第31話 聖女?の交渉(後編)
前回の『死神の巣』との交渉の続きです。
ミユは聖女として上手く交渉できるでしょうか?
ブックマーク、評価ありがとうございます。
楽しみに読んでくれる人がいるのは嬉しいです♪
「あなた達の『優斗と共に国外退去』という要求ですが、その要求を呑むわけにはいきません!」
私の明確な“要求拒否”の回答に、周囲に緊張が走りました。
そして、しばらくの沈黙の後、口を開いたのは正面にいる『死神の巣』の暗殺者5名の代表であるグレイさんです。
「ふぅ―――っ。現状を良く理解しているあなたが、そこまでハッキリと拒絶されるということは、何か私達を納得させられる理由があるのでしょう? ぜひお伺いしたいのですが……」
大きく息を吐いた後、灰色の髪をかき上げながら私に問いかけます。
私は平然とした顔を崩すことなく、準備した言葉を頭の中でもう一度復唱していましたが、奥のソファに座っている優斗の「お姉ちゃん…大丈夫? 何かいつもと違うよ…」という心配そうな眼差しに気が付きました。
(優斗、心配しないで! 確かにお姉ちゃんは今思いっきり『演技』しているよ。セリフも全部2時間かけて教え込まれたものだよ。でも大丈夫! お姉ちゃんに任せなさい!!)
優斗の視線を振り切って「むん!」と全身に気合いを入れ、グレイさんに向き合い口を開きます。
「はい。グレイさんのおっしゃるとおり、私達にはあなた方を納得させることができる“代案”があります。もちろん、条件を一つ承諾してくれることが前提ですが、それは『闇属性所持者』にとって、とても良い未来図を描ける内容であると自負しています」
自分の緊張をほぐすためにもニコリと微笑むと、周囲の緊張感が和らぎました。そこに強面のガッシュさんが両手に椅子を持った状態でこちらに歩いてきました。
「若、どうやら有意義な話し合いになりそうですね。皆さん椅子に腰かけてじっくりと話し込んでは?」
「そうだな…。それでは『光の騎士』殿と『水の女神』殿もそちらにある椅子をお使いください。『雷帝』殿は、ミユ殿の護衛だったと記憶していますが…」
「えぇ、その通りです。私の椅子は結構です」
レイシアさんはそう答えて、私が座る椅子の斜め後ろに立ちました。シュリさんとエリスさんは、私の左右に椅子を置き着席します。
「さて、それでは私達の『代案』をお話したいと思いますが、その前にあなた方の目的について私達が理解している内容と相違がないかどうか確認させてください」
「……いいでしょう」
「あなた達、『死神の巣』をはじめ闇属性所持者の目的は、自分たちを導く魔属性を持った『魔王』を見つけ出し、自分達が迫害を受けることのない“独立国”を建国したい。……でよろしいでしょうか?」
「その通りです。それが大陸全土に散らばっている我々が、長い歴史の中で迫害を受けながらも頑張っている理由であり希望です。いつか我々の元に『魔王』様が現れると!」
ずっと落ち着いた様子だったグレイさんの言葉に熱がこもりました。きっと魔属性を持った優斗を見つけた時の気持ちの昂りが蘇ったのかもしれません。
「それならば、なおさら今の情勢で優斗を連れて国外へ出て“建国”するのは得策ではありません。」
「それは、エメラダ神教の中央派や他国から認められない可能性のことですか?」
「そうです。最悪、世界中の国家と戦争になり、大陸中に潜伏している闇属性所持者が更なる危険に追い込まれるかもしれません」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
グレイさんとその後ろに控えるガッシュさん、優斗の隣に座っているソアラさんも深刻な表情で黙り込んでしまいました。建国前後の困難な道は覚悟していたのでしょうが、第三者から言われたことで『国家樹立』の大変さを改めて感じたのでしょう。
「そこで、私達の『代案』は、ここに集まっている勢力同士で『同盟』を結ぶということです!」
あらかじめ内容を熟知しているシュリさん、エリスさんとレイシアさんは平然としていますが、グレイさん達は明らかに驚いている様子です。
「ど、同盟ですか?」
「はい。この同盟はここにいる皆の願望をかなえてくれるものになります。具体的に説明しますと、アストリア侯爵家・カダイン伯爵家は先にザナッシュ公爵達との戦争に勝つために私と優斗の力を欲しています。また、水の神殿をはじめとしたエメラダ神教の神殿派は、中央派を排除するための旗印として私の力を欲しています。そしてあなた達は、優斗の力を欲していますよね」
