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黄金のニクスティア  作者: Alfia
第2章
9/13

9. 三人生活の始まり

 意識を揺蕩わせ、ぼんやりと周りを見る。

 

 ――ここは……?

 

 どうやらどこかの部屋にいるようだ。目の前には何かが転がっている。

 それをつかみもてあそぶ。すると、部屋の扉が開いた。そこには、大人の男と小さい女の子。ただし、シルエットのような形になっており、どういった人物なのか詳細は分からない。

 少女はこちらに駆け寄り、手を取ってきた。


「あったかい……」


 少女から何かかみしめているような雰囲気を感じ取る。少女は大人の男に振り返った。

 

「この子がお友達?」

「そうだ。君にとって()()()()()()だ」


 目の前の会話に意味を見いだせない。しかし、何を発言しているのかは分かった。少女はこちらを向き、はにかんだような笑顔を見せる。


「わたしの名前はスティア! あなたの名前は?」

「――」


 口を開くが音が認識されない。


「そっか! それがあなたの名前なんだね。いい名前!」


 少女は一層顔をほころばせ、口を開いた。

 

「これからよろしくね。――」


 その言葉と共に意識が浮上する。

 ニクスはゆっくりと目を開けた。朝の陽光が顔を照らしている。目を瞬かせて、寝起きの頭でぼんやりと考える。今の夢は……。

 上体を起こしていくと、徐々に頭の中が覚醒していく。思考も回り始めた。

 

 いつもなら、内容を覚えていないのに今回はかすかに思い出せる。少なくとも見たことがあると感じた夢ではなかった。

 夢を夢で片付けるには、最後に少女が名乗った名前()()()()が引っかかる。今のは彼女の記憶だろうか。しかし、それなら彼女の視点での夢になるはずだ。だが、昨日の今日でこのような夢を見るのは何かの兆候を表しているようにも感じた。

 考えてもらちが明かない。ひとまずは起きよう。

 ニクスはそう考えベッドから抜け出した。

 

 一階に降りると香ばしい匂いがする。キッチンのほうに入ると、ラピスが朝食を準備していた。


「あ、お兄、おはよう」

「ああ、おはよう」


 テーブルには三人分の朝食が置かれていた。警戒しているのではないかと心配していたが、一応受け入れてくれてはいるらしい。


「スティアの分の準備もしてくれたんだな。ありがとう」

「別に。どう考えても怪しいけど、お兄が追い出す風じゃないし。あの人だけ朝食抜きだと、いたたまれなくなる」

「そうか。スティアはまだ起きてきてないのか?」

「見てない」

「なら、起こしてくるか」


 ニクスはそう言うと一階の奥のほうに向かおうとする。すると、ラピスに強引に腕をつかまれた。


「お兄、寝起きの女の子の顔を見たいとか、いつからそんなに下心が出るようになったの?」

「いや、そんなつもりはないけど。ただ、様子は見ておいたほうがいいだろ? ラピスに行かせるわけにもいかないしな」

 

 ラピスは少し複雑そうな表情をして、ぱっと腕を離した。


「……わかった。警戒していないわけじゃないみたいだし、今回は不問にする」

「不問って」

「いいから、行ってきたら」

「ああ、行ってくるよ」


 ニクスはそう言い、一階奥の部屋へ向かう。部屋の前に到着すると、ニクスは扉をノックした。


「スティア、起きてるか?」


 特に中からの返事はない。


「開けるぞ」


 一言言って、扉を開ける。中央に寝具が敷かれており、その上でスティアが寝ている。蹴り出したのか、布団が明後日の方向に転がっていた。

 ニクスはスティアに近づき、身をかがめる。

 寝返りのせいか、服がずり下がっており、片方の肩が露出してしまっている。軽く視線を逸らす。ひとまず、露出していないほうの肩をゆすることにした。


「スティア、起きろ。朝だぞ」

「ん~……むにゃ……ん~……」


 スティアは寝返りを打ち、ニクスの腕に触れてきた。


「……あったかい……」


 寝ぼけているのか、スティアはそのまま胸に抱くように絡みついてきた。あまりの力の強さに体勢を崩してしまう。

 腕に生暖かい感触と柔らかさが伝わる。控えめながらも確かな膨らみが、寝巻き越しに押し当てられていた。体勢を崩した拍子にお互いの顔が至近距離に来てしまう。

 

 ――綺麗な顔をしているな……。


 ではなく!


