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ルビーとヴァンパイヤ  作者: 梅 子


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10/12

追憶

荒げる声がたびたび聞こえ、部屋を荒らす音も同じように聞こえる。

心は恐怖で膨らみつづける。


(誰か来て。助けてお願い。)

何度も何度も心の中で唱え続けた。

あまりの恐怖に意識を失いそうになった時でした。

頭の中に声が聞こえてきました。


(大丈夫。怖がらないで、私がそばにいるから)


頭の中で響く声の主は、アニスでした。

アニスが私を見てくれていたのです。

その声を聞いてか、心が少し楽になりました。

その後、暫くして彼らは諦めたようで、帰って行きました。

まだ、油断は禁物ですが、恐怖が取り除かれたことで、ホッとすることができました。

アニス。

彼女はずっと私の側に居てくれていた。

私である彼女に守られているのは、とても不思議な気持ちではあるけれど、1人でいて、1人ではないと思えることがとても嬉しかった。


そう思うと、昔から1人でいられたのはこう言うことからだったのかもしれない。なんて過去を振り返り、安堵の思いでいた頃、風の舞う音が突然大きく聞こえた。戻って来たのかとビクつきながら、

ビュービュー聞こえる風の中に、耳を澄ましていると、シャンの声が風の中から微かに聞こえます。

その声は段々とよく聞こえるようになり、どうやら私を探す声のようでした。


「アニス!アニス!どこにいるんだ!」

私を呼ぶ声に応えるように叫びました

「私はここです!シャン様!シャン様!ここです。ウィリアムがつくった空間内にいます。ベッドの場所です」

シャンは声からベッドの場所が二重空間であることに気づき、空間を引き裂いた。

解除され、救われた思いで彼の顔を見ると、今迄見たことのない強張った表情で、凍りついたような冷たい彼の顔は、とても印象に残るほどの表情だった。

私はその表情に戸惑い、息を飲んだ。

「アニス!行くよ。僕につかまって」

強張る顔を一生懸命抑えるように、シャンは私を抱え窓から旅立った。

暗い空気が、進む私達を次から次に包もうとしてくる。

それを払いのけながら、風切るほどのものすごい速さで、私を抱え、シャンは進んで行く。

私を片手に抱えながら走り飛ぶ彼の力は物凄いもので、彼の首もとにいる私の顔には、彼の切れるはずの息がかからない。彼がこの世界で生きる者。人間でないことが分かる。

そんな体温の無い彼からでも感じとれる、この伝わってくるこの不安は何なのだろう。

どうしてだろう。また。

決して寒くないはずなのに、身体が震える。

指先から血の気がひくような感覚がある。

私の身体が何かを感知している。

シャンは私を守りながら、物凄い速さで進んで行く。

どのくらい進んだのだろうか。

あれほど明るかった世界が、突然、夜を越えた暗さになってしまった。

何があったのか、私にはわからない。

でもシャンも、そしてきっと、ウィリアムもわかっていたことなのだろう。

私を匿うまでに至った何かがあるのだろう。


シャンは息を切ることなく、とても太い木の前に到着した。


暗くも、はっきりと感じ取れる。

大きな不安が、一気に私の身体を通り抜けるような速さで湧き上がった。

そして、なんとも言えない最悪な状況に、私の許容は遥かに超え、それは症状としてあらわれた。


その、暗くも確認できる姿に、息が…はぁ、出来ない、ああ、胸を殴られたように痛い。呼吸が重い

「おお…なぜ…ああ、なぜ」

血もあらわに、胸を大きく引き裂かれた、彼の…ウィリアムの姿がそこにはありました。

血にまみれた彼の姿は、とても若さを保ったヴァンパイアとは思えないほど歳をとった姿になっていましたが、彼はその進行を必死にとめようとしていました。

この、私の為に。


「ウィリアム…どうして…なぜ…こんな事に。

こんな姿に…。!さあ、私の血を吸いなさい!

