第32話 ミーナへの『極秘任務』
今回の話は、先のザナッシュ公爵の短編よりも
時系列が前になります。ごめんなさい。
久しぶりにミーナ登場です。
どんな任務を依頼するのでしょうか?
『死神の巣』によるユウト襲撃事件から1週間ほど経ちました。すでに『死神の巣』のグレイさんとアストリア侯爵家のシュリさんは、正式な同盟締結のために拠点や領地へと帰還しています。水の神殿のエリスさんも明日帰還するとのことで、出発前に私に面会したいと希望がありました。
シュリさんとは、ゆっくりお話をしたかったのですが、こちらに滞在中はお互い忙しい状況で話すどころか会うこともままならず……とても残念でなりません。でも、来月こちらで開催される軍事演習の見学にアストリア侯爵家の軍部の方々を連れて再び来訪されるということなので少しの辛抱ですね。
そういうわけで、優斗はその来月開催される軍事演習のために日々軍施設に出かけては、ゼガートさん達と打合せを行っています。私は再び元の生活に戻り、午前中はマリクさんと魔法の勉強、午後は魔法具に魔力を込める作業を中心に行っています。
マリクさんからは、そろそろ食料関係の改善について取り掛かって欲しいと言われているので、アストリア侯爵領から『小麦』が到着するまでの間、他に活用できる食材や調味料がないかどうか探してみようと考えています。いよいよカダイン伯爵領の中央街デビューというわけです! 色々とお店を巡って物色……いえ、調査してみようかと考えています。
◇◇◇◇◇◇
今日、私はカダイン伯爵邸の応接室で、優斗の護衛騎士であるレイシアさん、シーリス、マリーカ、ライナちゃんと、メイドのリアナ、カレンと一緒に一人の人物を迎えることになっています。その人物と話す内容が“女性限定”の話題のため、今日は私の護衛と『死神の巣』の暗殺者ソアラさんを除いた優斗の護衛を入れ替えることになりました。……まぁ、そこまで大げさな話題とは思えないのですが……。
さて、その私達が迎える人物とは………なんと!
ラルフ村の村長の娘ミーナです。
先日、リアナとカレンから久しぶりに聞いたその名前に、私も一瞬『誰?』と思いましたが、今回発生した『極秘任務』は、確かに彼女が適任だと思い、領主であるマリクさんの名前で本人を呼び出してもらうことになりました。
◇◇◇◇◇◇
「領主様の命により、ラルフ村よりミーナ参上致しました」
そう言って私に向かい可憐にお辞儀をしたのは、紛れもなく“あの”ミーナなのですが、強烈な毒舌で周囲の者にダメージを与える『爆弾小娘』の印象が今は完全に隠されています。初めて会った時と同じ、上品なチュニックのような上着と膝下まである巻きスカート。髪型も濃いグリーンのツインテールです。……身長と髪がこの数カ月で少し伸びたかもしれません。
「久しぶりですね。さぁもっと前に来てください」
私が彼女に微笑みながら声をかけると、ゆっくりとした優雅な足運びで部屋の中央に進みます。その様子はとても村娘とは思えず、ドレスを着ていたら貴族のお嬢様に間違えられても仕方ないレベルです。
(……ミーナ、すごいよ! 私より上手かも……)
ミーナは村長の意向で、将来はエメラダ神聖国の学校に留学させ、成人したら貴族の下で働きながら良い縁談を……と望まれている子でしたが、優斗がいなくなっても勉強を続けていたようです。
部屋の端にいるリアナ、カレンのメイドコンビや、入り口付近に立っているマリーカとライナちゃんも、ミーナの所作に感心しているので、合格点なのは間違いありません。レイシアさんとシーリスは、私の斜め後方に左右に分かれて立っているので、その表情はわかりませんが、きっと同じように感心していることでしょう。
「ミーナは私達が別邸を退去した後も、しっかりと勉強を続けていたのですね。貴族と一緒に生活しても大丈夫なくらい上手ですよ」
私もカトリーヌさん仕込みの上品な話し方を心がけます。
「・・・・・・・・・・・・・・」
(……ん? 何? どうかした?)