「ちょ……お、おい」


 このまま体を動かすのはまずい。ど、どうする……? どうすればいいんだ、こういう時。

 ニクスが内心焦っていると、スティアの目がゆっくりと開かれた。

 これは……殴られるのを覚悟するか……。


「お、おはよう。スティア」


 スティアはゆっくりと瞬きを繰り返す。そして、一度目を深く閉じてから、一気に開いた。


「いやぁぁぁあああああああああ!?」


 という叫び声とともにニクスの腕を解放。一気に体を起こしながら、勢いよく後ずさる。しかし、後ろには壁。後ずさる拍子に、頭を後ろに倒したせいか、見事にスティアの後頭部が激突した。鈍い音が響き渡る。


「いったああああああああぁぁぁ!!」


 今度は後頭部を押さえていた。


「だ、大丈夫か……?」


 今の音は流石に心配になる。後方からドタバタと足音が聞こえてきた。


「す、すごい声だったけど、どうしたの!?」


 ラピスが声を張り上げて、部屋に突撃してきた。

 スティアは顔を赤くしながら、浅い呼吸を繰り返している。


「い、いま、私、キスされそうになった……?」


 そのスティアの言葉で部屋に沈黙が訪れる。部屋の温度が下がった気がした。

 ニクスは冷や汗をかきながら、ゆっくりとラピスに振り返った。


「……ち、違う。違うんだ!」


 ラピスの口が徐々にわなないていき、そして――。

 

「はぁぁぁぁぁぁああああああ!?」


 今までに聞いたことないぐらいのラピスの声が響き渡った。


 三人で食卓に座り黙々と朝食を口に運ぶ。兄として、この場の空気を何とかしないといけないのだが……。


「ラピス、その、ごめん」

「何がごめんなの? 何が悪いか分かってないのに謝るのだめって言ったはずだけど?」

「そう、だな……」


 今のラピスの圧は凄まじいの一言だ。

 スティアも朝食を口に運びながら、気まずそうにラピスを見る。


「あの、ラピス」


 ラピスは無言でじろりとスティアを睨みつける。


「ひっ……えっと、さっきのは私の勘違いだと思うし……起きた時にニクスの顔が目の前にあったから驚いちゃっただけで」


 その言い方だとなおさら誤解されてしまう気が……。

 ラピスの視線が今度はこちらに刺さった。


「顔が前にあったって時点で、お兄がキスしようとしてたってことじゃないの」

「いや! 違う! 今から説明するから!」


 そして、ことのあらましを伝えた。依然としてラピスは黙したまま、鋭い視線を飛ばしてくる。

 スティアが頬をかきながら言う。


「――ってことは私が原因ってことだよね。ごめんね、ニクス」

「いや、俺も不用心だった」


 ラピスがニクスたちを未だじっと見ている。やがて、ため息を吐いた。


「はあ……お兄が本当にそんなことするとは思ってない。でも、今後は注意して」

「はい、注意します……」


 ラピスは無言でうなずき朝食に戻る。ニクスとスティアもおそるおそる朝食に戻った。

 

 三人とも朝食を済ませ、スティアが開口一番告げる。


「凄く美味しかった! ラピスって、料理上手なんだね」


 そのスティアの発言にラピスは若干顔を赤く染める。


「朝食ぐらいで大げさ。露骨すぎ」

「そんなことはないと思うぞ? 美味しいのはその通りだしな」

「お兄まで」


 ラピスは軽く顔を赤くして、そっぽを向く。恥ずかしいようだ。その態度に微笑ましくなる。

 朝食も終わったし、とりあえず、今日の予定について、確認しておこう。

 ニクスはスティアとラピスに告げる。


「二人とも昨日話した通り、今日は医院に行くので大丈夫か?」


 スティアとラピスはうなずく。スティアは思い出したかのように言った。


「外に出るのなら、私、服ないんだけど……」

「あー……」


 そういえば、そうだな。ラピスに貸してもらうのがよさそうだが。


「医院に行く前に服をあつらえるのもいいかもしれないな。ラピス、ひとまず、服を貸してあげられるか?」

「それは別にいいけど。わたしのだと色々とサイズが……」


 ラピスの視線がスティアに向けられる。特に胸のあたりに。スティアの目線が下がり、自身の胸に向かう。


「き、着てみないと分からないよ!? 意外と変わらないかもしれないし!」

「それは目が節穴だと思うけど」

「ぐぐぐぅ……」


 スティアはうつむきながら、自分の胸を触った。男の前でそんなことしないでほしいんだが。

 ラピスはあきれた表情で、ニクスに振り返った。


「一旦、わたしの服を貸す。どっちにしても服がないと困ると思うから、先に買いに行く方向でいいと思う」

「確かにそうだな。それなら、先にスティアの服を調達するか」


 その言葉にラピスはうなずき、スティアは落ち込みながら小さくうなずいた。そして、三人は準備を整え、自宅を出るのだった。

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