第23話 レイシアさんの幸せな一日(前編)(レイシア視点)
お待たせしました。
今回はレイシアさん視点になります。
新しい護衛騎士も着任します。
私の名前は、レイシア・エクレール。エルフィン王国、カダイン伯爵家の近衛騎士長を拝命しています。21歳、独身。2年前の政争により伯爵家の多くの要人が亡くなった際、当時、近衛騎士長であった父も殉職し、その後を継いで近衛騎士長となりました。
『父の後を継いだ』と言っても、近衛騎士長の職は世襲制ではありません。私は13歳の時に、大陸中央にあるエメラダ神聖国内の騎士学校へ留学し、5年生17歳の時に同級生2名と共に『ドラゴン』を倒すという快挙を成し遂げ、『二つ名』で呼ばれるようになりました。その時点で、カダイン伯爵家の親衛騎士長または近衛騎士長のポストが約束されたというわけです。……まさか、こんなに早く……そしてこんな悲しい形で就任することになるとは、夢にも思いませんでしたが…。
『雷帝』のレイシア
それが私の『二つ名』です。私が最も得意とする雷属性からなのですが…もっと女性らしい呼び名が良かったと思います。なぜなら…私と共にドラゴンを討伐した同性の『エリス・フェアリー』は、得意の水属性から『水の女神』という『二つ名』で呼ばれるようになったからです。
エリスは、カダイン領の東に位置するエメラダ神聖国の飛び領地『水の神殿』の出身で、現在はそこの神殿騎士を拝命しているそうです。私とは現在、音信不通……別に、卒業時に首席の座を彼女に奪われてしまったことを根に持っているわけではありません。……本当ですよ!
……さて、彼女の話はまたの機会にして、現在へと時間を戻しましょう。
◇◇◇◇◇◇
(ふぅ~……。危ないところでした…)
カダイン伯爵邸での緊急会議後に、マリク様が「ユウトをそなたの家に滞在させたい」とおっしゃったので、あまりの嬉しい衝撃に、我を忘れて会議室を飛び出してしまったのです。もう少しで今夜のユウト様の護衛任務を放棄して、実家へと馬を走らせてしまうところでした…。
カダイン伯爵邸の玄関を出た所で冷静になった私は、近くにある近衛騎士の控室を借りて、すぐに実家であるエクレール邸に向けて手紙を書きました。ユウト様が宿泊することになったこと、護衛騎士用の部屋も人数分用意しておいて欲しいことなどです。我が家の有能な執事とメイドなら、きっと明日の昼頃までには準備を整えてくれるはずです。
手紙を書き終えた私は、すぐ近くにいた男性近衛騎士一人を呼びつけ、エクレール邸への手紙を託します。「えっ? こんな夜更けの時間に?」と嫌な顔をされましたが、私にとっては緊急事態、かつ重要事項なので、右こぶしに少し多めに魔力を流し、その美しい輝きを彼の目の前で披露しながら、「お・ね・が・い・ね!」と優しく送り出しました。
(ふぅ……これで安心ですね…。)
その後、急ぎ会議室に戻った私は、マリク様やゼガート様に散々からかわれてしまいましたが、無事にユウト様の寝室前を守る護衛任務に戻ることができました。
(よし! 明日はユウト様と幸せな一日を過ごしましょう!!)
