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黄金のニクスティア  作者: Alfia
第2章
11/13

11. 検査結果

※本エピソードは一部パニック描写があります。苦手な方はご注意ください。

 三人はそれぞれ魔導具による診察を受ける。ニクス自身のことはその場で結果を聞けた。

 体内も含めて診てもらったが、特に異常はないという検査結果だった。傷の治りの早さと昨日吸収された長銃の影響を考えると何もないとは思えないが……。見つからないと診断された以上、それを信じるしかないか。

 ニクスはそう考え、待合室へと戻った。

 

 待合室ではすでにスティアとラピスも待っていた。すると、ほどなくして、ニクスとラピスに声がかかった。先にラピスのほうからということらしい。

 ニクスはスティアに向けて言った。

 

「ごめん、スティア。少し待っててもらっていいか?」

「あ……うん、大丈夫だよ。個人のことだろうし」


 スティアが少しだけ心細そうな表情をしている気がした。ニクスは内心申し訳なくなりながら、うなずき、ラピスと共に診察室へ向かった。

 中に入ると院長は手元にある紙を見ながら表情を硬くしていた。

 診断結果を確認しているのだろうか。

 横に控えていた助手が院長を促す。


「院長、お二人が来られましたよ」

「あ、ああ、すまない」


 院長はそう言った後、ニクスとラピスのほうに視線を向け、手前の椅子に座るよう促す。

 二人が座った後、真剣な表情で目を向けてきた。


「――さて、念のため聞いておきたいけど、ラピスちゃん。本当に体に異常はないんだね? 体調を崩したりとかふらついたりとか」

「えっと、はい、ないです」


 院長はラピスではなく、ニクスに視線を移し、慎重に言葉を紡いでいく。

 

「……先に言っておくよ。今、体に異変がないのであれば、すぐにどうこうなる話じゃない。だから、必要以上に気に病む必要はない」


 その念押しのような言い方にとてつもなく、嫌な予感がした。院長は軽く深呼吸して、告げた。


「ラピスちゃんの体内には、本来あるはずのないものが形成されている」

「え……」「まさか――」

()()だ」


 ニクスは椅子から勢いよく立ち上がった。


「待ってください! 確かに基準値よりは上でしたが、ラピスは異形化してません!」

「……ああ、それが一番の不思議なんだ。確かに検査では魔核が存在していることを確認している。魔力経路へ影響を与えているように見えないから、症状はないのだろうけど」

「そんな――」


 ニクスがうなだれるように座りなおそうとしたとき、ラピスからうわごとのような呟きが聞こえてきた。


「ま、かく……? わ、わたし、まもの……? わ、わた、わたしは……!」


 段々と呼吸が荒くなるラピスにニクスは振り返る。


「ラピス!」

「わた、わたし、おかあ……さみ、たいに」


 ラピスの様子に一瞬、7年前の光景が蘇り、胸に痛みが走る。いや、そんな場合じゃない。こんな状態の家族を前にして何もできないのか。考えろ、今自分がすべきことを。ニクスの脳裏にとある言葉がかすめる。

 誰に言われたかは分からない。ただ、誰かに抱きしめられ、言われたことを。

 

 ――あなたは——だよ!

 

 ニクスは気づくとラピスの背中に腕を回し、優しく抱きしめた。


「おにぃ……?」

「ラピス、お前は人だ」

「でも、わた、しは」


 ラピスの心にしみこませるようにそれが絶対に揺るがないことを。揺るがせないことを込めて、もう一度、口にする。


「お前は人だ」


 ラピスはニクスの体に力なく腕を回す。まるで、すがるように。


「ニクス君、そのままラピスちゃんの背中をさすってあげるんだ」

「はい」

「ラピスちゃん、ゆっくりと深呼吸して」

「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ」


 院長はニクスに言う。


「彼女を一度寝かせよう」

「はい、お願いします」


 ラピスはふらつきながらも助手に支えられ、奥のベッドへ向かった。

 院長はニクスに頭を下げる。


「魔導士とかならともかく、あのぐらいの年なら、根本的にどういうものか知らないと思ってたんだが……僕の不注意だったかもしれない。すまない」

「いえ……」


 確かに知識としては知っていてもそれの恐怖については知らないことのほうが多い。魔物といっても直接的な脅威を感じた人以外は、別世界の話ととらえている人もいるという。ただ、ラピスは――。

 ニクスは拳を握りしめる。

 院長は少しの間、こちらを見た後、ニクスに告げた。


「ニクス君、もう一度言うが、今すぐ危険があるわけじゃない。事実、魔力経路のどこにも繋がっていない。現状は魔核が孤立しているんだ」


 孤立している……?

