第24話 レイシアさんの幸せな一日(後編)(レイシア視点)
お待たせしました。後編が完成しました。
ちょっと内容が変態っぽくなってしまいましたが、
どうぞご容赦くださいませ。
「ユウト様、到着いたしました」
エクレール邸は、軍施設から馬車で15分ほど南に移動した場所にあります。マリク様のカダイン伯爵邸と比べると敷地の広さは4分の1ほどの60,000㎡になりますが、武力により主家に奉仕している貴族ということもあり、敷地周囲の壁の高さは2メートル強あり、訓練場や練兵場、馬房や武器庫などが充実しています。屋敷の地下にも少人数用の訓練場があり、夜間身体を動かしたい時に使用しています。
さて、現在のエクレール家当主は、私の2つ年下の弟レナードです。父の子爵の爵位を継いで、カダイン伯爵領内に拝領している領地を、母と二人で経営しています。レナードも凄腕の騎士でしたが、騎士団内で『二つ名』を有している私よりも上に立つわけにもいかず、騎士団を辞して領内の政務に勤しんでいます。
「お嬢様、お帰りなさいませ!」
ユウト様にエクレール邸への到着をお知らせした直後、門前の兵士よりさっそく声を掛けられました。『お嬢様』と呼ばれるのは、私自身とても違和感があるのですが、間違いではないので否定できません。少し驚いた顔で私を見つめているユウト様に軽く苦笑いを返しつつ、御者に命じてそのまま馬車を玄関前まで進めてもらいました。
◇◇◇◇◇◇
玄関前に馬車が停まると、執事のハリスンと我が家のメイド達が、いつものように出迎えてくれました。ハリスンは今年で65歳になる熟練執事です。私が子供の頃に戦場で怪我をして騎士団を引退し、それ以来エクレール家に執事として仕えてくれています。長身で白髪、上品な佇まいは今も昔も変わりません。
先に私が馬車から降り、ユウト様をエスコートします。すると、ユウト様を目にしたメイド達から一斉に「キャア!!」という声が上がりました。
(無理もないわね……。)
ユウト様のような美少年を見るのは、誰にとっても初めてのことでしょうから…。そうメイド達の反応を見ながら小さく息を吐きましたが、メイド達に私の計画を邪魔されるわけにはいきません! あくまでも私とユウト様の仲を取り持つように立ち回ってもらいたいです。……ということで、ユウト様に色目を使わないように、後ほど釘をさしておこうと決意しました。
「さぁ、ユウト様。まずは汗を流しに参りましょうか?」
私がそう言ってユウト様をご案内しようとすると、マリーカが私を制しました。
「レイシア様…。その…ここでの護衛について……」
そ、そうでした! つい私の中の計画実行を優先するあまり、護衛任務に関する打ち合わせを失念していました。ライナもマリーカもこの邸内は不案内なので、事前に話をしておかなければなりません。
「…コホン! 失礼、私としたことが…。今日の護衛任務は、ライナとマリーカが交代で行ってください。敷地内や邸内にも我が家の兵士が多数警備しているので、上手く協力するように…。私は、この邸内をエクレール家の者として、ユウト様にご案内することを優先したいと思います。明日からは私も二人と一緒に任務に就きます。……あと、屋敷内のことは、執事のハリスンに聞いてください。万が一の際の防衛設備の場所、脱出経路など細かいことまで聞いておくとよいでしょう。ハリスンは元ベテラン騎士ですから、この機会に色々と学ぶと良いですよ」
「はい! 承知しました!」
「はい…。勉強させていただきます…」
(これでよし…。さて、それでは今度こそ…)
二人に護衛任務をお願いし、改めてユウト様と汗を流しに邸内の『水浴び場』へと移動しようと足を踏み出したその時、今度はホールの奥から声を掛けられました。
「レイシア、私にも彼を紹介してくれないかしら?」
「!!! お、お母さま!!」
ホールの奥から姿を現したのは、私の母エレノアでした。私と同じ薄い紫色の髪を腰までの長さのロングヘアにしていて、首のあたりで1カ所豪華な髪飾りを使って束ねています。年齢は45歳ですが、まだ30代半ばと言っても通用する美貌を保っています。また、立ち居振る舞いも貴族女性の手本となるくらい素晴らしいです。
