第19話 大軍師誕生!(後編)(ユウト視点)
いよいよ優斗の力が発揮されます。
近衛騎士部隊 VS 親衛騎士部隊
ぜひ、ご覧ください。
訓練場の片隅で、僕とレイシアさんは近衛騎士部隊100名を集めて作戦会議を開きました。
本来であれば、部隊の中の小隊長数名だけを集めて作戦会議を行い、その後末端まで伝達してもらうのが効率的ですが、僕が指示する作戦や戦い方は、この世界の人々にとって初めて聞くことばかりで、正確には伝達が出来ないと思います。
そこで、今回の訓練は参加人数が少ないこともあり、全員に聞いてもらう形をとりました。7割くらいの人が理解できれば、何とか組織的な戦いができるはずです。この場で理解できなかった人も、自分の役割さえわかれば、周囲を見ながら同じように行動できるはず……と期待しています。
今回、近衛騎士部隊を勝たせるために、全員に徹底してもらわなければならない重要ポイントをまとめると……
①一対一の戦いをしてはいけない。
②武器の使い方の常識を捨てる。
③隊列を組み、作戦どおりに行動する。
……の3点になります。
最初の一対一の戦いをしてはダメという説明の時点で、騎士の方々からザワザワと声が上がりましたが、劣勢を覆す絶対不可欠なポイントなので、近衛騎士長レイシアさんの力をお借りして、全員に守ってもらうようにお願いしました。
その後も、根気よく徹底事項の説明をし、最後に今回の訓練での『作戦』と『戦い方』を全員に教えました。ほとんどの騎士が一度では理解できなかったようなので、もう一度、今度はその効果も丁寧に教えながら、戦闘開始から終了までの一通りの流れを確認します。すると、レイシアさんも近衛騎士部隊の方々も、驚きつつも徐々に表情が明るくなってきたのがわかります。
「ユ、ユウト様……こんな戦い方は常識はずれといいますか……」
「レイシアさん。でも、これが上手くいけば勝てると思いませんか?」
「……そうですね。必ず!」
レイシアさんの力強い返事に、周囲の近衛騎士部隊全員も大きく頷きました。
そして、それぞれが指定された武器を装備すると、訓練場の左側へと移動を開始したのでした。
◇◇◇◇◇◇
「おい。あいつら盾装備無しだぞ!」
「槍が多いな……。それから、弓も多い」
「これなら、さっきよりも早い時間で勝負がつくかもな……」
そんな声が、訓練場右側の親衛騎士部隊から聞こえてきます。
それもそのはず、こちらの世界の標準装備は左腕に盾、右腕に剣または斧です。槍は一度突いて敵を倒すと、抜くのに時間がかかってしまい、次に襲いかかってくる敵に大きな隙を作ってしまうので、あまり人気がないそうです。また、弓も平地での戦闘では多少の足止めにしかならず、攻城戦や拠点防衛戦にしか多用されないのが常識みたいです。
さて、両陣営の装備と配置を紹介すると……
<親衛騎士部隊>
・剣歩兵70名(盾装備)
・斧歩兵20名(盾装備)
・槍騎兵10名(腰に剣装備)
以上の100名が訓練場右側に団子状態で一塊になって待機しています。
<近衛騎士部隊>
・槍歩兵60名(腰に剣装備)→30名ずつ2列横隊
・弓歩兵30名(腰に剣装備)→10名ずつ3列横隊で、槍歩兵の後方に待機
・槍騎兵10名(腰に剣装備)→5名ずつ2グループに分かれ、弓歩兵の左右に待機
こちらも100名が訓練場の左側に部隊を整列させています。
「ほう……、これは美しいな……」
僕とレイシアさんが、最初に訓練を見学していた場所まで戻ると、ゼガートさんが近衛騎士部隊の配置を見て感心していました。
