第21話 緊急会議を開きます。
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今回は、カダイン伯爵邸での緊急会議です。
どんなことが話し合われるのでしょうか?
「さて、それでは皆揃ったようなので、会議を始めましょうか」
すでに外は陽が落ちて暗闇があたりを支配している時間帯、私と優斗はカダイン伯爵邸の会議室と呼ばれる一室にいました。会議室は20畳くらいの広さで、中央には大きな楕円形のテーブルがあり、そこを取り囲むようにして9名が着席しています。私達姉弟は、マリクさんが座っている席の斜め後ろに設けられた長椅子に並んで座っています。会議室に集まった9名の内、初対面の方が6名もいらっしゃるので、最初に簡単な自己紹介をしてくれました。
会議の出席者は以下の通り
領主:マリク・カダイン
内政・財務長官:クレイン・カルナッハ
外交・商務長官:カトリーヌ・ホランド
農務・工務長官:ランドルフ・エスタバ
騎士団総長:ゼガート・カダイン
近衛騎士長:レイシア・エクレール
親衛騎士長:ハロルド・ギンガー
騎士団長:ジェームズ・ロドリー
第一軍団長:ギリアム・マクベイン
2年前の政争の際、カダイン領の要人も多数犠牲になった影響で、クレインさん、カトリーヌさん、ランドルフさんは2つの役職を兼務しているそうです。また、第二軍団長と第三軍団長は、それぞれ領内の巡回と敵領地と接している西側境界の警備に就いているため、会議は欠席とのことでした。ちなみに北側境界と南側境界は、それぞれ味方であるアストリア侯爵領とサーペント伯爵領、東側境界はエメラダ神聖国の飛地である水の神殿が治めているので、境界警備はごく少数で行っているとのことでした。
私達への簡単な自己紹介が終わると、領主であるマリクさんの一言から会議が始まりました。
「忌まわしい政争から2年…。今までは領内の体制維持と軍事力の回復に手一杯でしたが、ようやく明るい希望が見えてきました。天才魔術師である私が召喚した異世界人ユウト……と、ミユの知識と能力によって、必ずや1年後に再開される戦争では優位に事を運ぶことが出来るでしょう!……おっと、2人が異世界人であることは公言しないように!」
起立して力強く宣言したマリクさんですが、何となく私がオマケのような扱いになっているのは気のせいでしょうか?
マリクさんの言葉を受けて、内政・財務長官のクレインさんが冷静になるように促します。
「マリク様…少し落ち着いてください。久しぶりに私を含む忙しい官僚達を呼びつけたかと思えば、異世界人を召喚することに時間を費やし、現実逃避しているとは…。一年後に戦争が再開されれば、食料もお金も大量に必要となるのですよ!もっと現実を見て、国内の状況、財政に心を砕いていただかねば…」
クレインさんは、細見・長身で知的な雰囲気を醸し出しているオジサマです。髪の色はグレーで、肩までの長さで切り揃えられています。年齢は50代前半でしょうか…。
クレインさんのお小言に、マリクさんは「うぐっ…」と一瞬怯んだ様子でしたが、外交・商務長官のカトリーヌさんからフォローが入りました。
「あら、マリク様が召喚されたお二人は、いずれも我が領にとって益をもたらしてくれることは間違いありませんわ。特にユウト様には、あらゆる女性を引き付ける魅力がございます。商取引や貴族間の社交などでも大活躍してくれるでしょう…。私自身も、もっとユウト様とお近づきになりたいですもの…」
カトリーヌさんは、20代後半の大人の雰囲気を持った女性です。ダークブラウンの美しいウェーブのかかった長い髪を左側にサイドダウンしています。それから、女の私でもつい胸元に視線がいってしまうくらいグラマーで、本当に羨ましい限りです。先の政争で夫を亡くしている未亡人とのことでした。