 ニクスはまくしたてるように口を開いた。

 

「それなら体から取り出すこともできますか!?」


 院長は一瞬口を閉ざす。


「正直、生きた人間に魔核が存在しているという事態が今までにない。魔物の体ならともかくね。だから、取り出そうとしても何に影響を与えるか分からない」

「……そう、ですか」

「少なくとも原因を調べる必要はありそうだが……。ただ、その件よりも前にスティアさんについても伝えておきたい」

「スティアについて?」


 スティアについても何かあるのだろうか。いや、あそこまで特殊な状況だったのだから、何かしらあるのは当然か。


「ひとまず、スティアさんを呼んできてもらえるかい」

「……分かりました」


 ニクスは診察室の扉を開け、スティアが待つ待合室へ向かった。


 ニクスは待合室で待っていたスティアに声をかける。

 

「スティア」

「あ、ニクス。……えっと、顔色悪いけど、大丈夫? それにラピスは――」

「ラピスは、少し寝ているよ」

「もしかして、何かあったの?」


 ニクスは視線を逸らしながら、口を開く。

 

「……それは――」


 スティアは首を振った。


「ううん、とりあえず、私だよね。ついていくよ」

「ああ……」


 二人で診察室に戻る。そして、院長の前の椅子にスティアが座る。


「スティアさんについてだけど、正直、ラピスちゃんの時よりも驚いてる。彼女の体内にもラピスちゃんと同じものが存在しているんだ」


 ニクスはスティアをぱっと見る。スティアにも魔核が……?


「それだけじゃない。魔核と魔力経路が完全に結合して、お互いに循環しあっている。要は魔核が自分の一部になってしまっている。まるで、もう一つの心臓のように」


 院長の言葉のあまりの衝撃に思考が停止する。


「それは、本当なんですか……?」

「現状の魔導器具だとね。正直、故障を疑いたくなるけど」


 すると、首をかしげていたスティアが手を挙げた。


「あの、同じものってなんでしょうか」

「あ、っと、それは――」

「スティアは魔導技術周りのことも知らなかったので、大丈夫だと思いますが……スティア、魔核という言葉に覚えは?」


 スティアは首を振る。

 

「……なるほど、そうなのか。ちなみにどこまで知ってるのかな」



 ニクスは先ほど魔素と魔力、魔導技術については説明したことを伝える。

 院長はうなずく。


「――そうだね。魔核は体内に入ってきた魔素を魔力に変換した際、体内で過剰に蓄積され、結晶化したもののことを言うんだ」

「それが私の中にあるんですか?」

「ああ、その通りだ。本来、魔核が形成されてしまうと魔力経路含め体内が浸食され、肉体が異常発達するだけでなく、理性までも失ってしまう。これが魔物化だ。基本的には魔力の許容量が少ない生物ほど魔物化がしやすくなっているね」

「そう、なんですね。今の話をまとめると……私は魔物ということなんですか?」

「それが……判断できない。今までの定義で言うなら、異形化していない時点で魔物とは言いづらいが、魔核が存在しているから、魔物とも言えるという感じかな」


 スティアはあごに手を添えている。パニックになるでもなく、素直に受け止めているように見えた。

 ニクスはスティアに確認する。


「魔物と言われて、不安じゃないのか?」

「ん? う~ん、思わないでもないんだけど、実感がないというか」

「まあ、兆候がないからね。実感がこもってないのも仕方ないかもしれない。知らなかったのならなおさらだろう」


 確かにそうかもしれない。ただ、今までの傾向から察すると自分の存在に対して無頓着にも思えるが……。

 院長はそこで区切って、ニクスに向き直る。


「正直、ラピスちゃんもスティアさんもあまりにも異例すぎる。ちなみにこのことを総局に報告する予定?」


 花畑の件は一次報告を入れたほうがいいと思うが、彼女たちのことは……。

 ニクスは少し間を置いた。

 

