第18話 大軍師誕生!(前編)(ユウト視点)
今回はユウト視点でお届けします。
軍施設で優斗の知識が役に立つのか?
こうご期待?…です。
僕たちの乗った馬車は、おねえちゃんとマリクさんが口喧嘩をしている間に目的地である軍施設に到着してしまいました。
僕はレイシアさんにエスコートされながら馬車を降りると、そのまま彼女に右手を繋がれた状態で、軍施設の入り口へと歩いて行きました。馬車から軍施設の入り口までは、男性騎士達が出迎えの列を作っており、その目の前を通るのはとても緊張します。
(うわぁ……騎士の皆さんの僕を見る目が怖いんだけど……)
騎士達は、全員僕をにらむような怖い目つきで凝視しています。
きっと「なんで俺達がこんなガキのために……」とか考えているに違いありません。
体が硬直し、手に汗を握ってしまいます。
そんな僕に気が付いたのか、レイシアさんが並んでいる騎士達に声をかけました。
「皆、こちらのユウト様は、今回軍に導入された『馬具』を考案された天才です。今後も我が軍の軍備増強に協力してくれるよう、領主自らが迎えに行くほどの人物ですから、くれぐれも失礼のないようにしてください!」
「「「ハッ!承知いたしました!」」」
騎士達は一瞬驚きの表情を浮かべた後、一斉に返事をしました。
その後は、僕に対する顔つきや目つきが和らいだように思います。
「それと、ユウト様の姉であるミユ様にも失礼のないように……。
ミユ様は……あれを見れば凄い人物だということがわかると思います……」
レイシアさんの言葉に、僕と騎士達が一斉に馬車のあるほうに視線を移します。
おねえちゃんとマリクさんが、馬車を降りてもまだ口喧嘩を続けていました。
そんな様子を見て、騎士達は互いにボソボソと囁きあっています。
(た、確かに凄いな……。領主様と喧嘩しているぞ)
(しかも対等に……。いや、少し押しているくらいだ)
(もしかして、領主様の婚約者になる方か?)
(……ありえるな。いや、しかし……)
(俺は違うと思うぞ! 領主様は胸が大きい女性が好みだと聞いたことが…)
(あっ! 俺も聞いた! 昔、ゼガート様が言っていたな!)
(…とすると、俺にはサッパリ彼女が領主様の何なのか、わからんのだが…)
(俺もだ…。そうだ! これを話のタネに今晩は一杯やるか!)
(それはいいな! 久しぶりに飲みに行くか!)
……とそんな会話が僕の耳にハッキリと聞こえてきます。
(おねえちゃんが聞いたら、さらに怒りそうだなぁ……)
そんなことを考えてため息をついていると、軍施設の玄関口から歩いてきた騎士団総長のゼガートさんが声をかけてきました。
「よく来たな! 早く中に入って『馬具』の出来を見てくれ!」
「あ、はい! お久しぶりです。僕も見るのが楽しみです」
と返事をして、みんなで軍施設の中へと移動しました。
おねえちゃんとマリクさんを置き去りにして……。
◇◇◇◇◇◇
カダイン伯爵領の中央にあるこの軍施設は『訓練所』と『武器・防具保管庫』を併せ持った重要な施設とのことでした。今回開発した『馬具』は1年後に再開予定の戦争に向けて、現在最優先で生産体制を整えており、軍事機密扱いで、一つずつ番号をつけて管理され、使用前後に厳しくチェックされる予定とのことです。
「うわぁ~! よく出来ていますね」
会議室のようなところで、ゼガートさんに見せてもらった『馬具』は、僕の説明を聞きながら、おねえちゃんがスケッチした物よりもかなり立派なものに仕上がっていました。
材料にこちらの世界で生息している魔獣の皮を使用しているとのことですが、とても丈夫で元の世界の物よりも耐久性が良いのではないかと思います。元の世界で、僕は『馬具』の実物を見たり触れたりしたことはあるのですが、背が低いのでポニーにしか跨ったことがなく、乗り心地については比較した感想が言えないのが心苦しいです。
「俺も試作品が出来てから何度も試乗して、工房の者と一緒に改良を重ねたのだ。短期間で作ったにしては、なかなか良い出来だろう? だが、気が付いたところがあったら遠慮なく言ってくれ」
ゼガートさんは『馬具』をとても愛おしそうに撫でながら話をしています。
しばらく開発過程の説明を聞いていると、工房の担当者の方から声がかかり、全員で部屋を出て屋外へと移動しました。馬に装備させた状態も確認するためです。
屋外に出ると、すぐ目の前に一頭の馬が馬具を装備された状態で待機していました。僕たちの世界の物と比べると、見た目はほとんど変わりませんが、違和感があるとすれば……手綱がカチカチで楕円の形に整ってしまっていることです。
「どうだ! 大丈夫そうか?」
「そうですね……。え~と、2点だけ改良が必要だと思います。まず、手綱はカチカチの分厚い皮ではなくて、もっと柔らかいヒモのような素材が良いですよ。もちろん切れないように、ある程度強度が必要ですけど……。そうすればもっと馬の操作がしやすくなります」
「そうなのか?」
「はい。実際に今の手綱をヒモと交換してみるとわかりますよ」
僕がそう言うと、ゼガートさんの傍に控えていた工房の職人と担当者が、すぐ馬に駆け寄って行き、馬に取り付けてある手綱部分をヒモに交換しました。
ゼガートさんは、彼らが取り換え終わるのを待って、すぐに馬に跨ります。
「ゼガートさん。どうですか? 長く持つ、短く持つ、そして……指に巻き付けて片手で持つ。あとは、それぞれの状態で立ったり座ったりしてみてください」
