第11話 みんなで料理をいただきましょう!
いよいよ料理をいただきます。
優斗に喜んでもらえるでしょうか?
「あれ? 誰もいない……」
食堂に完成した料理を置きに来た私でしたが、優斗とシーリスの姿が見当たらないのが気になりました。
「ミユ様。二人なら外で剣術の練習をすると言っていましたよ」
傍に控えていて、私の独り言を聞き取ったビリーが、すぐ私に教えてくれました。
窓から外を見ると、確かに外庭でシーリスが優斗に剣術の指導をしていました。
(わぁ………すごい……)
シーリスの剣さばきや身のこなしが、とても軽やかで、素人目に見ても彼女が達人であることがわかります。優斗が次々と攻撃するのを受けて……かわして……、そして隙を見ては攻撃する側へと回っています。どのくらい練習を行っていたのかわかりませんが、優斗はすでに息が上がっているように見えました。
シーリスのほうも、優斗が疲れている様子に気がついているようです。
「ユウト様。そろそろ休憩にいたしましょう。あちらからミユ様が顔を見せていらっしゃるので、おそらく食事の準備ができたのかと思いますよ」
「はぁっ……はぁっ……。う、うん…そうだね。ありがとうシーリス」
二人が練習を切り上げて、私達のほうに向かって歩いてきました。
その時、二人の向こう側に見える小高い丘の上に、人だかりが見えました。
(……ん? あれは?)
別邸の庭から少し離れた所なのですが、村の女性と思われる人達が6~7名こちらを見守っています。
明らかに優斗を目で追っていて、この距離でも微かに黄色い声が聞こえます。
どうやら、すでに優斗(美少年)の存在が村の噂になっているみたい……。
こちらの世界の女性達には、溢れ出る優斗の魅力がわかってもらえているようで、
姉としては嬉しい限りですが、ちょっと目立ち過ぎかしら……。
「ねぇ、ビリー。優斗はちょっと目立ってしまっていますよね……」
「そうですね……。男の私にはわかりませんが、シーリスいわく【神がこの世界に遣わした天使】だそうです」
「へッ?」
(た、大変!! 『村のアイドル』なんてレベルじゃなかったよ!!)
「だ、大丈夫かしら…。マリクさんに『目立つなよ!』って言われているのに…」
「その点は、問題ないと思いますよ。村長にはお二人のことを『前の政争に敗れ、両親を失った没落貴族を、慈悲深いマリク様が保護された』…という設定で話をしてありますから」
(エッ! ……ひどい。)
冷酷な『腹黒変態魔術師』に、勝手に召喚された上、運命に翻弄されている可哀想な姉弟なのに……。
私達にとって、悪い印象のほうが強いマリクさんが、ここでは善良な領主として認知されていることに、つい不満顔が出てしまいます。
そんな私を見て、ビリーが話しかけてきました。
「……ミユ様。私が言うべきことではありませんが、マリク様のこと……あまり悪く思わないでください」
「えっ?」
ビリーは、一瞬驚いた私を見つめ、真剣な表情で話を続けました。
「マリク様は、2年前の政争で御父上と兄上、そして当時宰相だったアストリア侯爵家に嫁いでいた姉2人を暗殺により亡くされているのです……」
ビリーは、それ以上語ってはくれませんでしたが、私に何を伝えたいかは、痛いほどよくわかりました。
(……そうね。今の話だと、マリクさんも突然家族を失って、領主という大変な役目を背負わされてしまい大変な状況なのかもしれない……)
と考え、ビリーの目を見つめて軽く頷きました。
今度会った時は、過去を忘れて、優しく接してあげようと思います。
もしかしたら、その政争が私達を召喚した件や、私達姉弟への『お願いごと』に関係があるのかもしれません。
◇◇◇◇◇◇
「ミ、ミユ様……。これは、食べても大丈夫なのですか?」
シーリスが私の料理を目の前にして、とても失礼なことを言っています。
一緒に料理を作っていたリアナさんとカレンさんでさえ、自分が最初に口にしたくないと思っているのがバレバレで、まだ席に着こうとせず、私の後ろに立って控えている。
「だ・か・ら! 大丈夫ですって!!」
「そうだよ! おねえちゃんが作った料理なんだから大丈夫だよ……た、たぶん……」
(ちょっと優斗! そこは『たぶん』をつけない!!)
