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黄金のニクスティア  作者: Alfia
第1章
8/13

8. スティア

 淡い金色の髪をした少女の手から剣が消えていく。彼女はあたりを見回し、こちらに目を留めた。

 大きな目を何度かぱちくりとした後、こちらに近づいてくる。


「あの~、状況がよく分かってないんだけど、教えてもらっていい?」


 そう問いかける彼女は、どこにでもいる普通の女の子のように見えた。まるで、先ほどの光景が夢のよう。

 ニクスは思わず、「あ、ああ……」と呆けた声で返事をしてしまう。

 何とか、思考を働かそうとする。

 

「その、ここで話すのも難しいと思う。ひとまず、俺の家で大丈夫なら、話すことはできるけど」


 ラピスの不安な視線が刺さった。

 

「お、お兄、連れて行くの……?」

「ああ、俺たちも何も分からないからな。情報を整理するためにも来てもらったほうがいいと思う」

 

 少女は考えるように「ん~」と言ったのち、口を開いた。

 

「うん、私は大丈夫だよ」


 ニクスはうなずき、三人で帰路につく。道中、ラピスは警戒したようにニクスにぴったりとくっついていた。

 自宅へ戻ると、ニクスはラピスに言う。


「ラピス、その、先に彼女の服をどうにかしてあげてくれるか」

「あー……」


 ラピスの視線が少女に向く。

 少女は首をかしげ、視線を下に向けた。


「え゛」


 少女は体を抱くように後ずさりながら、大声を上げた。


「きゃあああぁぁぁぁぁ!?」

「声おっき……」


 ラピスが呆れたように言う。少女のその反応のせいか、ラピスの緊張がいくばくか解けたようにも見えた。

 

「な、なんで、私こんな格好!? っていうか、肌見えすぎ!?」

「だから、声大きい。とりあえず、こっち来て。ひとまず、お風呂」

「え、あ、はい……」

「お兄、その人のことは何とかしておくから、お兄も手当てしたほうがいいと思う」

「ああ、ありがとう。任せてもいいか?」


 ラピスは少女を連れ、浴室へと向かった。

 二人を見届けた後、ニクスも自室へ向かう。魔装衣(まそうい)やポーチなどを片付け、自己回復促進用の魔力補給筒を取り出す。体を確認するが、傷を受けたはずなのにほとんど治っていた。あのイクリプスとやらが体に吸収された影響か……?

 どちらにしても体に異常がないか明日診てもらったほうがいいかもしれない。先ほどの場所で起こったことといい、考えることは山のようにある。

 そうこうしていると、部屋のドアがノックされた。

 

「お兄、お風呂あがった」

「分かった。すぐ降りる」


 ニクスは一階へと向かった。


 一階では少女とラピスは黙したままテーブルで向き合っていた。というよりもラピスが彼女をじっと見ている。少女のほうは居心地が悪そうに見えた。


「あ、お兄」

「あ!」

 

 少女は助け船が来たかのように顔を輝かせた。頭頂部に生えているアホ毛がぴょんと跳ねた気がした。

 ラピスはすかさず少女に視線を送り、少女は気まずそうに顔を逸らす。

 一応、二人とも寝巻きに着替えたようだ。少女の方はおそらく、ラピスが貸したのだろう。ダボついているように見えるが……若干、目のやり場に困るな。

 ニクスも同じくテーブルに座り、少女のほうを向いた。


「さてと、とりあえず、自己紹介だな。俺はニクス・ミュラー。こっちは妹のラピスだ」


 ラピスがお辞儀する。


「ニクスとラピス……うん、よろしく」

「ああ、よろしく」


 あの時つぶやいた名前が正しいかどうかは分からない。一応確認しておくか。

 

「君の名前を聞いてもいいか?」

「名前……そっか、名前……私の名前は……」


 少女の首が徐々に傾いていく。


「なん、だっけ……」


 ラピスから「え」と絶句したような声が漏れ聞こえる。もしかして、名前を覚えていないのか? なら――。


「スティアという名前に聞き覚えは?」

「スティア……?」


 少女の首が先ほどと別方向に傾いていく。


「ん~……なんとなくだけど、そう呼ばれていた気がする、かも? なんだか、懐かしい感じもするし」


 確信はないようだが、引っかかりはするのだろうか。

 少女はニクスのほうへじっと視線を向けた。

 

「なんだろ。あなたにスティアって呼ばれるのは、嫌じゃないかな」


 ――俺に呼ばれるのは嫌じゃない……?


