第13話 爆弾小娘がやってきた!
再び村の生活のお話に戻ります。
新しい出来事や発見はあったのでしょうか?
ラルフ村の別邸での暮らしも4日目になりました。
元の世界と比べると不便なことや不慣れなことが多く、気持ちが落ち込むこともありますが、優斗が一緒にいてくれることの安心感や、一緒に暮らしているリアナ、カレン、シーリス、ビリーの人柄に助けられて、毎日を元気に過ごせています。
そうそう……この数日で良いことが一つと、悪いことが一つありました。
先に悪いほうから………
実は、リッタの町の薬屋さんへの出入りが禁止になってしまいました。
……ひどいです。
理由はというと、お店が始まる頃に押しかけて、薬を片っ端から匂いを嗅いで回り、ちょっと舐めたり……そして、店主には理解できない異世界の単語をブツブツと呟きながらメモを取ったり、絵を描いたりしていたことです。
何も出入り禁止にしなくても……ねぇ……。
ちょっと優斗が喜んでくれる笑顔を想像したら、周りが見えなくなっただけなのです。商売を妨害したり、来店するお客さんに変な目で見られるつもりは全くありませんでした。
マリクさんからの生活費で全種類を少しずつ購入することも考えたのですが、私一人の我儘でそれに手を付けるのも気が引けて、何とか店内でわからないかなぁ……と思ったのです。
それに、護衛として傍に控えていたビリーもいけないのです。私が何か『美味しい薬』を発見したら未知の料理が食べられると期待して、私の行動を止めなかったのですよ!
(……はい、わかっています。責任転嫁ですね……私が悪いのです…すみません。)
というわけで、リッタの町の薬屋での調味料探しは挫折してしまいましたが、私としては、まだ諦めるわけにはいきません。機会を見つけてカダイン領の中央街に出かけるか、私のかわりにリアナやカレンに負担にならない程度に何種類か購入してきてもらおうと思っています。
◇◇◇◇◇◇
さて、次は良いことのほうですが……。
何と……『お茶の木』が見つかりました!
薬屋を出入り禁止となり、トボトボと別邸へと帰宅する途中、道端にたくさん生えている『ツバキのような木』が目に留まりました。今まで全く気にしていなかったのに不思議なことです。
「こちらの世界では、この木は何ていうのかしら?」
とビリーに尋ねると、
「こちらでは『ティー』と言う木ですね。誰かは忘れましたが、異世界人が名付けたそうですよ」
(!!!!!!!!!!!!)
驚きました! 確かお茶の木はツバキ科の植物だったと思います。
元の世界ではお茶の木というと、かまぼこ型に刈られた姿を想像してしまいますが、自然の中で普通に育てば、このような木に育つのでしょう……。思わぬお茶の木の発見に喜び、お茶作りが出来そうな柔らかい新芽や葉を摘んで帰りました。
◇◇◇◇◇◇
さっそく摘んできた茶葉を使って、お茶を作ろうとしたのですが、作成する工程を記憶の中から辿ると……残念ながら、緑茶を作ることができません。『蒸し器』が必要となるからです。
しばらく蒸し器の代替案をあれこれ考えましたが、全く思い浮かばず……諦めかけたその時、『紅茶』の作り方が思い出されました。
そう、これは優斗のために勉強した雑学『緑茶も紅茶もウーロン茶もみんな原材料は同じ』です。紅茶なら蒸し器を使用せずにできるかもしれないと、さっそく行動に移しました。
まず、取ってきたお茶の葉の新芽を水洗いして、水分をふき取ります。
その後、葉をザルの上に広げ、風通しのいい場所で乾燥させます。
だいたい一日くらい乾燥させると、シワができ香りが出てきます。
次は、私にとっては重労働なのでビリーに任せます。お茶の葉を台の上で力いっぱい揉んで、解すの繰り返しです。これが発酵を促進させるポイントだったように記憶していたので、気合を入れて頑張ってもらいます。