「個人的にはこのまま報告しないほうがいいと思ってます」

「確かに、それは僕も同感かな。本当に僕がフリーでよかった。総局所属の頃だったら、このまま報告が義務づけられていただろうし。魔装士は? この辺りの報告は必須?」

「任務上での報告は必須ですが、休暇中でのことについて、詳細を伝えなければならないという義務は現状なかったはずです」

「なるほどね。……いや、即座にそう答えるとは君もちゃっかりしてるね。正義感だけで動かないのは褒めるべきなのかな?」

「どう、でしょうね。この場では判断に迷いますね。……それに正しくあるだけでは、守れませんから」

「まあ、違いない」


 院長は肩をすくめる。


「さて、正直なところ、僕の手には負えないね……どこまで隠すかどうかも含めて、一度ばあさんに相談したほうがいいかもしれない。ちなみに連絡もまだ?」

「はい、まだです。状況が状況なら連絡しようと思っていましたが……」

「まあ、連絡したほうがいいかもね。正直、君だけでは荷が重いだろう?」


 ニクスはため息を吐く。


「そう、ですね」

「ひとまず、診断としては、以上だけど、他に何かあるかい?」

「大丈夫です。スティアからは何かあるか?」

「ん~……えっと、正直頭パンクしそうだから今はいいかな」


 確かに情報が一気に流れてきたからな。さすがにしんどいか。


「分かった」


 ニクスはそう言い、院長に向き直る。


「ラピスの様子を見させてもらってもいいですか?」

「分かった。通そう」


 座っていたスティアから袖を引っ張られる。

 

「ねぇ、私も行ってもいい?」


 ニクスがスティアのほうを向くと、彼女は憂いを帯びた表情をしていた。

 短期間でも思うところがあるのかもしれない。ニクスはうなずく。

 

「ああ、大丈夫だ」


 ニクスとスティアは診察室の奥に向かうのだった。


 助手に案内されると、ベッドの上でラピスが横になっていた。

 ラピスがわずかに顔をこちらへ向ける。その表情はまだ青いが、先ほどよりはましに見えた。


「お兄……」

「ラピス、大丈夫か?」

「うん。それとさっきは……ごめんなさい」


 ラピスは申し訳なさそうに瞳を揺らす。そんなラピスにニクスは頭に手を添え、優しくなでる。


「気にするな。俺はお前の兄だしな」

「……また子ども扱い……でも、ありがと」


 ラピスは小さく笑みを浮かべた。ニクスもつられて、笑みをこぼす。

 横から視線を感じて、振り向くと、スティアが柔らかく微笑んでいた。


「あ、ごめん、さすがに割って入れないなと思って」

「いや、気にしなくていい」

「……なんだ、来てたんだ」

「そこから私の顔見えるはずだけど。もしかして、お兄ちゃんのことで頭がいっぱいだった?」


 スティアのその言葉にラピスがわずかに顔を赤くする。そして、恥ずかしそうにスティアをにらんだ。

 ニクスは苦笑いしながら、スティアに言う。


「恥ずかしいみたいだし、そのぐらいにしてやってくれ」

「はーい」


 ニクスはラピスに振り返り、あらためて様子を見る。

 顔に軽い疲労が見られるが、深刻な状態でもなさそうだ。ひとまずは大丈夫そうだが、もう少しだけ安静にしておくほうがいいかもしれない。


「この後、連絡するところがあるからもう少しだけ寝ていて大丈夫だぞ」


 ラピスがわずかに首をかしげる。

 

「連絡するところって?」

「ああ。ラピスの件とスティアの件でソフィーさんに相談しようと思ってな」

「え、その人のことも……? あ、そう、だよね。あんな場所にいたんだし」


 その件だけでなく、魔核の件もだが……共有するのは、ソフィーさんからの見立てを聞いてからでも遅くはないだろう。

 スティアは首をかしげた。


「ソフィーさんって、さっき言ってたばあさんとかいう人?」

「ああ。一度、相談したほうがいいと思って。院長からも言われたしな」


 ラピスが間に入る。

 

「……それはいいけど。でも、あの人起きてるの?」

「正直、半々だな。起きてるといいんだが」


 ニクスはスティアに向き直り、口を開く。


「ごめん、ラピスのことを任せてもいいか?」

「うん、大丈夫だよ」


 それを確認し、連絡を取るべく外に出た。

 

 連絡をすると、彼女の従者からまだ寝ているという話を受ける。ひとまず、相談したいことがあると伝えると、(あるじ)に話を通しておくとのことだった。

 ニクスは診察室へ戻ると、スティアとラピスに事情を伝えた。しばらく休憩をはさんだ後、ラピスの顔色が戻ったことを確認し、ソフィーの屋敷へ向かった。

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