「しかし、いくら隊列を整えても、槍と弓が主体では仕方がなかろう?」
「フフッ……。ユウト様の作戦は凄いですよ……全く問題ありません!」
レイシアさんが自信満々に答えたので、ゼガートさんは少し苦笑いを浮かべています。
「では、お手並み拝見といこうか……」
「はい。ゼガートさん、レイシアさんもよく見ていてくださいね……」
3人が訓練場に待機している両陣営に熱い視線を送っていると、しばらくして訓練開始の合図が鳴り響きました。
◇◇◇◇◇◇
「よし! 全軍前へ!!」
先に動いたのは親衛騎士部隊です。100名全員が最初はゆっくりと、そして少しずつ進軍スピードを上げながら訓練場中央へと向かって進んで行きます。
少し遅れて、近衛騎士部隊からも戦闘開始の声がかかりました。
「よし! 弓隊、攻撃開始です! 一列目撃て!!」
掛け声とともに弓隊一列目の10名が一斉に矢を敵陣に放ちます。
親衛騎士部隊は皆、余裕の表情で進軍スピードを緩めた後、盾を上方に構えました。
「弓攻撃が終わったら、再び進軍開始だ!」
最初の弓攻撃を盾で簡単に防ぎながら、親衛騎士部隊の隊長がそう声をかけます。
しかしその後、通常では考えられない事態が起こったのでした。
「た、隊長! 弓攻撃が止みません!!」
「な、なぜだ? 全員が弓装備に切り替えたのか?」
「いえ、相手の弓隊の数は変わっていないようです」
この時、近衛騎士部隊の弓隊が行っていたのは、日本の戦国時代の武将、織田信長が長篠の戦いで使用したと言われている有名な「三段撃ち」です。(鉄砲ではなく弓ですが……)30名の弓歩兵を10人ずつ3列に配置し、一列目が撃ち終わったら二列目が、二列目が撃ち終わったら三列目が撃ち、次はまた一列目が撃つ……というように、矢を間断なく打ち続ける戦法です。
「まずは足止めに成功しましたね。彼らが弓矢による損害を気にせずに、そのまま前衛まで突撃してきたら……と心配の種はありましたけど……良かったです」
「フフッ……無用の心配でしたね。さすがユウト様です。ほら、次の作戦が始まりますよ!」
絶え間なく続く弓攻撃に驚いている親衛騎士部隊ですが、しっかりと盾を上方に構えているので、被害は全くありません。時間が経てば冷静さを取り戻すでしょうから、ここで次の作戦が発動されます。
「槍隊! 列を乱さないように全軍突撃!!」
近衛騎士部隊の主力である槍隊60名が、30名ずつ2列横隊のまま敵陣に向かって突撃を開始しました。突撃と言っても列を乱さないように厳命してあるので、早足から駆け足程度のスピードです。それでも一斉に向かってくる槍隊の異様さに、親衛騎士部隊は困惑を深めているようです。
「隊長! 槍部隊が迫って来ます…。いったん引いて体制を立て直しますか?」
「馬鹿者!! 所詮は槍部隊だ。落ち着いて対処すれば問題ない!」
親衛騎士部隊の隊長は、さすがに冷静さを取り戻したのか、少し考えて的確に部隊に指示を送っています。
「いいか! 槍部隊がこちらに接近すれば、敵の弓攻撃が終わる。それまでは、このまま上方に盾を構えて待機しておけばよい。弓攻撃が止んだら、槍対策に前方に盾を構えなおせ!」
その指示を聞いた親衛騎士部隊は、忠実にその命令に従いました。
隊長の言ったとおり、槍部隊の接近とともに間断なく降っていた矢の雨が止みます。
それを待っていた親衛騎士部隊は、一斉に上方に構えていた盾を前方へと構え直します。
……しかし残念ながら、槍の攻撃は前方からは来ませんでした。
バシ!! ビシッ!!!
ビシッ! ガツン!!
ゴン! ガン!!