終わったら、さらに湿度を高くして発酵させるためにザルを濡れた布で包みます。この時、茶葉が濡れた布にくっつかないように気をつけます。発酵は、時々色の濃さと香りを確認しながら調整しました。だいたい2時間くらいかかりました。
最後に、フライパンに茶葉を乗せ、水分を飛ばすために軽く炒ります。焦げないように注意して乾燥させれば無事に完成です。
◇◇◇◇◇◇
こうして出来た『紅茶』は、翌日の朝から皆に振舞われました。
さすがに素人が作った紅茶なので、少し青臭かったり苦かったりしましたが、みんなには砂糖を好みで入れてもらい飲んでもらいます。
日々の調教? のおかげで、みんな普通に砂糖を使用するようになりました。
「すごいです!葉っぱから、こんな飲み物ができるのですね!!」
「わぁ~っ!どうしましょう……これは私達が飲んで良いものなのでしょうか?」
リアナとカレンのメイドコンビが感激しています。
「確かに……これは、王族でも飲んだことはないのでは?」
シーリスもカレンの言葉に賛同しています。
「みんな! これは俺が精一杯の力と愛情を込めて揉んだから出来たんだぞ!!」
「…………………」
「…………………………」
「………………………………」
ビリーが力説しますが、みんな紅茶を味わうのに夢中で誰も聞いていません。
優斗は、少し猫舌なところがあるので、フーフーと息を吹きかけて熱を冷ましながら、ようやく紅茶を口にしました。
「うん。美味しい……おねえちゃんはやっぱりすごいや……」
優斗の誉め言葉をもらい、今度はもっと上手に作ろうと心に誓っていると、玄関ドアをノックする音が聞こえました。
コンコンコン!
「はい、どちら様ですか?」
リアナが応答して玄関のドアを開けると、そこには優斗と同じ歳くらいの少女が立っていました。村の少女にしては、とても上品なチュニックのような上着と膝下まである巻きスカートといった服装です。
髪は濃いグリーンでツインテールにしています。
「すみません。私はこの村の村長の娘でミーナといいます。こちらに住んでいる男の子のことでお話があってきました」
私達大人を前にハッキリとした口調で言葉を発した少女に感心しながら、私は席を立ち、玄関の前に立つ少女とリアナの元に向かいました。
「優斗のことで?」
そう少女に聞き直した時、外庭に3名の少女がこちらの様子を伺っているのが見えました。おそらくミーナは、外の子達の代表でこの家をノックしたのでしょう。
そういえば、先日はもっと年上の女性陣が優斗とシーリスの剣術を遠くから見ていたように思いますが、彼女達は今日来ていないのかしら?
そんな疑問が頭に浮かびました。
私がそんなことを考えていると、ミーナが会話を続けます。
「あっ! 彼はユウトくんって言うのですね! 実は私……父からこの家に両親を亡くした可哀想な子が住むようになったって聞いて……それで、ユウトくん毎日剣術の稽古ばかりしているみたいだから、私達と一緒に遊ばないかな? ……って」
「そうなんだ……。ありがとうねミーナちゃん」
優斗にとって同じ歳くらいの子と遊ぶ時間も必要なことだと思うので、彼女の提案には大賛成です。少女達のほかに、歳の近い村の男の子は何人くらいいるのかが気になり、ミーナに聞いてみます。
「優斗と同じ歳くらいの男の子は、村にどれくらいいるの?」
「5人ですけど……あの子達は、私達と遊ぶには子供過ぎるのでダメです!」
「えっ?」
「ユウトくんは村にとって大事なお客様だから、一緒に遊ぶ子供も会話する大人も選ばないといけないでしょう? だから、ここに来るときも「一緒に来たい」と言っていた年上の『おばさん』達には帰ってもらいました」
「はい?」
(彼女の基準では、村の男の子と年上の女性は優斗に接触する資格無しってこと?)
