15. スティアVSソフィー
屋敷の庭に全員が集まっていた。
クラウスがスティアに尋ねる。
「スティア様、こちらに汎用の魔装器を用意しております。武器種はいかがいたしましょうか」
「え、えっと~……」
スティアはニクスのほうを見た。ニクスは助け船を出す。
「異空間で彼女は剣を使っていたので、剣で大丈夫だと思いますが……スティア、あそこで君が使っていた剣は使えないのか?」
「剣?」
「ほら、目が覚めた時に魔物を斬り飛ばした際に使っていた白金の剣だよ」
スティアは首をかしげながら、手を前にやった。
「ん~……」
スティアの声が徐々に絞り出すような声に変化していく。
「ん~~~~~」
表情にも力が入り始めた。
「ん~~~~~~~~~~~」
一拍おいて、スティアが振り返った。
「だ、出し方が分からない……」
少し肩透かしを食らった。そんなところだろうとは思ったが。しかし、自由自在に使える代物ではないのか……?
ソフィーが口をはさむ。
「ふむ。そやつが眠っていた場所限定とかかの。ま、ひとまず、今回は汎用器使うのでいいんじゃないかの」
「承知しました。……では、スティア様、こちらをどうぞ」
「あ、はい」
スティアは手渡された剣を掲げ、しげしげと見つめる。
「これが魔装器? なんですか?」
ニクスはスティアに魔装器の説明をしていなかったことを思い出す。スティアに確認したところ、「聞いてないと思う」という答えが返ってきた。彼女に魔装器の説明をした。魔力を流すことで、自身の体にも還元され、身体強化がされることも伝える。
「へぇ、魔力を乗せる器……。なんか、見た目は普通の剣に見えるね」
「まあな、一見、見分けはつかないな」
「ま、昨今で魔装器以外の武器を使うなどまれじゃし、基本はすべて魔装器と思っておってよいぞ」
「なるほど、そうなんですね」
「言魔を使うのも難しかろう。汎用器なら、"アクト"と言えば、使えるようになるはずじゃぞ」
スティアはうなずき、剣を水平に構えた。
「起動」
すると、青白い円形の模様がスティアの手の甲に浮かび消え、代わりに刀身を薄い膜のようなものが覆う。
「おぉ~」
「ま、それが起動状態じゃな。基本汎用器はリミッターがかかっておるし、特に気にせずそのまま振るってよいぞ」
スティアは小さくうなずいた。
「じゃ、向かうかの」
そう言って、ソフィーは庭の中央に向かう。スティアもそれについていった。
「さて」
ソフィーは懐から扇子のようなものを取り出す。
スティアは不思議そうに首をかしげた。
「それが、ソフィーさんの魔装器なんですか?」
「そうじゃ。名は"ソフィリス"という」
ソフィーは扇子を手のひらへ叩くように乗せ、小気味よい音を鳴らすと同時に言葉を紡いだ。
「『起動』」
その瞬間、スティアは目を見開いたかと思うと、大きくバックステップをし、剣を構えた。その表情は先ほどまでと違い、真剣そのものだ。まるで、スイッチか何かが入ったように空気が変わっている。
ソフィーは口の端を吊り上げる。
「はは、どうした? いきなり警戒しよって」
ソフィーは扇子をスティアに向けた。
「まだ、わしは何もしておらんぞ? 『ゆけ』」
「え」
スティアの驚きの声と同時に足元前方に黒い棘が出現。スティアに襲い掛かる。スティアはそれを剣を盾にして防ぐ。
「くっ!」
しかし、衝撃を殺しきれないのか、そのまま後方へ押し込まれた。
ソフィーさんの会話の中に仕込む言魔の使い方、相変わらず、厄介だな。だが、スティアも突然とはいえ、防げている。
「ほう、『ならこれはどうじゃ?』」
ソフィーはスティアにすかさず言魔で複数の追撃を繰り出す。
スティアは数度よけると、一つの棘を横なぎで払って、そのままの慣性で足を踏みしめ、ソフィーに突進する。
