短編01:エルフィン王国の未来 (クレア王女視点)
すみません。予告詐欺です。
短編が先に出来てしまいましたので先に掲載いたします。
どうぞお読みくださいませ。
私はエルフィン王国、グラン国王の正妃ブリジットの娘でクレア・エルフィンと申します。
エルフィン王国は、大陸南東部に広大な領土を持つ大国です。実り豊かで温暖な土地ということもあり、1,500年前に開祖ファロス王が国を興してから、多くの人がこの国に移住し、今では王国全体で1,000万人の人口を有するようになりました。
豊かなこの国を侵略しようと、歴史の中で外敵が数多く現れましたが、有能な歴代国王や宰相、貴族や軍のおかげで、国土が蹂躙されることなく今日を迎えています。
しかし今現在、外敵ではなく、国内に国を蝕む病魔が巣くっているのです。
それは……現宰相、ザナッシュ公爵とその一派です。
ザナッシュ公爵は、国王の親族である5つの公爵家を代表する家格であり、300年ほど前から代々宰相の地位に就いている名門貴族でした。しかし100年ほど前から有能な当主を輩出できず、国内の政治腐敗が進んだことから任を解かれ、その地位をアストリア侯爵家に譲ることになったのです。
アストリア侯爵家は、それ以降、“文武両道”の優れた当主を輩出し続け、宰相の地位を不動のものにすると、国内の政治腐敗を払拭し、エルフィン王国内の平和と王室の地位向上に多大な貢献をしてくれました。
しかし、ザナッシュ公爵一派による2年前の政争によって、宰相リゼル・アストリア侯爵は殺害され、公爵一派が中央政界を牛耳ることになってしまったのです。
現在、グラン国王と兄のフレデリク王太子は、王城の一室で軟禁状態となっています。そして、国王には公爵の妹サマンサが側妃としてあがり、正妃である母と私は王城の東端にある離宮でひっそりと生活しています。先日迎えた15歳の誕生日も、昨年同様、特にパーティーなどが行われることもなく、母と二人で慎ましく過ごし寂しい思いをいたしました。
私達の周りに仕えるものは数人に限定され、王城どころか離宮からも出ることが許されません。唯一の救いは月に一度訪れる御用商人と面会し、服飾品などの注文をしながら、国内外の様子を世間話程度にできることです。
…とはいえ、私達にとって良い話は全くと言ってよいほどありません。ザナッシュ公爵は国王の名を語って国民への税金を跳ね上げ、強制労働に従事させるなど悪政の数々を行っているようで、民衆の怒りの矛先は悔しいことに、私達“王族”にまで及んでいるというのですから…。
もしかすると、御用商人が離宮への出入りを許されているのは、私達母娘に絶望を感じさせるためかもしれない…とそんな後ろ向きなことを考えてしまうくらい、切ない毎日を過ごしているのでした…。
◇◇◇◇◇◇
「姫様、そのように暗い顔と溜息をされては、幸せが逃げて行ってしまいますよ」
月に一度、来訪した御用商人から、いつものように世間話を聞き、小さく溜息をつくと、聞き覚えのある声が前方より聞こえて驚きました。少しふさぎ込んでいた顔を慌てて上げ、声のした方向へと視線を移すと、御用商人の後ろに控えている従者がゆっくりと顔を上げました。
「!! シュ、シュリではありませんか!!」
予想外の人物の来訪に思わず大きな声が出てしまいました。そして、忍んできたはずの彼のことを考えずに名前を口に出してしまった自分の軽率さに恥ずかしくなり、顔が赤くなってしまいます。
(……室内にいるのが、信頼できるものだけで良かった…)
その点についてホッと安堵の息を吐くと、シュリもそんな私の様子をみて、愉快そうに微笑んでいます。
彼の名は、シュリ・アストリア。2年前の政争で殺害されたリゼル宰相の養子です。さらさらとした金色の髪と整った目鼻立ちは、まるで物語の主人公のようです。年齢は20歳で、私が幼い時にはよく遊んでくれましたが、彼が13歳となりエメラダ神聖国の学校へ留学してからは、年に数回の王室行事で会えるくらいで、政争後は全くの音信不通でした。まさか、この情勢下で会うことができるなんて思いもよらず、言葉にならないくらい嬉しいです。
