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黄金のニクスティア  作者: Alfia
第2章
10/13

10. 魔法と魔導

 三人は大通りを歩いていた。

 隣を歩いているスティアは、先ほど立ち寄った店で仕立ててもらった服を着ていた。全体的に白と濃紺のカラーリング。襟元にネクタイが添えられ、耳の下あたりで左右に結わえられた淡い金色の髪が背中を流れている。肩口が開いており、二の腕から手首にかけて白い袖が伸びていた。スカートは白地と濃紺プリーツの二層。腰には小さなポーチが添えられている。

 頭頂部から生えているアホ毛も相まって、可愛さと活発さを併せ持っているようなシルエットに仕上がっていた。

 当人は新しい服に着替えた影響か上機嫌のように見える。


「ふふ~ん」


 なんなら、鼻歌まで聞こえてきた。


「子供……」


 隣のラピスから静かな声が聞こえてくる。言いたいことは分かる。

 スティアのほうは特に聞こえた様子もなく、大通りのあちこちに視線を向けていた。記憶がないことも相まって、物珍しいのだろう。

 服屋へ行く前にはまだ準備していた店も開き始めていた。それに伴ってか、人の往来もまばらに増えている。

 しばらく進むと、スティアが大通りの横道に続くところで足を止めた。ニクスとラピスも揃って足を止める。彼女の視線を追うと、奥のほうには広場が存在しており、看板には「ルニエ中央広場」と刻まれていた。

 スティアは首をかしげる。


「ルニエ……?」


 そういえば、街の名前はまだ言ってなかったな。

 

「この街の名前だな」

「そうなんだ、この街って大きい街なの?」

「いや、他の街と比べてそこまで大きいわけじゃない。まあ、必要なものとかは一通り揃うから、困るというわけではないけどな」

「へぇ……」


 ラピスがニクスの袖を軽くつまむ。


「ここで止まってると人の邪魔になるから、行こ」

「ああ、そうだな。スティアも大丈夫か?」

「あ、ごめんね――」


 スティアが振り返ると同時に誰かとぶつかった。


「わぷ!?」


 柔らかい何かに弾かれたような声を上げ、スティアは尻餅をついた。


「大丈夫か!?」


 ニクスはスティアに駆け寄る。そのまま助け起こすと、相手のほうに視線を向けた。

 その人も同じく尻餅をついていた。波打っている桃色の髪をした女性だった。年はそこまで離れていなさそうに見えるが、修道女の恰好をしていることから、シスターだろうか。

 スティアがシスターに駆け寄る。

 

「あの、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」

「いえいえ、こちらも不注意でした……」


 シスターは立ち上がると、力こぶを作る。


「わたくし、こう見えて頑丈ですので、どんとこいです!」


 スティアがほっと胸をなで下ろしているように見えた。

 シスターの視線がニクスのほうへ向く。


「ところで、貴方はもしかして、魔装士(まそうし)の方ですか」

「え、よく分かりますね」

「ええ、纏う魔力の雰囲気で分かります。そう、とても濃厚でギラギラしているので」


 何やらシスターは恍惚とした様子で手のひらを頬に当てていた。

 ラピスから「なんか、言い方嫌なんだけど」とツッコミが飛んでくる。

 それにしても魔力の雰囲気、か。


「なるほど。となると、もしかして、貴女は法国のシスターさんですか? それもそれなりの地位の」

「あら、お分かりになりますか?」

「ええ、"法の眼"を使える人は法国の中で地位を約束されていると聞いています」


 スティアとラピスが揃って首をかしげた。


「ふふ、法の眼をご存じとは、中々に博識ですね。よければ、お名前をうかがっても?」

「ニクス・ミュラーです」

「わたくしはロザリア・シニーと申します。以後お見知りおきを」


 ロザリアは恭しく礼をした。


「実は、本日からこちらの教会に勤めることになりまして。今後ともよろしくお願いいたします」

「そうなんですね。こちらこそよろしくお願いします」


 シスターは申し訳なさそうに尋ねてきた。

 

「……その、つかぬことをお伺いしますが、これからこちらの魔導総局(まどうそうきょく)の支局に挨拶をと思いまして……道をお聞きしたいのですが」


 法国の人がわざわざ支局への挨拶か。ここまで魔導士……しかも魔装士(まそうし)に礼節を重んじる人は初めて会ったな。


「それでしたら、この大通りをまっすぐ行って、突き当りにあります」

「あら、そうでしたか。ありがとうございます。もし、機会があれば、教会にお越しくださいね」

「はい、その際はよろしくお願いします」

「それでは、わたくしはこれで」


 そう言うとロザリアは去っていった。

 スティアが横から言う。


「なんか、ほんわかした人だったね」

「あなたほど抜けてなさそうに見えたけど」

「それ、どういう意味!?」


 スティアとラピスのそんなやりとりを尻目に、ニクスはロザリアが去っていった方向をじっと見ていた。

 ラピスが不思議そうにニクスに訊ねる。

 