そう気持ちを切り替えて、夜の護衛任務に就いたのでした。
◇◇◇◇◇◇
「ユウト様、おはようございます!」
「おはようございます。レイシアさん!」
朝、寝室から出てきたユウト様と挨拶を交わします。早くもその爽やかな笑顔に胸が「キュン!」となってしまいましたが、護衛騎士として凛々しい姿を崩さないように頑張らなくてはいけません。
「さぁ、それでは食堂に参りましょう」
「はい!」
朝の護衛任務は、ユウト様が寝室を出られてからが始まりとなります。起床から着替え、身だしなみ等は、全てメイドが先に入室して行います。その間、護衛騎士は入室が出来ません。ユウト様の寝顔や着替え風景を見られないことが、とても悔しいのですが、それも今回だけです! ユウト様は、今夜から我が家に泊まるのですから…。
ユウト様が我が家に滞在される間は、『起床』も『着替え』も『身だしなみ』も、私が率先してメイド達と一緒に行うつもりなので、楽しみでなりません! その時が待ち遠しく思いますが、こう見えても楽しみは後にとっておくタイプなので、今はグッと我慢して妄想を膨らませておくことにします…。
「レイシアさん…。僕の今日の予定ってわかりますか?」
「はい。食堂でマリク様やミユ様と朝食の後、軍施設に参ります。そこで、これからの訓練の打合せと、軍装備の確認をお願いしたいとのことです。それが夕方までかかる見込みで…その後は、我がエクレール邸に向かい宿泊となります。」
「ありがとうございます。今夜から、しばらくレイシアさんの家でお泊まりですね。よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ…」
ユウト様と笑顔で会話を交わしながら歩く………幸せです。
◇◇◇◇◇◇
私達が食堂に到着すると、ミユ様と護衛である親衛騎士長ハロルドが、すでに到着していました。ハロルドは私達の姿を確認すると、両手を使って騎士団員だけにわかるサインを私に送ってきました。
(…こちらは交替で食事中、そちらも行ってかまわない。)
…どうやらミユ様の新しい護衛2人はすでに着任しているようです。ハロルドは、3人が交替で食事をとりながら護衛をしているので、私も行ってきて大丈夫だと言っています。
昨日から、私の中でハロルドの好感度は、ずいぶんと上がっています。彼のおかげでユウト様の護衛につけるようになったこと、そして昨夜もユウト様とミユ様の部屋が隣ということもあり、護衛任務を交替で行わないか?…と提案してくれました。おかげでお互い仮眠を取ることができました。
(了解しました。……助かります)
そう、ハロルドにサインを送り返して、ユウト様に一声かけます。
「ユウト様。申し訳ございませんが、少し護衛任務を外れます。その間、ハロルドが待機しておりますので…」
ユウト様に了解を得た私は、急いで別室に用意されている護衛用の食事を食べ始めます。食後はユウト様と共に軍施設に行けば、昨夜の内に『くじ引き』で新しい護衛が2名決定しているはずです。誰が選ばれるかわかりませんが、ハロルドのように気が利く者が選ばれることを祈ります…。
◇◇◇◇◇◇
「ユウト様! ライナ・クロウゼルです! まだ新米ですが、ゆくゆくはレイシア様のように強くなって、『閃光』のライナと呼ばれる予定ですので、よろしくお願いします!」
「ユウト様…。マリーカ・メルドールです。…その…よろしくお願いいたします」
(……よりによって、この二人ですか……。)
朝食後、軍施設へと場所を移動したユウト様と私は、さっそく新しく決まった護衛騎士による出迎えを受けました。…私の祈りは届かなかったのでしょうか……かなり特殊な二人が選ばれたみたいです。
ライナは15歳。濃い紫色の髪をベリーショートにしている活発で負けず嫌いな新人近衛騎士です。私と同じ雷属性を得意とし、幼いながらもシーリスに匹敵する戦闘センスを持っています。将来有望なのは間違いないのですが、なぜか私を崇拝している困った子です。
マリーカは17歳。髪型はセミロング、色はピンクです。大人しそうな外見とゆっくりした話し方で、鎧を脱ぐと全く騎士に見えませんが、地属性魔法の腕前は中々優秀です。騎士になった理由が「親が決めた婚約者が気に入らないので、叩きのめす力をつけるため」という、よくわからないものでしたが、昨年それを本当に実行して婚約解消を勝ち取り、周囲の騎士を驚かせました。最近は新人騎士の指導も行っているのですが、「いいですか? 気に入らない男性を処分するつもりで……このように……剣を振り下ろすのです!」……とおっとりした口調で過激なことを言いながら指導しているので、少し困っているところです。
「ライナさん、マリーカさん。よろしくお願いします」
ユウト様が二人に『さん』をつけて挨拶をしたので、ハッと思い出しました。
(そうです! 護衛は『呼び捨て』で呼んでいただかねば!!)
「…コホン! ユウト様…護衛騎士は皆『呼び捨て』で呼んでください。確かシーリスもそう申し上げたと聞いています…」
「……あっ! そうでした…すみません。それでは……えっと、ライナ、マリーカ、よろしくお願いします。……これで良いですか? レイシアさん?」
「ふふっ…。 私も護衛騎士ですよ。ユウト様…」
「そ、そうでした…。それでは……レイシアもよろしくお願いします!」
「はい! 承知いたしました」
(………あぁ、とても幸せです!)
