短編02:ザナッシュ公爵の悪だくみ
今回はザナッシュ公爵側のお話です。
(本編を楽しみにされていた方、ごめんなさい。)
ブックマーク、評価をありがとうございます。
いつも感謝しながら、執筆をしています
『死神の巣』によるユウト襲撃事件から1ヵ月。
アストリア侯爵家、カダイン伯爵家、サーペント伯爵家の三家と『水の神殿』、『死神の巣』との間で正式に同盟が締結されてから、しばらく経った頃のお話です。
◇◇◇◇◇◇
ここは、エルフィン王国の王城の一室『宰相の間』
王城の左翼、2階奥にあるこの部屋は代々のエルフィン王国宰相が政務を執り行う一室であり、通常であれば各部門の文官や武官が宰相への報告や承認を求めて、人の出入りが非常に激しい場所なのですが、現在は訪れるものが一部の限られた者だけとなっているため閑散としています。
その理由は、この部屋の主が政務の決済のほぼ全てを部下に委任しているからに他なりません。
その男の名は、クロフォード・ザナッシュ公爵(45歳)
2年前の政争で政敵である当時の宰相リゼル・アストリア侯爵とその一派を多数粛清した彼は、グラン国王とフレデリク王太子を王城の最奥にある王室の私的エリアに軟禁し、ブリジット王妃とクレア王女も王城の東端にある離宮で軟禁することに成功しました。
これにより、離れ離れになった両者がザナッシュ公爵の“人質”になっているとお互いで想像し合うことになり、必然的にエルフィン王国の実権はザナッシュ公爵のものとなってしまったのです。
国の全ての実権を握った彼は、国王陛下の名のもとに国民の税金を跳ね上げ、強制労働に従事させるなど悪政の数々を行いながら、日々私腹を肥やしています。……といっても浪費のほうも莫大なので、蓄財が行われているわけではありません。
そんな公爵のもとに、二人の側近が訪れて現況の報告を行っていました。
一人は政務・外交関係を委任されているマードック伯爵、もう一人は軍事関係を委任されているキリング将軍です。マードック伯爵は、代々ザナッシュ公爵家を支えてきた有能な貴族であり御年70歳。上品な白髪と白髭を生やし、一見すると執事のようにも見えます。一方、キリング将軍はグラン国王の親衛騎士長だった人物で、身長は180cmくらいの長身。肩幅が狭いことから全身筋肉で引き締まっているにも関わらず鎧を着ている姿は全く強そうには見えません。
そのキリング将軍はグラン国王の信任の厚い人物でしたが、ザナッシュ公爵の次女を妻として迎えてから、次第に距離を置かれるようになり、次期騎士団総長の座から遠のくにあたって、反アストリア侯爵家へと旗を転じたという経緯があります。
「さて、それでは報告を聞こうか」
宰相の席にふんぞり返っている公爵が、自らの脂肪で膨らんだ大きなお腹をひじ掛け代わりにしながら、二人に声を掛けました。
「はい。それでは、まずは私から……」
マードック伯爵が公爵の前へと一歩進み出て報告を行います。本来であれば資料なども一緒に提示するのですが、公爵が資料に目を通すことがないとわかっているので、あえて用意せず、また報告は簡潔に行うように心がけています。
「まず、南のゴルフェ鉱山の産出量ですが、強制労働者の増加に伴って日々増加しております。しかし、衛生面・食事なども含め労働環境の低下から病人やけが人も増えております。これらの対策をしませんと、今後産出量は減少の一途をたどると思われます」
公爵は伯爵の報告に軽く頷くと、いかにもよく熟考した素振りを見せながら、その対策について言及しました。
「我々や王家の直轄地だけでなく、王国内全域から労働者をかき集めるのはどうか? 労働者の環境を改善するには金がかかる。労働者は使い捨てでよかろう」
「!! そ、それでは領地を持つ味方貴族達の反発を招きます」
公爵の余りの発言に、伯爵は思わず声が大きくなってしまいました。
「……味方貴族が減るのは困るな。それでは、味方諸侯に鉱山への出資を呼び掛けるか? 出資金額に応じて産出量の何割かをくれてやるという条件でな」
「…………はっ! 承知いたしました」
伯爵は渋い顔をしつつも、それ以上公爵への意見は無駄であることを理解し、それ以上は言葉に出さずに引き下がりました。
「ところでマードック伯爵、現在我々の財政状況はどうなっておる? 来年はエメラダ神聖国から大司教を迎えて盛大にパーティーを開きたいからな……少しは節約も必要であろう?」
(・・・・・・・・・・・・・・・)
伯爵は、その発言にしばらく放心状態となり、しばらく沈黙してしまいましたが、気を持ち直して返答を返します。
「こ、公爵様。すでに国庫は“ほぼ空”にございます。来年春に再開されるアストリア侯爵家等との戦争のために別に貯蓄をしているものしか残ってございません」