……が、少し性格に難があります…。
「い、いつ領地からお帰りに?」
「あら? 何をそんなに驚いているのかしら? まるで、私がここにいては不都合なように聞こえますけれど…」
「そ、そんなことはありません。お帰りなさいませ! こちらは先日我が軍の『軍師』に就任されたユウト様です」
今日ここにいるはずのない人間(お母様)の登場に動揺してしまいましたが、何とか気持ちを立て直し、ユウト様を紹介します。私の計画にどんな狂いが出てくるのか、全く予想出来なくなってしまいました…。
「あら、こんなに可愛らしい方が『軍師』だなんて……。ふふっ…彼の元なら女性騎士達はいつもより張り切って仕事をしそうですわね」
前子爵婦人の気品を漂わせながら笑顔で話をしていますが、時折私を見つめる瞳は何か見透かされているような気がして不快に感じます。一刻も早くこの場から逃れたほうがよいと本能が訴えている気もします。
「お母さま! ユウト様は慣れぬ軍での会議でお疲れなのです。すぐに汗を流して差し上げて、夕食をとり…そして早くお休みいただきたいと考えております。お話は夕食の時にゆっくりといたしましょう。……それでは、ユウト様を『水浴び場』へご案内いたしますので、失礼いたします」
少し焦って早口になってしまいましたが、それなりに上手く説明ができたと思います。お母様に背を向けて、親子のやり取りに少し戸惑っているユウト様をご案内しようと再び歩き出したのですが…
「あら? それでは、私がユウト様をご案内いたしましょう!」
(!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
「レイシアは、護衛任務があるのでしょう? それなら私がエクレール家の者としてお客様をご案内するのが道理ではなくて?」
お母様は、口の端を上げて微笑んでいます。
(クッ…!! ひ、酷い…私の計画が、計画が…)
お母様に言葉で勝てる見込みがなく、ユウト様との甘く幸せな計画が音を立てて崩れ去っていきます。感情の昂りを我慢していますが、不覚にも目にうっすらと涙が溜まってきました。
すると! そこに救世主が現れました!!
「奥様…。せっかく昨日領地からお戻りになられたのですから、お嬢様と街でお買い物の機会でも設けられてはいかがですか? 先日、お嬢様は奥様にドレスとアクセサリーを新調して差し上げたいと申されておりました」
執事のハリスンが自然な振る舞いでお母様に進言しました。その目は明らかに「お嬢様を困らせるのはそのくらいに…」と言っています。お母様もそれを察した様子で…
「そう…。この娘がそんな風に私を気遣ってくれていたとは知らなかったわ」
…と口に手をあてて、驚いたような演技をしています。実の母親の、娘の気持ちを弄ぶひどい仕打ちに腹が立って仕方ありませんが、ハリスンが作ってくれた救済策に乗らないわけにもいきません。慌ててお母様に返事をします。
「ハリスンの言ったことは、本当です! 今度一緒に街へと参りましょう。たまには親孝行させていただきますから…」
「あら、そう…。それでは楽しみにしていますわ…。ユウト様……私が邸内をご案内しようと思いましたが、急ぎの用事があるのを失念しておりました。申し訳ございませんが、娘のレイシアの案内でお許しくださいませ…。また夕食の時にでも、ゆっくりとお話いたしましょう…。それでは、また後程…」
そう言って軽やかに挨拶を済ませると、優雅にホールから退出していきました。
私にはとても真似できそうにありません。
(………た、助かった………)
予期せぬ人物の来襲で、私もたくさん汗をかいてしまいました。ハリスンに目で感謝の気持ちを伝え、今度こそ、今度こそはと、ユウト様と一緒に『水浴び』ならぬ『お湯浴び』に向かいました。
◇◇◇◇◇◇
「ユウト様、そんなに恥ずかしがらないでください!」
「だ、だって、その…こんなに大勢の前で裸になるなんて…」
邸内の『水浴び場』は、普段は大きなタライが1つと、水がめが1つ置いてあるだけの一室なのですが、今回はユウト様のためにタライを3つに増やしています。一つは熱湯、もう一つは水を入れ、最後の一つは、両方を混ぜて適温のお湯を作るためのものです。
