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黄金のニクスティア  作者: Alfia
第1章
3/13

3. 束の間の日常

 教室から出ると、ラピスが待っていた。

 

「お兄、お疲れ。教えるの上手だったと思う」

「そうか? それならよかったんだが……。この後はどうする? 午前中いっぱいは孤児院だよな」

「うん、だから、お兄にはちょっと時間潰してほしいかも」

「そうだよな。んー、それなら、先に魔導具屋行くのもありか……」


 先に魔装器(まそうき)をメンテに出しておけば、午後の買い物もスムーズに済むだろう。


「魔導具屋はわたしも行きたいから、一緒のほうがいいかな」

「何か必要なものがあるのか? それならついでに買ってくるが」

「それは――」


 ラピスが言いかけたところで教室からどたどたと二人の女の子が飛び出してきた。


「えー、お兄ちゃんもう行っちゃうの? せっかく来たのに~」

「一緒に遊んでいこうよ~」

「あー、いや……」


 今の自分はあくまで部外者なんだ。関係ない人間が長居していいのだろうか。

 ニクスは困ったようにマウテのほうを見ると、彼女はくすりと笑った。


「いいと思うわよ。子供たちも喜ぶし」

「そうだよ! それにラピスちゃんだって、もっと一緒にいたいんじゃない?」

「なっ」


 引き合いに出されたせいか、ラピスから動揺したような声が聞こえる。それをよそに二人の女の子は話を続ける。


「うんうん。だって、ラピスちゃん、いっつも口を開けばお兄ちゃんのことばっかだし」

「ここ最近とか特にぶつぶつ言ってなかった? お兄は、全然家にいない~とか、寂しい~とか」

「ね、若干、暗かったよね~」


 そのやりとりの最中、ラピスの顔はみるみる赤く染まっていく。口の端もひきつるように震えていた。

 ラピスはずかずかと女の子たちの前に行き、二人の両頬をそれぞれ片手で挟むようにつまんだ。女の子たちの顔が間抜けな表情になった。


「「ぶふっ!?」」


 ラピスは二人に顔を至近距離まで近づけた。

 

「あなたたちは何を言ってるの? わたしはそんなこと言った覚えがないけど?」

「「だ、だっでぇ……」」

「言 っ て な い よ ね?」


 有無を言わせないようなその圧に、二人はこくこくとうなずいた。

 ラピスは澄ましたような顔でニクスに振り返る。


「今、この子たちが言ったことは、冗談だから」

「いや、でも――」

「じ ょ う だ ん だから」

「あ、はい、そうですね……」


 これ以上、踏み込むのはやめておこう。後が怖そうだし。ただ、寂しい思いをさせていたのなら、反省しないといけない。

 ニクスは切り替えるように話し始めた。


「よし、それなら、少し遊んでいくよ。よろしくな」

「「わーい!」」


 そのまま、子供たちと遊び、午前中が過ぎ去った。


 孤児院を出た後、大通りの一角、こぢんまりした建屋の前で二人は足を止めた。頭上を見上げると、「魔導具屋 グランツ」と書かれた看板がかかっている。所々に傷がついているあたり、相当年季が入ってそうだ。


「看板、変えないのかな。ボロボロだけど」

「もしかしたら、忙しくて気が回ってないのかもな。魔導具屋はここだけだし」

「いつも来たときはお客さんいないから忙しそうに見えないけど」

 

 その鋭いツッコミにニクスは思わず苦笑した。確かにいつも暇そうだ。

 店先で話し込むのも通行人の邪魔になってしまう。そう考え、ニクスは店の扉を押し開けた。

 店に入ると天井につるされたランプからの淡い光が二人を照らし、客の入店を知らせるベルの音が軽く鳴り響く。店内を見回すと、棚には魔導具や魔石が所狭しと並べられており、中央に来客用の丸テーブルが置かれていた。

 奥のほうにはカウンターが備え付けられており、少年が退屈そうに頬杖をついていた。

 ニクスとラピスはカウンターに近づき、声をかける。


「やあ、テオ君」

「おお、ニクスさんじゃないっすか。それに――」


 テオがラピスに視線を向けた瞬間、その顔がぱっと明るくなった。


「ラ、ラピスさん! こんにちは!」

「こんにちは」


 テオの視線がわずかに下へと向いていく。彼は聞こえるか、聞こえないかの瀬戸際で呟いた。


「相変わらず、ぉっ――」

 

 ニクスは一度わざとらしく咳払いをする。


「か、かわいいですね!」


 テオは気まずそうに視線を逸らした。

 

「? ありがと?」


 不思議そうに首をかしげるラピスを横目に、ニクスは本題を切り出す。


「ところで、テオ君、おやじさんはいるか?」

「あ、ああ、ちょっと待ってくださいっす。……おやっさーん、ニクスさんが来たっすよー」


 奥の部屋から、白髪交じりの中年の男――グランツが姿を現した。


「おー、ミュラー兄妹か」


 二人は揃って挨拶をする。


「今日はどうしたんだ?」

「魔装器のメンテナンスをお願いしたくて」

「ほー、メンテに出すってことはしばらく休みなのか?」

「そうですね。それなりに長いです」

「お前さんがそう答えるとは珍しいな。ま、了解した。なら、裏に来てもらえるか?」

 

