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黄金のニクスティア  作者: Alfia
第1章
4/13

4. 黄金の花畑

 ラピスが本日の夕食を作り、二人で食べ終える。一旦、休憩してから花畑に向かおうということになり、自室で少しの間、くつろいでいた。

 この頃、魔物との戦いで疲弊していたこともあり、大分安らげた気がする。とはいえ、休みも始まったばかりだが。

 ほどなくして、自室の扉がノックされた。外からラピスの声が聞こえる。


「お兄、そろそろ行こうかと思うけど、大丈夫?」

「大丈夫だ。準備するよ」

「うん。わかった」


 扉の向こうで遠ざかる足音が聞こえてくる。ニクスは立ち上がると、棚に向かった。近場とはいえ、郊外に向かうなら、万が一のことも考えて、準備していったほうがいいだろう。

 

 ニクスは棚から魔装士(まそうし)が戦闘用に装着する魔装衣(まそうい)を手にし、着替える。そして、下段の引き出しを開け、汎用の魔装銃(まそうじゅう)を取り出す。忘れずに魔導具屋で購入した赤色のマガジンも装着する。そのまま、ホルスターに収めた。

 

 続けて、引き出しの中から、小さな箱を取り出す。箱を開け、中にある白く透ける石を取り出した。

 属性魔石(ぞくせいませき)――属性原石(ぞくせいげんせき)を加工して安定させた戦闘用の魔石だ。白は光を内包する。

 

 ニクスは属性魔石をポーチに格納し、引き出しの中に収納されていた黄金色のペンダントを首にかけた。

 昔、母親にお守りとしてプレゼントされたものであり、戦闘任務の際は肌身離さず、持ち歩いている。


「よし、ひとまずこんなものでいいだろう」


 ニクスは自室を出て、玄関へと向かった。


 玄関で待っていたラピスは驚いたような顔をした。


「準備ってそういうことだったんだ。近場なのに」

「まあ、一応な。何かあったら困るし」

「それは、そうだけど……。はあ~……」


 今日一番のため息をつかれてしまった。


「お兄がそういう人ってのはわかってるけど……まあ、いいや」

「えっと、ごめん?」

「何が悪いのかわかってないのに謝るの、女の子傷つけるよ」

「……注意します」

「それじゃ、行こ」


 ニクスはうなずき、ラピスと共に家を出た。


 二人で並んで歩きながら、他愛ない会話をする。なだらかな坂を上り、頂上に差し掛かると花畑が見えてきた。ラピスが小走りで駆けていく。ニクスも花畑に足を踏み入れた。

 花畑では月明かりに照らされ、白い花たちが淡く光っている。

 相変わらず、ここは綺麗だな。

 ラピスが花畑を見ながら「間に合った、のかな」とぼそりとつぶやいた。


「間に合った?」

「お兄、真ん中に行こ」

「あ、ああ」


 中央に到着し、ラピスは上空を見上げる。ニクスもつられるように見上げた。

 雲間から現れたるは満月。その光が花畑に降り注ぐ。すると、白かった花弁が金色に染まり、足元でじわりと広がり始める。やがて、燐光が立ち昇り、この場を金色に染め上げた。