(そうね…。確かにこれは大勢ね。)
ユウト様が恥ずかしがるのもわかる気がします。今室内には、私の他にライナ、マリーカ、そしてメイドが7名もいます。私にとっても大人数が周りにいるのは好ましくない状況なので、私以外の全員に退室を促しました。
「ここは、私一人で大丈夫ですから、全員外へ出てください」
私の言葉に、ライナとメイド達が未練を残しながら退室していきます。なぜかマリーカだけが室内に残りました。
「マリーカ?」
「護衛二人共が、外に出ることはないのでは…? ライナが室外へ出ましたし…私は室内で警備させていただきます…」
全くの正論に返す言葉もなく、仕方なくマリーカの視線を感じながらユウト様の汗を流すことにしました。
「さぁ、ユウト様! 皆いなくなりましたので、服をお脱ぎくださいませ!」
「う、うん…」
恥ずかしそうに、ゆっくりと服を脱ぐユウト様がじれったくて仕方ありません。
もしかしたら「一人で裸になるなんて…」と思っているかもしれない、と思い立った私は、「それならば!」と自分の服に手をかけます。
「え? レイシア? な、何を?」
ユウト様が驚くのを目の前にしながら、勢いよく服を脱ぎ棄てました。マリーカも驚いて目を見開いています。
「さぁ、ユウト様。私も裸になりましたよ! これでもう恥ずかしくないのではありませんか? 騎士団での訓練終了後の『水浴び』は、『全員』が裸になって行うのです。こちらの世界では当たり前のことですから、気にしないでください」
ユウト様を安心させるために言ったことですが、半分だけ本当です。訓練終了後に裸になって水浴びをするのは本当で、『全員』が嘘です。女性と男性はしっかりと分かれて行います。
「そ、そうなんだ……」
ユウト様が諦めたように服を脱いでいきます。その様子をお湯の準備をしながら、横目でドキドキしながら見ていると、視界の端でマリーカがすでに軽甲冑を脱ぎ、服も脱ぎ始めていました。
「マ、マリーカ?」
「水浴び場では『全員』裸になるのですよ…。そうですよね? レイシア様」
驚いている私に、ニッコリと笑顔で返してきました。マリーカは本当に何を考えているかわからない変わった子です。
◇◇◇◇◇◇
「ユウト様、熱くないですか?」
「ありがとう。大丈夫だよ……でも、自分で出来るのに……」
タライの中で適温に調整したお湯で布を浸し、緩めに絞ってユウト様の身体を拭っていきます。ユウト様の身体を布越しに感じながら、幸せな時間を堪能します。
「ユウト様は、ミユ様といつもこうして『お湯浴び』をされているのでしょう? それなら今日は、私がミユ様の替わりということで…」
「…うん。それなら、僕もレイシアの背中を流させてもらうね」
(!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
「あ、あ、あ、ありがとうございまちゅ!」
少し返事の声を噛んでしまいましたが、こんなに嬉しいことはありません!
今すぐ大声で何か叫びたい心境です。
(いけない…少し気持ちを落ち着けて…落ち着けて……)
私の計画以上の展開に興奮してしまい、気持ちを静めていると…
(もう少しユウト様と触れ合っても大丈夫なのでは?)
…という気持ちが沸いてきました。例えば、例えばの話ですが、ユウト様の可愛らしい乳首を……乳首をちょっと摘んでみるとかしても、今のこの雰囲気ならば、笑って許していただけるのではないかと思うのです…。ほんのちょっと…ほんのちょっとだけ、乳首を…乳首を…
「あぅっ!! え? レイシア…な、何を?」
「え? ええっ? ハッ!!!」
ユウト様の声に我に返ると、私の右手人差し指と親指が、ユウト様の可愛らしい左乳首をしっかりと摘んでいます。
(ど、どうしましょう! 妄想していたら本当に摘んでしまいました!!!)
「あ、あの、その……ユウト様、これは……その……」
弁明しようと試みますが、頭が真っ白になってしまい何も思い浮かびません…。
そんな時! またも救世主が現れました。
「えいっ!!」
「あうんっ!」
ユウト様の背後から近づいたマリーカが、右手を後ろから前へと回し、空いているユウト様の右乳首を摘んだのです!