優斗のフォローになっていないフォローに悲しくなってしまいましたが、皆にせっかく作った料理をあたたかいうちに食べて欲しいという気持ちは変わりません。
仕方がないので、私と優斗で「毒見」として先に一口ずつ食べることにしました。
今日の料理は、次の4品です。
○野菜と鶏むね肉入りの鶏ガラスープ
○鶏モモ肉と鶏皮の一口サイズ焼き
○フライドポテト
○玉子焼き
それから、町で買った氷をつくる魔法具を使って、氷水も皆に配ってあります。
正直、塩分が多い料理ばかりなので、のどが渇くと思いました……。
まず、スープの器に手を添えて、スプーンで一口いただきます。
(うん。鶏の臭みが上手く抜けていて、それなりに味が出ているよ…合格かな)
私が自己評価していると、
「うん。おねえちゃん美味しいよ! いつものおねえちゃんの鶏ガラスープとは、少し違った味がするけど……」
(ゆ、優斗……。それは、いつもお姉ちゃんが市販の鶏ガラスープの素を使っているからです……)
心の中で、優斗に謝罪しながら、他の4人にスープを勧めてみます。
4人とも優斗が笑顔で食べる様子に安心したのか、席に着いてスプーンを手に食べ始めました。
「!!!!!!」
「こ、これは!」
「美味しい……」
「初めてです……」
4人とも一言だけ感想を漏らすと、あとは夢中でスプーンを口へと運んでいます。
先に食べ始めた私達よりも、ビリーは早く食べ終えてしまいました。
「では次は、鶏モモ肉と皮の焼いたものを食べてみてください。そのままでもいいですけど、お好みで少しだけ、この白い粉、または赤い粉をつけてみるといいですよ」
白い粉は「塩」、赤い粉は「唐辛子」です。
この料理に関しては、肉を切って焼いただけの「この世界」ではお馴染みの料理なので、私達が食べる前に皆手をつけてくれましたが、塩や唐辛子で味をつけて食べるのには抵抗があるみたいです。恐る恐る……といった感じです。
まぁ……この世界では「薬」扱いなので、仕方のないことですが……。
「うん、これも美味しい!」
「薬がこんなにお肉の味に合うなんて……」
「この皮も初めて食べましたが、食感が面白くてヤミツキになりそうです」
「皮は、この白い粉のほうが合うように思います」
そう、この世界では鶏皮を食べる習慣が無いので、新鮮に感じたようです。
鶏モモ肉よりも皮のほうが、あっという間に売り切れてしまいました。
「えっと、次の料理は……」
と、まだ食べていないフライドポテトを見ると、すでに塩味になれた様子のビリーが、優斗と一緒にモリモリと食べ始めていました。それを見て、女性陣も口に運び始めます。
「熱っ! ……こ、これは熱くて美味しいですね!」
「お行儀が悪いですが、手のほうが食べやすくていいです」
「けっこうお腹が一杯になってきました!」
「袋に入れれば、携帯食料になるのでは?」
皆のフライドポテトを取る手の動きが明らかに早くなっているのがわかります。
そして、会話も弾んでいます。
「シーリス……携帯食料は無理だと思います。これは熱くないと美味しさが半減しますし、熱いまま袋に入れると湯気でベチョベチョになってしまいますから……」
「そうなのですか? 残念です……」
そんな会話をしながら、最後の玉子焼きが登場です。
「最後は、優斗が大好きな玉子焼きだよ!」
「ありがとう、おねえちゃん!」
優斗の笑顔と、感謝の言葉に感激した私は、一瞬頭が「クラッ」としましたが、
すぐに持ち直して、他の皆にもすすめます。
(……あれ? ……反応が?)
今までに盛り上がってきたテンションが、急に沈んできた感じです。
おそらく、砂糖がたくさん入った料理に、再び警戒心が蘇ったのでしょう。
「優斗、さぁ、食べてみて……」
「うん。いただきます!」
先に食べるよう促すと、優斗は玉子焼きに手を伸ばし、一口食べました。
……その後、頬に手をあててウットリとした表情をみせると、
「おねえちゃん……美味しいよ。すごく美味しい……もう元の世界の料理は食べられないかと思ったけれど……」
優斗の目に涙が浮かんでいます。やはり……優斗もこの世界に来てから、あれこれと悩みや苦しみがあるのだと……実感しました。
私の目にも、涙が溜まってきたみたいです……。
「まだまだ、これからだよ! もっと色々なものを探して、
元の世界のものを再現してみせるから、お姉ちゃんに任せなさい!」
涙を人差し指で拭いて、優斗にそう宣言すると、
私も玉子焼きに手を伸ばしました……
「あれ? ……玉子焼き……無いんですけど……?」
さっきまで、たくさんテーブル中央の大皿に載っていた玉子焼きがありません。
驚いて周りを見渡すと、メイドコンビや護衛コンビの口の中に全て納まっている様子で、モゴモゴと口が動いています。そして、顔と耳までが真っ赤になっていて、目がウルウルとしています。
もしかしたら、さっきの私と優斗の会話で、みんな貰い泣きしたとか……?
