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ルビーとヴァンパイヤ  作者: 梅 子


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5/12

記憶

私の最後は19世紀のイギリスでした。でも生まれはもっと前の16世紀のイギリスです。そこで私は貴族の娘として産まれ、何不自由ない生活を送っていました。

16歳になるまでは。

私は艶やかで輝かしい生活の中にいつもいました。

誰からも愛され、楽しい日々を過ごしておりました。ですが16歳になったあるとき、私は父や母に連れられ、社交界に向かいました。恐らく両親は私の相手となる人に、この場で会わせる予定の様でした。

私は音楽も高らかに響くその場所で、幾度か紳士の方々とダンスを踊った後、そんな賑やかな場から、静けさを求めて庭園に向かいたくなり、逃げる様に外に出ました。その庭園は、薔薇の花がとても綺麗で、噴水で流れる水の音もパーティーの賑やかさを消し去るように美しい音色をたてていました。月の光の美しい夜。空を眺めていたそんな時、あの人が現れたのです。彼は、透き通るような美しい目で私を見ました。そして流れるような仕草でそっと私の手をとると、こう言いました。

「失礼。一緒に踊っていただけませんか?」

私を見る彼の目は遠いようで近く、その、透き通るような美しい目は、まるで私を吸い込んでしまいそうな程だった。彼の瞳、姿、愛らしい唇。

そして、彼が差し出した手は、指先まですらっと長く、その長く美しい白い手で、私の手をそっと持ち上げると、まるで流れる糸を操るように優しく、エスコートしてくれました。

なんと美しい方なのでしょう。

私は今まで見たことのない神秘さを彼に感じ、それが恋を通り越して愛になるまでに、時間はかかりませんでした。暫く夜空の下で彼との時間を楽しんだあと、彼は私を見てこういいました。

「アニス。僕の心は既に貴女でいっぱいです。今日初めて会った僕を貴女は愛してくれますか?」

彼の言葉に驚く事はなく、躊躇い(ためらい)もありませんでしたので、そのまま素直に言葉をかえした事は言うまでもありません。

「ウィリアム様、私はどうしたら良いのでしょう。私も心の中は貴方への思いでいっぱいでございます。

今日でお別れは嫌なのです。また貴方にお会いするにはどうしたら良いのでしょう。この日が終わってしまうのが辛いのです。」

16歳の私に初めて訪れたものは恋を通り越した愛でした。

それから何ヶ月も、私は父や母の目を盗み、彼との時間を過ごし楽しみました。ですが、父や母をいつまでも騙せるわけはありません。

父は強行にでました。部屋に鍵をかけられ、3日後に父や母の決めた方との結婚を無理やり申しつけられました。

私は死んでしまいたくなるほどの心を抱え、泣き続けました。泣き疲れ、夜も更けたある時、突然窓が開き、カーテンが内側に大きくなびきました。

何事かと目を開けると、そこには異様な輝きを持った彼がいました。

「アニス。僕は君を迎えに来た。僕と一緒にいこう。僕は君を迎えに来たよ。」

私はすぐさま両手を彼に向け、悲しさで足の立たぬ身体を彼に向け、彼を求めた。彼はそんな私を、見つめると、異様な輝きの中に優しい表情をみせた。そして私をそっとだきあげると、すぐに窓からとびたち、私達この世界から消えました。

彼と共に生きることを選んだ私は、勿論、父も母も家も全てを捨ててしまったわけです。

どのくらいたったのか分かりませんでしたが、気づいたときは、彼の家の中らしい部屋にいました。

「ウィリアム。ここはどこ?」

「美しいアニス。目を覚ましたんだね。ここは僕達の城だよ。安心おし」ウィリアムはいつでも優しく。私を心から愛してくれました。

ここはとても不思議なところでした。

花は一年中変わることなく咲き続け、気温も一定でした。

暫くしてここが、別の世界であると言うことが分かりますが、それは私が私でなくなった時に理解することになります。

彼は時々夜、私が眠ったとき出掛けることが度々ありました。私は彼を信じていましたし、彼は私にある特別な深い愛を感じていましたので、特に彼に問いただす様な事は致しませんでした。

3年の時を経ていた中で、彼が「何者か」、ということは私には既に分かってしまっていました。

ですが、私が理解しているという事は、彼は気付いてはいない様でした。

私には彼が何者でも良いのです。愛だけで良いのです。

彼と共にいられる幸せが私にはかけがいのない命のようなものなのです。

私と彼との間に変わらぬ愛を誓う時がとうとうやって来ます。

ある月の綺麗な夜でした。

私は窓際にある椅子に座り、部屋に入る心地よい風を感じていました。

そんな時、彼は帰ってきました。そして、そっと私のそばに来ると腰を下げ、私の手をとり、そっとその手にキスをすると、その手を見つめたままいいました。

「アニス。今日は君に伝えたいことがあるんだ。

驚かず聞いてほしい。」

ウィリアムは何があったのか、帰るなり思いつめたように私にいいました。

私はなんとなく、(伝えたい事)がなんなのかうすうす分かっていました。

「なぁに?ウィリアム。大丈夫、私は驚かないわ。話して、聞くわ」

そして、また私の手にキスをすると彼は話し始めました

「すまない。僕はずっと君に嘘をついていた。今僕はうちあけたい、その秘密を。これから先も永遠に君を愛する為に、君と共にいる為に」


「ウィリアム…私は知っています。貴方がうちあけようとした、その話。私は貴方と共にここに来ました。私にはあなたが全てです。喜んで、貴方の血と肉と命になりましょう。永遠にあなたと生きるために。

だから安心して下さい。貴方との永遠を選びます。貴方の血を、愛しい貴方の命を私に吹き込んでください」

私を吸い込む様な驚きに満ちた彼の瞳が、安堵の微笑みに変わった時、彼は私を抱き上げると、ベットに運び、喜びの中で、彼は永遠に共に生きる為の儀式にすぐに入った。

部屋いっぱいに薔薇の香りが強く香り始めた。

部屋が薔薇の花でいっぱいであるかのように。

「ああ、アニス愛しい人。私と永遠に…永遠に共に」

「貴方と永遠に」

匂いで意識が朦朧となる。

朦朧となる中でウィリアムはキスをする。

キスはいつもと違う味がした。

そのキスは…。

身が震えるほどの口づけ。それはいつもと違い、身体に熱い快感を生じた。そして徐々に、私の血管に冷気が通り過ぎるのがわかった。

「ああ〜」

身体中を這われるような快感は続く。

それは徐々に気の遠くなるほどだった。

そしていつしか、快感は身体の重みを感じるものとなり、そのまま私は意識を失った。



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