ミーナは、私の誉め言葉に返事をすることなく俯いています。
そして、次の瞬間、ガバッと顔を上げると勢いよく言葉を吐き出しました!
「あったりまえでしょうが!! そこの“紫髪のおばさん”に、いきなりビリビリと電撃を浴びせられて、気が付いたらユウトくんは居なくなっているし、残された“役立たずの騎士とメイド達”は、いつユウトくんが戻ってくるのか全くわからないと言うし、それから数日したら、今度は別邸が空になっているし!! ちょっと! 聞いてる!!」
(・・・・・・・・・・・)
入室当初の可憐で優雅なミーナの姿は完全に消し飛び、いつもの『爆弾小娘』に豹変したことに全員が呆気にとられています。特に初めてミーナに会ったマリーカとライナちゃんが口を大きく開いたまま絶句しています。
「とにかく!! 私がユウトくんに再会して傍に仕えることのできる可能性が、エメラダ神聖国に留学して、どんな上級貴族でも大丈夫なくらいの教養を身に付けることしか方法を思いつかなかったのよ!! 一生懸命勉強して、貴族の振る舞いも身に付けるのは当然でしょうが!!」
顔を真っ赤にして、頬も膨らませて怒っているミーナですが、彼女の考えと行動について落ち着いて考えてみると、とても優斗のことを一途に想ってくれているのがわかります。
「ミーナ…。優斗のこと、そんなに想ってくれているなんて、姉として嬉しいです。ありがとう……」
「えっ? い、いえ……そ、その……想っているだなんて……」
私の言葉に急速に怒りが鎮まり、今度は恥ずかしがり始めたミーナが何だかとても可愛らしく思えます。……本当にこの子は『毒舌』がなければねぇ……と考えていると、
「それではミユ様、そろそろミーナに呼び出した用件を…」
私の斜め後ろに立つレイシアさんが、ミーナへの説明を促しました。
私はコホン! と一つ咳払いをすると、改めてミーナに向かって話かけます。
「領主であるマリクさんを通じて、ここにあなたを呼び寄せたのは、優斗の傍に『学友』として仕え、『ある任務』に就いて欲しいからです」
「!!!」
「実は、近々私と優斗は一緒に住む屋敷を領主から賜ることになったのです。そこには当然、護衛騎士やメイド、使用人を連れて行くことになるのですが……、カダイン伯爵家だけでなく、外部からも複数人召し抱えることになってしまったのです」
「?」
ミーナが「よくわからない」といった顔をしていますが無理もありません。
先日の襲撃事件を機に同盟を結ぶことになった『死神の巣』ですが、同盟の一環として優斗の周りに護衛と身の回りの世話、側近候補として『闇属性所持者』を複数人送ってくることになりました。
その話が正式に持ち上がった際、今現在優斗の滞在先となっているレイシアさんの実家『エクレール邸』に外部の人間を同居させないほうが良いであろうという理由から、私と優斗はエクレール邸の近くで、政争の影響により空き家になっていた某男爵邸を賜ることになったのです。
その男爵邸は、エクレール邸に比べれば敷地は10分の1くらいの6,000㎡の広さで、坪数にすると約1,800坪くらいかしら…。防衛に関しても十分とは言えないそうですが、大陸最強の暗殺者集団が味方であることと、レイシアさんシーリスさんの『二つ名』を持つ二人、そして騎士より強いソアラさんが護衛にいることから、特に問題は無いと判断したようです。
「えっと、おねえさん? 外部の人を召し抱えるのが、どうして私を呼ぶことに繋がるのかしら?」
ミーナの質問に答えたのは、レイシアさんです。
「召し抱えることになる外部の人間は10~18歳くらいの可愛い、または美しい女性ばかりだそうです。その目的は………わかるかしら? こちらも領内から数名『学友』を選出する予定ですが、ミーナなら我々の期待に応えてくれると考えたのです」