「ぐぁ! な、なんだ!!」
「い、痛い!!」
「こんな攻撃が…。や、やめてくれ!!」
親衛騎士部隊の前へと整列した近衛騎士部隊の槍隊は、槍を『突く』のではなく『叩く』という使い方をしたのでした。集団戦闘の場合の槍は『突く』よりも『叩く』ように使うのが効果的です。もっと槍が長く、先端が重いと効果が高まりますが、今回はあるもので頑張ってもらいました。
「な、なんだあれは? ユウト……槍のあんな使い方は初めて見たぞ!」
「まだまだ終わりではありませんよ……。そうですよね、ユウト様!」
ゼガートさんは、さっきから驚きを隠せないでいる。レイシアさんは、そんなゼガートさんを見て楽しんでいるみたいです。
60人の槍隊が30人ずつ交代で力一杯叩きつけているのだから、親衛騎士部隊の方々は本当にお気の毒だ。半数は前方に構えてしまった盾を上方に構え直す時間も与えられずに完全にサンドバック状態になっています。後方にいる残り半数は、盾を上方に構え直すことができた様子で、槍隊の側面に回りこもうとしています。
「今です! 騎馬隊突撃開始!!」
その瞬間、近衛騎士部隊の左右5騎ずつ配備されていた槍騎兵が、態勢を立て直して槍部隊の側面に回り込もうとしていた親衛騎士部隊に突撃を開始しました。
戦闘開始時に弓隊と同じくらい後方に控えていた騎馬隊が、すでに親衛騎士部隊の側面にまで前進して突撃の頃合いを見計らっていたのです。
ドドドドドドド――――――――――ッ
ドドドドドドド――――――――――ッ
左右から騎馬隊が槍を手に敵陣を突き抜けていきます。
騎馬隊は僕の指示通り、持っている武器で敵を攻撃することなく、立ちふさがる相手を馬で跳ね飛ばし、敵陣を突き抜けることを優先しています。前方からくる味方の騎馬隊と交差するように敵陣を突き抜けたら、Uターンして再び敵陣を突き抜けます。
これによって親衛騎士部隊は、敵の騎馬隊が突撃してくる側面を気にしながら、正面の槍隊を相手にしなければならないという状況に陥ったのでした。
「今回の作戦の要は『親衛騎士部隊をまともに戦える状況にしないこと』です」
「な、なるほど…。親衛騎士部隊は、まだ一人としてまともに動けていないな…」
「近衛騎士部隊は、ユウト様に良いところを見せようと張り切っていますしね!」
「え?」
レイシアさんの言葉に思わず聞き返してしまった。
「実は、近衛騎士部隊の女性騎士全員に『今回の戦いでユウト様の指示どおりに動き、勝利した暁には、ユウト様の護衛の選抜方法を試合ではなく、くじ引きに変更する』と言っておいたのです」
「そ、それは、効果があるのか?」
「僕はないと思いますけど……」
「何を言っているのですか? 今や女性騎士にとって、ユウト様の護衛騎士になることは誰もが望む『夢』ですよ! 選抜方法が『くじ引き』になれば、全員に等しく可能性が生まれるのですから、士気が上がるに決まっています!」
そんな話を3人でしている中、近衛騎士部隊から次の掛け声が戦場に響き渡る。
「槍隊! 抜刀せよ! 殲滅―――――!!!!」
近衛騎士部隊の槍隊60名が、その掛け声とともに、一斉に槍を地面に捨てて腰の剣を抜き放った。それを見た親衛騎士部隊の誰もが、ここからの個人戦で戦況打開を図ろうと頭に思い浮かべたようですが……残念ながら、そうはいきませんでした。
「お、お前ら! ひ、卑怯だぞ!!」
「まて、ちょっと待て―――ぇ!!」
「こ、これはいかん! 退却だ! 退却しろ!!」
近衛騎士部隊には、必ず1人の敵に対して2~3人で戦うように厳命しています。一対一の戦いが行われると思っていた親衛騎士部隊は、総崩れとなって退却を開始しました。すでに半数は槍の攻撃で負傷するか、複数人からの攻撃で討ち果たされてその場に倒れて降参しています。