驚きの発言をするミーナに、私だけではなくビリーやこちらの女性陣も空いた口が塞がらない感じです。それにしても、この世界が身分重視なのは知っていますが、『村長の娘』というだけで一般の村人より発言力が高いのに驚いてしまいます…。
「ミーナちゃん……。優斗と遊んでくれるのは嬉しいけれど、できれば男の子とも遊ぶ機会を作ってあげてほしいかな……みんなで仲良くが一番だよ」
と私が言うと、彼女はムッとした表情をして、
「失礼ですけど、あなたはユウトくんの何なんですか?」
「……えっ? あ、姉ですけど……」
「はい? 嘘つかないでください……子供だと思ってバカにしています?」
「エッ!? ……………………………………」
真実を言って、すぐさま完全否定されたことに絶句していると、
「ミユ様は、ユウト様の義理の姉です。ユウト様の父君の養女なので、血は繋がっていません」
と、ビリーが後ろから、とんでもないことを発言しました。
(ちょっとビリー! なにを……)
(すみません、ミユ様! そういう設定なのです……)
ひどい……。
いくら設定といっても、全く血が繋がっていないことにしなくても……。
悲しい気持ちが胸の中に溢れてきた時、さらに追い打ちをかけられました。
「そう……それなら納得がいくわ。『全然』似ていないもの……」
(くっ……くぅぅ……泣いていい? ……泣いてもいいよね)
かなりのダメージを受けてしまった私を察してくれたのか、急ぎ足でシーリスが優斗を伴って近づいてきてミーナに向き合いました。
「ミーナちゃん。お家再興を目指しているユウト様にとって、剣術の稽古はとても大事なの。一緒に遊びに出かけたいなら、姉であるミユ様と剣術の師匠である私の許可が必要になりますよ」
「そうだね。僕も早く一人前の剣士になりたいし、おねえちゃんが毎日僕のために頑張ってくれているのに、遊びを優先にはできないかな……」
シーリスと優斗の言葉に、ミーナは今までの勢いが無くなりシュンとしました。
「…たまに…ユウトくんとお散歩しながら、お話をする時間…もらえませんか?」
少し上目遣いで、しかも子犬のような目で私とシーリスをみつめてくる。
これには、さすがに完全拒絶もできず…
「優斗……。とりあえず今日は、ミーナちゃん達と遊んできなさい。明日以降は私とシーリスの許可制ということで……」
「あ、ありがとうございます! ユウトくんのおねえさん!」
ミーナが満面の笑みで私にお礼を言うと、優斗に向かって声をかけた。
「ユウトくん。初めまして!
私はミーナって言います。さぁ! それでは一緒に行きましょう!」
優斗を外へと連れ出して行くミーナを見て、私はシーリスに声をかけた。
「優斗のこと、よろしくね……」
「はい、お任せください。ユウト様が少女達に汚されないように気を付けます!」
(いや……そういう意味で『よろしく』と言ったわけでは……)
シーリスの返事に心の中でツッコミを入れた私でしたが、外に出たばかりのところで、また何か揉めています。
「えっ? シーリスさんもついてくるのですか?」
「当然です! 私はユウト様の護衛騎士ですから」
「でも……『おばさん』が一緒だと話が盛り上がらないというか……」
「!!! わ、私はまだ18歳です!」
「……だから『おばさん』でしょう?」
「なっ!!」
ミーナとシーリスが言い合っているのに困って、優斗が間に割って入りました。
「ミーナちゃん! シーリスのことをそんな風に言わないでよ……」
シーリスのほうに背を向けて、ミーナの目を見つめながら話を続けています。
「シーリスは、とても若いしキレイだし……、素敵なおねえさんだよ。剣術も凄くて、僕は尊敬しているのだから……。それにミーナちゃんも、とても可愛いのに人の悪口を言っていたら、良いところが台無しになっちゃうよ……」
というと、ミーナは驚いたように優斗を見つめ、顔を赤らめながらコクリと頷きました。
「私のこと……キレイで、素敵……だなんて……ユウト様……」
「私のこと……か、可愛いですって……」
二人がブツブツ呟いていたのは、私には聞こえませんでした。
とりあえず優斗とシーリス、村の少女達が出かけて行ったのを見送り、この世界で同世代の友達ができたことを喜ぶことにしました。
「18歳……。ミーナちゃんにとっては『おばさん』なんですね……」
「い、いえ……あの子が単に変な考えをしているだけですよ!」
18歳のリアナと19歳のカレンが、そんな会話をして落ち込んでいます。
たった一人来訪した少女に、この場にいる女性全員がショックを受けて、心にダメージを負ったのはあきらかでした。
私は、このミーナのことを『爆弾小娘』と呼ぶことに、心の中で決めたのでした。
将来この子が、優斗に仕える騎士として一人前に成長することを知らずに……
濃いキャラクターの登場です。
彼女の成長も長い目で見てください。
次回は、美結の前に素敵な男性が現れます。