「なるほど、全ての勢力がミユ殿とユウト様の力を欲しているわけですね。二人の力を独占せず、同盟を結んで協力し合うことで全ての願望が叶うと…」
「その通りです! まず、同盟者全員が協力してザナッシュ公爵を倒し、エルフィン王国の清浄化、そしてアストリア侯爵家の宰相就任を目指します。次に聖女である私の名のもとにエメラダ神聖国の神殿派の力を結集し、中央派を打倒します。そして、私が女神アナーテ信仰の見直しを提言し、大陸全土に『全属性の平等化』を広めます。最後に私とエメラダ神教の神殿派、エルフィン王国の承認の元で優斗を王と仰ぐ“あなた方の国”を建国するという流れです。時間はかかるかもしれませんが、良い案だとおもいませんか?」
私の提案にグレイさんはゆっくりと目を閉じて熟考しています。ソアラさんもガッシュさんも静かにグレイさんの様子を見守っています。
「……ミユ殿、お話はよくわかりました。こちらとしても不用意な争いを避けて祝福の中で建国できるのは好ましい限りですが、今回の案をお伺いして3点質問がございます。そして、一つ問題点がございます」
「グレイさん、遠慮なくおっしゃってください」
私が質問と問題点について聞かせて欲しいとお願いすると、グレイさんは軽く頷きました。
「まず一つ目に、今回同盟を結んだ際、我々に求められているものは何でしょうか? 次に、ミユ殿とユウト様は我々に利用されるだけの立場に思えますが、お二人にとってこの同盟での“利”は何でしょう? 最後に、この同盟に違反した場合の罰則は?」
(!!!!)
驚きました……。驚いたのは、グレイさんの質問にではなく、クレインさんとランドルフさんの質問予測についてです。高い確率で質問されるであろう事項を列挙し、その回答を教え込まれたのですが、本当に勉強したことと同じ内容を質問されました。
「最初の質問ですが、皆さんには大陸全土に張り巡らされている闇属性所持者の連絡網を使って情報収集と情報操作をお願いしたいです。さらに戦争などで必要となる物資の流通が円滑になるよう協力いただけると助かります」
「なるほど、それは我々の得意とするところです。力になれるでしょう」
「あとの二つの質問ですが、それに答える前に“私達の素性”をお話しなければなりませんね」
「???」
私がそう話すと、グレイさんをはじめ他の2人も“よくわからない”と言った表情を浮かべました。
「驚くかもしれませんが、私達姉弟はマリクさんの召喚魔法によって、こちらの世界にやって来た『異世界人』なのです」
「「「!!!!!!!!!!!!」」」
「つまり、私達姉弟にはこの世界で落ち着ける場所がありません。ここにいる皆さんが私達の力を活用し、それによって私達が安心して暮らせるような世界に変えてくださるのであれば、それが私達の“利”となります。」
「「「・・・・・・・・・・・・・」」」
「そして、同盟に違反した場合の罰則ですが……『私達姉弟を失う』ということです」
そう言いながら、私は悲しそうな表情をして顔を伏せました。
この私の発言を『二人の協力を得られない』または『元の世界に帰る』と簡単に受け取るか、『私達姉弟が自ら命を絶っていなくなる』と重く受け止めるかは先方の解釈にゆだねられます。少なくとも正面にいるグレイさんは眉間にシワを寄せている様子からすると後者で捉えたのかもしれません。
「………ありがとうございます。ミユ殿のお気持ちも大変よくわかりました。それでは、次に問題点のほうですが……ユウト様の存在を知った同胞達が、建国までに多くの時間を要するこの案に賛同し、この先何年も待つことができるかどうかということです」
この問題点も私達にとっては想定内です。私は聖女として真剣にこの問題を受け止めたことを理解させるために、ゆっくりと席を立ちグレイさんの前で片膝をつきます。そして、彼の太ももの上に置かれている両手の上に私の両手を重ね、ジッと上目遣いで彼の瞳を射抜きました。
「なっ! ミ、ミユ殿…何を!?」
「待てます! あなた達は今まで何百年、いえ千年以上も耐えてきたではありませんか…。無用な争いを避けて建国ができるというのに、わずか数年が待てないはずがありません!」
「ミユ様…………」
(ん? 何か呼び方が変わった?)
