定通りにガイア様は上へと飛んで風の魔法をかわします。



「そこです!! 氷の塊となりなさい! フリージング(氷結)!!」


ジャンプしたガイア様に向け、すかさず大きな水の魔力を結集して作った『氷の魔法』を勢いよく射出します。



「く、くそぉ!!!!!!」


ガシュ――――――――ッ!! ピキ――――――ィン


ドシャッ!!



見事なまでに氷の魔法が彼を包みこみ、全身を氷漬けにしてしまいました。氷の塊となった彼はそのまま地面に落下し横たわった状態になっています。


(あっ! ま、まずい完全に凍ってしまったみたい!)


彼との勝負は明らかに決しましたが、全身を氷に包まれ息が出来ない状態となったガイア様の姿に驚き、慌てて駆け寄って救助を試みます。


(と、とにかく氷を割らないと!!)


「えいっ!!」


バキンッ!! ……パキパキ……パリン!


(ふぅっ~何とか顔が出て呼吸が出来る状態になったね…)


ガイア様は気絶しているみたいですが、命に別状はないようです。

私がひとまず安心をしていると…



シ―――――――――――――――――――――――ン……



(…ん? …なに?)


観客席から漂う異様な雰囲気に驚き、ゆっくりと周囲を見渡してみると、明らかに「そこまでするの?」……と言っている顔があたり一面に広がっています。私を応援してくれていた優斗まで「お、お姉ちゃん…何てことを……」と言っているみたいで顔が青くなっています。


(・・・・・・・・・ま、まさか!!)


落ち着いて私の行動を振り返ってみると、どうやら観客席から見た私の動作は“別の意味”に捉えられていたみたいです。


つまり……四方八方からガイア様を魔法で連射攻撃した後、風の魔法でジャンプさせたまでは良かったのですが、その後……魔法で氷漬けにして決着がついたにもかかわらず、すかさず駆け寄って『トドメの一撃』を食らわせた……って!


(ち、違うよ! トドメの一撃を与えたのではなくて、救出のために急いで氷を割っただけだよ!!)


そんな私の言い分を、遠くで見ている観客の皆さんが理解してくれるはずもありません。一刻も早く優斗の誤解だけでも解かなければならないので、この場の全員にわかるように“聖女”アピールをすることを決断しました。



(ガイア様…ただ気絶しているだけに見えるのだけど……)


とりあえず持っている杖を置き、地面に横たわっているガイア様を大勢の人に見えるような位置取りで膝枕してあげます。そして両手を高く上に掲げて聖属性の金色の魔力を集めます。


「「「「「 おお―――――――――――っ!! 」」」」」


少し大げさに金色の光を広げると、周りから驚きの声が上がりました。しばらく金色の光を観客に見せつけた後、ゆっくりとガイア様を包み込むように光を移動させます。



パァ―――――――――――ッ!



キラキラ輝く癒しの光が彼を包み込み、しばらくしてその光が消失すると怪我も疲労も回復したガイア様が呆然とした表情で膝枕の上から私を見上げています。私は彼にむかってニコリと微笑むと彼を膝枕から下し、彼の手を取って立ち上がらせます。



「「「「「 わぁぁぁぁ―――――――――――――!! 」」」」」


パチパチパチパチパチ―――――――――――――――!!



どうやら私の試みは成功したようで、闘技場は私を称賛する声と拍手で満ち溢れています。優斗も満面の笑顔で私に拍手を送っているで、誤解は解けたと確信できました。


(ふぅ~とりあえず一件落着かな………)


未だに呆然としたまま私をみつめているガイア様にもう一度ニコリと微笑みむと、私は少しでも早く闘技場を後にしようと歩き始めました。闘技場に響く歓声は私が姿を消してからも、しばらくの間鳴りやまなかったのでした……。



◇◇◇◇◇◇



その後行われた『軍事演習』はゼガートさんの指揮の元、全て無事に行われました。アストリア侯爵家とサーペント伯爵家の軍幹部の方々も大きな衝撃を受けたようで、急ぎ領地に帰り訓練に勤しむことになりました。


そして軍事演習から数日後……。


私の元に豪華で大きな花束が届きました。


次のようなメッセージ付きで……



『親愛なる我が聖女へ』




――――――――――――― 貴方のガイア・サーペントより




(・・・・・・・・・・・・・)



何とか無事に『一騎打ち』を終えたミユですが、

思わぬ結果に結びついてしまったようです。


次回は、軍事演習の様子をゼガートさん視点で

お届けしようと考えています。

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