貴方を喪うくらいなら、私は貴方の中で生きていたい。こんな怪我、治るでしょう?私の血を吸えば治るでしょう?私はまだ、ヴァンパイアにはなっていないのだから。貴方の命になれるでしょう?…。」

私はたまらなく、うつむいて、涙をこらえようとした。自分の生き血で彼を救えるはずなどない事は、この傷を見ればわかることだった。

私の無力さに耐えられない思いだった。

「なぜ、なぜこんな事に」

私は、血だらけのウィリアムの頬に両手を置き、キスをした。涙が溢れて止まらない。

そして、彼のキズを塞ぐ為に、既に血に染まってしまっているドレスをおもむろに引き裂いた。ウィリアムは力の残っていない右の手で引き裂く私の左手をとった。

「美姫。ぁ、アニ…アニス。僕はもう…だめだ。

とても長い時間を…生きて来たけ…れど 、今…僕は嬉しい…。君の側で君…に看取られ、死を迎えられる。ぼ…僕は君…が…とても愛おしぃ。君に出会えた…2度も出会えたぼ…僕…は本当に幸せだ。愛しています…え…いえん…に」彼は微笑む。こんな状態でも、私の為に。

涙が…、どうしよう止まらない。彼の顔を見たいのに、涙が邪魔をする。

「おお…ウィリアム。私は貴方になりたい。もっと早く貴方と一体になるべきだった。アニスが貴方を求めたように。アニスの思いは貴方と生きることにもあったけれど、それよりも、一体になることだった。今、分かりました。こんな体の貴方を前にして、今更気付くなんて…」

ウィリアムの愛にいつまでも甘えていた私。

彼と永遠に離れる事はないと思っていた。私への罰。


ウィリアムの左手は潰れていた。

私を気遣い木の根に隠すように、倒れていました。

身体は、もう、ボロボロでした。


唯一動く右の手は、私の手を握り、そしてゆっくりと左の頬に触れてきました。

「僕は、さ…最後のち…力で、君に僕を…残して行くよ。アニスも君に残した。許してほしい。永遠に…愛を」

「!!ずっとそばで愛して!行かないで!!!ウィリアム!!」



…真っ白い世界があればいい。

そこは明るく、光に覆われた眩しい世界。

果てしなく広く、真っ白だ。



消えてしまった。

失ってしまった。

私をずっと、ずっと待ってくれていた。

彼が…彼は…もういない。

あんなにも優しく、愛に溢れ、幸せだったものが全部消えてしまった。

あの唇も、優しい声も、熱い眼差しも。もう帰っては来ない。

平和な日々にうつつを抜かし、彼に甘えていた私のせいで、彼は私の中で生きることもなく、遠い遥かな世界へ私を置いていってしまった。

「アニス。…すまん。」

私の後ろに佇むシャンもまた、哀しみの中にいる1人。ウィリアムと共に生きた1人。

「彼は君をとても大切に思っていた。毎日毎日、君のために生きていた。」


「…シャン様。お願い。貴方にお願いがあるの。」

哀しみの奥深くに沈んでいく人間は、叶わぬだろうと口を塞ぐような願いも関係ない。

「…願いとは。」

ウィリアムのいた場所に、座り込んだままの私の後ろ姿を下に見ながら彼はいった。

私は、涙を拭い、彼に思いをぶつけた。

「シャン様。ウィリアムはアニスでいた私を深く愛してくれました。そんな私は、深い愛を貰ったのにもかかわらず、私は人として死んでいくことを願い、その我儘を彼は素直に受け入れ、許してくれた。私が私として生まれ変わるのをずっと信じ、待ちながら。彼はどんな思いでいたでしょう?どんな思いで、私を待ってくれていたでしょう。今度は私が彼を待つ番です。お願いです。シャン様。私をヴァンパイアに。お願いです。シャン様。」

シャンは、暫く黙っていました。

静かな時間が流れます。

「シ…」

私が口を開こうとした時、彼もまた話し始めました。

「アニス。本当のことを言おう。ウィルは本当に君が生まれ変わってきた事をとても喜び、この幸せがいつまでも続く事を願っていた。だが、事態は変わる。

彼が起こした行動が、神の目に触れたのだ。

神といっても、それほど偉い神ではない。下っ端が名を上げるために、ウィルを利用したような感じだ。アニスを人間界から連れ去り、生まれ変わった君をも、また連れ去り、人間界での存在を2人消してしまった。神の世界では許されることではない。そこを利用されたのだ。ウィリアムを消し、君を人間界に戻す。所謂、神の場所に戻す、差し戻すことが彼等の考えだった。」

…。

私はこみ上げる思いを必死に抑え、彼の話を聞いた。

「最初の頃は、それほど向こうも探るぐらいのものだった。ここ最近なんだ、荒々しくなったのは。おそらく、君の人間界に戻れる時間のタイムリミットが近づいて来たのだろうと推測した。幸せそうなウィルを見るたび、僕は君達の事を守りたいと、そう心から思っていた。だから、僕は常に彼等の行動を見張っていた。彼等が君の居場所を確定した事がわかった時は、僕らは憤りを隠せなかった。でも…それがこれ程の悲しい結果をまねいてしまうことになるとは…」










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