姫美
話の内容を理解するには、全てが突然すぎていました。
私を生まれ変わりという彼女の話はなんとか理解することが出来ても、それがどうなのかは理解出来ず、分かりませんでした。
「この赤いルビーは私の思いを伝える為に、私の血液から作りました。姫美、あの人があなたの元にやって来ます。貴方の人生に彼が入り込んでしまいますが、どうぞ、あなたの命を生きてください。私のせいで、ごめんなさい。」
ルビーから発する光は彼女と共に消えた。
全てに置き去りにされた私。
「どうしたらいいの!?!」
私は顔を落とした。
いろんなことが起こりすぎて、正直戸惑いが胸の内に広がっていた。心細さよりも不安の方が大きい。何が起こる?なにが…。
話をまとめる心の強さもなく、布団に潜り込んだ。
戸惑いながら布団にくるまり、考えているうち、不安からか、私はそのまま眠ってしまった。
………。
回る。回っている。グルグル、グルグル、回る。
空も、周りの景色も、私を囲むように、速いスピードでグルグル回っている。
ここは?ここはどこ?
ああ、私は夢の中、ここは夢の中。
遠い景色も近い景色もないほど、回る回る。グルグル回る。
「あっ …」
あれは?
回る景色の中に小さな女の子が見える。
なんだかいい匂いもする。
楽しそうに笑う彼女はどんどん大きくなり、表情も大きくなるにつれて暗く、寂しそうになっていく。
ああ、あれは私だ。
くらい。悲しい、寂しい、淋しい。
ああ、目を背けたい。
見たくない。
いい匂い。
ああとてもいい匂い。
なんの匂い?
鼻の中を通り抜け、頭の中を浄化する。
なんて心地よいのかしら。
上からいい香りがふってくる?
この匂いは上から
なんていい匂い。
そして私は、ふっと空を見上げるように頭をあげました。
目が回りそうな渦の中心にいるわたしに向けて、上からたくさんの薔薇の花が 舞いおりて来たのです。
綺麗。
わたしは、降り落ちる薔薇を受け止めるように両手を広げて、そっと目を瞑りました。
目を瞑り、花びらをいく枚か手のひらに感じた時、
小さな声が聞こえてきました。
(アニス…アニス)
と、微かに声が聞こえます。
(おいで…おいで、僕の…アニス)
囁くほどの声
それほど小さい声なのに、頭の上から響くように聞こえてくる。
私は、その声に反応するかのように目を開け頭をあげた。
すると突然、黒いスーツを着た男性に、抱き抱えられ、その渦を抜けるようにふわっと真上に飛び立った。
不思議と怖さはなく、抱き抱えられた私の目の前にある彼の顔を私は見て、私はすぐにおもった。
(愛する人)
私の中でこの人がふくれる。胸が痛い。
懐かしくて、愛おしい。
男性に抱き抱えられる恥ずかしさの中にも、そのどこか懐かしい気持ちのおかげで、落ち着いていることができた。
私は男性には縁のない子供だったので、なんだか漫画の中のお姫様のような気分でもありました。
連れていかれた先は、花が綺麗に咲く素敵なお城の庭でした。初めて来た感じはなく、何処と無くすんなり理解できる場所でした。
そして、庭にそっと私を置くと、いつ着替えたのか、私は素敵なドレスを着ていました。
そして彼はいいます。
「アニス。覚えているかい?ここは君の庭だよ。」
私は、私ではない思いが重なっていました。
見覚えのない彼のはずなのに、なぜか愛おしい彼への思い。
「アニス。ここは君の夢の中だよ。僕は君と話をするために、君の夢を利用した。前に一度同じ夢の中で君とあっている。覚えているかい?」
私は、あのルビーの映像にあった、アニスとウィリアムという名前を思い出した。
こんなに鮮明な夢はないというくらいはっきりとしたゆめである。
声も震えるような場所ではある中で、不思議と緊張感もなく声を出すことができた。
「私はアニスという人ではないです。でも、この庭もお城も何故かすべて知っています。あの時の夢ももちろん覚えています。」
話す私を見て、彼の顔はさらに優しくなりました。
「ああ、僕は君を待っていたんだよ。ずっとずっと。今の君の名はわからないが、君の心はずっと変わらず美しい。もう一度僕は君を抱きしめてもいいかい?もう、気持ちにブレーキが効かない」
彼の声は囁くようにも聞こえる。
そんな流れるメロディーのような声は、心に直接とどいて、とても心地が良い。
なんだろうか、なぜだろうか。私は。
拒否の気持ちがあってもいいのに、何故か、受け入れてしまうのは、夢だからなのだろうか。
家にいる時のような驚きは全くない。
かえって、居心地の良い安心な空間にさへ感じる。
「貴方はウィリアム?わたしは姫美といいます。アニスさんの事、知っています。だから、アニスさんの名前で、そう、呼んでも良いです。」
彼を上目で見ながら、徐々にうつむくように目を落としていく私の話を彼は聞くと、空気に一瞬で包まれるような勢いで、私を抱きしめた。
「姫美。貴女の名前もまた美しい。その美しい名前で私は呼びましょう。姫美、アニスの時のように、僕をまた、愛してくれますか?この世界でまた、僕と生きてくれますか?」
私は抱きしめられた暖かさの中にいました。
そんな暖かい心を感じてしまった私は、おもむろに彼の言葉を聞くと話し始めた。
「私には、母はすでに他界していません。父は遠く離れた外国で仕事をする為、私を愛してはくれてはいますが、何年も家を空けています。今迄私はずっと1人でした。…初めてな事ばかりが起こる中で、驚くよりも、心が温かいのは、何故なんでしょうか?恋も、人の温もりも心の暖かさも、今迄感じたことはありません。でも、悲しいとおもったことも無かったはずですが。とても…とても…」
涙がいつの間にか、あふれ出ていました。
寂しい思いを感じたことはないと、そう、思っていたことでしたが、私は、気付かないうちに自然と心に封をしていたようでした。
「姫美。…」
「夢から覚めたらが怖い。こんなにも幸せな気持ちを感じてしまったから、目覚めるのがとても怖い。」
夢。そう、ここは夢。いくらはっきりしていても夢なのだ。
アニスという人が言っていた通りなら、アニスは私。
私はアニス。深い愛で結ばれていた2人。
私が持った安心感が嘘なわけがない。
「姫美。君が望むのなら、ここにいれば良い。君がこの世界を望んでくれるのなら、元の世界にある君の存在を僕は消してしまうことができる。僕と共にか、元の生活か」
涙ぐむ私を、彼はまた強く抱きしめた。
私に選択する心はもうあるわけもなかった。