そう言い終わると、周囲で聞いているシーリス、マリーカ、ライナちゃんにリアナ、カレンも大きく頷いています。
「えっと、目的って……その人達が、ユウトくんを“誘惑”するってこと?」
頬に手を当てながら考えるように呟くと、
「“誘惑”なんて甘い話ではありません!!」
「ユウト様の貞操の危機なんです!!」
リアナとカレンが声を荒げます。
さらに…
「エクレール邸での至福の時が……ユウト様の寝顔が……」
「ユウト様との楽しいお話の時間が減るんです」
レイシアさんとライナちゃんが気落ちしています。
「水浴びが……、お湯浴びが……」
「………お背中の流し合いが……」
シーリスとマリーカの絶望の声が聞こえます。
ミーナは、そんな室内の面々を見渡して大きく溜息をつくと、
「私はユウト様へ“接近”する者を妨害するために呼ばれたということかしら?」
「恥ずかしながら、ミーナの考える通りです。領内から選出するお嬢様方では、さすがにそんな“任務”をお願いすること出来ないので……」
ミーナの特技(?)である人の心の奥深くまで傷をつける『毒舌』は、実際に味わったことのある皆にとって、効果は折り紙付きです。…マリーカとライナちゃんもそのうち味わうことになると思います。
「う~ん…。なるほど……ユウトくんに近づく悪い虫を排除する役目は別にかまいませんよ。きっと私、言われなくてもユウトくんを守ると思いますから。でも…」
少し考えながら、あっさりと“任務”について承諾してくれたミーナですが、何か疑問点があるようです。
「でも…、ユウトくんを“誘惑”したり、実際に手を出して危険なのは、この部屋にいるおばさん達じゃないですか? まずはそちらから対処しないと!!」
「!!!!!!!」
「な、何ですって!!」
「はぁっ!?」
またも急に飛び出した爆弾発言に室内の女性陣の殺気が飛び交いました。
レイシアさんはその瞬間にミーナに“電撃”を飛ばします!!
バリバリ――――――ッ!!
――――――――パシッ!
「!!!!!!!」
「えぇっ?」
「う、ウソでしょ!!」
レイシアさんがミーナを懲らしめるために飛ばした電撃が躱されました。
撃った本人だけでなく、シーリスさん達女性騎士も驚いています。
「あ、危ないじゃないの!! 当たったらどうするのよ!!」
「ミ、ミーナ…… あなた私の電撃をどうやって交わしたの?」
「ど、『どうやって』って言われても……そんなの『何か攻撃が来る!』って感じたから……としか言いようが無いですけど……」
ミーナの答えを聞いて、レイシアさんはニヤリと“悪い笑み”を浮かべると、ミーナの傍に近づいて肩に手を置きました。
「シーリス、このミーナは見所があるわ。ユウト様と一緒に訓練をお願い! 武器の適正も見てあげてね……ということで……えいっ!!」
ビリビリビリビリビリビリビリビリ!!
「きゃぁぁぁぁぁぁ―――――――――っ!!」
ドサッ
電撃を直接流されたミーナは、気絶してその場に崩れ落ちました。
(レイシアさん、怖い…)
「ふんっ 何度も“おばさん”と言った罪は消えないわよ!」
自慢のツインテールが少し焦げ、室内に嫌な匂いを残しながら、ミーナはレイシアさんに呼び出された邸内の男性騎士達に担がれて、そのまま退場していきました。
ミーナの武人としての素質がどのくらいなのか気になるところですが、まずは私の優斗をしっかりと守ってもらいたいと思います。
ミーナはやはり変わっていませんでした(笑)
次回はエリスさんと恋愛話(?)を行います。
タイトルは「水の女神の想い人」の予定です。
ブックマーク、評価ありがとうございます。
少しでも増えると嬉しくなります。
是非、引き続き応援してくださいませ(^^♪




