19話「同じ道を進まなくとも」
「凰牙の秘密、知ってる?」
「……え?それ……どういう……」
「そのまんまだよ。心当たりがないなら、それでいい。無理に話す必要もない」
昨日から見てきたおちゃらけた雰囲気ではない。
真面目な、真剣な表情。
空気が張り詰める。
(まさか、凰牙さんの秘密って……殺しのこと、バレて……?)
と、山崎さんが明るく手を振った。
「あーごめんね、困らしちゃった?そんなに警戒しないでよ。凰牙にはもう聞いてるし、俺の意見も伝えてる。……まぁ、危ないことしてるってこと以外は何にもわかんなかったんだけど」
「凰牙さんに……?」
「そ。余計なお世話だって言われちゃったけどね〜。來香ちゃんに聞いたのはただの確認。知らないなら知らないでいいし、知っているなら知っているで特に何かをするわけでもない。強いていうなら……そうだな、嫉妬するくらいかな」
「嫉妬……?」
「うん。嫉妬。俺はずっと凰牙のこと親友だと思ってるからさ、俺は知らないのに來香ちゃんが知ってたらちょっとだけ嫉妬する。それだけ。俺は凰牙を止めることはしないし、だからといって危ない橋を渡るつもりもない」
少し寂しそうにそう言った山崎さんを見て、私は思った。
「あぁ、この人はただ凰牙さんを心配しているだけだ。」と。
嫉妬、と言っていたけれど、多分凰牙さんを支えてくれる人がいるかを知りたいんだ。
例えそれが自分以外であっても、凰牙さんが一人じゃないといことを確認したいんだ。
「…………全部ではないですけど、知ってます」
小さく頷きながらそう言うと、山崎さんは驚いたように目を見開いた。
けれどそれは一瞬で、小さく笑った。
「そっか」
山崎さんが呟くように答えた時、凰牙さんが戻ってきた。
そして私と山崎さんの間に流れる微妙の雰囲気を察して、凰牙さんは「余計なこと言ってないだろうな」と山崎さんを睨んでいた。
「じゃ、俺はそろそろ帰るわー!來香ちゃんもまた!」
「え、あ、はい」
「もう来なくていい」
「うわ冷た!ま、でも俺は来るんだけどな〜!」
最後の最後まで慌ただしく、嵐のように山崎さんは帰っていった。
それを見送ると、凰牙さんは心の底から疲れたように大きく息を吐いた。
「はぁ……マジでなんなんだあいつは……」
「あはは……」
凰牙さんはさっさとリビングへと入っていきながら、ふと立ち止まって私に声をかける。
「來香、お前あいつに何か言われたか?」
「……!えっと……」
言っていいものなのかと言い淀んでいるとこちらを振り返ることはせずに凰牙さんは続けた。
「まぁおおかた予想はつく。これでもあいつとは長い付き合いだからな、あいつが考えそうなことくらいお見通しだ」
「……そうなんですね」
面倒くさそうにしていた割には、山崎さんのことを深く信頼しているように見える。
山崎さんが凰牙さんのことを心配したり色々考えていたように、凰牙さんも凰牙さんで山崎さんの考えを気にかけてはいるようだった。
「……山崎さん、凰牙さんのことすごく心配しているようでしたよ」
「……そうだろうな。あいつは……あぁ見えて意外と他人のことを一番に考えられるような奴だ。……俺が危険なことをしていると知っても、「止めはしない、でも死ぬなよ」とか言うくらいだしな」
そう話す凰牙さんは、ここ数ヶ月で初めてみる凰牙さんだった。
面倒くさそうで呆れているようなところはあるけれど、でもどこか寂しそうだった。
凰牙さんのことを聞いてきた山崎さんと、似ているようで似ていない反応。
私にはお互いがお互いを信頼しているということしかわからなかったけれど、それでもこんな関係があるのはなんだかいいなと思ってしまう。
「まぁ普段は気にしなくていいが、何かあればあいつを頼れ。信頼できるのは、確かだからな。」
「……わかりました」
それっきり、会話は一度途切れた。
凰牙さんは何事もないように普段通りだったが、こころなしか何かを考え込むかのようにぼーっとしていることが多かった気がする。
「あ!鈴音せんぱぁい!!こっちですこっち!!」
「椎奈……」
待ち合わせ場所で椎名の姿を見かけるとふと顔が緩む。
今日も今日とて私は椎奈と買い物に出掛けていた。
前までは凰牙さんはどう思うか、と少し様子を伺いながらのお出かけだったが、許可(?)が出てからというもの、毎日のように椎奈と出かけている。
と言ってもカフェに行ったりするのは週に一度くらいで、それ以外の日は私の買い出しについてきてもらっているという感じだ。
「先輩、今日はどこ行きます?」
「そうね……昨日買い出しは全て済ませてしまったから、椎奈の行きたいところでいいわよ」
「えぇ〜?本当ですかぁ?!それなら私行きたいとこあるんですよね〜!ちょっと遠いんですけど、ほら!もうすぐバレンタインじゃないですか!チョコレート買いに行きましょうよチョコレート!むちゃくちゃ気になってるお店あるんですよ!しかも隠れ名店なんで誰かと出会う心配もあんまりないです!あ、でも一応私の家でメイクはしていきましょう変装メイク!」
「え、あ、わ、わかったわ?」
半ば強引に流されるようにして私は椎奈の家へと連れて行かれた。
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