グレイさんの私に対する呼び方の変化に一瞬戸惑いましたが、まだセリフの途中です。今は深く考えないようにして言葉を続けます。
「私が最初に言った『条件を一つ承諾して欲しい』というのも正にその事なのです。皆さんには優斗が成人するまで素性や魔属性のことを公にせず、同盟者として“陰ながら”協力して欲しいということなのです」
「同盟者として陰ながら協力することは全く問題ありませんが、ユウト様の成人までは8年弱……。少し長くありませんか? それともエメラダ神教の中央派を排除するまでには、それくらいの時間がかかると?」
「いえ、全てが順調に進めば、そこまで時間がかかるとは思っていません。優斗は私と同じ異世界人ですから、この世界のことをよく理解していません。一国の王として君臨するためには、学ぶ期間が必要だと考えました。私としては、エルフィン王国とエメラダ神教の中央派の件を3~5年で片付けて、その後成人するまで国王になるための教育を受けさせられればと思っています」
「なるほど、確かに“傀儡の王”にならないためには、それくらいの教育期間は必要ですね。それならば納得できます」
私達の話に、優斗が少し呆気にとられた表情をしていますが、それに気を取られるわけにはいきません。あと少しで交渉も終了となります。グレイさんが私の“代案”を受け入れてくれれば、その後は皆でカダイン伯爵邸に連れ立って行き、同盟に関する詳細を皆の立ち合いの元で書面にし、各勢力の代表への報告…そして調印の流れです。
ちなみに私は最初、水の神殿の神殿騎士エリスさんは、水の神殿の『代表』として同盟の締結に携わって良いのかどうか疑問に思いましたが、疑問に思ったのは私だけだったようで、実は彼女…エリス・フェアリーは知る人ぞ知る『水の神殿長の跡取り娘』なんだとか……。
そんなことを思い出していると、今まで一言も言葉を発しなかったグレイさんの妹のソアラさんが何かを思いついたように発言しました。
「それでは、ユウト様の身の回りの世話と、今から共に学ぶ側近候補を置いたほうが良いのではありませんか? 護衛も含め闇属性所持者から数名をお仕えさせたいと思いますが、いかがでしょうか?」
「ソアラ! 急に発言をするな! すみませんミユ様……しかし妹のソアラの提案は私も同様に思うところです。陰ながらユウト様のお力になれれば幸いです。いかがでしょうか?」
(・・・・・・・・ど、どうしよう!!)
最後の最後で、予想外の要望が出てしまいました。「優斗の傍に護衛と連絡役を置きたいという要望が出るのでは?」と想定はしていましたが、『身の回りの世話』『側近候補』というキーワードは初耳です。おそらく前者は『メイド』後者は『同級生』のようなものだと考えましたが、隣にいるシュリさんやエリスさんに意見を聞くわけにはいきません。ここで二人にお伺いを立てては、今までの『演技』が無駄になってしまいます。
(と、とりあえず問題が無い内容…だよね……)
そう自分の中で結論づけて、グレイさんに返事をしました。
「そうですね。同世代が傍にいれば優斗も心強いでしょう」
「えっ!?」
「それは!!」
エリスさんとシュリさんから声が上がりましたが、何かまずい返事をしたでしょうか? よくわからない状況に内心慌てていると、レイシアさんからソアラさんに向けて言葉が発せられました。
「ソアラ殿。ユウト様の身の回りの世話とは、どのような事を指して言っているのです?」
「あら、身の回りの世話は、身の回りの世話です。それ以上でも以下でもありません。『雷帝』様が心配されるような『身の回りの世話』とは、どのような事なのでしょうか?」
ソアラさんは、ニッコリと満面の笑みを浮かべながら返しました。
「うっ!……そ、それは……」
「・・・・・・・・・・・・」
(???)