(それにしても…シュリは、私をいつも子供扱いして意地悪なのだから…)
幼い頃の私は、シュリから見れば“妹”のようなものだったと思いますが、今は私ももう大人です。一人の“女性”として扱って欲しいと思い、少し頬を膨らませて怒ってみせると、シュリが御用商人と位置を入れ替わるように私に近づいて頭を下げました。
「姫様、驚かせてしまい申し訳ございません」
「本当ですよ! 本当に驚きました…。シュリ、また会えるとは思っていませんでした。…それにしても、このような所に来て大丈夫なのですか?」
「…大丈夫ではありませんが、エルフィン王国の…そして王族の皆様のためにどうしても伝えなければならないこと、そしてお願いしたいことがあり、この場に参上いたしました」
頭を下げたまま彼が述べた言葉は、真剣そのものです。私も姿勢を正して彼の言葉を聞こうと思います。
「シュリ…顔を上げてください。その大事な話…私でよろしいのですか? 母を呼んだほうがよろしければ、すぐに呼びに行かせますが…」
「いえ、御用商人との面会に途中から王妃様をお呼びになれば、怪しまれる可能性がございます。ぜひ後ほど姫様からお伝えください」
「わかりました。それでは、お伺いいたしましょう…」
「はい。実は………」
◇◇◇◇◇◇
「それは、本当ですか!!」
シュリが話してくれたことは、私にとって吉報でした。あと1年後に再開されるザナッシュ公爵家とアストリア侯爵家の戦争について、劣勢と思われていたアストリア侯爵家が勝利する可能性が非常に高くなったという内容でした。その理由についてはまだ明かせないとのことですが、ザナッシュ公爵の時代が終わる日がくるかもしれないという期待に胸が膨らみます。
「しかし、戦争に勝利した際に一つ問題があるのです」
手放しで喜んでいる私に釘をさすように、シュリが言いました。
「そ、それは?」
「現在の国民感情からすると、戦争に勝利した際、ザナッシュ公爵とその一派を処分するだけでは、国民の不平不満が治まる状況ではないと予測されることです」
「あっ!!」
…そうでした。今の悪政は、国王の名を語ってザナッシュ公爵が行っているのでした。王族の処分がなければ、国民の怒りが治まらないかもしれません…。
「……そうですね。シュリ…どうすればよいのでしょうか?」
藁にもすがる思いでシュリに尋ねます。王族の一員として責任をとる覚悟はございますが、無実で処罰される王族は最小限に抑えたいと願います。もしも私一人の命で両親と兄が助かるのであれば…。
「はい。王妃様と姫様には、今から準備をしていただきたいことと、手に入れてもらいたい物がございます。それは…………」
◇◇◇◇◇◇
シュリからの依頼内容に驚きましたが、事が上手く進めば、確かに王族は罪に問われることはあっても、命まで失われるような大事にはならずに済みそうです。
「わかりました。必ず1年後…いえ、半年を目標に準備いたします。」
「よろしくお願いいたします。連絡や人手は、この御用商人を使ってください」
「はい、わかりました。…それで、シュリ…この後、ゆっくりと世間話をする時間はございますか?」
「残念ながら、すぐにでも領内に戻らなければなりません。……いえ、お茶をする時間くらいなら大丈夫です」
私の悲しそうな顔を見て察してくれたのか、ニッコリと微笑んで了承してくれました。シュリと遊んだ頃の昔話など、久しぶりに明るい笑顔で言葉を交わし、あっという間に楽しい時間が過ぎてゆくのでした。
久しぶりにシュリさんの登場です。
シュリさんの素性が明らかになったわけですが、
ミユはまだ知りません。
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