 何か不思議な感覚に襲われるもニクスは話を続ける。

 

「そうか。分かった。なら、今後はスティアって呼んでいいか?」

「うん、もちろん」

「俺への呼び方も呼び捨てでいい。ラピスはどうだ?」

「わたしもそれでいい。……あと、お兄、色々と確認したいことはあるけど、先に聞きたい」


 ラピスはこちらを向き、瞳に不安そうな色を浮かべた。


「お風呂で鏡を見たら、わたしの髪の一部が変わってた。洗っても落ちなかったけど……わたしに何があったの?」


 ニクスはその言葉を聞き、顔を曇らせる。完全に落ち着いてからにしたかったが、気づくよな。

 ニクスは意を決して、ことのあらましをラピスに伝えた。


「――ということなんだ」

「神……なんか実感がない」

「そうだよな。俺もだ。正直、夢を見てるんじゃないかって今でも思う。でも――」


 ニクスとラピスは揃って、スティアへ目を向けた。当の本人はあごに手を添え、何か考えているようだ。


「お兄が嘘ついているとは思わないし、でも異常なことが起きたのは確かなのかな」

「確認したいんだが、今のところ、体に異常はないのか?」


 ラピスは首を振った。

 今すぐ危険というわけでもないのか……?


「そうか。今は異常がなくても、ひとまず、体を診てもらったほうがいいと思う。だから、明日魔導医院に行くということでいいか?」

「うん、わかった」

 

 ニクスはスティアのほうを向く。まだ、彼女は考え込んでいるように見えた。


「何か気になることでもあるのか?」

「……ん~、神という言葉が、その、なんというかもやもやするというか」

「もやもや、か」


 過去に関係しているのか。はたまた、聞いたことがある言葉なのか……。

 今は先に他に覚えていることを確認したほうがよさそうだ。


 「ちなみに名前以外も覚えてないのか? 例えば、自分がどこに住んでいたとか」


 スティアは一度首をかしげたあと、こくりとうなずいた。

 出身地すらも忘れているのか。あの場所で眠っていたことからも普通ではないのだろうか。

 少なくとも今日は夜も遅い。ここで根を詰めるよりも、一度改めたほうがいいかもしれない。


「今日はもう遅いからここはお開きにして、明日整理したいんだが、どうだ」

「わたしは大丈夫」

「私も大丈夫、かな」


 ニクスはうなずく。


「なら、明日にしよう。スティア、君の寝床だけど、一つ空き部屋がある。今日はそこで寝てもらう形でいいか?」


 スティアはうなずく。ラピスは立ち上がると、ニクスのほうを見た。


「それじゃ、わたしも寝る。おやすみ、お兄」

「ああ、おやすみ」


 ラピスは二階に上がっていった。その後ろ姿を見送ると、スティアのほうを向く。


「スティア、一応の提案なんだけど、君も明日医院で診てもらったほうがいいと思うが、どうだ?」

「私も?」

「ああ。君はよく分からない場所で目覚めたばかりなんだ。体に異常がないかまずは診てもらった方がいいと思う」

「うん、分かった。それでいいよ」


 結構落ち着いているな。名前も出身地も忘れているのにやけに冷静な気がする。

 嘘をついているようには見えないが……。この冷静さなら、突っ込んで聞いてみてもいいかもしれない。

 ニクスはそう考え、スティアに訊ねた。


「不安じゃないのか?」

「不安?」

「名前すら覚えてないんだ。記憶がなくて不安なんじゃないかと思ってな」

「不安はないけど……なんだろ、忘れてよかったというか、忘れちゃいけないこともあった気がするというか」


 前後で矛盾している。それに――。

 

「忘れてよかった……?」

「うん、なんて言ったらいいか分からないけど、安心? というか忘れていることにほっとしているというか」


 要領を得ない回答だから、さっき言った通り、本人も判然としていないのだろう。

 しかし、記憶をなくしてよかったなんて――この子にいったい何があったんだ。


「そうか。不安じゃないなら、それに越したことはないけど……。このまま部屋に案内するよ」

「うん、よろしく」


 ニクスはスティアを寝室に案内し、自室へ戻る。

 ベッドに寝転ぶと、今日の出来事を反芻する。一気に色々と起こったためか、整理が追い付かない。ラピスのこと、スティアのこと、神とやらのこと。そして、人ではない力。本当に分からないことだらけだ。

 あまり考えすぎても答えは出ない。今日はもう寝たほうがいいだろう。


「……流石に疲れたな」


 ニクスはそう呟き、眠りにつくのだった。

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