レイシアさんとエリスさんの顔が、いえ耳まで真っ赤になっています。
二人が言葉に詰まっている理由がわからず困っていると、シュリさんが溜息をつきながら話し合いの場を正常化してくれました。
「とりあえず同盟については、グレイ殿達も了解してくれたと考えてよろしいでしょうか? 私やエリスの言いたかったことは、全てミユ様がお話くださいました」
「はい。こちらとしては『死神の巣』にユウト様の事と同盟の件を報告し、長の了解を得ようと思います。心配なさらずとも、間違いなく良い返事を得られるでしょう。そこで申し訳ないのですが、私が報告に戻っている間、ソアラとガッシュの二人をユウト様の護衛として預かっていただきたいのですが…」
「了解しました。具体的なことについては、この後、カダイン伯爵邸で再度打合せを行い文書にすることにいたしましょう」
シュリさんの締めの言葉に、やっと私の交渉任務が終わったことを実感しました。
(ふぅ……、これで一息つけるかな…)
そう心で呟いて、その後、初めて優斗にニッコリと笑顔を見せることができました。
それから全員で席を立ち、グレイさん達と握手を交わすと、ガッシュさんの先導の元、1階へと下りました。
「さぁ、それでは皆さん! カダイン伯爵邸へと参りましょう!」
交渉を無事に終えた充足感から、私はとても清々しい気持ちでグレイさん達に声をかけ集会所を出ました。集会所の外には、すでに数台の馬車が用意されており、その近くでマリクさんやゼガートさんが私達の帰りを待っていました。
私は交渉の成功を早く報告しようと、足早に歩き始めましたが、そこで後ろから優斗に呼び止められました。
「お、おねぇちゃん! 待って!!」
「えっ? どうしたの優斗?」
「おねえちゃん、シーリスの治療は?」
「……………………………………ごめん、忘れてた」
ガクッ――――――――――――――――(3回目)
そうして、私は可哀想なシーリスをしっかりと治療した後、皆と一緒に馬車でカダイン伯爵邸へと向かったのでした。
◆◆◆◆◆◆◆
<カダイン伯爵邸に向かう馬車内でのグレイとソアラの会話>
「ソアラ、最後の発言……助かった。あれが無ければ我々の勢力は、ユウト様の周りに護衛と連絡役を置くくらいしか出来なかったと思う」
「聖女様がユウト様の『教育』を考えられているとのことで、思いついたのです」
「それでも、男の私では思いつかなかっただろう…。ユウト様の身の回りの世話と側近候補には、内々に闇属性の中でも魔力が高く優秀な10~18歳の女性を選定しなければいけないな」
「兄上、私は護衛だけでなく、身の回りの世話と側近の役も担いたいと思います」
「!! ソアラ……本気か?」
「はい…。恥ずかしいのですが、私……ユウト様の子供が欲しいです」
「………8歳差だぞ…ユウト様が18歳の成人の時、ソアラは26歳……」
「年齢は関係ありません!」
「わかった、わかった! ユウト様には成人の後、我々が選定した者と一人でも多くの優秀な『闇属性の子』を成してもらう必要があるからな。『魔属性の子』が生まれてくれれば更に良いのだが…」
「私、頑張ります! 若い子には負けません!!」
「それでは期待するとしよう。私が長に報告に帰っている間、ガッシュと二人でユウト様のことを頼む。未成年なので難しいとは思うが、女性の好みがわかったら知らせて欲しい」
「はい。兄上、お任せください。必ずやユウト様の心も身体も手に入れてご覧に入れます。今から成人されたユウト様が楽しみでなりません♪」
そんな会話を兄妹でしながら、二人を載せた馬車はカダイン伯爵邸へと進んで行くのでした。
無事に交渉を終えたミユですが、
最後の最後でシーリスを忘れるという大失態!
聖女 → 聖女?になってしまいました。(笑)
この世界の女性は積極的な方が多いのでしょうか?
それともユウトの魅力かな?
後日、闇属性の選ばれた女性たちが、やって来るみたいですね。