「速いの、じゃが、『甘いな』」
「!?」
スティアの表情が驚きに変わる。すかさず、地面に剣を突き刺した。それを支点に身体を横へ飛ばす。勢いに任せて、大きく距離をとり、着地と同時にソフィーのほうへ向き直った。先ほどスティアがいた地点に棘が湧き出る。
今のは凄いな。先ほどの対処といい、今の避け方といい、咄嗟に対応できている点も含めると、戦闘センスが凄まじいように思えた。
「反応も悪くない。お主、『直感で対処しておるのか?』」
その言魔と共に、スティアめがけて棘が伸びる。
スティアが体を横にずらして回避し、そのままステップを踏んで位置を調整する。左足を踏みしめ、再びソフィーに突進。鋭い突きを繰り出す。
「ま、防御に回ってみるのもよいじゃろ」
ソフィーはそう言い、スティアの突きに扇子をあてて軌道をずらす。
スティアから驚きの声が漏れた。
「えっ」
流れるままソフィーは一回転し、スティアの横腹に扇子を叩きつけた。
「ぐぁっ……!」
そのままスティアは幾度か転がり、受け身をとって起き上がった。
「はあ……ふぅ……」
スティアは息を整えるように剣を構えなおし、ゆっくりと深呼吸を繰り返している。
なんだ……? スティアの雰囲気がさらに変わった? いや、彼女の周りの空気が揺れてきている。まさか、魔力が漏れ出しているのか。
ソフィーは笑みを深める。
「『ほう』」
ソフィーの言魔により、彼女の真横に一本の鋭利な棘が出現した。
そのままソフィーは棘に扇子を滑らせるように動かし——。
「『複製』」
と言魔を唱えた。
ソフィーを中心とし、次々と棘が現れる。その数、10。ソフィーは棘を操るように扇子を振るった。
棘が一斉にスティアに襲い掛かる。彼女はそれを左右に大きく、動きながら回避し、ソフィーとの距離を詰めていく。
「『ほれ』」
ソフィーの言魔によりスティアの進行上に棘が出現。スティアは回転斬りの要領で棘を斬り飛ばし、ひるがえる。慣性で進行方向を調整したようにも見えた。
「『まだ増やそうか』」
さらにソフィーの周りに棘が出現する。 追加で10、いや、20。あれはいくらなんでも多すぎる!
「ソフィーさん! それはやりすぎでは!?」
ソフィーはちらっとこちらを見ながら、口元をわずかにあげる。
「ま、見ておれ。『掃射』」
スティアめがけて、棘が殺到する。スティアは流石に回避しきれないのか、剣で叩き落とし始めた。段々と土煙が舞っていく。そして、掃射が止んだ隙を突くかのように横なぎ一閃。土煙を払いのけ、地面を強く踏みしめたように見えた。その反動でソフィーに突進。
「『先ほどよりも速いな』」
言魔により、スティアへ追撃が迫る。しかし、躱し、撃ち落とし、そして、躱す。いくつか体をかすめているが、スティアは止まらない。ソフィーに半歩届きそうなところで、袈裟斬りを繰り出す。
ラピスが悲鳴を上げた。
「ソ、ソフィーさん、危ない!」
ソフィーは笑みを崩さぬまま、斬られた。すると、ソフィーの形が崩れ、影となって地面に溶ける。着地したスティアの足元から影が湧き出し、両手両足を拘束した。
「えっ!?」
スティアは身動きを取ろうとするが動けないようだ。いつの間にかスティアの背後にソフィーが現れていた。
「『ここまでじゃな』」
影はスティアの両腕を後ろ手に締め上げ、両足も閉じるように拘束する。
「わ、わっ!」
スティアはバランスを崩し、そのまま転がった。
「はぶっ!」
真正面から倒れ、顔が地面へと突っ込んでしまう。
「ス、スティア、大丈夫か!?」
慌てて、スティアのほうに駆け寄る。彼女は四つん這いになっていた。
「今日、顔にばかりぃ……なんでぇ……」
スティアは涙目になりながら、嗚咽を漏らしていた。心なしかアホ毛がしおれている。
ひとまず、大丈夫そうか……?