ゼガートさんは、僕に言われるがまま手綱の長さを変えて、立ったり座ったりを繰り返している。
「なるほど! これは良い!! 馬を歩かせる時、走らせる時、それから武器を持って戦う時……。ヒモのように柔らかい素材のほうが持ち方ひとつで何とでもなるな! よし! ヒモのように柔らかく強度のある素材を探させよう」
手綱の操作は、本来もっとデリケートで難しいものなのですが、元々こちらの人達は馬具無しで乗っていた強者達なので、詳しい説明は必要ありません。僕達の世界のもので例えると、一輪車から補助付きの自転車に乗り換えたくらい簡単に感じるみたいですから。
「それと、鐙なのですが、乗る人によって長さを変えられるように調整ができると良いと思います。」
「う~ん……確かにな。実は試乗した女性騎士の多くから同じ事を言われてはいたのだが……つい軽視してしまっていた。必ず改良すると約束しよう……」
そんな会話を交わすと、僕の隣に控えているレイシアさんから、
「さすがユウト様。私のために……」
という声が微かに聞こえてきました。
……レイシアさんのためだけではないですよ。 ……念のため。
◇◇◇◇◇◇
馬具の視察を終えた僕達は、そのまま建物の外壁に沿って裏手へと移動し、訓練場へと移動しました。訓練場は、サッカーの試合が3試合同時にできるくらいの広さがあり、ここで実戦形式の集団戦闘訓練をみせてくれるとのことです。元の世界でも見たことのない光景が目の前で繰り広げられるかと思うと、ものすごく気持ちが高まってきます。
「今日は騎士団の親衛騎士部隊と、近衛騎士部隊、各々100名で訓練を行う。実戦形式の訓練で武器は剣・斧・槍・弓矢を使用する。もちろん馬具を装備した騎馬隊も内10名ずつ配備だ。武器は通常の訓練同様に全て刃引きしてあるが、致命傷を負えば当然死に繋がるので各自油断しないように!」
ゼガートさんが大声で説明した後、騎士団が二手に分かれて右と左に移動していきます。
僕から見て左が、女性騎士が人数の半数を占める『近衛騎士部隊』、右が男性騎士のみで女性がいない『親衛騎士部隊』です。みんな自分の得意な武器を所持していて、団子状態にひとかたまりになっています。
「勝敗が決まっていて面白くないだろうが、とりあえず観戦してくれ」
「勝敗が決まっている?」
ゼガートさんの言葉の意味がわからずに首をかしげていると、レイシアさんが教えてくれました。
「男性だけの親衛騎士部隊のほうが圧倒的に有利ということですね。近衛騎士部隊に私が加われば戦況が変わるのでしょうが……」
(う~ん…。確かに、正面からぶつかって一対一ならそうかもしれないけど…)
…と、疑問が増えてしまいましたが、とりあえず訓練を見学することにしました。
◇◇◇◇◇◇
(………な、なんですか? この戦闘は……。)
実戦訓練が始まってすぐに、僕は唖然としてしまいました。
なぜなら、あまりにも酷い戦いだったからです……。
まず両陣営とも、隊列を組むことも、武器をそろえることもなく、戦闘開始の合図とともに訓練場の中央へと進軍を開始しました。途中で弓を持った騎士が相手方に向かって射かけますが、進軍スピードを少し遅くしただけにすぎません。あとは両陣営全員がほぼ一対一で戦い、当然のように力の強い親衛騎士部隊が近衛騎士部隊を押していき………終了。騎馬隊もあまり意味がありません。
「ゼ、ゼガートさん、レイシアさん…。実際の戦いもこんな感じですか?」
「規模はもっと大きくなるが、だいたいこんな感じだな…」
「戦争の勝敗は、どれだけ武力の高い兵士・騎士を揃えることができるかにかかっています」
二人の言葉にさらに唖然としてしまいました。
実際の戦争では、戦略シミュレーションゲーム以上の多岐にわたる緻密な戦略・戦術があるに違いないと考え、僕の知識では何の役にも立てないかもしれないと覚悟していたので、ショックがかなり大きいです…。
「作戦を立てて奇襲をかけるとか、挟み撃ちにするとか……。そうだ! 魔法を使った攻撃とかは?」
わずかな希望を持って、もう一度二人に聞いてみる。
「もちろん奇襲や挟み撃ちはあるが、あまり効果はないからな…。敵が退却を始めたときの追撃戦のほうが効果が高いぞ」
「魔法での攻撃は、一般的な能力の騎士で2回くらいが精一杯です。私レベルになれば大規模な魔法を5~6発撃てますが、使用した後の消耗が激しいので、いざという時に取っておくのが常道です」
なるほど。奇襲や挟み撃ちも、今のような一対一を重視する方法では効果がないのも頷けます。魔法の使われ方も、だいたい理解できました。
これなら…この世界なら、僕のつたない知識でも十分通用するかもしれません。
「みなさんのおかげで、こちらでの戦いがどんなものか、だいたい理解できました。そこで…すみませんが、もう一度同じ訓練をすることができますか?」
「ん? 何をする気だ?」
「ユ、ユウト様?」
キョトンとしている二人を真剣な目で見つめながら、僕は自信を持って宣言しました。
「次の訓練では、僕が『近衛騎士部隊』を勝たせてみせます!」
頭の中で次から次へと作戦が浮かんでくる中・・・おねえちゃんが今どこにいるのか?
……ということは、全く僕の頭には浮かんできませんでした。
(ごめんね。おねえちゃん……)
次回もユウト視点になります。
優斗が歴史オタクと戦略SGの知識を駆使して、頑張ります!
……おねえちゃんは、何をしているのかな?