「お兄、どうしたの?」

「いや……」


 彼女、地位があることを否定しなかったな。法の眼を持っている点も。何故そんな人間が、わざわざこの街に……? 魔導都市とレリア公国の境にあるとはいえ、法国が目をつけるほどの街とは思えないが……いや、詮索するようなことでもないか。

 ニクスは頭を振った。


「なんでもない」


 スティアとラピスは揃って、首をかしげるが、それ以上、追及してこなかった。そのまま、三人は改めて歩き始めた。


 三人は医院の前に到着する。扉を開け、中に入った。中は質素な作りになっているが、清潔感も感じられた。

 受付で話を通し、何人か受診待ちのようなので、少し時間がかかるとのことだ。

 スティアが不思議そうに周りを見ている。


「ここが体を診てもらうところ?」

「ああ、魔導器具(まどうきぐ)とかを使ってな」

「魔導器具?」

「あー……魔導具という言葉に覚えは?」


 スティアは首を振る。魔導具という言葉に覚えがないのであれば、そのあたりの知識は覚えていないのかもしれない。まだ少し時間がありそうだから、先に魔導技術について、話したほうがよさそうだ。

 

「そうだな……まず確認したいんだけど、魔素や魔力という言葉のほうはどうだ?」

「それは知ってるかも? 確か、魔素は魔力を生み出す元で魔力は魔法を使うために必要な力だったかな」


 今度はニクスが首をかしげる番だった。横で聞いていたラピスも同様に首をかしげている。

 魔法? 初めて聞く言葉だな。先ほどのスティアの回答から察するに、前提としている知識がズレてそうだ。


「少しずれがあるかもしれないから、最初から説明するよ」


 そして、魔素が大気中に存在していること、生物全般は魔素を取り込んで魔力に変換していることを伝える。


「――その魔力を使った技術のことを魔導技術というんだ」

「なる、ほど? 魔法を使った技術なのかな?」

「……逆にこっちが聞きたいんだが、魔法って言葉は知らないな。どういうものなんだ?」

「え。うーん、魔力を使って、呪文? を唱えて、こう炎の球を作って、ボってやったりとか、風を起こしてビュンとか、そんなの……?」


 スティアは一生懸命身振り手振りで伝えようとしてくる。……ほとんど擬音で何も分からないが。それにしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 横からラピスの声が飛んでくる。


「ちゃんとした言葉で話して」

「うぐっ」


 スティアは軽くのけぞった。

 ニクスは一つ咳払いする。先ほどの話に一点だけ気になることがあった。


「確認なんだが、その呪文というのはなんだ?」

「ん? うーん、魔法を使うための言葉? だったかな」


 ニクスはあごに手を添え、考える。

 

「……魔法は確か魔力を使うんだったな。それで魔法は呪文という言葉を使う。それなら、言魔(ことのま)が近いか」

「言魔?」

「言葉に魔力を乗せて、乗せた言葉に関連した現象を発現させる仕組みだ。まあ、中には関連してない言葉とかでも別の現象を発現させるなんていうとんでもない人もいるけどな」

「そんな人もいるんだ……確かに似ている、かも?」


 そう話していると、待合室の奥からメガネをかけた男性が歩いてきた。現れたのはこの魔導医院の院長だった。


「待たせたかな。ニクス君」

「いえ、大丈夫です」

「それで今日は――」


 院長の視線がラピスに向く。


「あれ、ラピスちゃんの髪ってそんな色だっけ……?」

「……いえ、この髪色になったのは昨日です。その件について、ラピスの体を診てもらおうと。あと――」


 ニクスはスティアを見る。


「一応、彼女の体も診てもらえればなと」


 院長はニクスの視線を追い、スティアを見た。


「ふむ。彼女も? ……ひとまず、分かった。それじゃ、二人とも来てもらえるかい。検査しよう」


 院長は踵を返そうとしたところ、ニクスはもう一件思い出し、伝える。


「あ、すみません、もう一つ。俺も一応診てもらいたいのですが、大丈夫ですか?」

「それは大丈夫だよ。なら、準備するよ」


 ニクスはうなずき、三人で院長についていった。

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