ニクスはスティアの前に片膝をつき、手を差し伸べる。
「立てるか?」
スティアはニクスの手を取り、立ち上がった。
「ありがとう……」
「スティア様、こちらを」
クラウスはタオルを差し出す。
「ありがとうございます」
スティアはお礼を言いタオルを受け取る。泥のついた顔をぬぐった。
ソフィーの陽気な声が届く。
「いやはや、想像以上じゃった。満足。満足」
「私は顔から突っ込んで、不満足です」
「まあ、両腕ならともかく、両足はちとやりすぎたなとわしも思った。その点はすまぬ」
「いえ、まあ、大丈夫です」
ニクスはスティアに言った。
「一度見たけど、改めて、戦闘のセンスが凄かったよ」
「え、そうかな」
ニクスに褒められ、スティアは照れている。
ソフィーはからかうように言った。
「ニクス、もしかしたら、お主より上かもしれぬぞ?」
ラピスが即座に横やりを入れてくる。
「お兄が負けるわけない」
ソフィーがあきれたようにため息を吐いた。
「相変わらず、兄馬鹿じゃの。汎用器でなら、おそらくスティアのほうが上だと思うぞ」
「それは"汎用"。お兄の魔装器なら負けない」
ニクスはその二人のやり取りに肩をすくめる。
「勝敗自体をつけるのはどうなんだ。まだ、戦ってすらないんだし」
「でも、ニクスの実力も見てみたいかも」
「……まあ、機会があればな」
ニクスはソフィーに向き直る。
「ソフィーさん。戦いを見ていて気になったのですが、スティアの身体能力、汎用器の限界を超えてましたよね。少なくともあそこまで体への還元は不可能なはず。憶測ですが、体内の魔核の影響で身体能力が上がっているのでしょうか」
「……ま、気づくか。そうじゃな。お主の言う通り、魔核の影響じゃろうな。どちらかというと、自分の身体だけでおおよそ完結しておるように見えたの」
身体だけで完結している、か。相互に循環しているという話だったし、自分だけで魔装器を起動したとき並みの恩恵を受けているのか?
ニクスはスティアを見て、つぶやく。
「なるほど、だから力が強かったのか」
スティアは若干頬を膨らませながら言った。
「……あまり、力が強いとか言ってほしくないかも」
ラピスが呆れて口を開く。
「お兄はそういうところ、無頓着だからあきらめて」
もしかして、責められているのか? これ以上追及するとさらに矛先が飛んできそうだ。
ニクスはソフィーに向く。ソフィーは肩をすくめ、続きを話す。
「魔装器とつながっている部分も見ておったが、あまり魔装器側から魔力が入ってきているようには見えなかったの」
恩恵を受けていない? そうなると——。
「つまり、自分の体で完結している影響で、逆に魔装器の影響を受けづらいということでしょうか」
「うむ、その理解でよいじゃろ」
「なるほど……」
となると、従来の魔装器だと彼女の本領を発揮するのは難しいかもしれない。
「さて、色々としているうちに日が傾いてきたの」
ニクスは見上げる。確かに気づけば夕焼けが差し込んでいた。もう時間も遅い。近場とはいえ、森を抜けることを考えると、そろそろお暇したほうがいいだろう。
すると、クラウスが一歩踏み出し、話し始めた。
「ニクス様。今からお帰りになられるのも大変でしょう。よければ、今宵はこちらでお休みになられてはいかがでしょうか。おもてなしをさせていただきます」
「いえ、流石にそこまでしていただくのは——」
「ま、よいんじゃないか? 部屋なら空きがあるしの」
ニクスは二の句が継げなくなる。ラピスが助け船を出してきた。
「二人ともこう言ってくれてるし、今日は甘えてもいいと思う」
「そう、だな。スティアも大丈夫か?」
「うん、私は大丈夫だよ」
「分かった。それじゃ、ソフィーさん、クラウスさん今晩は泊めさせてもらってもいいでしょうか」
二人ともうなずき、全員で屋敷へと戻った。




