永遠の園
優しい色の花が、たくさん綺麗な配列で咲いている。柔らかな香りが時折私の元にとどいてくる。枯れることのない花たち。
彼と同じ、永遠を生きる花たち。
私は、この庭がとても好きだ。彼と同じように優しく咲いている。
時々手入れをする庭師が来る。庭師は背中からワインを出し、歌いながらラッパ飲みをする。陽気に舞い、しばらくすると昼寝を始める。陽が落ちた頃帰って行く。
なぜか彼が来ると花は生き生きとし、より美しくなる。
庭から見えるこの部屋のガラス戸棚の中に、母とアニスが残してくれた赤いルビーが入っている。
元の世界からこれだけは持って来た。
過去にアニスが生きていた証でもあり、現実の世界に私が生きていた証でもある。
もう、あの世界に私の生きてた存在も記録もない。
ウエストのしまる旧欧州調のこのドレス。元々はアニスの着ていたドレス。
私はこの着慣れないこのドレスが、とても気に入っている。ドレスは私を不思議と女性にしてくれる。
美しい振る舞いは、ウィリアムに愛されるだけではなく、私自身も好きになる事が出来た。裾の長い普段着のドレスは、今まで知る事がなかった心の奥にある女性としての本質を発掘し目覚めさせてくれた。
現世での洋服では、こんな事はずっと感じることはなかっただろう。今では、肌を隠すだけの代物だったとしか思えない。ドレスは私の心から全てを女性にかえてくれた。
このようなところからも、この世界に来てよかったと心の底から思えた。
ここにきてから日々を暮らす度、アニスとしての記憶が蘇り時々うまく心がシンクロ出来ない時がある。
そんな時は調和がとれず大抵体調を崩す。
けれども、そんな時ばかりではなく、花を撫でるとき は心は澄んで一体感が生まれる。そんな時はとても気持ちがよく、とても幸せな思いでいっぱいになる。
「ああ、愛おしい。あなたのその白い肌はまるでこの花の花弁のようです」
まるで、詩を読むように愛の言葉が自然と流れ出る。
言葉は彼女になり、私となって幸せを生み出す。
花を前に私はそこに彼をうつしだす。
指先に触れる花弁は滑らかで柔らかい。
まるで、彼の肌を撫でているような。そんな感触。
指先の感触から蘇る彼の身体は、痩せているように見えても弾力ある筋肉で覆われている。
その温かいぬくもりある体温の中に、どこか冷たさを感じる事が、私を虚ろな思いにさせる一歩となる。
そして、潤いある美しい唇は、まるで水滴のように優しく、ゆっくりと、ゆっくりと、水の道を作り出すように私の身体を這っていく。
そう、花弁の雨粒のように。
ここの花々は、私を守り、癒し、そして幸せに包んでくれている。
花達は彼そのもの。
彼がいないこの時間も、私は彼に守られているのだ。
ここに来てから私はとても、自分として生きる事が出来るようになった。
心は柔らかく、素直にいきることの喜びをえらるようになった。
固く、ギクシャクした賑やかな世界は、思い出すだけで、自分を閉じ込めてしまうようで、胸が張り裂けそうに痛くなる。
いろいろなものが渦を巻く世界。
そこで生きる人々は幸せを集めるのに、必死だ。
私が現世と別れを決めた時は、いろいろな事がいっきにありすぎて困惑したが、受け入れる事が出来た今では、ここに来れたことは大きな幸せ。
この庭に咲く花たちの花弁は、一枚一枚が生き生きと、美しい色とツヤをもち生きている。
この世界の穏やかさをあらわしているよう。
私はこの世界で生きることを決めた。
この世界の住人として、これからも全てを受け入れ生きていく。
どのような選択になろうと、アニスの生きた道を私は新たに彼と共に進んでいく。
愛する彼と共に。