「ユ、ユウト様……。私が寂しくないようにいつも傍にいますから……」
「そうですよ。私もミユ様と一緒に、料理とか頑張ります!」
と、メイドコンビが、
「二人に危険が及んでも、絶対に俺がお守りしますよ!」
「ユウト様、どんな時でもお傍を離れませんから……」
と、護衛コンビが言ってくれました。
思わぬ感動の言葉の連発に私達姉弟が恐縮していると、ビリーが一言。
「それにしても、この玉子焼きというのは、涙の味がするんですね……」
(いいえ。それは、貴方が鼻水流しながら食べたせいです……)
と、心の中でツコッミを入れつつ、結局玉子焼きを食べられなかったことに無念を感じるのでした。
◇◇◇◇◇◇
「こんな感じかしら……」
そう言ってシーリスに見せたのは、「小麦」「稲」「大豆」のスケッチです。
町で買った紙と鉛筆で描いてみました。
料理を食べた後、どんなものがあれば、さらに色々な料理を作れるのか?
という話になり、それらを国内で探してもらうための手段です。
調味料や香辛料については、自分で薬屋で調査しようと思っています。
「ミユ様は、絵が上手ですね。こんな立体的に描かれた絵は初めてです」
シーリスがそう言って誉めると、
「おねえちゃんは、美術だけでなく音楽の成績も上位なんだよ!」
と優斗が自分のことのように嬉しそうに言いました。
「あっ! そうです……ミユ様、馬車の中で話に出ていた『バグ』というものを描くことはできますか? とても便利そうな道具のようでしたので、レイシア様に報告して、軍や騎士団で検討してもらおうかと思いまして……」
「うん『馬具』ね。そういった“軍事関係”とかは、優斗のほうが詳しいから、聞きながら描いてみましょうか?」
隣にいる優斗も乗り気のようで、あれこれと具体的な形や用途を教えてくれました。鞍・鐙・轡・手綱など色々あって、よく覚えているものだと感心してしまいます。
「馬具と一口に言っても、色々な部品があるのですね……驚きました」
シーリスもそんな優斗の知識に驚きを隠せない様子。
しばらくの間、優斗に聞きながら絵を描き、そろそろ完成というところで、リアナさんとカレンさんがお水のおかわりを持ってきてくれました。
「二人ともありがとう。ちょうど終わるところです………うん、完成!」
「ユウト様、ミユ様、ありがとうございました。明日の朝、村長のところへ行き、食材と馬具の絵、それから報告書を届けてもらえるように手配いたします」
そう言って、シーリスは絵を描いた紙をまとめると、席を立ちました。
「あっ! シーリス、明日も剣術の練習してくれる?」
優斗がシーリスに問いかけると、意外にもリアナさんとカレンさんの二人から同時に声が上がりました。
「「ユ、ユウト様! 今、『シーリス』と言いました?」」
「えっ? シーリスに声をかけただけ……だけど?」
「「!!!!!!!!!!」」
二人の驚きの表情を涼しい顔で見つめているシーリスが、トドメをさすように言います。
「私とユウト様の“愛の絆”が深まって、呼び捨てで呼んでもらえることになったんですよ!『リアナさん』『カレンさん』!」
「「なんですってぇぇぇぇぇぇ~~~!!」」
再び私達の目の前で火花が散り始めました。
優斗は、なんでこうなったのか理解していない感じです。
……結局、最終的には私が間に入り、リアナさんとカレンさんについても、今後は呼び捨てで呼ぶことで決着がつきました。
シーリスが送った絵と報告書が、世界の表舞台への登場を加速させてしまったことを姉弟二人は気が付くすべがありません。
次回は、報告書を受け取ったカダイン邸のマリク・ゼガート・レイシアの3人を書く予定です。




