記憶から
こうして私は、ヴァンパイアとして新たに生まれ変わりました。
目が覚めた時、身体はすでに血の通う温かさはなく、重く感じた身体も既に馴染んでいてかえって軽く感じるほどでした。
目覚めた私の元にウィリアムが扉を開け入ってきました。ゆっくりと私の元に来ると、枕元に片手をつき私の顔を見つめると
「目覚めたばかりで血が足りないね。お飲み」と唇を合わせてくれました。
唇を合わせた時から、何とも言えない快感が身体を突き抜けます。最初に受け入れた時とは比べ物にならないほどの快感でした。これが血を味わうというものなんでしょうか。
それから彼は、身体のかわった私に沢山のことを教えてくれました。
私たちがいるこの世界は、私の生まれた世界とは全く別もの。ここはヴァンパイアの世界。その中でもここはウィリアムが、私を守る為に独自の次元を更につくってくれた場所。
私は、ここに来てからウィリアムや、その家の使用人の者以外、誰にも会ったことがなかった。
普段外に出ることもなかったせいか、人に会うという事には意識はなく、あまり気にはならなかった。
けれどこれからは違う。
私は、この世界に住む「仲間」という人達に会う事になり、その方たちと共に、ヴァンパイアとしての生活を新たに始めなければならない。
「狩り」というとわかりやすいかもしれないが、その為にも人間の世界に足を踏み入れなければならなかった。
人の世界にはそれから何度も入り込みました。人の世界を知ることは、ヴァンパイアとして生きていく為に、とても大切な事だと教わりました。
血を求める為だけではなく。人の生き様に目を向ける為にでした。
私はその都度、人の世界に入りこむたびに、人のように生きるやり方も同時に教わりました。
勘付かれてしまっては、私はウィリアムと共にはいられなくなってしまうからです。
私は人の世界に赴く度、そこで見る人々の生活を最初は微笑ましく感じていました。
ですが、そのうち、何度か入り込んでいるうちに、人の心の醜さが目立つようになって来てしまいました。醜さというものは、ヴァンパイアとなった自分でも、こんなにも胸が締め付けられるものかと、いたく心は傷つきました。
しばらく人の世界から離れていたせいか、私には人の醜さはとてもよく目に付きました。
そうした思いからか、人を襲うことに抵抗があった私も、心無いものを見るたび、怒りがこみ上げそれがかえって原動力となりました。そして、私の中の意識が変わり、そのような者を対象に味わうようになりました。
ウィリアムはそんな私を、今迄以上のあつい愛情で愛して支えてくれました。彼は必ず私のそばにいてくれました。
それから、私達はいろいろな時間を生きていきました。
時代がいくつも変わるのを見て来ました。
服装も、人々の思いも生活も変わる中で、変わらないのは自分達だけでした。
姿は成長しなくとも、心は人々を知る度成長してしまいます。ウィリアムのつくった箱の中で生きていたなら、何も知らずに命を全うしたのでしょう。ですがヴァンパイアとなった今では、姿は変わらずとも、人の世界を感じ、時の流れを感じていくことができます。
心はだんだんと、時と共に成長していってしまっていたのです。人の生死を見ていく度、私は命というものを強く意識するようになりました。そして、命の尊さを知ったとき、私はウィリアムの愛よりも、命を、この身体を、神にさからったみではあるけれども、今こそ神にお返ししたい。という思いになっていました。私はこの思いを胸の内にしばらくしまっていました。
この思いを吐き出してしまうときは、ウィリアムとの別れになります。自分の思いと、彼への思いでしばらく苦しみました。ですが、私は自分の思いを選択しました。
こうして、しまっておくことが出来なくなったある時、肉体と共に死を選択したいということをウィリアムに伝えました。
愛深き想いの中で、勿論言うまでもなく、その決断は彼にはとても重い悲しみになりました。勿論、それは私も同じ事なのです。その愛しい彼の姿、彼の声、彼の優しい吐息、時折、私の身体を這う美しい唇、その全てが、無くなってしまうことは私にも重い悲しみとなるのです。
私達の愛はとても深いものでした。
ですが、心苦しい中でも、私もこの思いは消すことが出来ません。
彼は私に言いました。
「いつか君が生まれ変わるのを待とう。君はきっと戻ってくる。僕にはわかるよ。その時は、もう君を離さない。今は君の思いを尊重しよう。だが、この経験から君はきっと戻ってくる。僕の元に」と、私は彼の言葉に戸惑いました。
ですが、気持ちは変わりません。彼との別れは悲しいですが、私は旅立ちます。
「ウィリアム、ありがとう。愛しています。永遠に永遠に。」
私は、こうして死をえらぶことができました。
ですが、ここで私の思いは全うされたとしても、心残りがありました。それは彼の話した内容です。
私の生まれ変わり。その事がとても気がかりでしかたありませんでした。
彼が、いつか生まれ変わった私をもう一度、この世界に戻す為に探しにやって来ると、彼は言いました。
その言葉を私に残したことが、気掛かりでしたので、最後に私は後世に生きる、生まれ変わりの者が戸惑うことのないように、この事を伝えるために記憶を残すことを考えました。