 グランツのその言葉にニクスはうなずく。


「ラピス、もしかしたら、少し長くなるかもしれないから、待っててもらっていいか?」

「うん、わかった」


 ニクスはグランツの後をついていく。

 

「あ、あの、ラピスさ――」


 背後からはテオがラピスに懸命に話しかけようとする声が聞こえてきた。


 工房に足を踏み入れると、魔導炉(まどうろ)や各種小道具などが置かれているのが目に入る。ニクスはホルスターから魔装銃(まそうじゅう)を抜き取り、グランツに差し出した。


「ひとまず、いつも通りの仕上げでいいんだよな。休みが長いなら、チューニングも済ませるつもりで合っているか?」

「それで大丈夫です。ただ、もう一つお願いしたいことがあって」

「お願いしたいこと?」

「これに魔力を充填しておきたいんです」


 ニクスは腰につけていたポーチから、細長い、小さな筒を出す。グランツはそれを受け取ると驚いたような顔をした。


「これ、汎用器のマガジンじゃねぇか。分かってると思うが、お前さんの魔装銃には使えねぇぞ?」

「はい、これはサブの魔装銃用です。メンテに出してる間、何かあったときのために使えるようにはしておかないとと思って」

「しかし、お前さん、汎用器は相性悪いだろ? 使うにしても大丈夫か?」

「一応、付属のマガジンで使えるのは確認しているので、その辺りは大丈夫です。やはり、出力は出ませんけど」

「そうか。まあ、そういうことならいいけどよ。属性はどうする?」

「属性なしはあるので、火属性を1本で大丈夫です」

「了解。なら、先にそれを作ってしまうか。属性原石の粉末はどうする? 持ち合わせがあるなら、それを使うが」

「あまり在庫を減らしたくはないので、持ってきてないです。今回も念のためですし。ですので、粉末も購入します」


 グランツはニクスの言葉を受け、うなずく。


「分かった。それも用意しよう。ひとまず、この台に手を置いてくれるか」


 ニクスは言われた通り、台に手を置く。すると、淡い光が周囲にあふれ出した。


「それにしてもマガジンに充填する件、さっき言わなかったんだな」

「あー……、ラピスの前で言うと何か言われそうだったので」

「はは、相変わらず、妹には頭が上がらないんだな」


 そうこうしているうちに、台から音が鳴った。


「よし、大丈夫だ。作ってくるから少し待ってろ」


 数分後、グランツが戻ってきて、赤色のマガジンを手渡してきた。


「ほれ、火属性のマガジンだ」

「ありがとうございます。代金は……この場で払ってもいいですか?」

「ま、構わないぞ」


 ニクスはグランツに代金を渡す。残り、魔装器のメンテナンスに必要な工程を済ませ、カウンターのほうへと戻っていった。

 カウンターではラピスが店内の棚を見ていた。彼女はこちらに気づくと、口を開いた。


「あ、お兄」

「ラピス、待たせたな」


 見れば、ラピスの手には属性原石の粉末が入れられた袋が握られている。その横でテオが残念な顔をしていた。

 ニクスは確認の意を込めて、ラピスだけでなく、意識をテオにも向けながら言う。


「特に何もなかったか?」


 テオは明後日のほうを見ながら、早口でまくし立てた。


「や、やだなぁ。ニクスさん、何言ってるんですか。何もないに決まってますよね! ラピスさん!」


 ラピスは不思議そうに首をかしげる。

 

「うん。テオ君がいろいろと紹介してくれてたから、暇ではなかった」

「そうか。まあ、こちらの用事は済んだ。残りは会計だけだ」

 

 ラピスはうなずく。

 そのまま必要な物品と一緒に会計を済ませ、魔導具屋を後にした。

 

 店を出た後、大通りを進もうとすると、ニクスは思わず足を止めた。背中から何か見られている……?

 振り返っても、大通りは人の往来があるだけで、特におかしな点はない。先ほどの感覚も消えている気がする。気のせいだろうか。

 隣にいたラピスが首をかしげた。


「お兄、どうしたの?」

「……いや、なんでもない」


 ニクスは首を振り、改めて歩き出す。その後、二人は食品と日用品を買い、帰路についた。

 

 ニクスの両手には買い物用の布袋がぶら下がっていた。


「お兄、今日は色々とありがと」

「気にしなくていい。ラピスと久々に出かけられたし、院長たちや子供たちとも会えたしな」

「ふふ。その、わたしも楽しかった」


 ラピスの横顔を見ると、かすかに頬がゆるんでいる。楽しめたならよかった。

 ラピスは空を見上げ、口を開いた。


「あ……お兄、最後にもう一つお願いいい?」

「お願いって?」

「夜、ご飯食べた後、花畑に行かない?」

「花畑――というと、郊外のだよな」

「うん。あそこしかないし」


 花畑、か。あそこ周辺は魔物が出たとは、今のところ聞いたことがない。夜間だから何か起きる可能性も否定はできないが……できれば望みは叶えてやりたい。


「分かった。今日はとことん付き合おう」


 ラピスは嬉しそうにはにかんだ。引き受けてよかったかもしれないな。

 

 二人はそのまま自宅へと戻っていった。

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