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黄金のニクスティア  作者: Alfia
第1章
5/13

5. 異空間

 ニクスは冷たい石の床の上で、目覚めた。頭を振り、徐々に目を開けると真上から光が差し込んでいた。


「ここは、どこだ……?」


 周りを見回しても円形に沿って石造りの壁があるだけ。明らかに先ほどいた花畑ではない。頭が徐々に覚醒していくとともに、花畑での出来事を思い出し、思わず叫んだ。


「ラピス!!」


 声が反響するだけで何も返ってこない。自分と同じくここにいるわけではないようだ。


「ラピスを探さないと……!」

 

 あの巨体に飲み込まれて、ここに来たのなら、絶対にいるはずだ。

 近くに魔装銃(まそうじゅう)が落ちているのが目に入り、拾い上げる。衝撃に強いはずだが、念のため確認しておこう。


「『起動(アクト)』」


 手の甲に青白い円形の模様が出現し、魔装銃の銃身に青白い光が走る。起動は問題ない。壁に銃口を合わせ、引き金を引く。赤い魔弾が発射され、壁に着弾。見ると、少し焼け焦げていた。

 発射自体も問題なさそうだ。念のため、起動したままにしておこう。

 あとは、腰のポーチを確認する。中に白い属性魔石、その他持ってきたものが格納されているのを確認する。こちらも問題なし。

 

 ニクスは改めて周りを見渡す。出入り口のようなものは見当たらない。少し中央へ歩みを進めると、視界の端に下に続く階段のようなものが見えた。

 道はあそこしかなさそうだ。ひとまず、行くしかないか。

 階段に向かって、足を踏み出したその瞬間――空間が揺れた。


「なんだ!?」


 周りは何もない。なら、と上空に目を向ける。

 目を凝らす。何かが、降ってくる……!?

 物体の着地点から逃れるために後方に跳ぶ。轟音と共に地面が揺れ、視界がふさがれた。

 目を開けると――。

 

 ニクスの二倍ほどの背丈がある人型の存在が現れた。目が三つ存在し、右腕は蔓のような形状、その表面にぶつぶつとした突起が並んでいる。赤黒い体表にはいくつもの傷がついており、傷口からわずかに血が流れていた。

 巨体は咆哮を轟かせる。


「魔物、か……?」


 こういった変異は見たことがないが、魔物化の症状自体が一律ではない。異形化している時点で魔物と想定して動いたほうがよさそうだ。体の傷がふさがっていないのが、気にかかるが……。

 

 頭の中をすばやく切り替え、魔装銃を巨体へ構える。

 今後、他に戦闘が発生する可能性を考えると、無駄撃ちはできない。魔物の特徴を備えているなら、体内の()()を潰せばそこで死滅する。もし、魔物の特徴が見られないなら――。

 

 ニクスは階段の方向へ視線を移動させる。

 今の絶対的な目的はラピスを探すことだ。階段の幅を考えれば、あの巨体では通れない。なら、仕留められなくても階下に逃げることはできる。問題は、地面を貫かれることだが……。

 

 先ほど、魔物が落ちてきたほうへ視線を向ける。巨体が落下した衝撃でわずかに砕けたはずだ。にもかかわらず、視線を移した時には、すでに砕けていた部分が元通りになっていた。

 どうしてか分からないが、物理的な損傷が元に戻っているのだろうか。それなら、かえって好都合かもしれない。どちらにしても排除できるならしておいたほうが、憂いが少なくなる。

 

 段取りを頭の中でシミュレートする。

 魔核の場所を見つけるなら、何発か撃って、傷の治り具合で判断したほうが早い。魔核に近いほど治りも早い。そう考えると推定は4発。

 ニクスは思考を終え、魔物の胸めがけて、魔弾を放つ。


「1――」

 

 魔物が動き、少しばかり狙いがずれ、左肩に着弾。目を凝らす。

 少し剥げているが、徐々に傷がふさがっていく。

 見たところ、想定以上に威力が抑えられている。出力が出ていないからなのか、はたまた魔素による減衰の影響を受けているのか。見知らぬ場所だが、法則自体は似ているのかもしれない。なら、ひとまずはそれ前提で動く。

 魔物が右腕を持ち上げ、振り下ろす。

 

「くっ!」


 ニクスは左に回避する。蔓がしなりながら地面に叩きつけられた。その衝撃で石片があたりに飛び散る。巨体に似合わず、振り下ろす速度が速い。

 続いて、魔物は咆哮をあげながら、その巨体を突進させてきた。

 ニクスは低い姿勢で滑り込むようにその場から離れる。そして、魔物に振り向きざまに魔弾を放った。


「2――」


 魔物の右足に着弾。先ほどよりは、近くで魔弾を放ったためか、減衰の影響も少ない。そして、治りが早い。

 魔核の所在は胴体の右側か……あるとしたら、蔓の根元か中間。――推定5発に修正。

 さらに可能性を狭めるため、魔物に向かって、蔓の中間あたりに魔弾を放つ。


「3――」


 傷がふさがる速度が右足よりも速い。

 魔物が振り向きざまに蔓をしならせ、横なぎに一閃する。


「危なっ!」


 上体を極限まで逸らして、かろうじて避ける。間一髪だった。

 そのまま体勢を立て直し、魔物の右肩へ照準。蔓の根元に向けて、魔弾を放つ。


「4――」


 魔弾が命中し、傷ができる。その傷が一瞬でふさがった。

 ――当たりだ。

 ニクスは地を踏みしめ、魔物に突貫する。魔物の動きはある程度把握した。

 出力も減衰も、影響を受けるのなら、至近距離で撃ち抜く!