「カトリーヌ…。ユウト様には『軍師』として、急ぎ軍事面を整備していただかなくてはなりません…。現在、カダイン領は味方諸侯以外の他領への出入りが出来ず、鎖国されているも同然の状態…。外交・商談の方面へユウト様の力を注ぐのは後回し…。まずは、工房にて優先的に軍備を生産し、食料確保のために農業に力を入れるのが先決です…」
そのようにカトリーヌさんに対し、おっとりとした口調で反論したのは、農務・工務長官のランドルフ・エスタバさんです。年齢は40歳くらい、髪の色はコバルトブルー、耳の上くらいまで短く刈り上げられている短髪がとても涼しそうです。体型はガッチリしていて、一見すると体育会系のように見えますが、喋り方がとても穏やかで見た目と話し方のギャップが面白い方です。
「その通りだ! まずはユウトに軍装備を見直してもらい工房と連携をとる。そして訓練を並行して行い、戦い方や組織的な作戦行動などを徹底的に仕込んでもらわねばならん!」
ゼガートさんが会議室内に響き渡るくらいに大きな声で賛同しました。その後、優斗に熱い視線を送り……そして、私をその視界に入れました…。
「あ~っ…う~ん。…ミユにも何か……そ、そうだ! ミユには軍の食糧事情の改善と、負傷兵の治療に関して助力願いたいな」
何か取ってつけたように、お願いされてしまいましたが、確かに私にはそれくらいしか手助け出来ないように思うので、すぐに承諾の返事をしておきます。
「そういえば…ミユはアストリア侯爵領に大量に生えている馬の餌を食料に転用できると言っていましたね。それが本当なら嬉しい限りです」
マリクさんは、軍施設の食堂で私が話したことを覚えていてくれたみたいです。
「はい…小麦のことですね。成熟させて実が硬くなってから収穫し、石臼などで粉にすると、人が食することが出来るものを色々と作ることが出来ますよ」
「ほう…それは素晴らしい…。ミユ様、後ほど詳しくお聞かせ願いますかな…」
ランドルフさんが農務長官として興味をもったみたいです。私としても早く「小麦粉」を手に入れたいので、こちらも快く承諾します。
「ゼガート総長! 失礼ながら、私には、そこの子供が軍事面で戦力になるとは到底思えません。本気で我が軍の『軍師』とするお考えか?」
ハッキリと疑念を口にしたのは、騎士団長のジェームズ・ロドリーさんです。
ジェームズさんは、白髪が多く混じった頭髪をしていて、この会議室内では一番年上に見えます。おそらく60歳半ばかな…。表情の怖さや、顔・手の傷などからも歴戦の猛者といった雰囲気が漂っています。
私が以前レイシアさんに聞いたところによると、カダイン領の兵士総数は約5,000名。その内、騎士は800名とのことです。その800名の内訳が、レイシアさん率いる近衛騎士100名、ハロルドさん率いる親衛騎士200名、そして、ジェームズさん率いる騎士団500名であり、800名の騎士全員を統括するのが騎士団総長であるゼガートさんになるそうです。
「ジェームズ殿! ユウト様に失礼ですよ!」
ジェームズさんの発言に、レイシアさんが即座に反応しました。
「うむ。ジェームズが疑問に思うのも仕方があるまい…。ユウトの実力は実際に目の当たりにした者でなければ、信じられないであろうからな」
ゼガートさんは、そう言って親衛騎士長のハロルドさんに視線を移しました。
ハロルドさんは、長く背中の中ほどまで伸びている水色の髪が印象的な男性で、年齢は20代半ばでしょうか?少しくだけた感じの軽い雰囲気で、とても武人には見えませんが、レイシアさん情報によると、武器を手にすると性格が変わったようになるのだとか…。
「そうですね。私を含め、訓練に参加した親衛騎士部隊100名が、ユウト様の実力を思い知らされました。そしてミユ様の神々しい癒しの力も…」
ハロルドさんは、そう言いながら熱い視線を私に投げかけてきました。
(な、何でしょうか? ……えっ? い、今ウインクされた!!)