◇◇◇◇◇◇
新しい護衛騎士の紹介と着任が終わると、次は重要な軍事関連の打合せです。今日は、昨夜の会議で話し合われたことを、具体的にどう実行するかが話の中心となります。この打合せ中、私はユウト様の護衛から『近衛騎士長』へと戻ります。その間はライナとマリーカがユウト様の後ろに立って護衛任務を行います。
…それにしても、ユウト様の軍事的な才能には驚かされます…。ユウト様が暮らしていた世界は平和で、身近なところでの戦争は全く無かったと伺いましたが、どのように軍事関係の経験を積まれたのでしょうか? それとも、先人が残した軍事関係の資料などが、ユウト様のような未成年でも簡単に閲覧できるような環境があるのでしょうか? ……少し気になりますが、ユウト様が素敵なのは変わらないので、そんな些細な疑問は頭の片隅に押しのけておきましょう…。
◇◇◇◇◇◇
「それでは、本日の打合せは以上だ! さっそく明日から訓練開始となるので、近衛騎士も親衛騎士も、今日の内容の伝達と準備を十分に行っておくように!」
ゼガート様が、長かった本日の打合せの最後を締めくくりました。
(終わった…やっと終わった……。)
打ち合わせは予定通り夕方に終わったのですが、この後の素敵な予定が待ち遠しく、頭を離れずにいたので、とても長く感じられてしまいました。
その後、私は、親衛部隊の小隊長達を急いで別室に召集し、次々と今日の打ち合わせで決定したことを伝達し、明日からの訓練に必要な準備を指示していきます。
「あ、あの…レイシア様? なぜ、そんなに急いでおられるのですか?」
一人の女性騎士が、私にそう質問しました。私の様子がいつもと違うことに気が付いているのでしょう。いつもより早口になっているのが、自分でもわかります。急いでいる理由…それは、
(早くユウト様の元に戻り、さっさと実家へと出発したいから!)
……と、そのまま答えるわけにはいきません。
「ユウト様を馬車で待たせてしまっているのです…」
彼女を見つめながら、そう返答すると「ユウト様を…」とすぐに納得してくれました。私が護衛騎士も兼任していることを、すぐに察してくれたみたいです。
その後は、皆が私に協力的となり、円滑に伝達や指示を終えることができました。優秀な部下を持って嬉しい限りです。
◇◇◇◇◇◇
軍施設での用事を全て済ませて、ユウト様の待つ馬車までたどり着きました。
「レイシア、お疲れ様。…だ、大丈夫? すごく汗をかいているけど…」
「だ、大丈夫です! 気持ちが高ぶって…ではなく、ユウト様をお待たせしては申し訳ないと思いまして……少し急いだだけです」
「そう…。レイシアの家に着いたら、早く汗を流して着替えるといいよ」
「はい。そうさせていただきます。……ユウト様も、夕食の前に汗を流されてはいかがですか?」
以前のシーリスからの報告書と、メイドのリアナ、カレンからの情報によれば、ユウト様とミユ様は、いつもお湯で頭を洗い、身体を拭っているとのこと。昨夜、エクレール邸への手紙で、それもぬかりなく指示しておいたので、今頃はお湯を沸かしてくれているはずです。
「ありがとう。僕も今日は緊張して汗をかいたから、そうさせてもらおうかな…。桶にお湯を入れたものと、身体を拭くものを借りてもいいですか?」
「はい。もちろん大丈夫です! すぐに準備させますね」
そんな会話を交わした後、馬車は予定通りエクレール邸へと出発しました。
私がユウト様と馬車に同乗し、ライナとマリーカは馬に乗って馬車の両脇を固めます。シーリスがいれば、さらに防備は高まるのですが仕方がありません。
「すまん!……別邸への連絡を失念していた…。明日には連絡しておくからな…」
…とゼガート様が、今日の打ち合わせ前に言っていたので、シーリスの合流は明後日でしょうか?
(さて、エクレール邸に着いたら汗を流す……。まずユウト様を脱がして…身体をすみずみまで拭う…。それから一緒に夕食…。さらにその後は…)
これからの予定を考えると、妄想が止まりません! 真面目な顔をしつつ妄想するのが、こんなに難しいこととは初めて知りました。こんなにドキドキ、ワクワクするのはいつ以来かしら…。そんなことを考えながら、ユウト様と一緒に馬車に揺られていました。
レイシアさんの幸せな一日は、後編へと続きます。
別邸で待機しているシーリス達やミーナの話も書きたいのですが、
本編も進めたいので…悩むところです。
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