「う~ん。勝負あったな……」
ゼガートさんが、唸りながら目の前の状況を受け入れようとしています。
「あら、ゼガート様。まだユウト様は、最後の攻撃を残していますよ……」
「な、なに! まだ何かあるのか?」
レイシアさんの言葉に驚いたゼガートさんは、退却していく親衛騎士部隊のほうへと目を遣りました。すると退却経路の脇に、近衛騎士部隊の弓隊が戦闘開始時と同様にキレイな3列に整列して弓を構えています。
「な、なんだ! いつの間にあそこまで移動したのだ?」
「槍部隊が攻撃を開始した直後に、急いで移動してもらいました。劣勢、または同数の戦闘の場合、遊兵を作っている余裕はありませんから……」
そう説明すると、
「参った、本当に参った……。これ以上の追撃は勘弁してあげてくれ……。今日は回復魔法士の人手が足りないのだ……」
「回復魔法士?」
「ユウト様、『回復魔法士』とは、戦場で傷ついた兵士を『回復の魔法具』で癒して怪我を直す兵士です。兵士や騎士は、軽傷であれば自分の魔力を使用してその魔法具で怪我を直しますが、それ以上の場合は回復魔法士にお願いして直してもらいます。回復魔法士には比較的魔力量の多い者が任命されますが、それでも回復魔法士1人で2~3名を直すのが限界ですね」
「そ、それでは、今回、親衛騎士部隊の負傷者を直すには……」
「おそらく20名は必要だろう…。ちなみに今、この軍施設にいるのは5名だ…」
(うわぁ…。そういう情報は早く教えてください…。)
「ゼ、ゼガートさん! それでは訓練はこれで終了にしましょう…。僕とおねえちゃんは普通の人よりも魔力量が多いみたいですから、回復を手伝います!」
「すまない…。それは助かる!」
ゼガートさんは急いで、訓練終了の指示を出したのでした。
◇◇◇◇◇◇
「それで……マリクとミユは、どこに行ったのだ?」
すぐに訓練を終了し、負傷者を一カ所に集めたところで、ゼガートさんが一人の兵士に問いかけました。
「ハッ! お二人は空腹になったとのことで、食堂で『フライドポテト』なるものを食しております!」
「な、なに? この大事な時に! すぐにここへ連れてこい!!」
(お、おねえちゃん…。なにをやっているのさ……)
おねえちゃんとマリクさんの現況に僕はガッカリしてしまいました……。
今回の訓練で、おねえちゃんに良いところを見せたかったという気持ちが大きかったんだと思います。
「すまないな…ユウト。領主であるマリクは、かなり変わっているところがあってな…。しかし安心しろ! 私が今回の訓練での出来事はしっかりと報告し、ユウトには我が軍の『軍師』に任命してもらうように進言するからな……」
「ぐ、軍師? ……ぼ、僕が?」
「それは素敵ですね……。私もユウト様を軍師にするのは大賛成です。しっかりと叔父としてマリク様に進言してくださいね!」
ゼガートさんが僕を軍師に推挙してくれると言うことにも驚きましたが、レイシアさんの発言にも驚きました。
「えっ? ゼガートさんは、マリクさんの叔父さんなのですか?」
「うむ。認めたくないがな……」
ゼガートさんは、ニッコリと僕に笑いかけながら、僕の左肩をバシバシと叩いた。
「これから大変になるが、頼むぞ『軍師』殿!」
僕は少し苦笑いしながらも、『軍師』と呼ばれることに嬉しさを感じるのでした。
優斗が華々しく活躍をしている最中
美結とマリクさんは、お食事中でした。
喧嘩をしたらお腹が空くのはわかりますけれど…。
次回は、おねえちゃんが負傷者を治療します。