ハロルドさんからウインクされた意味がわからず、私は内心慌ててしまいました。
マリクさんはそんなことは、全く気にすることなく会議を進めていきます。
「ジェームズの疑念もわかるが、ユウトの実力は私が保証します。まずはユウト! どのようにすれば、早急に全軍に訓練を行き渡らせることができますか?」
いきなり話を振られて、優斗は長椅子に座りながらビクッとしましたが、少し考えると立ち上がって、マリクさんのほうを見て答えました。
「えっと…まずは、近衛騎士と親衛騎士300名全員に集中訓練を行います。次に、その訓練を修了した300名が今度は教師役となって、騎士団500を指導します。もちろん複数のグループ……つまり班に分けると効率が良いと思います。その後、第一軍団~第三軍団までの兵士を騎士800名が手分けして指導するという流れではどうでしょうか?」
「なるほど…確かにユウト様は普通ではない…。効率の良さもさることながら、騎士が直接兵士達に指導する形であれば、皆張り切って訓練するでしょう…。ユウト様が表立って指導すれば、ジェームズ殿のように疑念を抱くものも少なからずいるでしょうからね…」
優斗の話を聞き、その内容に感心しているのは、第一軍団長のギリアム・マクベインさんです。ギリアムさんはオレンジ色のボサボサの髪が特徴的な30代半ばの長身の男性です。陸上選手のように引き締まった身体で、ゼガートさんのようにアゴひげをうっすらと生やしています。
「それで、ユウト! 全員に訓練が行き渡るまでの期間は?」
「…余裕を持って、半年くらいでしょうか…」
マリクさんの質問に、優斗が返事をすると、ゼガートさんから声がかかりました。
「余裕はないぞ! 全面的に協力するので、4カ月で頼む。これは領内だけの話では済まされないのだ…。訓練成果を『軍事演習』という形で、味方諸侯に見学してもらい、その有用性を確認してもらう必要がある。そして味方諸侯の全軍にも開戦までに訓練を行き渡らせたいのだ…」
「そうですね。ユウトには大変な負担を強いることになりますが、よろしくお願いします」
マリクさんは、優斗に向かって声をかけると、ここまでの話をまとめていく。
「さて…それでは、軍事面はゼガートを中心に動いてください。騎士団も各軍団も訓練が円滑に行き渡るように班分けなどを行っておくように…。それから、ランドルフは軍事最優先で工房を動かせるように引き続き手配を…。今後、味方諸侯への技術提供を行うことを念頭にお願いします」
う~ん…。こうしてテキパキと指示を出していくマリクさんを見ていると、馬車内で口喧嘩をしていた人とは思えないくらい有能に見えますね…。
私がそんなことを考えていると、マリクさんは次の議題へと話題を転換しました。
「さて、次に…ミユとユウトの処遇について考える必要があります。」
「マリク様…。ユウト様は『軍師』として味方諸侯内で活躍してもらわなければなりませんので、それなりの地位を急ぎ検討する必要があるかと思いますが…、ミユ様は特に急ぐ必要はないかと…」
カトリーヌさんの発言にクレインさんも同意しましたが、すぐにマリクさんがその理由を述べる。
「ユウトだけでなく、ミユの処遇を急ぎ考える必要があるのは、ミユがユウトの姉だからという理由ではありません。…これは内密の話ですが……ミユは『聖属性』所有者なのです」
「「「「「 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 」」」」」
カトリーヌさんを始め、今日が初対面の方々が揃って驚愕の表情を浮かべながら絶句しています。ハロルドさんだけがニコニコと笑みを浮かべ、周囲を見渡しながら嬉々として私について話を始めました。
「ミユ様は、ただの『聖属性』所有者ではありません。莫大な魔力量を有し、負傷者100名を一瞬で癒してしまうほどの金の光…。あれを見て感動しないものは皆無でしょう!」
立ち上がって力説するハロルドの姿に、皆が呆気に取られている。
「せ、聖属性とは…。マリク様、あなた様は大変な人を召喚しましたな!……そして、それを内密にせよということは…『保険』というわけですか…全く…」
「本当です…。私の仕事が増えそうで困りますわ! 教会相手は苦手なのです」
クレインさんとカトリーヌさんが次々と意味深な発言をすると、ジェームズさんが腕組みをしながら考えこんでいます。
「う~む…。マリク様、いつまでも教会に隠しておけるとは思えませぬぞ。どのように対処するおつもりか?」
「確かに…。兵士の中にはエメラダ神教の教徒が少なからずいます。箝口令を敷いても遅かれ早かれ教会に伝わるでしょう!」
ギリアムさんがハロルドさんを睨みながら発言します。
「ま、待てギリアム! 私はエメラダ神教の教徒ではないぞ!たとえそうだとしても、教会に漏らすわけがあるまい。そんなことをすれば、私がミユ様の護衛として傍にいられなくなるからな!」
(あれ? ハロルドさんが私の護衛? 初めて聞きましたけど…)
その会話を聞いてマリクさんが一瞬驚いた顔をしましたが、再びいつもの顔に戻ってジェームズさんのほうを見ながら発言します。
「ミユとユウトには、教会対策として大きな後ろ盾が必要です。……私は二人をアストリア侯爵家の養子に出来ないかと考えているのですが…」
(えっ? 養子? ……私と優斗が?)