「マ、マリーカまで何を……」
いきなり二人に乳首を摘まれたユウト様は困惑していますが、それを見ながらマリーカは微笑みます。
「あら、ユウト様…。シーリスに剣術を習っていると…伺いましたが…。隙だらけですよ」
「え?」
「ふふっ…。騎士団の新人によく行うイタズラですよ…。『騎士たるもの如何なる時も隙をつくることなかれ』…です。そうですよね? レイシア様?」
あぁ…私は今、マリーカが女神に見えます…。
「その通りです。ユウト様! 驚かせてしまってすみません」
「な、なんだ…そうだったんだ…。別邸で時々、シーリスが僕の着替えの最中に乳首を摘んだりしたのは、イタズラの他にそういう意味があったんだね」
とりあえずユウト様が納得したことで、その場は円満に収まりました。
…ただし、シーリスにはお仕置きが必要だということは、絶対に忘れないでおこうと思います。
その後は、マリーカも参加して3人で楽しく背中の流し合いを行い、とても幸せな時間を過ごすことができました。外で護衛をしているライナには、マリーカは終始『真面目に室内警護をしていた』と伝えたのは言うまでもありません。
◇◇◇◇◇◇
楽しい『お湯浴び』の後は、お母様も交えて夕食会を行いました。お母様が私の触れられたくない過去をユウト様に口走るのではないかという不安から、食事が喉を通りませんでしたが、逆に私が知らないユウト様の個人的な情報などを聞くことが出来たことは幸いでした。
◇◇◇◇◇◇
夕食の後は、いよいよ就寝となります。ユウト様を寝室へとご案内し、今夜は私が専属メイドのかわりに寝室内の仮眠ベッドで寝ることをライナとマリーカに告げると、意外なことに、ライナが反対意見を述べてきました。
「それは変だと思います! 『水浴び場』でも思いましたが、レイシア様はエクレール家のお嬢様なのですから、メイドの真似までするのは間違っていると思います。レイシア様はご自分のお部屋でお休みください。寝室の外の護衛と室内の仮眠ベッドはマリーカと交替で行いますので、ご安心ください!」
大きな声で整然と主張するライナですが、それは私の『計画外』です! マリーカも「わかっていませんね…この子は…」と溜息をついています。
「レイシア様…。私は、寝室外の護衛を担当させていただきます。お手数ですが、腕の立つ兵士を一人…夜間の交替要員でお借りしてもよろしいでしょうか?」
マリーカがそう発言すると、ライナは「え? なんで?」とその真意がわかっていない様子です。私は、マリーカに快く許可を出すと、キョトンとしているライナに命令します。
「ライナ…。せっかく我が家に来たのですから、あなたには、私自ら特別訓練をして差し上げましょう! すぐに準備をして地下の訓練場へ行きなさい!」
「は、はい! ありがとうございます! 光栄です!!」
喜んで廊下を走り抜けて行くライナの背中を見つめながら、マリーカと二人で大きく息を吐きました…。
その後、地下室で悲鳴が上がるほどの厳しい訓練を行い、一人の少女がそこで意識を失いながら一夜を過ごすことになったのは言うまでもありません。
◇◇◇◇◇◇
(さて、邪魔者はいなくなった……と)
地下室の訓練場に二人で入り、私一人で出てくると、急ぎユウト様の待つ寝室へと向かいます。すると、廊下で苦い顔をしたマリーカが立っていました。
「…レイシア様…その……エレノア様が……」
(!!!!!!!!!!!)
マリーカが口に出した名前に衝撃が走りました。
(まさか…ユウト様の部屋にお母様が入るなんて!)
予想外の事態がまたも起こったことに脱力感さえ覚えますが、起こってしまったことは仕方ありません。意を決して寝室のドアを開けて中に入ります。
「……レイシア……静かに……ユウト様が寝ているわ…」
(!!!!!!!!!!!!!)
真っ暗な部屋のベッド方向から、お母様の囁く声が聞こえました。
しばらくして目が慣れてくると、大人4人が並んで寝ても大丈夫なくらい大きなベッドの真ん中でユウト様が静かに寝息を立てています。その傍らにお母様が添い寝をしています。
「お、お母様…」
「レイシア……あなた、とても良い子を選んだわね…。これだけの美少年だから競争率が高いと思うけれど、私も応援するから…頑張りなさい…」
「お母さま!!」
「シッ!……静かにしなさい…。応援はするけれど、その替わり……私にも役得は必要ですからね」
そう言うと、眠っているユウト様に顔を近づけて頬のあたりにキスをしました。
(!!!!!!!!!!!)
「な、何をしているのですか! お母様!!」
「だから、大きな声を出さない…。これくらいいいでしょう? ほら、反対側が空いているわよ…」
そう言って私にユウト様の左側を指差すと、今度はユウト様の右腕に抱き着いて温もりを感じている仕草を見せる。
(!!!!!!!!!! わ、私だって!!!!!)
お母様に負けるわけにはいかないと、急いで掛布団をめくり、ユウト様の左側に身体を滑り込ませます。
(あっ!………暖かい………)
温もりを感じ、ユウト様の可愛らしい寝顔を見つめていると、もうお母様のことは気にならなくなりました。今、この幸せをじっくりと堪能したいと思います…。
朝、起きたユウト様に何て言い訳をすればいいかしら? …と考えながら、お母様と二人でユウト様を挟み込むような形で深い眠りについてしまいました。
色々あったけれど、今日はとても幸せな一日だったと、心が満たされていました。
レイシアさんとマリーカさん。
良いコンビになりそうな予感です。
次回は、久しぶりのお姉ちゃん登場です。
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