 蔓がさらにしなり、一、二撃飛んでくる。それをニクスは回避し、魔物の懐に潜り込む。巨体の足を軸に魔物の体を駆け上がった。

 このまま暴れられる前に決着をつける! 蔓の根元に到着。魔装銃を押し当て、言魔(ことのま)と共に引き金を引いた。


「『爆ぜろ!』」


 爆炎が舞い、体が宙に投げ出される。着地する瞬間、受け身をとった。

 

「はぁ……はぁ……」


 荒い息を整えながら、煙の向こうを注視する。

 巨体が徐々に現れ、崩れるように前に倒れてきた。蔓は根元が焼け焦げており、その奥に粉々になった結晶体の破片が見える。魔物はゆっくりと溶けるように霧散していった。やはり、魔物だったのか。

 緊張をほぐすように一息つく。


「ふぅ……」

 

 元の姿形が残っていないことを踏まえると、普通の魔物とは少し違うのか……? いや、今はそんなことより、ラピスを探そう。

 ニクスは階段めがけて、歩みを進めた。


 どこまでも続く階段を下っていく。道中、同じような石造りの部屋がいくつも現れたが、誰もいなかった。

 階段のない最下層まで降りると、大きな扉が現れる。その前には――。


「ラピス!!」


 ニクスは名前を呼び、ラピスに近づこうとする。だが、ラピスの周りの空気が淀んでいるように見え、足が止まる。魔素濃度が高い、のか……?

 ラピスが振り返ると、その顔には薄ら笑いが浮かんでいた。彼女の顔をしているのに、彼女の表情とは思えないその表情に警戒心が一気に上がる。それに――前髪の一部と内側の髪が白色に変色し、目の色が黄金に輝いていた。"ラピス"が口を開く。


『ようやく来たか』


 ラピスの声に被さるように何層もの音が重なっている。その不気味な声に、ニクスはとっさにホルスターから魔装銃を取り出す。しかし、ラピスに向けるのかという思考がよぎり、途中で腕がぴたりと止まった。


『そう急くな』


 ニクスはバックステップで距離をとりながら、問いかける。

 

「お前は何者だ!」


 "ラピス"は視線を少し彷徨わせた後に、真正面を向いて、得心がいったかのようにうなずいた。


『はは、そうか。なるほどな……そうだな、俗世の言葉を借りれば、"神"だろうか』

「神、だと……?」


 法国などは神を信奉しているという話だが、あいにくその手の話には疎い。

 再度、ホルスターに手をかけ、いつでも引き抜けるようにする。


『ふむ、我としては、キサマと取引をしたいだけだ』

「取引?」

『そうだ。今、キサマの妹は我の手中にある。人は大切なものを人質に取られれば従うしかないのだろう?』


 ニクスは眉をひそめ、歯噛みする。

 

「……確認させろ。その体はラピスの体、そのものなのか」

『ああ、そうだ。キサマがこちらの条件をのまなければ、この娘の体がどうなるか分からない』


 ニクスは努めて冷静に思考する。こいつが言っていることが真実かどうかはともかく、現時点で目の前のラピスが本物の体ではないと言い切れない。それなら、この場で抵抗しても意味がないように思える。ひとまず、取引とやらの内容を聞くのが先決か。

 ニクスは緊張を解かずに問いかけた。


「取引の内容はなんだ」

『この扉の奥にいるものを目覚めさせろ』


 "目覚めさせろ"ときたか。こんな得体の知れない相手が目覚めさせたいもの。それを解放していいのか……?

 いや、ラピスの体が向こうの手に握られているとしたら、選択肢はないか……。

 ニクスは間をおいて、答えた。


「分かった。従おう」


 ニクスはホルスターから一時的に手を離す。ただし、意識だけはホルスターに向けたままで。

 神は満足したようにうなずく。そのまま、大きな扉のほうに手を向ける。


『この扉にキサマの手をかざせば開くはずだ』


 ニクスは歩みを進め、扉の前にたどり着く。横目で神を見た後、意を決して、扉に手のひらをかざした。すると、扉に黄金の線が幾筋にも伸び、厳かな音と共に扉が開いた。

 中は石造りの壁で囲まれているところは変わらない。目覚めた場所と同じく、光が上空から降り注いでいるのか、ところどころ明るく照らされていた。

 一番違うところは――部屋の奥、光が当たっているところで何かが反射している。

 ニクスは神を見ると、再度手のひらで誘導される。奥へ行けということらしい。そのまま、部屋に足を踏み入れた。

 少し進むと後方で、重く軋むような音が鳴り響いた。ニクスは慌てて振り返る。すでに扉が閉じられた後だった。閉じ込められたのか?


『問題ない。"あれ"が目覚めれば出られる』


 ニクスは神をにらみつけ、ため息をつく。そして、部屋の奥、光が一番当たっているところを目指した。

 歩みを進めると光の先に人影のようなものが浮かび上がってくる。

 その輪郭がはっきりしたところで、ニクスは足を止めた。


「え――」

 

 光の中にいたのは、小柄な少女だった。

 端正な顔立ちに淡い金色の髪。少女は目を閉じ、静かに体を壁に預けている。その姿を目にした瞬間、胸の奥が熱くなった。

 頬を何かが伝う。

 

 ――俺はこの子を知っている……?

 

 ニクスの唇がかすかに動いた。


「スティア……?」


 と。

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