「それならば教会も簡単には手出しが出来なくなりますな…。ただ…少し難しいと思います。アルフレッド様は、政争で最も肉親を亡くされた方ですから、養子縁組の話は忌避されるのでは…」
クレインさんが眉間にシワを寄せながら述べると、マリクさんも肯定します。
「私もそう思いますが、カダイン伯爵家の養子として遇するよりも、明らかに影響力がありますからね。試してみる価値はあると思うのです…」
そう言ってテーブルの上にある小さなベルを「チリンチリン!」と鳴らした。
「マリク様お呼びでしょうか?」
すぐに室内へと入ってきたのは、メイド長のマーサさんです。ずいぶん久しぶりに会った気がします。
「マーサ。この二人を貴族として恥ずかしくないように急ぎ教育して欲しいのだが、4か月で可能か?」
「………カトリーヌ様のご協力もいただければ、可能だと思います。ですが……」
「何か問題があるのか?」
「はい…ミユ様の御髪の長さが、社交会に出る貴族としては足りません…」
この世界の貴族女性の髪はカトリーヌさんのように腰近くまでの長さがないとダメなのだとか…。もちろん騎士である貴族女性については、ベリーショートでも問題はないとのことですが、社交界には出席出来ないのだとか…。
「う~む…『カツラ』で何とかするしかあるまい…」
ゼガートさんが言うと、マーサさんが難しい顔をします。
「ミユ様のような黒い髪はあまり見かけません…。それに、今邸内にあるのは金髪のカツラだけです…」
「4カ月で探すしかないでしょう…。なければ似た色でもかまいません。まずはマーサ、ミユにその金髪のカツラを被せ、化粧にドレス…飾りなど…見た目を貴族らしくしてみてください。……あまり期待はできませんが……」
(なっ! し、失礼な!!)
マリクさんの言い方に「ムッ」としましたが、カトリーヌさんのような『貴族女性』には全くなれる気がしません…。おとなしく着替えのため、マーサさんについて部屋を移動しました。
◇◇◇◇◇◇
30分後…マーサさん率いるメイドの皆さんに手早く着替えとメイクをしてもらった私は、会議室へと戻ります。金髪のカツラに、元の世界でも殆どしなかった化粧、そして華やかな赤を基調としたドレス…そして貴金属の数々…。鮮やかな衣装は、七五三の時くらいしか着たことがなかった私には、こんな贅沢な装いは初体験づくしで、とても緊張します。
会議室の扉の前までくると、マーサさんによって、その扉が開かれます…。
(優斗…驚くかな? きっと驚くよね…似合っていると言ってくれるかな?)
そんなことを考えながら会議室へと足を踏み入れると、優斗を除く全員から予想外の反応がありました。
「「「「「「「「 ク、クリスティーナ様!!!!! 」」」」」」」
(は、はい? だ、誰ですか? その方は?)
クリスティーナ様とは、どのような方なのでしょう?
次回は二人の処遇の話の続きと、
新しい護衛騎士の話になる予定です。