 その光景を前にニクスは呆気にとられる。脳裏に浮かぶのは。


 ――黄金の花畑――。


 隣のラピスから感嘆のようなため息が漏れる。


「初めて見たけど、凄い光景だね」

「ラピス、これは……」

「マウテさんから教えてもらったけど、100年に一度金色に染まるんだって。なんでも、これを見た人は神様に祝福されて、幸せに暮らせるって聞いた」

「そう、か。もしかして、朝言ってた内緒っていうのはこれのことだったのか?」


 ラピスは小さくうなずいた。その表情はどこか物憂げだった。


「お兄には、見てほしかったから」


 ラピスはニクスの方を向くと手を握ってきた。こちらの目をまっすぐ見つめ、その瞳には憂いが滲んでいた。


「ねぇ、お兄。……魔物と戦うの怖くない?」


 握られていた手が小刻みに震えだした。


「わたしは……お兄がいなくなっちゃうんじゃないかって、お父さんやお母さんみたいにいなくなっちゃうんじゃないかって……怖い」

「ラピス……」

魔工士(まこうし)魔究士(まきゅうし)だってあるのに、別に戦わなくたって」


 ラピスの目の端にうっすらと涙が浮かんでいた。その涙を見た瞬間、胸の奥が締め付けられた。

 ずっとため込んでいたのか。いや、ため込ませていたのか。本当にふがいない。逃げずに向き合わないといけない。

 ニクスはラピスの手に自身の手を重ねる。


「――確かに道は色々あるかもしれない」


 過去の光景が脳裏をよぎる。魔物化した母親とそれに対峙する魔装士の父親。


「こんな世の中なんだ。いつ、被害に遭うかもわからない」


 父親のあの時の言葉を思い出す。


 ――ラピスを頼んだぞ、ニクス。


 一度目をつぶり、自分にも言い聞かせるように。

 

「力がなければ失うだけなんだ。お前のことも、守れないかもしれない。大丈夫だ――」


 一拍おいて、彼女の目を真正面からとらえて。


「お前を置いて、いなくなったりはしない」


 ラピスの瞳の奥に様々な感情が揺れているような気がした。

 彼女は短く、「そっか」とつぶやいた。


「座ろ、せっかく来たんだし」

「……そうだな」


 二人そろって、腰を下ろす。少しの間、夜空を見上げていた。

 もう少し、仕事の頻度を落とした方がいいのだろうか。ただ、何かに駆り立てられている自分がいる。ラピスに言ったことだけじゃない。その感覚が奥底でくすぶっていた。


 ほどなくして、ニクスは立ち上がると、ラピスを見下ろす。


「あまり遅いと帰り道が大変だから、そろそろ戻るぞ」

「ん~……うん」


 ラピスもそう言って、立ち上がった。ラピスは背伸びしながら、告げる。


「本当に綺麗」

「そうだな」


 ニクスは坂の方へと振り返る。その先にぼんやりとだが、人影のようなものが見えた。

 こんな夜に人? いや、100年に一度なんて珍しいものだから、見物でもしに来たのだろうか。

 徐々に人影がはっきりとし、人物像が浮かび上がる。現れたのは白いローブを目深にかぶった人物だった。

 その人物はゆったりとした足取りで近づいてきて、言葉を発した。


「『ああ、間に合ってよかったです』」


 肉声とは明らかに違う声が響き渡る。

 ニクスの眉間にわずかにしわが寄る。

 言魔(ことのま)を使っている……?

 魔力を言葉に乗せ、現象の発現を行う技術。言魔を使えるのなら、十中八九魔導士だ。それも、声音を変質させられるほどの練度となれば、只者ではない。

 まとっている雰囲気からも、本能が奥底で警鐘を鳴らしていた。

 ニクスはラピスを隠すように手で制する。


「お兄、どうしたの?」

「ラピス、俺から離れるな」

「え」

 

 ローブの魔導士は芝居がかった様子で手を広げる。


「『そう警戒なさらずともよいではありませんか』」

「言魔を使って、声を偽装している奴に、警戒するなと言われても無理があるだろ」


 ローブの魔導士はくつくつと笑う。

 どうする。このままラピスを連れて、突っ切るか。だが、直感でそれは悪手なのではないかと思ってしまう。


「『ただ、あなたを導きたいだけなんです』」

「導く……?」

「『ええ、そうです』」


 ローブの魔導士はその言葉とともに手を掲げ、指を鳴らした。

 その瞬間、ニクスの全身に肌が粟立つ感覚が駆け巡る。この感覚、魔素の濃度の上昇? いや、そのレベルじゃない。

 まさか別の現象も重ねていたのか! 発生源は……背後!

 ニクスはとっさに振り返る。ラピスから呆然とした声が聞こえてきた。


「なに、あれ」


 後ろに巨大な黒い何かが現れていた。その巨体は、ぐにゃりと顔のような部分を曲げたように見えた。

 ニクスは直感的に危険を察知し、ラピスの体を守るように抱きしめる。そして、ホルスターに手をかけ、巨体へ魔装銃を向けようとするが、それよりも速く――。


「『いってらっしゃい』」


 後方からの声と共に巨体が倒れるように、二人を飲み込んだ。

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