公爵自身が毎週行っているパーティーや女遊びで湯水のごとく国庫から国民の税金が使われている現状を訴えてみたものの、これも予想通り全く聞いてもらえません。
「そうか……では、どうしたらよい? 増税か?」
「恐れながら、もはや考えられる全ての種類の税について増税を行っております」
これ以上の増税は、いくら国王陛下の名を語ったとしても国民に受け入れられるとは思えません。国家規模の反乱が懸念されると注意喚起を行います。
「ふむ…。それでは、早くアストリア侯爵領、カダイン伯爵領、サーペント伯爵領の豊かな3領地を我が物にするしかないな……。キリング将軍、奴らの様子を報告せよ!」
「はっ! 現在もアストリア侯爵領など3領地に対して全ての出入りを禁じております。しかしながら、諜報員によると領内の生活必需品などへの影響は極めて少なく、物価も比較的安定しているとのことです」
「な、なに! それでは、休戦条約から2年以上経った今も国力は落ちていないということか!!」
「おそらく、アストリア侯爵領の北に隣接するベルトラン侯爵領、サーペント伯爵領の西に隣接するパームルーン侯爵領で領界封鎖の手を緩めているのでしょう。お二方とも前宰相リゼル様に同情的でしたので……」
「むぅぅ………」
公爵は悔しさに顔を歪めながら、握りこぶしをブルブルと震わせています。
「公爵様、あと一つ気になる点がございます」
「何だ?」
「はい。最近、カダイン伯爵領内で盛んに軍事訓練が行われているそうなのですが、彼らの『士気』が異常なほど高いという報告があり、近々アストリア侯爵家とサーペント伯爵家の軍部が視察に来る予定があるそうです」
「それのどこが気になるというのだ? 戦争を前に訓練に力を入れるのは当然の事であろう? 奴らの士気が高いと我々が負けるとでもいうのか?」
実戦経験者であるキリング将軍からすれば兵士の『士気』が戦場においてどれだけ影響を及ぼすのかは、とても重要な問題なのですが、公爵には理解できないようです。何とかそれを理解してもらうために、公爵を持ち上げつつ説明することにしました。
「戦場で『士気』は大きな影響がございます。例えば公爵様自らが戦場に立ち兵士を激励するのとしないのとでは、兵士の気合いに明らかな違いが生まれます」
「なるほど、そういうことか! それでは、その『士気』が両軍とも同程度であれば、我が軍は必ず勝てるというわけだな?」
「………はい。兵士の数はほぼ倍、貯蓄している軍資金と食料に手をつけなければ、こちらも問題はございません。有利に戦争を進めていけると思われます」
キリング将軍の言葉に気を良くした公爵は、さらに良いことを思いついた様子で満面の笑みで話を続けます。
「将軍、敵の士気を下げるために出来るだけ早く先制攻撃を仕掛けてはどうか?」
「こ、公爵様!!」
「!!! 休戦条約終了前に攻撃しろと?」
「何を驚いている……。休戦条約など前アストリア侯爵のアルフレッドがエメラダ神聖国と私に多額の金を払ったことで締結されたようなものではないか! それに条約を破ったとしても、今回も国王陛下に泥を被ってもらえばよかろう」
(・・・・・・・・・・・・)
(・・・・・・承知しました。)
「それで、いつから開戦できる?」
「………今からですと、どんなに急いでも休戦条約が切れる3ヵ月前かと…」
「ほうっ…。良いではないか! 休戦条約が切れる3か月前に一斉に我が軍が領界に押し寄せたら、『光の騎士』も『深淵の魔術師』もさぞ驚くことであろう!」
(・・・・・・・・・・・・)
(・・・・・・・・・・・・)
その後、伯爵と将軍は、公爵の高笑いを聞きながら宰相の間を後にしました。
◇◇◇◇◇◇
「キリング将軍、我々は大変な泥船に乗ってしまったようですな」
「戦争に勝てば、泥船が崩れるのを補修できると言ったところでしょうか?」
「まさに…。私個人としては、戦争に勝利して国内の敵を排除した後、出来ることなら将軍のご嫡男という丈夫な船に乗せていただきたいのですが…」
「!!! 御冗談を……息子はまだ8歳ですぞ」
「公爵のご嫡男を考えるより、未来が明るくなりますからな……まぁ年寄りの戯言と思って聞いてくだされ」
(・・・・・・・・・・・)
人気のない王城の廊下を二人の男が会話をしながら去っていくと、しばらくして『宰相の間』から黒い人影が「スルリ!」と抜け出てきました。
その人影は周囲を素早く確認すると、一瞬でどこかへと走り去ってしまいました。
公爵のおかげで、開戦が3カ月ほど早くなりそうな感じです!
ミユ達の陣営は大丈夫でしょうか?
次回は久しぶりに『爆弾小娘ミーナ』を登場させる予定です。
どうぞお楽しみに♪




